異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第六話 野に屍をさらすとも

 白を基調とした、ゆったりした神官衣。

 ローブみたいなぞろっとした奴では無く、意外に動きやすそう。

 頭は後退してるおじさんだけど結構鍛えてて、カンフー映画の拳法家に見えなくもない。

 左手は鉄の義手。穏やかそうな感じだが、やはり武神(ハマン)の神官と言うことなのだろうか。

 ジャーン、ともう一度銅鑼が鳴り、広場が沈黙する。

 

「純粋な闘争に身を捧げる気高き戦士達よ! 今宵もまた見事な戦いであった!

 武神(ハマン)も君らを(よみ)したもうであろう!

 しかし今日はこれまで! 重傷を負ったものがいるならば声を上げよ! 治癒術師を向かわせる!」

 

 司祭さんの呼びかけに応じて、あちこちから声が上がる。

 後ろから神官らしき人たちが出て来て、声の上がったところに向かっていった。

 

「うーん、怪我は治すんだ」

「重傷の方だけですけどね。

 別に私も人が死ぬのを見たいわけではないので」

 

 何でもあの治癒術師たちの何人かはお姫様がポケットマネーで雇ってるらしい。

 一応そこは考えてるんだ、よかった。レヴィータ様も俺が考えてるほど怖い人ではなかったのかもしれない。

 

「勝者の方が拒否すればそれは控えますが、今のところそうした事をおっしゃる方はいらっしゃらないようで」

 

 負けた方がこのまま死にたいとか言ったりしないの?

 

「敗者の命は勝者のものですわ。その上で死にたいなら、回復して貰った後で勝手に死ねばよろしいのでは?」

 

 前言撤回、やっぱりこの人怖いわ。

 まあ筋は通ってるけどさあ!

 でも古代ローマとかだと剣闘士を生かすかどうかは観客や主催者が決めてたけど、ここでは違うのね。

 そう言ったらお姫様がくすりと笑った。

 

「当然です。それは見せ物の剣闘士の話でしょう? 彼らは観客のために戦うわけでも、お金を貰って戦ってるわけでもありませんもの。

 司祭様がおっしゃっていたように、彼らはただ戦う為だけに戦っているのです。

 ある意味ではこの世の何よりも純粋な闘争者と言えるでしょう」

 

 手を組み、殴り合いや斬り合いをしてる物好き達にうっとりと視線を向けるお姫様。

 うーん変わった人だ。男かそこそこ程度の貴族に生まれてたら、冒険者か武者修行の騎士になってたかもしれん。

 

「ああ、それもいいですわね。

 国と民に責任を負う身でなければ、何もかも捨ててそうしていたかもしれません。

 剣一本に我が身を託し、敗れて野ざらしの屍になる・・・素晴らしいことですね」

 

 スカーフで見えないが、にっこりと笑うお姫様。

 こう言うのを大輪のバラのような笑顔というのだと思うが、言ってる内容が物騒すぎる。

 

「夢を追って果てるのであれば、それは素晴らしいことではありませんか?

 世の中には夢を追いかける余裕すらない方も多いのです。

 自らの夢の結果であれば、誰に文句を言う筋合いでもないはずですよ」

 

 うんまあそれもそうなんだが・・・いかんな、納得してしまいそうになる。

 価値観のギャップって奴かなあ、これは。

 俺は日本人だから、そのへんどうしても理解の及ばないところはあるし。

 

「気にするな。お前も姫君も一般的な価値観の持ち主ではない」

 

 ガイガーさんアザーッス。

 いや褒められてはいないんだろうけど。

 

「あら、おっしゃいますわね」

「お気に障りましたならばご容赦頂きたく、姫」

 

 さすがにお姫様には普通に丁寧に接するガイガーさんである。

 こんなしゃべり方するこの人初めて見た。と言うか結構礼儀作法もしっかりしてるなこの人。アルテの実家では執事に変装して潜り込めてたんだから、そりゃそうか。

 お姫様がころころと笑う。良く笑う人だ。

 

「気にはしてませんわ。それよりも私のことはレヴィータとお呼び下さいまし。それで・・・」

 

 震動がお姫様の言葉を中断させた。

 なんだ!?

 

「なんだ? なんだ?」

「あっ、あそこだ!」

 

 ざわめく決闘者達。

 誰かが指さした方向に、みんなが一斉に向き直る。そして絶句した。

 

『GWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW』

 

 唸るような咆哮が、ビリビリと夜の空気を震わせた。

 神殿の丘の向こう、湖の中央方面が大きく、それこそ丘や神殿よりも高く盛上がる。

 中から現れたのは体長五十メートルを越える巨魚。「魚のほら話(ビッグ・フィッシュ)」の中で見た神の白鯨、マルトン・ケッシュと同じくらいにでかい。

 巨大な目、太い唇、どこからどう見ても魚だが、歩いているような動きでこちらに近づいてくる。

 肺魚やシーラカンスのように、ヒレが足のように発達しているのかも知れない。

 

「ハヤト」

 

 ガイガーさんの目配せに俺は頷く。

 

「全員避難せよ! レヴィータ様をお守りたてまつらせるのだ!」

 

 咆哮にかき消されそうになりながらも司祭さんの声が響く。

 

「お聞きになりましたわね?! ガイガーさまとハヤトさまも一緒に・・・え」

 

 お姫様が振り向いたとき、ガイガーさんの背中は既に遠くなっており、俺は姿を消していた。

 

 

 

「逃げろ!」

「パニクるな!」

「42!」

 

 国内外から集まった猛者たちだろうと、町で喧嘩する素人だろうと、体長50mの怪物の前には等しく塵芥(ちりあくた)

 ただ逃げるしかない。

 船着き場に向けて動く人の波。

 その流れに逆らい、ガイガーが行く。

 恐怖を顔に浮かべて逃げる人々。悠然と歩むガイガー。

 

 やがて黒山の人だかりがゆっくりと二つに割れていく。

 さながら海を割るモーゼの如く、一歩一歩ガイガーは進む。

 誰もが逃げるしかない、大怪魚に向かって。

 

 信じられないものを見る目。

 狂人を見る目。

 「もしかしたら」という期待の目。

 

 ガイガーが砂浜で歩みを止めた。

 大怪魚もまた。

 

 静寂。

 先ほどまで響き渡っていた怪魚の咆哮と逃げ惑う人々の悲鳴と足音は既にない。

 怪獣映画のワンシーンのようだった島が、今は静寂に満ちている。

 

 静かに雪が降り始めた。

 上陸せんとする50mの大怪魚。

 砂浜で立ちはだかる剣士。

 それを遠巻きにする決闘者達。

 

 怪魚がガイガーを見る。ガイガーが見返す。

 ガイガーは動かない。怪魚も。

 両者の上に雪が落ち、溶けていく。

 

「!」

 

 剣士が僅かに腰を落とし、腰の剣に手をやった。

 怪魚も姿勢を低くした。

 

 馬鹿な。

 武芸と関係ない一般人たちはそう思った。

 

 まさか。

 腕に覚えのある者達は目を疑った。

 

 あの男ならあるいは。

 達人と呼ばれる領域に足を踏み入れつつある僅かなものたちは、子供のように目を輝かせた。

 

 静止。

 ちらつく雪の中、剣士も、怪魚も、一幅の絵画であるかのように微動だにしない。

 身長2mの人間が、50mの大怪魚を単身押しとどめている絵。

 さながら全長1kmに達する原初の魔獣達を討った伝説のサムライの如き姿。

 

 突如その均衡が破れた。

 目にも止まらぬ速度で剣士が抜刀する。

 怪魚が前ヒレ立ちになり、剣士を踏みつぶそうとする。

 

 何が起きるのか。

 

 跳躍しての切り込みか。

 

 刺突か。

 

 振り下ろされる前ヒレを待ち受けて切り裂くのか。

 

 あるいは伝説のサムライのように海を割るのか。

 

 全ての期待の視線が注がれる中、横から現れた鉄の巨人がドロップキックで大怪魚を吹き飛ばした。




武神(ハマン)の神官の使う魔法は強化系や虫の操作などが主ですが、応急処置や血止め程度の初歩の治癒魔法なら使えます。
前作のヒョウエ君が使ってたやつですね。
もちろんMPと術力がまるで違うので回復量は圧倒的な差がありますが。
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