異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
「ほーれほれほれ」
「・・・」
「ほれほれ。甘いぞー。おいしいぞー・・・」
テントの影に隠れながらこっちをチラチラと見る三つ編みロリアサシン、アーナ。
今は追跡者を警戒して、師匠の術で白い肌にオレンジの髪。
そして屋台で買って来たクソ甘い(ほんとにクソ甘い)棒状のゲマイ風ドーナツをちらちら見せてヤツの興味を引こうとする俺。
「何をしてるんだありゃ」
「どう見ても餌付けよね」
「怖がられてるのがよっぽど悔しかったみたいですよ」
外野がうるさいが気にしない。
このアーナ、連れてこられて数日でたちまち一座のみんなになついてしまったのだ。
アルテ達とは姉妹みたいに仲良くしてるし、ペトロワ師匠とは祖母と孫みたいだし、リタに至っては年下なのに妹みたいにじゃれついてくる。
アーベルさんやシルヴィアさんみたいなクセの強い面々も彼女には結構優しいし、彼女の方もなついてる。
ちょろちょろと走り回って一座の手伝いもするようになった。
ただし、俺だけは例外だ。
さすがに顔を見ただけで泣き出すようなことはなくなったが、バッタリ顔を合わせると一瞬顔をこわばらせ、次に泣きそうな顔で後ずさるのだ。何なら後ろから視線を向けただけでも気付いて逃げ出す。
心に来るんだよ!
大体緑等級クラスの暗殺者なのに、そんなに気を許してええんかお前ら!
かと言って彼女に怒るわけにもいかない。
殺されかけた方としては色々言いたいが、相手が十二才の子供ではこっちが悪者だ。
というかいっぺん「いい加減やめてくれないかなあ」って直接言ったら盛大に泣き出して、大騒ぎになったのだ。
みんなアーナの味方するんだもん・・・吊し上げ学級会状態である。
いや、リアルの方では経験した事ないけど。
まあそう言うわけで現実的で柔軟な思考の持ち主であるクレバーな俺は、アプローチを変えて現状を打開することを試みているわけである。
「ほーれほれほれ。甘いぞー。砂糖たっぷりだぞー」
俺のことを怖がりながらも、チラチラと手の中のドーナツに視線を飛ばしてくる
ふふふ、落ちたな・・・
「そのへんにしておけ。もうすぐ出番じゃぞ」
後ろからこんこんと頭を杖でつつかれる。
言われて振り返ると、確かにシルヴィアさんの歌が終盤のパートに入ってた。
残念、時間切れか。
師匠、このドーナツあの子に上げといて下さい。残った分はアルテやリタ達で適当に。
「うむ、わかった」
大きな葉っぱでくるんだドーナツを渡し、指についた油と砂糖をぺろりと舐めると、俺は衣裳を整えて舞台袖に向かって歩き出す。
スピードワゴンはクールに去るぜ。
ちらりと振り向くと、師匠から渡されたドーナツに大喜びでかじりつくアーナ。
悪い事ではないんだが何かもやっとするなあ・・・
「どんまい」
「がんばれ」
苦笑するカオルくんとアルテに同時に肩を叩かれ、俺は溜息をついた。
「~♪」
その日の夜。
夕食を終えて後は寝るばかりと言うところ、カオルとリタに手を引かれ、楽しそうにアルテとカオルくんのテントに入っていくアーナの姿が見えた。
「あ、ハヤト。おやすみー」
おやすみー。
というか彼女、アルテ達のテントで寝てるの?
「そうだよ。リタやカオルと離れたがらないから自然にね。知らなかった?」
知らなかった。
まあカオルくんがいるんだから万が一にもどうにかはなるだろうが・・・
「おばあちゃんが変なことはできないように、なんて言ったっけ・・・」
《
「そうそう。それかけてるから大丈夫だとは思うけど」
まあ俺もそう思うんだけど、殺されかかった身としてはな。
と言うかみんなあいつに気を許しすぎやろ。
そう言うとアルテは苦笑した。
「話してみるとわかるけど、あの子本当に普通の女の子だからね。
シルヴィアやペトロワお婆ちゃん、アーベルも大丈夫だって判断してるし、本当に問題はないんじゃないかな」
へえへえ、どうせ俺にはわかりませんよ。話しかけようとすると泣かれるからな!
そう言うとアルテは更に苦笑して、自分もテントの中に入っていった。
中から聞こえる楽しそうな話し声。
うらやましい限りだが、男がガールズトークに挟まるのは、百合の間に男が挟まるのと同じ位の絶許事案である。紳士である俺はその様な事はしない。
しかし本当にあの小娘、リタになついてるみたいだな。
挙動も小さな子っぽいし、リタも妹みたいな感じで接してる。
チュパくんの時もそうだったが、一座で最年少だから、自分より年下の子と触れあうのは新鮮なんだろう。
そんなことを思いつつ、俺は野郎どもの雑魚寝テントに入っていった。
明日も早いし早く寝よう・・・。
夜中、パッと目がさめた。
一瞬で意識が覚醒し、周囲の様子を感知する。
寝間着のまま、短剣だけを持って飛び出すアーベルさん。
ラファエルさんも目を覚まして身を起こしている。
アーベルさんに続いて俺もテントを飛びだした。
再び金属音が鳴る。リタ達のテントから。
今にして思えば、同じ音で俺も目がさめた気がする。
「あののんきな坊主が成長したもんだ」
アーベルさんがこっちをちらりと見て笑った。
うんまあ自分でもそう思います。
「アルテ! カオルくん! リタ! 無事・・・」
無事か、と叫ぼうとした瞬間、テントの布地が破れて人間が飛び出してきた。
! 例の黒ずくめの仲間か!
同時に肉を切り裂く音、骨が砕ける音がしてテントの中が静かになる。
テントから飛び出してきた黒装束が動かないのを確認し、中を覗き込む。
カオルくんに斬り倒されたとおぼしき黒装束が二人と、体中の関節を逆方向に折られて痙攣している黒装束、荒い息をつくアルテとカオルくん、涙目で怯えるリタ。
そしてリタを守るように両手を構えて仁王立ちするアーナがいた。左腕と脇腹からは血。
みんな大丈夫か!?
「わ、私は多分」
「ボクも」
「・・・」
リタは無言で頷く。
アーナがそのリタを振り向いて優しい笑みを浮かべ、そのままテントの床に倒れた。