異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
私の名前はウルヴァ・クスメ。
歌劇役者であり、ラゼルスの芸術の頂点たる、岩窟劇場の支配人でもある。
若い頃から歌劇役者一筋に芸を磨いては来たが、一時期は氏族の戦士隊に参加していたこともある。
野生化したゴブリンの群れが盛んにラザルスを襲撃していた頃のことだ。
私の役目は伝令だった。
とは言っても走って命令を伝えるわけではない。むしろ伝声管か拡声の魔道具のような使われ方をしていた。
歌劇役者として修行を積んでいた私の《声の加護》は遠くまで、濁らず、それどころかしばしば分厚い岩壁を抜けて声を伝えることが出来た。
これが入り組んだ洞窟での戦闘において、指揮統制にどれだけ有用かはわかるだろう。
戦士隊の時代、私は二重の意味で上官に恵まれた。
彼が私の声を使いこなすほど有能だったこと。
そして戦役が終わった後、退役して即評議員になるような名家の出だったことだ。
戦後、彼は私の有力な後援者になってくれた。
磨き上げた芸に自信こそあったが、何の後ろ盾もない私のような若手芸人にとってはこれがどれほどありがたかったか。
身分差があったから戦友の絆というのは少々僭越だが、少なくともあちらの方は屈託なく接してくれた。
彼がいてくれなければ役者としての出世は五年、岩窟劇場の支配人就任は十年は遅れただろう。
私の人生は万事順調だった。
そのはずだった。
歌劇の世界でトップに立った頃、私は既に麻薬に溺れていた。
トップに立ち続けるための努力。
それに伴う緊張感とストレスは並々ならぬものがあった。
若い頃はスターたちが麻薬に手を出して転落するのを見て、何と愚かな連中だろうと思ったものだが、自分が同じ場所に立ってみるとよくわかる。
こんな環境に耐えられるならば、そいつは間違いなく精神的超人だ。
それでも先人の轍を踏むわけにはいかなかった。
半生をかけてたどり着いた頂点だ。
そんな、下らないことで失うわけにはいかない。
我慢に我慢を重ねて、使用回数を減らした。
注意に注意を重ねて、発覚しないように隠れ潜んだ。
売人と会うときは念入りに変装し、自分以外の誰ともそれを共有しなかった。
そんな生活が三十年ほど続き、若きスターは押しも押されもしない大御所となっていた。
その頃、縁あって孤児をひとり引き取った。
名前はヴィレリ。ゴブリン戦役の時の戦友の一人娘だった。
彼女はヴィレリ・クスメとなり、私の家族になった。
孤児であり、成功した後も独身を通していた私の、戦友たち以外に初めて出来た家族と呼べる存在だった。
何と素晴らしかったことか!
涙がこぼれるほどに幸せだった。
欠けたものを、それまで知らずに失っていたものを彼女は埋め合わせてくれた。
麻薬をやめよう。
きっぱりと決意した。
この家族を、私の大切な宝を悲しませるわけにはいかない。
やめられなかった。
麻薬を断ち、調合や吸引の道具もすっぱり捨てて三ヶ月。
私は地獄の苦しみを味わっていた。
この上なく幸せなのは変わりなかったが、それでは足りなかったのだ。
私は再び麻薬に手を出した。
慎重に、細心に。絶対にバレないように。
それから更に二十数年が過ぎた。
小さな女の子だったヴィレリも成人し、火魔法の才能を発揮し、戦士隊で術師として活躍していた。
「花火師」という二つ名も得たそうで、父親としては誇らしい。
そして栄光の絶頂がやってきた。
岩窟劇場の支配人就任。
ラゼルス最高の芸術の殿堂は、最高の演者にしか任せられない。
歌手、俳優、話芸、音楽家・・・分野は違えども、一時代を築いたパフォーマーだけがその地位に就ける。
その支配人に私は就任したのだ。
その後押しをしてくれた親友、かつての上官で今は評議会の大物に、私は壇上で気取った一礼をした。
「・・・今何と?」
「岩窟劇場で麻薬を流す。その手伝いをしてくれと言ったんだ」
信じられない気持ちで私はそれを聞いていた。
親友だと思っていた男。
生死を共にして、その後も私を何くれと無く助けてくれた男。
それが目の前で笑っている。いつもと変わらない笑顔で。
「岩窟劇場はラゼルスの誇りだぞ! そこで・・・」
「なに、君だってやってるだろう? 支配人室は中々豪華だ。寝室で鍵をかけて、たっぷりとヤクを楽しめるぞ」
「!?」
思わず一歩後ずさる。
誰にも漏らしたことのない秘密だ。
娘にさえ気付かれてはいないはずだ。
かつての親友が手を上げる。
幕の後ろから出て来た男二人に私は目を見張った。
「お、お、おまえたちは・・・!」
「君がオリジナルでブレンドしていたものは実に品質が良い。
いや、本当に絶妙だ。名人芸と言ってもいい!
歌劇役者としてあれだけ才能に恵まれているのに、その上調合師としても!
まったく天は二物も三物も君に与えているな!」
こびた薄笑いで私を見上げるのは私の付き人。
もう三十年来の付き合いの相手だ。
そしてもう一人は・・・もう一人は・・・
「私は戦士になる前から麻薬をたしなんでいてね。
君にも是非それを共有して貰いたかったんだよ」
一片の悪意もない、透き通った笑顔。
その隣でにやついているのは、ああ、最後に会ったのは50年以上前だが間違いない。
初めて私に麻薬を売った男だった。
それから二重生活が始まった。
表の顔は大スターにして岩窟劇場の支配人。
栄誉ある仕事をそつなくこなし、時折休暇で帰って来る娘と絆を確かめる。
絵に描いたような成功者。
裏の顔は麻薬取引の下請けにして調合師。
あの男の言った通り、私の調合は上流階級の連中に大受けし、飛ぶように売れた。
反抗するには弱みを握られすぎていた。
私が麻薬常習者だと娘に伝える、それだけで私は破滅する。
既に副支配人にも奴の息がかかっている。
私の愛するドワーフの宝、岩窟劇場を守らなければならない。
せめて、せめてそれだけは。
それにしても気がかりなのは、最近時々記憶が途切れることだ。
麻薬の使用による副作用なのか・・・
「あ・・・か・・・」
評議員様が悶絶している。
「どうだったかな、私の新しいブレンドは。ブッ飛ぶだろぉぉぉぉ?」
くくく・・・ははは! はははははははあはははあはあーはははは!
なんて気持ちいい笑いだろう。
もう何十年ぶりだ、ここまでスカッと笑えたのは。
「あ・・・あ・・・」
「どうだ? 効くだろう。私の友達が教えてくれたレシピなんだ。
更にこれをこうして・・・こう!」
「あえっ」
眉間を指でつつき、魔力を流し込んでやる。
これも「友達」から貰った力だ。
「これでお前は私のしもべ・・・これからは私がボスだ。
いいな」
よだれを垂らしながら、私の最初の奴隷はコクコクと頷いた。
「私」が生まれたのはこの男を奴隷にする一年ほど前だった。
何がきっかけなのかは正直おぼろげだ。
「友達」に会ったことか、それとも一人の私――私の主人格の極度の緊張とストレスか。
その辺は恐らく卵とニワトリだろう。
ともかく「私」は生まれた。
これからは「私」こそがこの体の主。
富貴も栄華も、家族も「私」のものだ。
全て、全て、全て全て全てすべてすべてすべてすべて――!
主人格よ。
この忌まわしき世に私を産み落とした弱き者よ。
この私を生み出したことを後悔させてやる。
バットマン・ビギンズは2005年のアメコミ映画。
いわゆるダークナイト三部作の第一作。
ダークでシリアスなバットマンを描いた作品ですが、
余りに出来が良すぎて、アメコミ映画全般が暗くシリアスになるという副作用がありました。
スーパーマン暗くしてどうすんだよおめー!