異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
川分さんの姿が闇の中に消える。
ミストヴォルグセンサーでも気配が捉えられなくなったところで視線を向けると、ガイガーさんも僅かに頷いた。
そのことをみんなに伝えると、一斉に溜息が漏れた。
「・・・寿命が縮んだよ」
「まったくだ。まさか伝説の魔剣持ちでもないのに旦那と互角がいるなんて・・・この世は広いぜ」
疲れた顔で愚痴ってるのがシルヴィアさんとアーベルさん。
タフを絵に描いたようなこの二人をしてこの反応である。
後は推して知るべしだ。
「・・・あの人悪い人だったの?」
一瞬みんなが黙り込んだ。
チュパくんを抱えながらのリタの問い。
「きゅー?」
「うん。とても悪い人には見えなかった。でもあの人の仲間が、チュパくんにひどい事をしたんだよね?」
そう・・・なるな。あの人本人は「いいひと」の部類に入るんじゃないかと俺も思うけど、チュパくんへの実験とか召喚とか、チュパくんの同族の死体を改造してたとか、そう言うのを消極的にでも見過ごしてたのは確かだ。
「川分先生は剣道の先生で、保護司・・・悪い事をしちゃった子供や、そうなりそうな子供の面倒を見る仕事もしてたんだ」
カオルくんに視線が集まる。
「それは・・・この前のガキの方のリーヴィルみたいな?」
「はい。まさにそんな感じです」
「ニホンでもそう言う子供はいるんだねえ・・・」
悲しいながら、豊かになっても社会や家庭からつまはじきになる子供はいるもので・・・。
そういうと、カオルくんも溜息をついた。
「そうだね。先生も頑張ってはいたけど、余り上手くいってはいなかったみたい。
先生が亡くなった・・・亡くなった事になった後に聞いたけど、事故の直前にはかなり悩んでたって。ひどい車の事故で遺体が判別できない状態だったんだけど、ひょっとしたら自殺だったんじゃないかって言う人もいたんだ」
・・・。
この世界での行動もその反動なのかな。
「かもしれない。でも、だとしても、放ってはおけない」
「お師匠と戦うことになるぞ。よいのじゃな」
ペトロワ師匠の確認に、カオルくんは無言で頷いた。
メリゴアの首都ヌスタァダム。
その手前、数日の距離にある都市がアルボルチ。
チュパくんを守り、元の世界に戻すために俺達は一刻も早くヌスタァダム近郊の遺跡に行かなくてはならない。
・・・が、俺達も人間であり、食わなければ生きていけない。
ここでも最低数日間の興行を行って旅費を稼がねばならんのだ。
『経営は安定させる』『チュパくんも守る』
『両方』やらなくちゃあならないってのが芸人の辛いところだな。
覚悟はいいか? 俺はできてる。
「困った事になったよ。ここでの興行は断るって言われたんだ」
覚悟がいきなり折れた!
どういうことです!
「それがね・・・」
珍しく弱り果てた様子のシルヴィアさん。
例によってラファエルさんをお供に、興行の許可を貰いにアルボルチの元締めのところに行ったのだが・・・きっぱりと断られたらしい。
「どういう事だ? あの爺さんの組織が圧力でもかけてきたのか?」
「理由は言わなかったけど、どうも他の一座も興行を認められてないみたいなんだよ。
あんたらもその辺にたむろしてる連中を見たろう?」
確かに!
他の町と同じく、このアルボルチでも芸を演じる場所は大体決まっていて、ここに来るまででもそう言う一座の馬車やテントが目に入ったのだが、どこも客が入ってないどころか、そもそも公演をしてる気配がなかった。
準備中にしてもおかしいなと思っていたが・・・
「今まで公演してた一座も興行を禁止されてね。
あさって、そうした一座の代表が全部集められて話があるらしい。
取りあえずそれまでは様子見に回るしかないねえ」
うーむ・・・取りあえず準備だけはしておきます?
「ああ。後から来た奴に場所かっさらわれても困るしね。
今のうちに興行の準備だけはしておいておくれ」
うへーい。
「うおおおおおお、分身殺法! バァァァニング! シャドウッ!」
例によっての分身殺法バーニングシャドウ。
ヴィエンヌで初披露して以来、テントや幕張りは俺の仕事である。
みんなでやるより俺ひとりでやる方が早いし、鍛錬も兼ねているので一石二鳥。
「ジェッタードリル穴掘り! ジェッターアーム綱張り! ジェッター柱立て! ジェッターテントペグ打ち込み! ジェッター幕張り!」
二十分で完成する公演準備。
後は舞台裏の細々とした準備だけ、むろん力仕事を一人で終えた俺は免除である。
楽ではあるが、相応に魔力を消費するので、ヴィラン・コア持ちの俺であってもめがっさキツイ。
差し引きでお得かどうかは難しい所だ。
「はい、お兄ちゃんお疲れさま。お茶だよ」
お、ありがと。ああ、冷えた体にリタの熱い茶が染みる。
それから一時間後、衣裳の準備とか小道具の用意とかそうした作業を終わらせて、俺達は幻影変装を施して貰ったチュパくんと共に町に繰り出したのであった。
不用心というなかれ、師匠には監視して貰ってるし、どのみち酩酊攻撃を喰らったらガイガーさんが無力化されるし、この面子なら大概の状況に対応出来る。
実際俺のミストヴォルグセンサー、カオルくんの知覚魔剣「
そこまでして外に出なくてもええやんという話もあるだろうが、ここのところストレスの溜まる展開ばかりでリタやチュパくんが限界なのだ。
そうでなかったら、さすがにシルヴィアさんや師匠が承知しない。
「どーせ私は力だけの馬鹿の一つ覚えですよーだ・・・」
ほらほらそこのアルテさん、いじけないで。
君にはまだ料理があるじゃないか――!
「むー。なぐさめ方がワンパターン」
あいすまんこってす(平謝り)。
まあそれはそれで多少機嫌が直ってくれたのでよしとする。
それにリタとチュパくんが笑顔を浮かべて楽しんでくれているので、アルテも和まざるを得まい。
「ほら、チュパくん噴水!」
「きゅぴぴぴぴ?!」
人魚の掲げる壺から水が噴き出す、金銅の噴水。
結構綺麗なもので、ヨーロッパの観光名所にあってもおかしくなさそう。
「次、あれ! あの屋台の揚げ物食べたい!」
「はいはい」
「きゅぴー♪」
結局心配していた襲撃もなく、俺達は無事に野営地に帰還したのであった。
翌々日。
四つの白い板が描く正方形と、直角に延びる二本の直線。
長く延びる直線の角を挟むように、五角形の白い板とそれを挟む白線の長方形二つ。
細長い棍棒と白い球。ちょっと待ってこれって・・・
「待っていたぞカオル。正々堂々と勝負をつけようじゃないか」
「先生ー!?」
正方形の中央にはユニフォームを身につけた筋骨隆々の一団、中央にバットを肩に担いだ川分さん。ちなみに満面の笑顔。
カオルくんが頭を抱える。
「そう言えば先生、少年野球チームの監督兼コーチもやってたんだった・・・!」
マジですかー!
おかしい・・・カオルくんが変わってしまったかつての師との思い出と現実のギャップに苦しみつつ、ハヤトくんの手を借りて再び立ち上がる、リリックで甘甘な感動巨編のはずだったのに――!
話を考えている途中で目に飛び込んできた「少林サッカー」の文字が悪いんや!
> 君にはまだ料理があるじゃないか――!
無印マクロスの「君にはまだ歌があるじゃないか」から。
直前に自分が振ってショックを受けてる相手にこれを言うのだから主人公も大概鬼畜である。
>『両方』やらなくちゃあならないってのが芸人の辛いところだな。
ジョジョ第五部のブチャラティのセリフより。
覚悟は良いか?作者はできていない。