異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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閑話 勇者に口づけを

 目がさめたのは昼過ぎだった。

 さすがに空飛んで数十キロ往復したのはこたえたらしく、まだ節々に疲れが残っている。

 何とか起き上がって伸びをしてると、アルテがお昼の残りを持ってきてくれた。

 リタは木のジョッキにリンゴジュース(厳密には違うかもしれないが、まあリンゴの味がするからリンゴだろう)を持ってきてくれる。

 

 うーんこのお世話されてる感、たまらん。そこ、ダメ人間とか言わないように。

 ともかくやっぱり《加護》を使って腹が減っていたらしく、1.5人分くらいの料理と大ジョッキ一杯のリンゴジュースをぺろりと平らげてしまった。

 

「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

 

 手を合わせると、アルテがにっこり笑ってくれる。

 

「リタもジュースありがとうな。あれ買って来たの?」

「ううん、お父さんが作ってくれたの。こう、リンゴを手で握りつぶして」

「マジッスカ」

 

 飲んだ後で良かった。飲む前に聞いてたら飲めなかったかもしれない。

 

「滅多に作ってくれないけど、ガイガーさんのジュース美味しいよねー」

「今回はお兄ちゃんが頑張ったから、そのご褒美って事だと思う。よかったね!」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

 俺は何とか笑顔を維持しつつ、平板な声で礼を言った。

 

 

 

「で、午後からの興行はできるかい・・・と思ったんだけど、ふらついてるね。まあ今日は休んでな」

「すいません」

 

 舞台衣裳の華やかなドレスに身を包んだ座長に謝る俺。

 当然だが、別に俺の奇術ショーだけで一座がもっているわけではない。

 シルヴィア座長は歌手として超一流だし、ラファエルさんはバイオリンの弾き語り、アーベルさんの軽業や軽妙な語り口を伴った道化芸も見とれるくらい凄い。リタだって動物芸が得意だ。

 他にお芝居もやるし、正直この人たち日本に来ても結構いい線いくと思う。

 

 しかしアルテが腕より太い鉄棒をぐんにゃり曲げたりするのを見た時は戦慄が走った。

 曲げた鉄棒はペトロワさんが呪文で修理してるらしいがそれはそれでパねぇな・・・。

 閑話休題(それはさておき)

 

「ま、今回はガイガーも代打ちで入ってくれてるから、あんたの奇術目当てのお客さんも満足してくれるはずさ」

「へー」

 

 あの人も芸やれるのか。用心棒だと思ってた。

 

「ま、見てな。驚くから」

 

 くっく、と座長が笑った。

 

 

 

「すげえ・・・」

 

 マジですげえ。

 今舞台の上で演じられてるガイガーさんの芸に、俺も、観客も度肝を抜かれていた。

 なにせ()()()()()()()()()()()()のだ。

 剣の平たい面じゃないぞ? 立てた刃の上を、回転しながらコマが進んでいるのだ。

 

 それが先端に達するタイミングでガイガーさんが剣を立てる。

 まさか。そう思いながらも剣とコマから目が放せない。

 直立した剣。

 その切っ先でコマが回転し続けている。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 万雷の拍手。

 俺も手が痛くなるほど拍手していた。

 

 

 

「お疲れさまです! いやー、凄かったですね!」

「おとーさんお疲れさま! 凄かったでしょ」

 

 剣渡り以外にもコマを数十個同時に回したり、縦に六つ重ねて回転させたり、舞台の端から端までロープの上を渡らせたり・・・コマ芸を一通り終えて舞台袖に引っ込んだガイガーさんを出迎えた俺とリタに、ガイガーさんが無言で頷いた。

 

「おとーさんはね、代々コマ芸を伝える家の出身なんだって! コマの剣渡りの芸を磨いてたら、いつのまにか"けんせー"になってたって死んだおかーさんが言ってたんだよ!」

 

 けんせー・・・剣聖!?

 

「・・・」

 

 思わずガイガーさんを見るが、反応はない。無視されてるわけではないが、本当に反応がない。

 しかし本当に「けんせー」が「剣聖」だとして、コマ芸の特訓してたら最強の剣士になってたとか、剣一筋に腕を磨いてた人は憤死ものだろうなあ、これ・・・。

 

 

 

 そんなこんなで今日の公演が終わった頃。予想外の人がやってきた。

 

「こんにちは。王国勇者カオル・タチバナです。このたびは大変お世話になりました」

「ファッ!?」

 

 追い返すわけにもいかないので、シルヴィアさんに確認してから取りあえず入って貰う。当然だが、俺は「魔術師ホッチョ・ペッパー」の姿なので怪しまれたりはしない・・・たぶん。

 香草茶を淹れ直して、何となくみんなでティータイムになった。

 集まった所でカオルくんが頭を下げる。

 

「改めて皆さんにお礼を申し上げたい。あなたたちのおかげで奴隷売買を摘発することができ、奴隷にされた人達も解放できました」

「なあに、善良な一般市民の義務という奴ですよ」

 

 カオルくんにウィンクしながらアーベルさん。

 あんた本当に顔が良ければ男も女も関係ないんだな・・・。

 

「確かあんた、王様の暗殺未遂犯をおっかけてるんだろ。その合間に奴隷商人も摘発するたぁ、いやはや、働き者だねえ」

 

 香草茶を優雅に口にしながらシルヴィア座長。

 この人本当に歌姫モードと通常モードでキャラ変わるな。

 ともあれその言葉にカオルくんが苦笑する。

 

「まあそうなんですけど、もう少しこの町にいなきゃならないようで」

「どうしたの? おしごとおやすみなの?」

「それがね、代官さん――この町のえらい人が、僕がいると睨みが利くんで、しばらく残ってくれませんかって言われてるんだよね。どうやら前々から疑いはあったらしいけど、町の有力者との繋がりが強くて摘発できなかったんだって」

「あーなるほど」

 

 頷く一同。

 

「にらみ? 勇者様、みんなを睨むの?」

「みんなが言うこと聞いてくれるってことさ」

 

 苦笑しながらリタの言葉を訂正するカオルくん。

 代官って事は王都から派遣されてきた官僚で、地元の有力者と繋がっていたローリンズ商会を捜査するにも苦労していたのだろう。下手をすれば他にも同じような事をしているところがある、と考えればカオルくんとしては放置できないか。

 

 それから少しの間、色々話をした。主に日本の話とか質問されて、カオルくんがそれに答えるという形だったけど。そう言えばみんなとそう言う事を話す機会はあまりなかったな。気を遣ってくれてたんだろうか。

 そして休み時間もそろそろ終わろうかという時に、カオルくんがぽつりと口を開いた。

 

「日本は・・・少なくとも僕の時代の日本は平和な国だったから、人同士が殺しあうってことは馴染みがないんだ。王様はそのために僕を・・・僕達を呼び出したみたいだけど、オアンネスの人達との戦争を何とか終結させたい。まずはその前に友達と話をしてからになるけど」

「・・・」

 

 やばい、ちょっと涙が出そうになった。

 一ヶ月くらいの付き合いなのに、俺の事友達って言ってくれて、彼から見たら王様暗殺未遂犯の俺を真剣に助けようとしてくれてる。本物の勇者ってのはこう言う奴を言うんだろう。

 オブライアンさん(呪文で人間の姿になってる)も頷いていた。

 

「それじゃそろそろ時間のようですし、これで失礼します」

「今度はお客として来てくれな」

「暇がありましたら」

 

 苦笑しながらカオルくんが立ち上がる。

 見送ろうと立ち上がると、じっと視線を向けられた。

 

「え、なんです?」

「いえ・・・そう言えば昨夜の現場にはいらっしゃらなかったと思いまして」

「ええまあ、たまたま・・・」

「捕らえられていた奴隷の中に魚人妖精(オアンネス)の女性がいたらしいんですが、屋敷を探しても見つからないんですよね。無事ならいいんですが」

 

 全身にぶわっと冷や汗が浮かぶ。

 にこにこ笑うカオルくんが怖い!

 

「まあ警邏に保護されても余りいいことにはならないでしょうから、誰かが安全なところまで連れていってくれたと信じたいですね」

「ソ、ソウデスネ・・・」

 

 緊張の余り片言になる俺。

 カオルくんはくすりと笑うと俺の手を取る。

 そしてひざまずき、騎士が貴婦人にするような接吻を手の甲にした。

 

「!??!?!」

「付け焼き刃だけど・・・あなたの勇気と善意に敬意を。では」

 

 もう一度一礼すると、カオルくんは身を翻して去っていった。

 いかん、心臓がばっくんばっくん言ってる。

 ノーマル! 俺ノーマルだから! 女装してはいるけどそう言う趣味ないから! 普通に女の子が好きだから!

 顔を真っ赤にして体を抱いている姿では何を言っても説得力ないけどな!

 リタ、目をキラキラさせない! アルテもショック受けた目でこっちを見ないで!




ちなみに、立てた刃の上をコマが回るという芸は実在します。
手じゃなくて口でくわえた短刀の上にではありますし、「長続きしないのですぐやめます」がお決まりのギャグになるくらいでそう長い時間でもありませんが、マジで刃の上でコマが回ります。
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