異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
「デューク」以外の護衛たちが馬車を離れた。
馬車の中の気配も、アルテという娘と恐らく戦闘員ではないリタという少女だけ。
(・・・)
草一つ揺らすことなく、ネットを抜けて街道に踏み出す。
男の隠密の技能はアーベルと比べてもさほど遜色ないレベル。
その上で透明化していれば、目の前の男でさえそう簡単に気づけるものではない。
息を止め、するすると滑るように移動する。
デュークは周囲に気を配っているが、男に気づいた様子はない。
後ろから馬車に近づく。
まず幌の影から見えたのは片膝立ちで緊張した顔の幼女。報告にあったリタだろう。
そして更に一歩進む。
幌の影から男物のチュニックと栗色の髪、そして
だがどんな武器でも敵に気づけなければ無意味だ。
更に一歩。馬車の後ろ正面。
ここから中に飛び込んで標的を仕留めるのに一呼吸。
デュークもまだ自分には気づいていない。それで仕事は終わり。
そのはずだった。
「っ!?」
栗色の髪の少女。
その顔を見た瞬間、強烈な頭痛が男を襲った。
「!」
「!?」
目の前の少女二人の驚愕の顔。
それを認識するかしないかのタイミングで咄嗟に横に跳ぶ。
ほとんど同時に、それまで男がいた場所をサーベルが薙いだ。
アルテとリタの悲鳴が響く。
「暗殺者だ! 来てくれ!」
デュークの叫びに、中ほどの馬車から飛び出すドワーフと駈け寄ってくる
小人族・・・アーベルの顔を確認すると、男は舌打ちして姿を消した。
「二人は馬車の中にいろ! 顔を出すな!」
「う、うん!」
馬を横付けにして馬車の後ろ側を塞ぐと、御者席との間の幌を下ろさせる。
ラファエルに御者席を守るように頼むと、駈け寄って来たアーベルを見下ろす。
「おい、今の・・・」
「ああ。恐らくは『シェフ』だ。まだ周りにいるか?」
「無理言うな。あいつが透明になったら、俺だって察知はできん――ん?」
恐らく念話だろう、短い会話。
「ちょっと目をつぶってろ」
その言葉の直後、突風が吹いた。
風は森の枯葉を巻き上げ、街道を枯葉が覆い尽くす。
いくら透明化していても、枯葉を踏めば音もするし足跡も見える。
暗殺者が空を飛べない限り、察知されずに近寄ることは出来ない。
「なるほどなあ」
イーサンが感心したように顎を撫でた。
「俺が行く。残りは任せた」
それだけ言ってガイガーさんが姿を消す。
同時に師匠が眉を寄せた。アーベルさんからの念話だ。
「何、透明化した敵を?」
あ、それなら枯葉をまわりに撒くのはどうです?
時代小説で忍者よけにやってるようなあれである。俺頭いい!
「ほう。良い案じゃの。やはり小僧はたまに頭が切れる」
だからたまには余計なの!
ともかくアルテとリタが無事でほっと一息である。
残った連中を片付けて、俺達も枯葉まみれになった後方に駆けつけた。
「しかし聞いてる限りでも危なかったのですぞ。よく大丈夫だったものですぞ」
「透明化の呪文は精神集中が必要らしいからな。標的を殺そう、と言うところで集中がどうしても切れるもんらしい」
「透明化した暗殺者でよく聞く話ではあるの」
師匠が頷く・・・ん?何か今違和感があったな。
「まあ腕は立ったようですが、透明化の術なり魔道具なりの扱いに慣れてなかったんじゃないですかね」
「そう言うのもたまに聞く話ではあるな、確かに」
にしても、アーベルさんとイーサン氏、なんか息があってるな?
やっぱり知り合いなんだろうか。
念のため馬で後方警戒するイーサン氏に師匠が《
俺は御者席でミストヴォルグの超センサーをフル回転させつつ警戒だ。
先頭の馬車では同様に師匠が、真ん中の馬車では感覚の鋭いアーベルさんが警戒。
何事も起こらぬまま、俺達は無事ライサムの街に入った。
「座長、興行はどうするんです?」
「まあやるしかないだろ。どのみち公爵様に会ったところで、アルテがいる限り狙われるのは変わりない。なら襲ってきたところを全員返り討ちにしてやるさ。
ただ、いつでも逃げ出せる支度は全員整えておきな。単独行動禁止もだよ」
全員が頷く中、アーベルさんが手を上げた。
「それなんだが、ちょっと動いていいか? 情報を集めておきてぇ」
「んー・・・アーベルなら大丈夫か。設営はハヤトこき使えば済むしね」
んな殺生な!
「だって実際便利だしねえ、アンタ」
まあくい打ちも穴掘りも柱立ても一人でこなせるんだからそれはそうなんだけど・・・。
「座長横暴ー。ハヤトが来る前はその辺私一人でやってたんですけどー?」
「適材適所さ。そんじゃアタシはアタシの仕事をしてくるから後よろしく。あ、ラファエルは護衛頼むよ」
「シルヴィア嬢にいるかどうか微妙な所ではありますが、まあ承りましたぞ」
そのままシルヴィアさんはさっさと町の顔役のところに挨拶に行ってしまった。
まあしゃーねーな。こっちもチャッチャと終わらせよう。
「ああ小僧、『せんさー』は働かせ続けておけよ。前の町で同時発動が可能になったんじゃろ?」
んな殺生な!(本日五分ぶり二回目)
やってみたら意外と殺生でもなかった。
ミストヴォルグの力とジェッターロボの力を同時展開しても、魔力消費的にも、制御的にも、ほぼ負担を感じない。ルイスのヴィラン・コアと、これまでの修行の成果ってことだろうか。
「ハヤトくんも成長してるって事だね」
「あれだけ頑張ってるもんねー」
リタを含めて我がことのように喜んでくれる三人の気持ちが嬉しい。
よーしパパ頑張っちゃうぞー。
「・・・」
男は、自室のベッドに崩れ落ちるように腰を下ろした。
テーブルの上のワインの瓶をとり、グラスに注ぐ手間も惜しむかのようにラッパ飲みする。
半分近くを一息で飲み干すと、空になった瓶を放り出した。
「はあ、はあ、はあ・・・」
荒く息をつく。両手が震えていた。
暗殺に失敗したあの後、男は全力で逃走した。
自分でも何から逃げているかわからないまま逃げた。
緑等級に匹敵する男の身体能力は圧倒的で、10キロの距離をあっという間に駆け抜ける。
30分と経たないうちに男の姿は自室にあった。
脳裏に、あの栗色の髪の娘の顔が浮かぶ。
フラッシュバック。
あの娘をもう少し大人にしたような、栗色の髪の女性の顔。
「つっ・・・」
今までで最大の痛みが走った。
がつんがつんと、ハンマーで殴られているような頭痛。
理由が判らない。
意味がわからない。
何故俺はここまで苦しんでいるのだろう。
棚から新しい瓶を取り出し、男はもう一度ワインをあおった。
それが今唯一の薬であるかのように。