異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第十四話 これから始まる大レース

 海賊じゃない海賊王、ラソーリさんが困った顔をしている。

 その視線の先には小柄な一頭の茶色い馬(栗毛と言うらしい)。

 全ての馬房を回って、一頭一頭話をしたリタが選んだ馬だ。

 こんなのでも商人が金貨一万枚を目当てに連れて来た馬のはずだが・・・。

 

「なあ姫さんよ、本気でこいつなのか? 間違いじゃないのか?」

 

 リタが首を振る。俺もあんまり見たことがない、きっぱりした否定。

 

「この子で間違いないよ。確かに、この子より大きな子も、足の速い子もいるかも知れない。でもこの子より強い子はいない」

「むう・・・」

 

 動物と話せるリタだ。その言には説得力があった。それでも決めかねているラソーリさんに、苦笑を浮かべつつ船長が助け船を出す。

 

「旦那、どうせあたしらは素人なんだ。同じ素人でも動物と話せるこの子の見立てを信じてみちゃどうだい?」

「ぬぬぬぬぬ」

 

 ラソーリさんはしばらく唸っていたが、やがて諦めたように首を振り、商人の人を呼びにやらせた。

 

 

 

「いやー、お目が高い! やはり海賊王ラソーリ様の眼力はたいしたものです! ラソーリ様なら必ずやあの馬の真価を見抜いてくださると思っておりました!」

 

 ターバンを巻いた商人がほくほく顔で従者たちに金袋を担がせる。

 褒められたラソーリさんの方は渋い顔だ。

 

「その金はくれてやるが一つ聞かせろ。あのちっこい馬を、どうして俺のところに持ち込んできた? しかも牝馬だ。走る以前に俺がハネるとは思わなかったのか?」

「・・・」

 

 ニコニコしていた商人が居住まいを正した。

 

「あの馬はここから500kmほど離れたハンガリア王国の貴族、ブラストウィッシュ男爵から買い取ったものです。

 男爵は馬狂いで沢山の馬を飼育していたのですが、ある時遊牧民の盗賊が牧場に押し入って仔馬を一頭盗んだのです。

 ええ、たった今ラソーリ様にお譲りしたあの馬です」

 

「今でも立派な外見ではありませんが、当時は更に貧弱な体格で毛づやも良くなかった。

 盗賊を捕らえたブラストウィッシュ男爵は疑問に思って聞いたのですよ、『他にもいい馬は沢山いたはずだ。何故沢山いる中からあれだけを盗んだ?』と」

 

「すると占い師でもあった盗賊はこう答えました。『確かに馬体は貧弱だが何者にもまさる勇気を持ってる、この子は必ず王者の馬になる』と」

 

「それを聞いたブラストウィッシュ男爵は鼻で笑いましたが、馬狂いが祟って領地の経営が厳しくなり、親戚に押し込められて実権を奪われた上で馬は大半売り払われてしまいました。

 それでわたくしがあの馬を手に入れたというわけで」

 

 話は終わりだと、商人が一礼する。

 

「ふーむ」

 

 興味深そうに顎髭をいじるラソーリさん。

 その男爵は信じなかったみたいだけど、奇跡も魔法もあるこの世界なら、本当にその盗賊の言う通りなのかも知れない。

 

「それで、お前はその話を信じてあの馬を買ったと?」

「はい。金貨十枚で買ったものがこうして金貨一万枚になってくれました。奇貨居くべしというところでございますな」

「・・・」

 

 ラソーリさんが手振りで退出して良いと伝える。商人の人がもう一礼して立ち上がったところに俺が声をかけた。

 

「何でございましょう、騎士様?」

「ああその、大した事じゃないんですけど・・・あの馬の名前は?」

「これはしたり、お伝えし忘れておりましたな。

 あの馬の名前はアムール。意味は『私の宝』。転じて愛する人のことですな」

 

 ニコニコと一礼して、商人の人は今度こそ謁見の間を出ていった。

 

 

 

「それで、アムールの騎手はどうするんです? 当てがあるんですか?」

「ああ、そっちは俺の部下で《騎手の加護》を持ってるダアラって奴がいるから、そいつに任せる。船に乗ってて今ここにいないんだが、ギリギリ帰ってくるはずだ」

「なるほど。《騎手の加護》ってのは聞いたことないですけど、名前通りの《加護》ってことでいいんですね?」

 

 話を聞くと乗ってる馬なり何なりを強く速くする《加護》で、遊牧民や騎士の人が良く持っているそうな。

 ラソーリさんの部下の人は北の方から流れてきた遊牧民の人で、《加護》とは別に腕の立つ、頭も切れる人だそうだ。

 

「余り自分の事をペラペラ喋る奴じゃないが、前に暴れ馬を見事に乗りこなして大人しくさせたことがあったからな。少なくとも海賊砦(うち)じゃあ一番の乗り手だろうよ」

「なるほど」

「姫さんとお前さんはダアラが帰ってくるまでアムールの面倒をみていてくれ。そこの飲んだくれは自由に使っていい。馬房の掃除でもさせておけ。酒は飲ませるなよ」

「旦那!? そりゃないよ!」

 

 船長がこの世の終わりのような悲鳴を上げるが、ラソーリさんはじろりとにらみ返す。

 

「そうやって俺の荷物をしくじったんだろうが、え? あれでどれだけの損が出たと思ってる。

 これから十日、一滴でも酒を口にしたら今回の話はチャラと思え。いいな?」

「そんなぁ・・・」

 

 格の違いの上に真っ向からのド正論で斬って捨てられるドリー船長。

 謁見室の床に崩れ落ちた姿は哀れだが自業自得としか言いようのないものだった。

 

 

 

 あれから数日。海賊砦から数十キロ離れた、ラソーリさんの牧場。

 草原を走るアムールを俺とリタ、そして牧場の飼育員さんが眺めている。

 

「やはり競馬か。いつ出走する?」

「飼育院!」

 

 ・・・などという展開はなく、ごくごく普通の牧場の人である。多分。

 

「この草原ね、隣のハイロウの町と共同で使ってたんだよね。互いに馬を走らせたり放牧したりしてさ。

 ところが向こうの牧場の経営者が変わったころからこっちの邪魔をするようになってきてね・・・武器を持ち出して殺しあいになる前に、っていうんで海神(イムダワ)の司祭様が仲裁に入ってくれたんだよ」

「うーん」

 

 曖昧にしておいた境界が、代が変わると問題化してくるんだな。いずこも領土争いは似たようなもんやなあ・・・。

 閑話休題(それはさておき)

 

 今俺達はアムールと共同生活をしている。

 一つにはリタがアムールと会話して、落ち着かせたり要望を聞いたりする仕事。

 

「いやー、競走馬なんて扱った事ないから、お嬢さんには助かるよ」

 

 等と言われて、牧場の関係者には感謝されている。

 ちなみにドリー船長はマジで馬房の掃除をやらされていた。ラソーリさんの罰なんだろうなあれ・・・。

 そしてもう一つ。

 

「チュー!」

「チュチュー!」

「チュチュチュチュチュー!」

「ヒヒーン♪」

 

 爆走するカラフルな筋肉モリモリマッチョマンの変態ども。

 それを楽しげに追いかけるアムール。

 

「ヒヒーン♪」

 

 そう、こともあろうにアムールがハムリスどもに懐いてしまったのである。

 競走馬が馬房で猫だのタヌキだのと共同生活するという話は聞いたことがあったが、あれは懐いていいものなんだろうか・・・?

 

「仲良さそうだね、おにいちゃん」

「そ、そうだね・・・」

 

 楽しそうなリタの顔を見て、俺は引きつった顔でそう返すしかないのであった。




ちなみに盗まれたエピソードはキンツェムという実在のハンガリーの競走馬の話です。
当時の欧州大陸を股にかけて荒らし回った、54戦54勝の絶対無敵ケイバオー、いや女王。
この世に魔法はなくても奇跡はあるんだよ!
なおキンツェムの名前の意味は「アムール」とほぼ同じ。
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