異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第十二話 すれ違い宇宙

「十年ぶりか」

「そのくらいだな」

「まだ仕事を?」

「見ての通りだ」

 

 淡々とした会話。

 十年ぶりの昔馴染みがするにしてはあっさりしすぎているそれ。

 

 シェフは剣を鞘に収めていない。

 アーベルとイーサンも得物は手に持ったままだ。

 

「何故あの娘を守る。組織に真っ向から楯突く気になったということか」

「そうだと言ったらどうするね。お前さん、その組織に切り捨てられたんだろう?」

 

 ちらりと床に視線を落とす。

 既に冷え始めた繋ぎ役の死体。

 街道での襲撃の失敗と考え合わせれば答えは一つだろう。

 アーベルとイーサンが一瞬視線を交わす。

 

「むしろ組織がアルテを狙うわけを聞きたいね。

 組織のご大層な理念にあの小娘がなんの関係があるんだい?」

 

 アーベルのはったりだ。

 おそらくアルテの素性は知らないと踏んだ上での駆け引き。

 

「知らん。そいつ(繋ぎ役)なら知っていたかもしれんがな」

「そうかい」

 

 シェフにあっさりかわされ、肩をすくめる。

 相手もアーベルの手の内は知っている。それゆえにいなされたのか、あるいは本当に知らないのか。腕利きの間諜である彼も、流石に読心の術の心得はない。

 

「・・・」

「?」

 

 今まで黙っていたイーサンの視線に気付く。

 もの問いたげな、合点のいかないと言った顔。シェフが眉を寄せた。

 

「なんだ、デューク」

「いやね、街道でのあれはおまえさんだよな」

「・・・そうだ」

 

 手の内を知っているこの二人相手に隠しても意味はない。

 だから多少投げやりに答えたのだが、次の言葉とそれに対する反応はシェフにとって完全に予想外のものだった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

「っ!?」

 

 昨夜以来の、ハンマーで頭を叩かれるような強烈な頭痛。

 

「お、おい?」

「シェフ!」

 

 頭を抑えて崩れ落ちる。

 

「ぐ・・・あ・・・!」

 

 口から垂れる唾液、割れんばかりの痛み。

 フラッシュバックする、アルテによく似た栗色の髪の女性のイメージを最後に、男の意識はぷつりと途切れた。

 

 

 

 男はベッドの上で目を覚ました。

 

(ここは)

 

 目だけを動かして周囲を見る。見覚えはあるのに思い出せない。頭がうまく働いていないなと思った瞬間、ドアが開いた。

 

「シェフ! よかった!」

 

 木の盆の上に水差しとクッキーを乗せて入って来たのは、娼婦のジャクリーヌだった。

 それでこの場所のことを思い出す。馴染みの娼館のジャクリーヌの部屋。

 「仕事」のたびに数分だけ滞在している部屋だ。

 

「お友達に担ぎ込まれた時はどうしようかと思ったわ。お水飲む? 薬が入り用だったらヴァレリーばあさんから貰ってくるけど」

「いや、いい」

「そう。・・・」

「?」

 

 喜色を浮かべた笑顔が、一転して不機嫌そうになるのを男は不可解そうに見上げた。

 いつもの、演技としての不機嫌さではない。本気で腹を立てている顔だ。

 

「そりゃあ腹も立つだろうよ。女の部屋にいるのに別の女の名前を寝言で呟いていりゃあな」

「まったくだ。そりゃお嬢ちゃんもご機嫌斜めになるってもんだぜ」

「そんなんじゃないわよ」

 

 笑いながら入って来たのは「ガルガンチュワ(アーベル)」と「デューク(イーサン)」。

 ジャクリーヌが唇を尖らせてそっぽを向く。

 小娘のような反応だが、妙にかわいげがあった。

 

「それでだ」

 

 イーサンが椅子を引き寄せ、背もたれを抱え込むように座る。

 真剣な表情と真剣な声。

 アーベルも笑いを収める。

 

「っ・・・」

 

 身体を起こそうとして、再び痛みが来た。

 ベッドに沈み込んだシェフを、イーサンが気遣わしげに覗き込む。

 

「無理はするな。寝たまま話を聞いてくれ。

 それでなんだがお嬢さん――ちょっと部屋を出ていてくれないかな?」

「この人を一人で放り出せって?」

 

 すっと眼を細めるジャクリーヌ。

 イーサンとアーベルが同時に苦笑する。

 

「危害は加えねえよ。ただ、聞いたらアンタの身に危険が迫るかも知れない。

 正直聞かないことにしてくれた方が俺達も安心できるんだ」

「・・・」

 

 シェフに視線。

 男が頷くのを確認し、娼婦は不承不承部屋を出た。

 

「さて、と」

「・・・」

 

 イーサンとシェフの視線が交叉する。

 

「あの時お前はアルテ――栗色の髪の娘を狙った」

「ああ」

「そして立ちすくんだ。何故だ? お前なら、俺に反応させずにあの娘を殺せたはずだ」

「ぐっ・・・!」

 

 答えようとした瞬間、またしても苦痛がシェフを襲った。

 頭を抑え、足が網の中の海老のようにビクンビクンと跳ねる。

 

「シェフ!」

 

 あわててアーベルが足を押さえ、イーサンが丸めたハンカチを口の中に押し込もうとする。

 繋ぎ役の家で彼が発作を起こしたときは、下手をすれば舌を噛むところだった。

 

「・・・!」

 

 ハンカチを突っ込もうとするイーサンの手が止まった。

 足を押さえたアーベルもだ。

 

「・・・」

 

 シェフが手で二人を制止していた。

 体も、もう跳ねていない。

 

「・・・大丈夫か?」

 

 無言で男が頷く。

 顔を押さえた左手の合間から、汗でびっしょり濡れた額が見える。

 両手を脇に下ろして大きく息をついた。視線は天井。

 真剣な顔で二人が覗き込んでくるのがわかる。

 

「何故殺せなかったかと、そう言ったな」

「ああ」

 

 そこでシェフは目を閉じた。

 まぶたの裏に浮かぶのはあの、栗色の髪の女性の面影。

 頭痛はまだ襲ってくるが、耐えられないほどではない。

 

「あの娘の。アルテの顔を見て、今のような状態になった」

「それは・・・何故だ?」

「俺の過去だったからだ。あの娘とよく似た女を知っていた――俺の妻だ」

 

 ぴくり、とイーサンとアーベルの頬が動いた。

 僅かに震える声。

 

「そ・・・それはなんて名前の女だ?」

「コルドラ・・・コルドラ・ベッカーだ」

「なっ」

「「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!??!」」

 

 ハモって大声を上げるイーサンとアーベル。

 痛む頭を抱えながら、シェフは初めて本気でこの二人を殺したくなった。

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