異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
第二十四話 刃の上を走る者たち
「戦って、戦って…それでもかなわぬ時は、マジンガーZと一緒に死ぬだけです!!」
――「マジンガーZ対暗黒大将軍」――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
王都からの通信文を読んだ後、カオル・タチバナはかなり長い間自室に籠もっていた。
数時間ほど経って、夕食間近になってからお付きの軍曹を呼ぶ。
「なんでしょう、勇者様?」
「デッカード軍曹。明日から兵士達を一人ずつ、普段着で例のハスキー一座の公演に潜り込ませてくれないかな。午前と午後で別の人にして、毎日別の人間を送り込むんだ。
その後僕に直接報告に来て欲しい。何でもいい、ちょっとしたことでも」
「・・・」
少し考えてから軍曹が顔を上げる。
「勇者様は、あの一座に国王陛下暗殺犯が潜んでいると?」
「わからない」
カオルは正直に答える。だがその上で、あの一座には何かがあると。普通の旅芸人一座ではないと、それだけは確信する。
「わかりました。丁度良い息抜きにもなるでしょう。ローテーションを組んで午前午後に一人ずつ行かせます」
「よろしく頼むよ。ああ、悪いけどユリシーズ卿と君は除外で。あちらに顔を覚えられてるだろうからね」
副隊長の騎士の名前を挙げてカオルが肩をすくめる。
まじめな顔で頷いた軍曹が、かはっ、と破顔した。
「しかし残念ですなあ。実は私もちょっと見てみたかったんですが。あの一座の公演、中々評判が良いんですよ」
「何もないとわかればその時は堂々と見に行けるさ」
おどける軍曹に、カオルも笑みを浮かべて見せた。
「いやー、今日も盛況ですねえ」
幕間からちらりと覗き込むと、舞台の前に作ったスペースには今日も満員御礼、ぎっしりと隙間もないほどに人が詰まっていた。
はじめは戸惑っていたものだが、《加護》の力とは言えお客さんに喜んで貰うのは悪い気分じゃない。ここ二月ほどで、俺はすっかりお客さんを楽しませるエンターテイナーの喜びに目覚めつつあった。
「そうとも。だからあたし達は芸人やってるのさ」
出番を終えて引っ込んできた座長が俺の肩をぽんと叩く。
「さ、行って来な!
「はい!」
勢いよく返事をして、俺は助手のアルテとリタとともに、舞台に歩み出た。
万雷の拍手。
全ての手品を終えて、一礼した俺達三人への何よりの褒賞。
時々下品なヤジや口笛も飛んでくるが、まあ俺の事ではないので・・・
「ヒューヒュー!」
「ホッチョ・ペッパーちゃーん!」
「今晩俺とどーうー!?」
・・・そう言えば今の俺は外見女だった。忘れてた。
結構上品なお客さんが多かったのか、今までそう言うヤジ受けてなかったからなあ。
「アルテちゃんおっぱーい!」
「リタちゃんかわいーっ!」
「ホッ、ホッ、ホッチョちゃーん!」
「ほっちゃんホアーッ!」
何か聞き覚えのある叫び声が・・・これも
後リタちゃんにヤジ飛ばしてた奴早く逃げろ! ガイガーさんが剣の鍔鳴らしてるから!
「・・・フィルが帰ってこない?」
「はい」
そんな会話が交わされたのは翌日の、もうすぐ日も落ちようかというころだった。
軍曹の深刻な表情に、王都への報告書を書いていたカオルのペンが止まる。
「昨日、ガフが帰ってきたときはもっと早くに報告を受けたよね」
「はい。確認に人をやりましたが、ハスキー一座の今日の公演はとっくに終わっています」
「・・・ユリシーズ卿と話をしに行こう。フィルを探すんだ」
「はい」
ペンを筆立てに置き、カオルが立ち上がった。
兵士の遺体が見つかったのはかなり遅く、普通ならとっくに就寝している時間になってからだった。
「フィルは側溝の中に倒れておりました。切り口は背中から一太刀。かなりの手練れです」
「そうか・・・」
端整な顔立ちに黒い髪を整えた30絡みの紳士的な軍人、ユリシーズ男爵。
ランプの明かりの中、その報告にカオルが瞑目する。
件の兵士と話したことはほとんどないが、実直そうな男だった。
「荷馬を一頭用意してください。報告書を届けるついでに彼を王都に送り返します」
「わかりました、勇者殿」
男爵の表情は甘いな、と言いたげではあったが口には出さなかった。
「それで・・・例の一座についてはいかが致しましょう。
一度全員捕縛して取り調べるべきでは」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長いことカオルは無言だった。
ユリシーズ男爵が、デッカード軍曹が、その他の兵士達がじっと、この異世界から召喚された勇者を見ている。
五分か、十分か、それよりもっと長くか。
カオルが絞り出すように言葉を発する。
「わかった。全員僕に続け。これよりハスキー一座を事情聴取する! 抵抗するならば力づくで捕縛するが、可能な限り殺すな!」
「はっ!」
命令一下、兵士達が動き出す。
カオルとユリシーズが馬にまたがり、武装した兵士達がたいまつを手に、隊伍を組んで早足で深夜の町を進む。
深夜の見回りをする警邏がぎょっとしたように身を引くが、それには目もくれず一団は町外れに向かう。
そしてハスキー一座の野営地。
「どういう事だ、これは!」
「わ、わかりません! 夕方には間違いなく全員いました!」
「・・・」
叫ぶユリシーズ。動揺しつつも返答する下士官。
呆然とするカオル。
風になびく旗、色とりどりのテント、「ようこそハスキー一座へ」という垂れ幕。
だがどのテントにも誰もいない。
野営地は、もぬけの空だった。