異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第十二話 糖蜜のような女たち

「あまーい!」

「きゅぴー!」

 

 翌日の昼下がり、馬車の中。

 新鮮な卵と牛乳、そして大量の砂糖を入れた卵焼きにリタとチュパくんが頬をゆるめる。

 町に着いたばかりで今日は興行がなく、設営やら何やらを終えてアルテが作ったおやつをみんなでつつく至福の一時。

 俺達若者組は、大人組と分かれて馬車の中だ。

 

「本当に凄く甘いね。砂糖がそんな安かったの?」

「きゅぴぴー?」

 

 首をかしげるリタ。真似して首をかしげるチュパくん。

 くそう、かわいいなあ!

 

「砂糖じゃなくて、えーと・・・」

「糖蜜。砂糖を絞った残りカスなんだけど、まだ結構甘さが残っててね。砂糖の代わりとして良く使われるんだよ。固めて黒砂糖にしたり、発酵させてお酒にしたりするね」

 

 あー、ラム酒や味の元なんかの原料になるヤツ?

 

「それそれ。多分この町でもラム酒とか出してると思うよ。

 おじいちゃんが糖蜜の焼酎とか好きだったんだ」

 

 へー。さすがカオルくんは普通に博識である。

 そこ、お前は知識が偏りすぎとか言うな。まあ確かに俺の知識の元は漫画とアニメだけど。

 

「この卵焼き黒いよね。焦がしちゃったの?」

「糖蜜って黒いんだよ」

「沢山入れたからねー」

「きゅぴぴ」

 

 みんな楽しそうに笑ってる。

 

「あー、いっぺんお腹が破裂するくらい糖蜜飲んでみたい」

「甘すぎて頭がおかしくなるのが先じゃないかな?」

「糖蜜の海でなら溺れてもいいよ!」

「ぴぴっ!」

 

 そんな風に和気藹々と、俺達の午後は過ぎていった。

 

 

 

「うむ、甘い。やはりノストボの菓子は最高だ。ヌスタァダムの次にな」

 

 くっちゃくっちゃと、下品な音を出しながら菓子を咀嚼する。

 蜜を乗せたクッキー、オレンジのパイ、バウムクーヘンのような焼き菓子、シュークリームやショートケーキ、イチゴ大福と言ったオリジナル冒険者族の伝えた菓子。

 テーブルの上に並ぶ多種多様な菓子、いずれもが舌が馬鹿になるほど大量の砂糖を入れた特別製。それを次々と口に入れ咀嚼するのは太った中年男。服は上等だが、着こなしはだらしない。ハヤトやカオルが見れば、どことなくマフィアっぽいと言ったかもしれない。

 

「それで、例のクリーチャーの居所は分かったのか?」

「この町にいることは確かなようです、ピュリティ様。『犬』が嗅ぎつけました」

 

 答えたのは、直立不動で控えていた男たちの一人。

 こちらは従者のお仕着せを一分の隙もなく着こなしている。

 

「ちっ」

 

 舌打ち。

 

「俺の楽しみを邪魔しやがって。特注の菓子が後三日で届いたんだぞ・・・なんだこれは!」

 

 ぺっ、と口の中のものを吐き出す男。

 床に転がったのは黒い塊。

 

「糖蜜混じりのゴミなんざ持ってくるんじゃねえ!

 誰だ、用意したのは!」

「宿のものかと存じますが」

「責任者を呼べ!」

「はっ」

 

 従者に呼ばれて、すぐに五十がらみの料理長がやってきた。

 

「菓子を整えております料理長でございます。いかがなされましたでしょうか」

「これはなんだ!」

 

 鼻息の荒い男にも、料理長は冷静さを崩さない。

 

「はい、黒糖を使いましたシフォンケーキでございます。

 バラエティのあるラインナップというご注文・・・がっ?!」

 

 中年男がステッキで料理長を殴った。

 

「このっ! 馬鹿がっ! 最上級の! 部屋に! 泊まってるんだ! 混じりっけなしの! 最上級の! 菓子を! 持ってくるのが! 当然だろうがっ!」

 

 殴打音が響く。

 この世界でも上等な砂糖と言えば、原材料を精製した白砂糖だ。和三盆に似た上品な甘さのものもある。

 確かに黒砂糖や糖蜜は一段劣る甘味とみなされてはいたが、それでも調理次第で上流階級に出して恥ずかしいものでもないし、料理長が自信を持つほどの菓子には違いない。中年男の激昂はいささか異常と言えた。

 

「ふう・・・はあ・・・」

 

 暴行を終えて息を整える中年男。料理長は気絶したのか、うずくまって身動きしない。

 

「そいつを捨ててこい。それと菓子の追加だ」

「はっ」

「全く使えない連中ばかりだ・・・」

 

 椅子に座って愚痴をこぼす中年男。料理長を引きずっていくものも含め、従者たちは無言のまま。

 

「クリーチャーはとっとと探し出せ。多少手荒くても構わんが、貴重なサンプルだ。

 大きな傷はつけるなよ」

「はっ」

 

 従者たちが一斉に一礼した。

 

 

 

「ごちそうさまでしたー」

「ごちそうさまー」

「洗い物当番誰だっけ?」

「あ、アーベルだよ」

「オブライアンとハヤトはいいよなー。水くんでこなくていいんだから」

「いつもオブやハヤトの作った水飲んでるんだから文句言わないの」

「へいへい」

 

 ぶつくさ言うアーベルさんに笑いながらオブライアンさんがお皿を運んでいく。

 

「あ、おとうさん、私お兄ちゃんたちと一緒に馬車にいるね」

「ああ」

 

 続けてガイガーさんが立ち上がり、自分のテントに向かおうとして、その背中がぐらりとよろけた。

 

「!?」

「おとう・・・」

 

 倒れ込むガイガーさんに続いて、リタも倒れる。

 

「リタ!」

 

 咄嗟にミストヴォルグの力を呼び出し、倒れかかったリタを抱えて周囲を見渡す。

 だが諜報ロボの高感度センサーにも、それらしき存在はひっかからない。

 

「嘘だろ、あたしがこんな・・・」

「ぬっ・・・」

「ぐぐ・・・」

 

 がらんがらんと音がしてオブライアンさんも倒れるのが見えた。

 立っているのは師匠と俺のみ。

 シルヴィアさん、アーベルさん、ラファエルさんは意識はあるようだが動けない。

 他の面子は完全に目を回している。

 

「なんですぞ・・・これは・・・強烈な酒を飲んだ時のような・・・」

「そんな・・・感じだな・・・」

 

 師匠? これは一体!

 

「精神攻撃に近いものじゃな。擬似的に酩酊させて動きを奪う、そう言う術じゃ」

 

 あ、じゃあ俺が平気なのは。

 

「咄嗟に『ろぼっと』になったからじゃろうな。しかしこれほど強烈なものは・・・」

 

 師匠が片眉を上げる。

 なんだろう?

 

「・・・小僧。こいつらはわしが見ておくから、お主らの馬車に行ってこい」

 

 ? わかりました。

 リタを師匠に預けると、俺は用心深く馬車に近づく。

 馬車の中を覗き込むと、そこには蓋の開いたシルヴィアさんの酒瓶と、顔を真っ赤にして大の字に転がるチュパくんの姿があった。

 

 

 

 取りあえずチュパくんを馬車下に隠し、師匠に耳打ち。全員に精神障壁の術をかけた後、回復しないリタとガイガーさんをテントに放り込んで情報共有。

 

「で、どゆこと?」

「シルヴィアが忘れていった酒を飲んでチビ助が泥酔。その精神状態にわしら全員が感応したと言う事じゃ」

「つまりシルヴィアが悪いのね」

「子供に酒を飲ませるのはさすがにどうでしょう」

 

 アルテとカオルくんが飲んだくれを睨む。

 

「そ、そんな事言ったって! 飲む方が悪いだろう?!」

 

 子供の手の届く所に酒瓶放り出すのはどうかと思いますよ。

 

「ぐぬぬぬ」

 

 しかし、凄い力だな。酒に極端に弱いガイガーさんはともかく、緑等級で酒にも強いシルヴィアさんやアーベルさんも無力化出来るとか。

 

「わしは普段から精神障壁を張っておるから無効化出来たが、それでも一瞬くらっと来たからのう。使いようによっては軍隊でも無力化できるやもしれん」

 

 じゃあ彼が「痛いこと」をされていたのは・・・

 

「その力目当て、と言うことになろうな」

 

 しばらく、その場を暗い雰囲気が覆った。




>糖蜜
厳密には廃糖蜜と呼ばれるもの。
サトウキビから砂糖を取る時にはかなり大量に出るが、テンサイからだとほとんど出ないそうな。
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