異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
「はい、お帰りはこちらー!」
お客さんを誘導して野営地からお帰り頂く。
舞台の上で喝采を浴びるのもいいが、こうして満足そうなお客さんを見送るのも好きなのだ、俺は。
「お疲れさま。マジすごかったなあ。それじゃ、午後の警護があるんでこれでな」
「ははっ、あんがとさん。そっちもお疲れさま」
「ところでホッチョ・ペッパーちゃん。やっぱり俺と一晩付き合う気ない?」
「ずるいですよ兵士長!」
「俺が口説こうと思ってたんだ!」
「俺の方が満足させてやれるぜ! 兵士長は歳だから固さと持続力が今一つなんだ」
「何だとこの野郎」
若かろうと年寄りだろうと、男に興味は無いのでさっさと消えろください。
「なんてこった、こんな美少女が女にしか興味ないなんて」
「それはそれで尊い・・・」
「お相手はアルテちゃんかな。カオルくんかな。三角関係もありそう」
「どっちにしても尊みで死ぬ・・・」
こっちの世界にも
女の子同士の恋愛を「尊い」呼ばわりするのはホモを純愛と称するようなものだと思うがどうだろう。
アホながら気の良い連中を送り出すと、メシの時間である。
シルヴィアさん、俺の出番まで向こうの様子見に行ってきていいですか?
何だったら師匠の《幻影変装》かけて。
「ん・・・そうだね、ちょいと見てくるだけでも意味はあるか。一つ頼むよ」
そう言うわけで俺は飯を食った後にちょっと出かけることになった。
なお俺と一緒に誰が来るかでみにくい女の争いが勃発したが、シルヴィアさんの「アルテとリタは出番が早いだろ」という一言であっさりカオルくんに決まった。実のところカオルくんって劇以外でレギュラー持ってないし、エフェクトも師匠で代役が利く。
その前後で何があったのかって? 丁度よそ見してたからワカラナイナー。
「そう言う所が駄目なんじゃぞ、小僧は」
しょうがないじゃない! だって怖いもん!
そんなこともあったが、それはそれとしてちょっと上機嫌のカオルくんと腕を組んで敵情視察である。
無論師匠の《幻影変装》つき。
「うわー、さすがに混んでるねえ」
テント前は黒山の人だかりだった。三時間並んでたという猛者もいるっぽい。よーやるわ。
まあウチと互角の評判ってことは、客入りも互角なわけで、予測できた事態ではあったな。
最悪光学迷彩かけて入るかと思ってたが、何とか入れて安心である。
領主さんは・・・ああ、いたいた。さすがにそこは気を利かせたのか、それともお供の人が並んで席を取っていたのか、最前列のかぶりつきで歓談中だ。
ウチと違って半円型の、円形劇場かサーカスみたいな作りになっていて、良く見ると空中ブランコの道具とかもある。
さて、途中で買って来た菓子と飲み物をつまみながら敵情視察と行くかな。
――さすがにレベルは高かった。
冒頭で道化が口上を述べるのはウチと同じだが、道化芸やトークもアーベルさんと甲乙つけがたい。軽業に関してはさすがにかなわないだろうが、純粋に道化としての技量だけ比べるなら互角だな。
その後のジャグリングや一輪車、空中ブランコや組体操、軽業芸などもハイレベルかつ大がかりなものばかりで、零細一座としては唸るしかない。
動物芸もライオンの火くぐりとかあってめちゃくちゃ・・・と言ったら何だけど本格的。
統率の取れた動きという点ではリタのハムリスどもにかなうべくもないが、やはり大型動物は迫力が違うわ。
そんな感じで色々堪能して二時間ほど。
(師匠、もうそろそろです?)
(もうちょっと余裕はあるかの。後出し物一つくらいは見て帰っても間に合うじゃろ)
と、言う事だったのでお言葉に甘えてもう少しいることにする。
次はタウさんなのでありがたい。
「ちょっと楽しみかな。凄い綺麗な歌声だったよね」
だよねえ。シルヴィアさんってレベルの高い人が傍にいるから割と耳が肥えてる方だと思っていたが、あれもまた・・・歌も単純に比較できるようなものでもないってことかな。
「奥が深いね」
うんうんと頷きあう。
ちなみにアントンさんも俺と同じく演目を変えてきていて、今のクライマックスはギロチンで首を落とされたアントンさんが「ハイ元通り!」する手品なんだそうだ。
もちろん血糊ドバドバ。
人形の首なんだろうけど、良くだませるな? できればそっちの方も見てみたいが、さすがにちょっと時間が辛い。
と、タウさんが舞台に出て来た。大きな拍手。
「・・・うん?」
どうしたの・・・え?
領主さんの後ろにいた人が何か・・・ヤバっ!?
飛び出そうとしたカオルくんの手を反射的に掴んで止める。
次の瞬間、俺達の持っていたコップが床に落ちて割れた。
いくつものことが同時に起こった。
「ぶぎゅっ!?」
領主の後ろに座っていた客が、ショートソードを掴んで舞台に飛び出す。
踏み台にされた領主が潰れたカエルのような声を上げた。
舞台の上にはタウハウシンさんがぽつんと一人。
舞台袖にいたスタッフも咄嗟に動けない。
「この魚野郎が!」
ショートソードがタウさんの胸に刺さる。
そう見えたタイミングで、俺達が舞台の上に出現した。
瞬間転移。
俺がもっとも多用する作品、セイウンザーの超奇術の一つ。
あの瞬間、カオルくんでも間に合わないだろうと思った俺は、カオルくんと共に転移したのだ。
「なっ!?」
タウさんと暴漢の間に入った俺の背中が、金属音と共にショートソードを弾き返す。
ばかめ、既にデモゴディの力も呼び出しているんだ。超合金Σにただの鋼で歯が立つか。
そのまま俺はタウさんの肩を抱いて舞台の奥に逃げ。
「はいやっ!」
間髪を入れず、カオルくんが暴漢の腕を取って投げ飛ばす。
勢いよく投げられた暴漢は舞台の上をバウンドして、左側の舞台袖に滑っていった。
そこでようやく動いたスタッフや一座の用心棒たちが取り押さえにかかるが・・・ダメだこりゃ。全員あっさりはじき飛ばされて、暴漢は逃げていった。
こっちはこっちで単独犯とも限らないから、舞台や天井を警戒しなきゃならん。
犯人逮捕よりはタウさんの身の安全重点な。
幸いなことに他に襲いかかってくるような奴はいなかった。
タウさんの肩を抱いたまま舞台袖に連れ込む。
もう大丈夫ですよ。タウさん・・・タウさん?
「ハヤトさん・・・っ!」
うおっ!?
いきなりタウさんが抱きついてきた。
柔らかくてなまめかしい感触がっ・・・!
いや、マジでそんなこと考えてる場合じゃなかった。
タウさんの肩が細かく震えてる。
そりゃいきなり殺されかかったんだ、妖精とは言え普通の女性であるタウさんが動揺しないはずがない。
でもこれどうすりゃいいのさ・・・カオルくん! ナズェそんな冷たい目で見てるンディスかカオルくん!
「別に? 怯えているんだから抱きしめて上げるくらいしなよ。男の甲斐性って奴じゃないの?」
あのー、やっぱり怒って・・・
「怒ってない! さっさと抱きしめるくらいしてあげる!」
ハイッ!(直立不動)
そしてそれからしばらく、俺にとっては永遠とも思える間。
タウさんの震えが止まるまで、俺は彼女を抱きしめて上げたのだった。
誰か助けて。