異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
第十七話 あいや、暫(しばらく)
「君にはまだ、歌があるじゃないか!」
―― 一条輝、マクロス――
カオルくんが一座を訪ねて来てから二日後、俺達はザカリーの町を発ち、次の町へと向かっていた。
チェルブルク。
それが俺達が向かう町の名前だ。
ちなみにカオルくんはまだ奴隷売買の後始末に追われている。
他に奴隷売買やってたところが複数出て来て、部下の人達を引き連れて抵抗する奴隷商人の鎮圧任務まで請け負ってるらしい。ほんとご苦労様です・・・。
「一言で言うと歌の町ですぞ。吟遊詩人や歌い手にとっては『カブーキ』の発祥地として有名ですな」
「歌舞伎この世界にあんの!?」
もはや何度目の驚愕かわからないが、思わず俺は吹き出した。
「ああ、ハヤトならわかりますか。オリジナル冒険者族が持ち込んだのですぞ。奇妙な恰好をした人間をカブキモノと呼ぶ事もありますが、それとはまた別口ですな」
「うーん文化汚染」
ごめんなさい、こう言う時どういう顔したらいいかわからないの。者どもマラを出せい!
冷や汗を流しながら固まってると、ラファエル先生がからからと笑った。
「別に気にする事はありませんぞ。新しい文化に触れるのは刺激になりますし、カブーキはいいものですぞ」
「私も見たことあるよ。みんな歌うんだよね、セリフ言うときも。凄い楽しかった記憶がある」
最近、リタと一緒にはちみつ授業に同席する事が多いアルテが楽しそうに笑う。
「そうですぞ。後基本は踊りと歌がセットですな。吟遊詩人としても曲に合わせてセリフを歌うあの形式は中々参考になるところがありますぞ」
あれ? なんか俺の知ってる歌舞伎と違う・・・。
「歌舞伎、いやカブーキって歌うの? いや確かに歌うような節回しとは言うけどさ」
役者は「セリフは歌うように演じろ」と言われたりするらしいがそういうことでは無さそうだよな・・・?
歌って踊るとなったらそれミュージカルなんじゃ。
「歌いますぞ。基本的にセリフは全部歌ですぞ。歌っている最中は流石にしませんが、劇中の動作は大体踊りですし、メインの役者が歌っている間に後ろでは専門の踊り子が舞い踊るのが普通ですぞ」
やっぱミュージカルじゃんそれ!
「なるほど、日本のカブーキとは随分違うのですな。まあ何せ数百年前の事ですから色々あったのでしょう」
「だろうねー。当時の人に聞いてみでもしなきゃわからんでしょ。そういえば過去を見る魔法とかはないの?」
「
後はまあ、死者の霊を呼び出す術というのもありますが、数百年前となるとどうでしょうなですぞ」
「あー」
「何か?」
ふと思い出したのだが、歌舞伎は元々かぶき踊りという芸能が元だ。出雲の阿国とかそういうやつ。その頃のかぶき踊りはダンスショーみたいなもので、中には歌や寸劇、その他の様々な芸を一緒に演じてたこともあったらしい。
「現代で言うバラエティ・ショウのような構成であった」と何かで読んだ気がする。
その時代のかぶき踊りを元にしているならそう言う事もあるのではなかろうか。
「なるほど勉強になりますなー」
普段はラファエルさんから教わってばかりなのでちょっと照れる。
「でもそんなにカブーキが盛んな町なら、お客さん入るかどうか不安だね」
「アルテちゃんの力持ちやお兄ちゃんの手品はいいだろうけど、シルヴィアさんの歌やラファエルさんのお話はつらそうだね」
「お芝居もなー」
専門の劇団ならともかく、うちのはついでにやってる程度だし。
「まあ有名なカブーキ劇場がありますし、滞在中に一度みんなで行ってみたいですな。きっと勉強にもなりますぞ」
「わーい!」
「やったぁ!」
アルテとリタの歓声が上がる。
と、馬車がゆっくり止まった。
「?」
「どうしたの、お父さん?」
布をめくって御者席のガイガーさんに尋ねるリタ。
「行き倒れを・・・見つけたようだ」
「また?」
「・・・ちょっと見てきます」
「あ、あたしも」
「わたしも!」
馬車を飛び降りた俺達は先頭の馬車に走っていった。
「おばーちゃん、どう?」
「まあ、疲労じゃろ。水飲ませておけばそのうち目を覚ます」
「よかったぁ・・・」
再び動き出した先頭の馬車の中でほっと胸をなで下ろす俺達。
道ばたに行き倒れていたというその男性が寝かされている。
旅塵で汚れて、無精髭も生えているが意外に若そうだ。
右足の先が棒みたいな義足になっている。
「体に古傷もあったから元兵士かの。足をなくして除隊したんじゃろう」
そうするとオアンネスとの戦争でか・・・
そのまましばらく見守っていたが、結局彼は夕方まで目覚めることはなかった。
「お世話になりましたようで」
夕食の時に起き上がってきた男性はそう言って頭を下げた。
ガイ・フォッチャーと名乗ったその人は、顔を洗ってこざっぱりするとやっぱり結構若かった。多分二十代半ばくらいだろう。
「二年前に兵隊に取られまして。それで足をなくして除隊したばかりなんです」
「それじゃやっぱりオアンネスとの戦争に?」
「ええ・・・ほんとオアンネスの連中には良い迷惑だったでしょうよ。片足食いちぎられましたけど、恨む気にはなれませんや」
肩をすくめる男に、俺達は何も言えなかった。
「体の方は大丈夫なのかい? 婆様は疲労だって言ってたけど」
「路銀が尽きましてね。故郷が目前だと思って気が緩んだのかもしれませんな」
「じゃあチェルブルクの?」
「ええ、あそこが生まれ故郷でさあ。嫁さんに会いたいのと同じくらい、カブーキをもう一度見るまでは死ねないって、そればかり考えてましたよ」
ガイさんの言葉にリタが目をキラキラさせる。
「カブーキが生まれた町なんだよね! 今でも沢山やってるの?」
「ああ。俺の嫁さんがカブーキの歌い手でな。俺が出征した後に子供が生まれて、今二歳くらいのはずなんだ」
「わあ! なんて名前なの?」
「女だったらイェニファ、男だったらフランクス。彼女と話しあって名前を決めたのさ。会うのが楽しみだぜ」
そう言ったガイさんの笑顔は、本当に嬉しそうだった。
「それじゃ俺はここで。嫁さんと子供連れて見に来ますよ」
「はは、ありがたいね。友達にも声かけて来てくれな。失望はさせないよ。ハヤト・・・ホッチョ・ペッパーの大魔術ショーは特にね」
「覚えておきますよ。では」
「ばいばーい!」
チェルブルクの町の入り口。手を振るリタに笑顔で手を振り返しつつ、お世話になりましたともう一度頭を下げてガイさんは去っていった。
それを見送ってからシルヴィアさんがパンパンと手を打つ。
「さて、あたしは町の顔役の所に挨拶に行ってくるよ。その間にみんなは舞台を設営しといておくれ」
「「「うーっす」」」
生返事を返すと、俺達は興行の準備のために動き始めた。
それから数日、俺達の興行は大成功を収めた。
ただ、俺の奇術やリタの動物ショー、アーベルさんの軽業なんかはいつも同様に大受けしたのだが、シルヴィアさんの歌やラファエルさんの弾き語りは観客の反応がいまいちだった。
どっちも騒がしい観客を黙らせられるくらい凄いんだけどなあ。
「やっぱりそのへんは目が・・・いや、耳が肥えてるってことさね。あたしも歌には自信あるけど、この町じゃあ手強いライバルが沢山いるんだろう。ってわけで、明日は敵情視察だ! カブーキのチケットも取れたし、みんなで見に行くよ!」
「おーっ!」
みんなが腕を突き上げて歓声を上げた。ただしガイガーさん以外。
「いやー、凄かったね・・・」
「うん、何と言うか・・・衝撃的だった」
朝から夕方まで、酒や弁当、菓子やお茶を用意しての丸一日の観劇。
それを終えて劇場を出て来ると、俺とガイガーさん以外、例外なく心此処に在らずと言う顔をしていた。いやガイガーさんは顔に出てないだけだろうけど。
一言で言うと歌舞伎とオペラとミュージカルを混ぜたような感じなのだが、セリフが全部歌で構成されているというのは知らない人には衝撃的だったのだろう。
後単純に歌も演技もダンスもよかった。音楽も凄い。ただ、このレベルを維持するのは難しいだろうなあとは思う。
「だから余り広まってないんだろうね。特にあたしらみたいな旅の一座じゃね」
「だよねー」
「まあ折角だ、今回は晩飯も奮発しようじゃないか。いい酒場を聞いてるから、今日はあたしがおごるよ!」
「わーい!」
リタがぴょんぴょんジャンプした。
それを眼を細めて見る俺とアルテ。何か娘を見守る夫婦みたいな感じだよな。本物のお父さんがそこにいるから口には出さないが・・・だから剣の鍔を鳴らさないで下さいガイガーさん!
が。
そんな楽しい気分はその酒場に入った途端綺麗さっぱり消えた。
「ほら、もう帰ろうよ。飲み過ぎだよガイ」
「うるせえよ・・・ほっとけ・・・」
酒瓶が乱立するテーブル。
そこに酔いつぶれたガイさんと、それを何とか立たせようとする黒髪の女性がいた。
ロボットアニメで歌舞伎というと、真っ先に出てくるのはシャイニングガンダムスーパーモード。
ワタルのシバラク先生やマイトガインのショーグン・ミフネ同様、歌舞伎の「暫(しばらく)」という演目のキャラを元にしています。
後はマクロスFのアルトが歌舞伎役者の出身だったり。
からくり戦記ヒヲウの巨大からくり「ホムラ」が、歌舞伎と言うよりはかぶき踊りのほうなのですが、それに近いお神楽を舞っていたこともありました。