異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第四十三話 レヴィータ/ビトレイアル

 ずっと退屈だった。

 ずっと、ずっと、ずっと、退屈だった。

 

 名前を呼ばれたら上品にお返事。

 かしこく、行儀良く、誰からも愛される姫君。

 

 争う事はなく、家臣や平民を虐げることもなく、

 誰とでも仲良くして、自らが犠牲を払うこともいとわない。

 

 歌劇や低俗な読み物にうつつを抜かすこともなく。

 自ら進んで勉学や礼法の稽古に励む。

 

 気まぐれを起こすこともなく。侍女をいじめることもなく。

 義務を果たし、父王に忠実に仕える。

 

 万民に愛される理想の姫君。

 国民がその名を連呼する。

 レヴィータ! レヴィータ!

 なんて素敵なレヴィータ!

 女王に即位された暁には、さぞかしご立派な統治者におなりあそばすでしょう!

 

 くそくらえだ。

 

 その気になればみんなの鼻つまみ者、おちこぼれの姫君になることだってできただろう。

 悪い仲間とつるみ、家臣達に連れ戻されてはまた抜け出して悪所に通う。

 そういう生き方だって出来たはずだ。

 

 だが出来なかった。

 私は一粒種でしかも父王は老齢、次の子供は絶望的だ。

 王位継承権のある公爵は私腹を肥やす事しか考えていないクソ野郎。

 その子供達も父親を縮小再生産したようなクズばかり。

 宰相も家柄だけでその地位に着いたような男で、まあ公爵一家よりはマシ程度。

 私がしっかりしなければ、この国はろくでもないことになるのは目に見えていた。

 

 

 

 仲の良い侍女がいた。

 身分は低かったが、快活で好感の持てる子だった。

 色々な話をしてくれた。

 下町での暮らしぶり。

 市場で貰ってきたクズ野菜で作ったスープ。

 七人の兄弟と共に一つのベッドで眠る暮らし。

 大道芸人の芸に夢中になる一瞬。

 泥だらけになって原っぱを駆け巡る。

 彼女の語ることの全てが、当時の私にとっては宝石のようにきらきらしていた。

 

 彼女は突然いなくなった。

 私に城の外のことを色々教えてくれたのがまずかったのだろうと、後で気付いた。

 当時はそんなことはわからなかったから、ひたすらに泣いてわめいてだだをこねた。

 いつも大人しくて物わかりのいい私が荒れていたので、乳母たちがおろおろしていた記憶がある。

 

 数年後、彼女の実家をこっそり訪ねて話を聞いてみた。

 あれから間もなく死んでいたことを聞いて、全身の力が抜けたのを覚えている。

 王宮から暇を出されて嘆いていたところに公爵家が召し抱えてくれて喜んだのもつかの間、一年ほどして棺に入って戻ってきたそうだ。

 遺体を清めるために棺を開けたところ、ひどい傷が全身にあったらしい。

 はっきりとは言わなかったが、陵辱された痕もあったと。

 まだその時は十か十一程度だったのに。

 

 公爵家はこの国で最大の貴族だ。縁故も多く、政治力も軍事力も高い。

 父王ですら滅多な事では手が出せない。

 考えた末に、自分の親衛隊に人を集め始めた。

 腕の立つ冒険者。王家に忠誠を誓う騎士家の三男坊。軍の特殊部隊を引退した腕利き。

 処刑と引き替えに引き込んだ盗賊ギルドの構成員もいれば、犯罪を犯して処刑されたはずの術師すらいた。

 

 そうした人材を駆使して、それでわかったのは、概ね想像通りの事実。

 公爵家の長男があの子を・・・私の友達を、もてあそんで殺した。

 明らかな犯罪であっても、庶民が公爵家に何かを言えるわけがない。

 そんな風に公爵家に殺され、傷つけられた者は他にもいた。

 何が起きたか誰でも知っている。しかし、誰も止められない。

 

 だが、私にも何が出来るわけでもなかった。

 親衛隊の面々を使えば、公爵を暗殺することくらいは出来ただろう。

 しかしそれでも公爵家は国政の柱だった。下手に排除すれば間違いなく混乱する。

 

 私は、より深く仮面をかぶることにした。

 貴族にも庶民にも笑顔を向け、誰からも嫌われないように。

 周りの人間の言う事には逆らわず、彼らの都合の良い王女を演じた。

 そうして従順な小娘を装っていると、いくらでも情報は入ってきた。

 脳みその足りない馬鹿な女の前では、誰だって口が軽くなる。

 

 庶民の困窮。

 一部の貴族の横暴。

 犯罪の横行。

 不当な既得権益。

 

 出来る限りの事はしたと思う。

 炊き出しなどの慈善事業。

 父王に頼んで、道路整備などの公共事業で雇用の創出。

 警邏の強化。

 貴族の横暴を止められるような法の制定。

 庶民にも教育が受けられるよう、読み書きそろばんを教える寺子屋を国費で増やした。

 

 だがダメだった。

 炊き出しはどうしても量が足りず、公共事業は中抜きされた。

 警邏の予算も汚職で浪費され、法律は骨抜きにされた。

 寺子屋で読み書きそろばんを教えることは出来ても、庶民の生活向上には大して役には立たなかった。

 私の中で、静かに何かが壊れていく。

 

 そんな時、妙な事が流行り始めた。

 町での喧嘩が増えたというのだ。

 最初はただ単に治安が悪くなっただけかと思ったがそうではない。

 ただ、殴り合うために。損得もなく、純粋に戦いたいがために戦う。

 少し心が跳ねた。

 

 気付けば、そうした彼らのために色々な手助けをしていた。

 ルールの制定。武神(ハマン)の島の場所提供への口利き。

 負傷者の治療。警邏への手回し。

 やがてそうした人々は「決闘クラブ」と呼ばれるようになった。

 

 彼らの中でも腕の立つ人間は私の第二の親衛隊のようになり、色々と働いてくれるようにもなった。

 情報を集めたり、警邏のちょっとした不正を暴いてくれたり。

 ひょっとしたらこのまま、少しずつうまく行くのではないか。

 そう考えていたところに彼は現れた。

 

 見事な手品を見せる、オリジナル冒険者族という触れ込みの若い奇術師。

 二人の少女に挟まれてやに下がるようなだらしない少年かと思えば、相応の強者を一瞬で無力化する腕利きでもあった。

 とくん、と心臓が高鳴る。

 だがその時は無視出来るほどのものだった。その時はまだ。

 

 そして武神の島での衝撃。

 確かに腕は立つものの、一座の達人に比べれば従者程度にしか見えなかった彼が、体長50mの大怪魚に真っ向から立ち向かい、屠って見せた。

 

 それだけの力を持ちながら、何物にもとらわれず、自由に、自然体で生きる彼。

 その時にはもう、振り払えないほど強い力で心をわしづかみにされていた。

 心臓が高鳴る程度の話ではない。

 全ての鼓動があの人のために鳴っているかのような、そんな状態。

 そこから先はもう、一直線だった。

 

 彼を四六時中監視し、これまでの町でのあらゆる情報を手に入る限り集めた。

 断片的だが、結果は想像を遥かに上回るものだった。

 ロンド王国での政変。

 ヘレンズの町で『魔王の峰』の噴火を止めた光の巨人。

 イレマーレのダンジョン踏破と巨神の討伐。

 トリッチ王国のライサムで領主の館を破壊した黒い巨人と、それを倒した鋼鉄の巨人。

 同じくレミンジャー公爵家のお家騒動と、ほぼ同時に起こった「王に叛くもの(アンティゴネー)」の壊滅。

 ああ。ああ。ああ・・・・・・!

 私の中で何かが完全にはじけた。

 

 何もかもぶち壊してしまえ。

 このどうしようもない世界全てを。

 私の今まで積み上げてきたもの全てを。

 

 もう、あなた以外なにもいらない。

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