異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
「どうぞ」
「ありがと」
俺のお酌でコップに注がれる酒。
それをくい、とシルヴィアさんが飲み干す。
いつもの豪快な一気飲みではなく、静かな飲み方だ。
それに付き合って俺も盃を干す。まあこっちは麦を煎ったお茶・・・つまり麦茶だが。
シルヴィアさんはそれでも満足しているのか、無言で杯を干し続ける。
しばらく、器が触れる音だけがテントの中に響いた。
「ザナちゃんの気持ちもわかるんだよね。
こんなはずじゃない、あの子はいい子なんだ、って。
時間が経って色々変わっちまってるのに、自分の中では子供の頃の無邪気な弟のまま。
それに気付かずに・・・いや、目をそらしてたのかねえ。
あの子はいい子だから大丈夫って自分に言い聞かせて、話せばわかるはずだって何度も話しかけてもますます離れていくばかり。
すれ違ってることに、あたしだけが気付いてない」
俺は麦茶を飲みながら、無言で聞いている。
「いや、とっくに距離は離れちまってたんだ。手が届かないくらいに。
そして、ある日突然終わりが来た。
一座に走り込んできたひとが教えてくれてね。
雨が降ってたけど構わず走った」
「・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
互いに無言。
しばし間を置いて、シルヴィアさんが杯を干す。
「雨の中、ぬかるんだ穴ぼこだらけの道ばたでドッティは死んでた。
まぬけなツラで、口を開けてね。
腹にナイフが刺さって、水たまりが真っ赤だった。
頭がしびれたみたいになってね。何の感情も湧いてこない。
そのまま馬鹿みたいに立ちつくして、駆けつけてきた当時の一座のみんながあれこれ面倒見てくれて、葬式も埋葬も、ただぼうっと突っ立ってるだけだった。
あれよあれよという間に全部終わって、弟の荷物を片付けてるときにようやく実感が湧いたのさ。
ああ、あいつはこの荷物を取りに来ることも、使うことももうないんだってね。
そこでようやく感情のタガが外れたらしい。まあ、一生分は泣いたね。
・・・つまんない話だったろ?」
いいえ。
「・・・」
・・・。
「ふふ」
なんです?
「べーつーにー? まあ、アタシの下らない身の上話はそれとして。
ザナちゃんはひょっとしたらまだ間に合うかも知れない。
あんたも、手を貸しちゃくれないかい」
無言で俺は頷く。
「ありがと」
凄く優しい笑顔で微笑むシルヴィアさん。思わずドキッとした。
・・・え? ちょっと、シルヴィアさん?
彼女の体がこてんと倒れ、あぐらをかいていた俺の膝の上に頭が乗る。
すうすうと寝息。
・・・この人本気で寝ちゃってる。
どうしよう、これ。
結局俺は、膝の上で猫が昼寝を始めた怪奇小説家よろしく、ごはんだよと声がかかるまでそのまま固まっていたのだった。
「うおおおおお!」
「すごい!?」
今日も今日とて芸人人生。観客からの歓声と驚きの声が心地よい。
檜舞台に一度でも立ったら役者はやめられんというが、ちょっとわかる。
「師匠、ラファエルさんとゲティさんはどうなってます?」
三日前に師匠の《幻影変装》の術で顔を変えて鉱山に向かって以来、音沙汰がない二人。
こっちに戻ったらばれるだろってことで、鉱夫用の安宿に逗留している。
昔で言うドヤ街ってやつだ。「あさってのジョー」の世界やなあ。
「今のところは普通じゃな。
仕事を始めてからは鉱山主の用意した宿舎に寝泊まりしているらしいが、メシに闇酒がついて来るらしい。注意して口をつけてないらしいが、闇酒がタダで飲み放題というので、新しい鉱夫がどんどんやってくるそうな」
うーわー、クッソ怪しい。
それ麻薬中毒患者作る手法じゃないです? タダで沢山飲ませて後で買わせるみたいな。
「かもしれんのう。しかしパッと出てくるあたり、ニホンではそう言う事が良くあったのか」
まあ創作物やニュースで時々見る程度には。さすがにリアルで見た事はない。
「どこの世界でも人間というのは業が深いのう」
まったくで・・・闇酒の成分の方はどうだったんです?
アーベルさんが入手してきてくれたんでしょう?
「微量じゃが、確かにタチの悪い成分が入っておる。
短期的には気持ちよく酔えるじゃろうが、長く飲み続けると身体を壊すのは間違いないし、中毒症状も出てこような」
やっぱりかー。
下層階級には中毒性のある安い闇酒、中流以上には麻薬。
カオルくんが言ってたけど、真っ当なお酒売ってるところは価格破壊に太刀打ち出来ずにバタバタ潰れてるらしい。
独占禁止法だっけ? ダンピング禁止する法律なんてこの世界にはないからなあ。
商売敵があらかた潰れたところで値段釣り上げて売れば独占市場だ。
「恐らくはの。しかし気になるのは、入っているのが鉱物由来の成分ということじゃ」
・・・ひょっとしてここのドワーフの洞窟のどこかで秘密裏に採掘してる?
「あるいは」
案外、くだんの銀鉱とかで偽装して発掘してそうね。
「その感想は当たりかもしれんの」
えっ?
「混入している成分というのが銀の変化したものでな・・・」
ひょっとして「腐った銀」ってやつ? 銀を腐らせる妖精だか魔物だかの仕業って言う。
そう言ったらマジマジと見つめられた。美人ならともかく師匠にやられても嬉しくはないが。
「やかましい。
・・・ほんに小僧は、妙なことばかり知っておるのう」
オタクってのはそういうものです!
ともかく、腐った銀というのはいわゆるコバルトのことである。
青い絵の具の原料になったりするやつ。コバルトブルーのコバルトだ。
これコバルトって銀に似た金属で、それがしばしば有毒ガスを発生させるので、妖精や悪魔が銀を腐らせた結果なんだと言われてたそうだ。それがまさか本当に銀の腐った結果で、しかも麻薬の原料とは。うーんファンタジー。
ちなみに銀を腐らせる妖精がゲームの雑魚モンスターとしてお馴染みのコボルトである。
アメリカではトカゲ人間、日本では犬人間。ドイツの原典では単に醜いこびと。
伝承は色々変遷するものらしいが、現代にでもそう言う事があるんだなあ。
「こっちではコバルという悪魔の仕業と言われておるの。
鉱夫やドワーフの言い伝えでよく出てくる」
へー。まあ
アーベルさんの方はどうです?
「例のザナの弟を調べておる。昼間から飲み歩いて銀の粒を見せびらかし、銀山株のことを吹聴する・・・小僧の言ってた通り、サクラのたぐいじゃの」
黒幕がわかればいいんですけどね・・・座長のためにも。
「うん? シルヴィアが何かあったのか」
いえ、なんでも。
「・・・」
多分バレバレだったとは思うけど、師匠は何も言わなかった。
>膝の上で猫が昼寝を始めた怪奇小説家
クトゥルフ神話のラブクラフト先生。大の愛猫家。
上のような状況になったので、猫が自然に起きるまで数時間微動だにしなかったそうですw