異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
「ぐわっ!」
悲鳴を上げたのはヘルンだ。
胸元が切り裂かれている。
ウルリヒさんを・・・かばった?
ウルリヒさんの目の前にヘルンが倒れ込んだ。
負傷はそこまでひどいようには思えない。
依頼人というのが本当ならタカ獣人もちょっと躊躇したのか?
「このっ!」
再度ロケットパンチ。
かわされはしたが、二人から遠ざけることは出来た。しかし――!
「ヘルン!
目的はワシなのだろう! 息子に手を出すな!」
ウルリヒさんの悲痛な叫び。
アーベルさんとイーサン氏、二人の緑等級冒険者の攻撃を凌ぎながら、変身生物は笑みを大きくする。
「ええ、ええ、もちろんですとも。それが息子さんの依頼ですからね。邪魔さえされなければすぐにでも目的を果たしてお暇しますとも」
「わ、私はそんな依頼はしていない! 私が頼んだのは・・・」
父親と同じく床に倒れたヘルンが顔を歪める。
「ええ、『あなたを当主にすること』。ですがもちろん追加依頼も受け付けておりますよ」
「だから!」
ヘルンが悲鳴を上げるが、変身生物は意にも介さない。
「やってしまいなさい、ファルケンアウゲ!」
変身生物の体から無数の針が飛び出す。
「がっ!」
「ちっ!」
「くっ!」
「きゃあっ!」
準デモゴディと化している俺と青玉の鎧をまとうカオルくんならこの程度の攻撃は弾ける。だが他の人達には大なり小なりダメージは避けられない!
コルドラさん夫妻、使用人の人達も体中に針が突き刺さり、悲鳴を上げる。アーベルさんたちですら、散弾のようなこの攻撃を完全にかわすことはできない。
って、あの
やばい! 俺は咄嗟に左右のロケットパンチをアルテたちのフォローに。
しかしそれは、タカ男をフリーにすると言うことで。
「ケェェェェェッ!」
文字通りの怪鳥音を上げて、タカ男がウルリヒさんに躍り掛かる。
アーベルさんとイーサン氏は変身生物に。カオルくんは騎士と丸ノコ男にそれぞれ束縛されている。
俺は他の二体への牽制とロケットパンチの制御で動けない。
コルドラさん夫妻、使用人の人達、倒れているウルリヒさんとヘルンさん、いずれも動けない。
アルテも浅くではあるが体中から出血し、血だらけのまま気丈に鉄棒を構えてはいるが、コルドラさん夫妻の前から動けないし、そもそも敵の狙いの一つはこいつだ。踏み込ませるわけにはいかない。
タカ男の爪が今度こそウルリヒさんの喉を切り裂く――はずだった。
「・・・え?」
変身生物がまぬけな声を出す。
壁際で悲鳴を上げていた執事の一人が動いた。
そう思った瞬間、タカ男が両断。
続けて赤い大男の脇腹がバッサリ切られて片膝を突き、ハンマーロボの両腕が切り落とされる。
「大回転ロケットパンチ!」
俺の両拳が二体の胸板をブチ抜き、とどめを刺す。
続けての一撃を、丸ノコ男がかろうじて巨大な丸ノコで受け止めた。
「お前は・・・!?」
「芸人だ」
変身生物の驚愕の声。執事の顔は、いつの間にかガイガーさんのそれになっていた。
そう、これが俺達のもう一つの隠し球である。
前回のお披露目会の襲撃に危機感を抱いた公爵は、ガイガーさんの護衛陣への追加を了承してくれたのだ。
イーサン氏曰く「ウチの親父殿はまだ頭が柔らかい方だからな、助かったぜ」とのこと。
下手すりゃ大量虐殺になってた状況で首を縦に振らない人もいるって事か・・・めんどくさいな、貴族!
師匠の幻影変装の術で姿を変え、普段は執事として仕事もして貰い、徹底して周囲に溶け込んで貰う。今回もウルリヒさんのマジピンチになるまでは動かなかった。
ちょっとギリギリすぎない?とは思うがまあ結果オーライ!
赤い大男とハンマーロボの撃破を確認すると、そのままカオルくんの方に踏み込んで騎士に斬りかかる。
カオルくんひとりでも何とか防げたものを、ガイガーさんとの二人がかりではどうにもならない。
「なっ!」
こっちは大丈夫だろうとウルリヒさんたちに目を向けた瞬間、アーベルさんの驚愕の声。
慌てて振り向いて、思わず声が出た。
「げっ」
変身生物の野郎、アメーバみたいになって床に広がった!
血しぶきで赤い水玉模様になったじゅうたんを飲み込み、アルテと公爵の双方に早回しの粘菌みたいな粘体が迫る。
いかにアーベルさんたちが腕が立っても、短剣やサーベルじゃどうにもならん!
「ビームフリーザー!」
床を這っていた粘菌が凍結・停止する。
アルテのほうはその手前で、ウルリヒさんも少し粘菌に覆われてはいるが、ともかく動きは止まった。
「やったか!」
イーサン氏、それフラグぅぅぅっ!
はたして一秒後、粘菌の凍ってない部分がぼこぼこ、と泡立ち破裂する。
爆発するように吹き出したのはあの黄色い煙!
それは一瞬にして広がり、部屋を覆う。
「息を止めて! 天空風雲剣、真空竜巻!」
パーティ会場を換気した風の技。
竜巻が、今度は二秒ほどで居間の毒ガスを吹き払う。
煙が晴れたとき、黒銀の鉄騎士と丸ノコ男はガイガーさんとカオルくんにそれぞれ倒され、粘菌野郎は姿を消していた。
「ウルリヒさん! ヘルンさん! アルテも大丈夫か!」
「わ、私は大丈夫!」
「アルテ!」
今になって娘が血だらけなのに気付いたんだろう、コルドラさんが悲鳴を上げて娘に駈け寄る。自分もいくらか負傷してるのに・・・母は強し。
「大丈夫、大丈夫だからおかあさん・・・痛い、痛いって」
「ご、ごめんなさい」
娘を思わず抱きしめた母だが、慌てて身を離す。苦笑する
まあこっちは大丈夫だろう・・・ウルリヒさんとヘルンさんも動いてはいるから取りあえず命の危険はなさそうだ。
カオルくん!
「ボクの治療術は血止め程度だから、取りあえず応急処置だけだね。『~~~~』
よし。これで先生が来るまでもつと思う」
鎧の殖装(違)を解いたカオルくんがウルリヒさんの脇腹の血を止め、ヘルンさんに向き直る。
「すいません、ちょっと服を破りますよ」
上着の前を引き裂き、胸の傷口に手を当てて呪文を詠唱する。
少しだがヘルンさんの呼吸が楽になったみたいだ。
あれ? ウルリヒさんが目を見張っている。
「ヘルン・・・お前、そのシャツ・・・」
「え・・・あっ?」
駈け寄って来ていたイーサン氏も目を丸くした。
上着がはだけられ、シャツがむき出しになったヘルンさんの胸元には、素人の俺が見てもわかるメチャクチャ豪華なレースの飾り。
引き裂かれ、血に汚れてはいるが、芸術品と言えるレベルの作りなのがわかる。
え、ちょっと待って、これって・・・
「そうか・・・ワシの言葉は、届いていたのだな・・・」
「・・・何の話です。これは私のお気に入りのシャツなのですよ。それだけです」
寝転んだままぷい、と顔を背けるヘルンさん。
ふてくされた、あるいは照れくさがる子供のようにも見える。
そして気付いたイーサン氏の胸ポケット。
布地が透けて、中で何かが赤く点滅しているのがわかる。
確かあの中には・・・。
「まあなんだ。野暮はいいっこなしだぜ、ハヤト」
ニヤリと笑い、イーサン氏は肩をすくめた。