異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

156 / 415
第二章「十六年前のアルテ」
第八話 シェフ


「知っておいて損はない。おれたちは、祝福されて生まれてきたんだってことを」

 

     ――機動戦士ガンダムUC――

 

 

 

 城塞都市ライサムの夜。

 賑やかな酒場から一人の男が出てくる。

 黒い帽子、整った服装、黒いマント。

 男が夜闇の中に消えて少し経った頃に、酒場の奥から悲鳴が響いた。

 

 迷路のように入り組んだ路地を一時間ほど歩く。奇妙なことに、男の顔立ちはいつの間にか変わっていた。

 ふくよかで人畜無害そうな貴族のボンボンから、肉をノミでそぎ落としたような鋭いハンサムに。

 黒い洒落たマントからどこにでも歩いているような、平民の装いに。

 髪色もくすんだ金からツヤのない黒に。

 

 男はある娼館の裏口に入る。

 慣れた様子で階段を上がり廊下を進むと、一つのドアをノックもせずに開ける。

 中にいた薄着の女は、驚いた様子でもなく男を迎えた。

 

「こんばんわ、シェフ」

「ジャクリーヌ」

 

 頷いて男はベッドに腰掛ける。

 男は誰も知らない理由によって「シェフ」とだけ呼ばれていた。

 "軍の隊長(シェフ)"かもしれないし、"料理長(シェフ)"かもしれない。

 「殺しの第一人者(シェフ)」という意味ではないかと女は思っていた。

 

「俺は今日夕方からずっとここにいた」

「ええ、お金も前払いで貰ってるわね」

 

 娼婦である女の、これが副業だった。

 万が一男が疑われた場合、アリバイを証言する。

 もう十年近くの付き合いになる。

 

「それで、もうお金は貰ってるわけだし。お仕事させてくれないかしら? お金だけ貰って仕事をしないって言うのは、私の職業倫理に反するのよ」

 

 しなだれかかる女。

 だがその指が肩にかかる前に、男はベッドから立ち上がった。

 

「お前は十分仕事をしてくれている。それに、これからカザティの賭場だ」

「あぁん」

 

 残念そうな声を上げる女に、男は目もくれない。

 

「知ってるのよ、青い羽根のカワイコちゃんにぞっこんなんでしょ? 妬けちゃうわね」

「あれは手のかからない女だからな」

 

 帽子を被りなおして身を翻す。

 

「債務関係をそろそろ精算すべきだと思わない? 私が果たしてない労働義務が十年分たまってるのよ」

「そのうちにな」

 

 男は振り向きもせず、ドアを閉めた。

 

 

 

 カザティの闇賭場・・・闇とは言っても看板を出していないだけで、都市の衛視も存在は知っている。潰してもきりがないのと、賄賂や情報提供などで衛視と繋がっているためお目こぼしされているような、そんな場所だ。

 カードやサイコロに興じる卓には目もくれず、賭場の隅のカウンターバーに男は向かう。

 

「ワンショット」

「・・・」

 

 短く言うと、小さなグラスに琥珀色の液体が注がれる。

 それを飲み干すと、男はコインの入った小袋をカウンターに置いた。

 高級な蒸留酒とは言え、明らかに法外な額。

 娼婦ジャクリーヌと同じ。ここに真夜中近くまでいたというアリバイ証言の代価。

 バーテンダーはその中身を確かめもせずカウンターの下にしまい込み、男はそのまま賭場を出て行った。

 

 

 

「ただいま」

 

 小汚い集合住宅の一室。男の挨拶に応えるのは人ではない。鳥の鳴き声。

 

「いい子だ」

 

 鳥かごの中、青い小鳥――彼言うところの「手のかからない女」――に話しかけるとエサを皿に盛る。

 それを夢中で食べ始める鳥を横目で見つつ、男は椅子に深く腰を下ろす。

 テーブルの上に出しっぱなしになっているワインから手酌で銅のコップに注ぐ。

 

「・・・」

 

 それからしばらく、男はコップの中の赤い液体を見つめて微動だにしない。

 嬉しそうにエサを食べる鳥の、たまに上げる鳴き声だけが部屋に響いている。

 

 男には記憶がない。

 気がついたときには組織の一員であり、殺し屋の仕事に従事していた。

 組織の理念には興味が無かったが、淡々と仕事は果たした。

 仕事には微妙な違和感があったが、それでも記憶を失う前から恐らくは剣を振っていたのだろうという確信はある。

 軍人か、それとも冒険者か。恐らく騎士や貴族ではあるまい。

 

「っ」

 

 こめかみに走る鈍痛。

 昔の事を考えるといつもこうだ。

 コップの中のワインを一息に飲み干す。

 瓶から注いでもう一息。

 更にもう一杯飲むと、男は瓶に栓をしてベッドに転がった。

 

 

 

 翌日朝。

 町の隅っこ、革なめし職人の住む一角。

 革なめしに伴う薬品のひどい匂いが充満する場所だ。

 それゆえに滅多に人が近寄らない。

 待ち合わせ相手は先に来ていた。

 

「・・・」

 

 無言で差し出される袋。

 暗殺の報酬だ。

 中を確かめると、男は袋をマントの隠しに収めた。

 

「新しい仕事だ」

 

 組織の繋ぎ役が口を開いた。

 男は次の言葉を待つ。

 

「今度の標的は若い娘。16か17くらいだ。《怪力の加護》かそれに類する《加護》を持っているが当人はそこまで強くはない。

 しかし周囲は手練れ揃いだ――『ガルガンチュワ』と『デューク』が一緒にいる」

「!」

 

 男の表情が初めて動いた。

 驚愕と緊張。

 

「一番警戒すべきはこの二人を超える、恐らく黒等級(最高)クラスの剣士。

 加えて緑等級(精鋭)から黒等級クラスの術師らしい男。こいつがチンピラとは言え200人を一度に片付けた。

 他にも青から緑等級とおぼしき剣士や術師が数人。旅芸人一座を装っているが、恐らくは偽装。腕利きの(冒険者パーティ)か傭兵が護衛に雇われたのだろう」

「・・・そのレベルとなると、俺一人では流石に手に余る」

「組織の人間が陽動を行う。護衛を釣り出して、成功しそうであれば仕掛けろ」

 

 男の片眉がぴくりと上がった。

 組織が「可能なら」式の物言いをすることはほとんどない。

 ほとんどの場合命令は絶対だ。

 

「・・・」

 

 疑問が顔に出ていたようで、繋ぎ役が頷いた。

 

「今回の仕事はそれだけ特別と言う事だ。出来れば首都に入る前に片付けたいが戦力が足りないのはわかっている。うまくいけばもうけもの――その程度の話だ」

「・・・」

 

 その程度の話であれ、命を賭けねばならないのは自分たちだ。

 恐らく陽動に使われる組織の下部構成員や、金で雇われる荒くれどもも似たようなもの。

 それでも男は無感動に頷いた。

 

「了解した。期日と場所は」

「仕掛ける方は大人数になる。そうなると衛視どもがうるさいから城壁の外でだ。

 場所は東の城門から10キロほど、森の中。向こう次第だが恐らくは明後日。明日また連絡する」

「標的の特徴と名前は」

「栗色の髪、小娘にしては豊満な肉付き、身長は普通。恐らくは三番目の馬車の中。名前は・・・アルテ」

 

 その名前を聞いた瞬間、男の胸が激しくざわめいた。




日本語だと「料理長」という意味だけが有名になっていますが、
フランス語の「シェフ」は長や主任、第一人者とかそういうニュアンスの言葉です。
「傭兵ピエール」だと「傭兵隊長」という意味で使われてたり。
英語で言うと「キャップ」が近いかな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。