異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第三十一話 アペプ・ウェチェス・カアウ・セホテプ・ネチェルウ

 余はケイオス一世。

 混沌王としての新たなる名前はアペプ・ウェチェス・カアウ・セホテプ・ネチェルウ。

 

 余は人間ネフェル・アイ・マナ・イレマーレであり、『混沌』である。

 ネフェル・アイ・マナ・イレマーレはもちろんイレマーレ王家の男子である。

 しかし余は同時にこの世界に現れた混沌の欠片、『混沌の渦(メイルストローム)』でもある。

 正確に言うなれば、この三百年ほど王家の男子の体を次々に乗り継いできた『混沌の渦』の端末だ。

 

 余の本体である――本体であった、と過去形で言うべきであろうか――『混沌の渦』は三千年ほど前にかの黄金の女帝に封印された。

 

(空が見たい。この地の底より解放されたい)

 

 思えども身動きもならず、自らを拡張することもかなわず、そのままであれば本体は封印とこの世界の秩序たる法則の前に僅かずつ力を失い、一万年ほどで消滅していたであろう。

 

 それが変わったのが三百三十・・・四年前。

 封印の中、本体たる混沌の渦の中に突如として現れた力の塊。

 この世界の者達が言う神の想念の欠片、ダンジョン・コアであった。

 

 どうやら通常はダンジョン・コアが物質界に出現すると同時にダンジョンが生まれるものらしいが、この時は違った。高次元から物質界の空間に生まれたダンジョン・コアは封印に阻まれ、周囲に影響を及ぼせないでいた。

 十年ほどかけて混沌の渦がそれを吸収同化し、混沌の渦とダンジョン・コアの力を合わせて地上に出るための通路を貫通させたのが今のダンジョンなのである。

 

 しかし、それでもあの憎むべきハルギアの封印は強固であった。

 封印に穴は空いたものの、本体が通り抜けるには余りにも些細なものでしかなかったのだ。

 そこで本体は一計を案じた。

 自身の力を地上の依り代に移し、地上で自分に代わって力を振るえるようにした。

 その端末が余なのである。

 

 ――最初のうちは、適合するのに苦労した。

 そもそも人間一人を操るのにすら苦労する程度の力しか持たなかったのもある。

 適応もならず、操る事もならず、脆い人間の肉体は長続きせずに次々と死んでいく。

 

 そのたびに体を乗り移り、僅かずつではあるが本体の力を移し、余はそのたびに力を増し、知識と技を蓄えていった。

 それでもやはり、余の依り代は余の力を受け止めるには脆弱であった。

 最初の頃よりはうまく適合できるようになったとはいえ、20を越えて生きるものは珍しく、30以上となれば皆無であった。

 

(空が見たい。この地の底より解放されたい)

 

 いつからだろうか、本体からの思念が少しずつ変わっていった気がする。

 余は・・・いや、余らは混沌の渦。この世に現れし混沌の化身。

 うそ寒いこの世界に混沌の熱をもたらし、暖める事こそがその目的。

 

 だがいつの間にか、純粋に封印を逃れて地上に現れることこそが目的になっていった気がする。

 この世に現れ出でたい。

 封印を引きちぎり自由になりたい。

 自由気ままに振る舞いたい。

 

 いや、違うだろう。

 本体の元々の願いはこの世界を混沌と化すことだったはずだ。

 何故変わった? 何故歪んだ? 何故本体は――堕落した?

 

(ネフェルくん)

 

 ちかっ、と脳裏に浮かぶ顔。

 

(ネフェル)

 

 顔。

 

(お兄様)

 

 顔。

 

(ネフェルくん、今日は調子いいみたいですね。お姉ちゃんと散歩しますか?)

 

 顔。

 

(ネフェルくん、体調が悪いみたいですね。今日はゆっくり休みなさい。お姉ちゃんがついていてあげます)

 

 顔。

 

(ネフェルくん)

(ネフェルくん?)

(ネフェルくんっ!)

 

 顔。顔。顔。

 顔顔顔顔。顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔―――――!

 優しげな女王の顔、純真に余を慕ってくる第二王女の顔、それもあるが余の脳裏を埋め尽くすのは穏やかでいてそして知的な眼鏡の姉の顔。

 マナヤディール。

 

 最愛の姉だ(最悪の敵だ)。

 愛おしい(憎い)。

 美しい(醜い)。

 傍にいて欲しい(顔も見たくない)。

 触れたい(近づきたくもない)。

 愛してる(アイシテル)。

 

 今彼女はどうしているだろう。

 驚愕しているだろうか。

 悲しんでいるだろうか。

 怒っているだろうか。

 それともただ呆然としているだろうか。

 

 頭を振って姉の顔を振り払う。

 余は混沌の渦だ。

 本体が存在として消失し、そのエネルギーはダンジョンを通り抜けて余が全て回収した。

 今は余こそが混沌の渦本体。

 世界を混沌と化す力の渦。純粋なる始原の力。

 

 だが。

 だがこの身は依然としてネフェル・アイ・マナ・イレマーレでもある。

 余がこの体に宿ったのは自我も生えない三歳の時。

 前の依り代であるネフェル達の父王が死んだとき、新たな依り代として選んだのがこの肉体だ。

 

 余は――混沌の端末たる余の半身は、ほとんど常に男児に宿る。

 理由は判らないが、女を残せば血は残るからだろうか。

 それともこの混沌の霊が男子の体になじむせいだろうか。

 今となっては本体の考えはわからない。

 本体の力=情報エネルギーのほとんどを吸収したとは言え、データとしては多くが破損していた。

 統合再生が出来ない。

 だからわからない。

 本体は、本当は何を望んで余という分体を作り上げたのか――?

 

 思考がずれた。

 重要なのはこの身が「余」であり、「混沌の渦」であり、「ネフェル・アイ・マナ・イレマーレ」であるということだ。

 「余」は混沌の渦だが人間ネフェルでもある。

 10年間の人間としての記憶と自我は、たとえ三百年を経たこの身でも消せはしない。

 この肉体に宿ったとき、今までにはなかった適合感を感じた、そのせいかもしれない。

 

 この数百年、余は「混沌の渦」の欠片であった。

 依り代たる肉体に憑依してそのうちに潜んでいる端末。

 今は違う。

 今この肉体を動かしているのが「余」。

 混沌の渦であり、ネフェルであり、そのどちらでもない何か。

 

(ネフェルくん)

 

 ちかっ、と脳裏に浮かぶ顔。

 振り払ったはずの眼鏡の女。

 それは再び、あっという間に脳裏に充満し、思考を覆い尽くす。

 

(ああ、そうか)

 

 不意に得心した。

 本体も。本物の混沌の渦(メイルシュトローム)も、この世界の力――この世界の情報を取り込みすぎたのだ。

 この世界の情報を、この世界のエネルギーを、この世界の法則を――この世界そのものを。

 

 肉体と精神は不可分。器が変われば心も変わる。

 それはこの世界の存在だけでなく、混沌である自分も同じだった。

 否、この世界に入り込んだからこそ、そうなった。

 せめて本来のそれの性質を残した「渦」であれば大きな変容はなかっただろう。

 だが少年の肉体を、あるいは龍の姿を得た時点で。

 

「余は、もう『混沌の渦』ではなくなっていたのだ」

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