異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ! 作:ケ・セラ・セラ
その日は既に夕方近く、まだ荷物の搬入も終わっていなかったので港に一泊することにする。
というか、おやつの時間を過ぎて出航するのは難しいのだそうだ。
「朝は潮が海の方に流れるからね。普通出港は朝になる。
逆に夕方になってくると陸の方に潮が流れるから、余程風が良くないと辛いね。そのサソリ野郎の船もオール漕いで出ていったんじゃないかい?」
そう言えば確かにそんなことを言ってたな。なるほどなるほど。
また一つ賢くなってしまった。
夕食を終えて、甲板で涼む。
リタと、ゾロゾロついてくるカラフルでマッチョでいるだけで邪魔くさい金魚の糞。
「なんかハヤトに侮辱された気がするでチュ」
「リタとの仲はチュー達のほうが長いのでチュよ」
「一度身の程をわからせるべきでチュね」
さて、何の事やら。
とはいえ上下関係をそろそろ叩き込むべきかもしれんと思うが口には出さない。
十匹の2m越えマッチョに囲まれると圧迫感が凄いんだよ!
「だめだよ、お兄ちゃんもアカフク達も仲良くしなきゃ」
「はーい」
「はいでチュー」
この時ばかりは声を揃えて返事する俺達。泣く子とリタには勝てないのである。
「・・・」
言葉が途切れ、聞こえてくるのは街からのかすかなざわめきだけになる。
月と星。
さざめく海面。
流れる風。
それらが相まってとても美しい。
ハムリスどもでさえ、無言でこの美しい景色を眺めている。
「あ・・・」
「どうした?」
沈黙を破ったのはリタだった。
「うん、ちょっと喉が渇いたかなって」
「あー、今日レモネード沢山買って来たはずだからそれ一本貰ってくるよ」
レモネード。地球の日本で飲むような奴ほど甘くはないが、炭酸水にライムジュースを混ぜたものだ。腐る真水と違って保存が利くし、壊血病の予防にもなる。
日本で言うとラムネ。イギリス海軍の人がライミー(ライム野郎)呼ばわりされるのも、これを常飲していたからである。
この世界ではかなり早い内からオリジナル冒険者族によって実用化されていた。
「ありがとう、おにいちゃん!」
明るい月明かりのなか、輝かんばかりの笑顔のリタ。
不覚にもちょっとドキッとしてしまった。
「チュー達にも欲しいでチュー」
お前らは海水でも飲んでろ。
「・・・・え?」
レモネードの瓶を二本、ぶら下げて甲板に戻る。
雲間に隠れていた月が現れ、所在なげに立つ肉の塊どもを照らす。
だがリタは、俺の小さいお姫様の姿はどこにもなかった。
「一体どういう事だ、おい!?」
ぼうっとするマッチョハムリスの体を揺すろうとしたが、体重差三倍の相手では小揺るぎもしない。
「ええい・・・ボロロボ・ボボット!」
怪力ロボの力を呼び出し、持ち上げて甲板に叩き付ける。それでようやく我に返ったのか、黄色い奴・・・キナコがぱちくりと眼をしばたたかせた。
「おい、一体リタはどこに行った!」
「チュ・・・チュー!?」
周りを見渡したキナコが、ハムリスの顔でもはっきりわかるくらい驚愕と動揺を見せる。
くそっ!
「
マストの上の船員に呼びかけると、驚いたような声が返ってきた。
「いや、聞こえなかった! ほとんど音がしないから、落ちたらわかると思うんだが・・・」
くそっ!
「キナコ、他の奴を起こせ! 船中を探して船長にも報告するんだ!」
「わ、わかったでチュー!」
ただその場を離れているだけなら問題ないが、それならキナコ達が人事不省状態になっているのがおかしい。最悪の予想よ当たらないでくれと願いながら、俺はまたしても《加護》を発動する。
「チェインジ、ジェッターIII(スリー)ィっ!」
水中用ロボの力を呼び出し、俺は海に飛び込んだ。
結論から言えば、海中にリタはいなかった。
ここは港だけあって水の流れも緩やかだし、さほど深くもない。
ジェッターIIIのソナーや高感度水中カメラにもそれらしきものは引っかからない。
俺が場を外していたのはせいぜい五分だから、ただ船から落ちただけなら既に見つかっているだろう。
「はーっ、はーっ・・・」
海から上がった俺は舷側にもたれかかって荒い息をつく。
疲労はしたし、ショックを受けてもいるが、それ以上に安堵する気持ちがあった。
少なくとも最悪の事態ではない。恐らく誘拐されたんだろうが、死んではいない。
なら取り返せば良いだけだ。
「何だ、思ったよりへこんでないみたいじゃないか」
「へこんでる暇もなさそうなので」
船長だった。
にやり、と笑みを交わす。
「立てるかい? 何なら座ったままでも良いけど」
「立ちますよ。ぐだってる時じゃない」
「その調子だ」
肩を叩かれて、俺たちは船長室に連れて行かれた。
船尾の船長室は割と広かったが、俺と船長と船員数人、それにハムリスどもが入るともうみっちみちだった。肉の圧が凄い。
努力して目をそらしつつ、手早く情報交換。
まず、俺が甲板から中に下りた直後、雲が月を遮って真っ暗になった。
見張りの人は甲板で何が起きているかに気付かず、音も聞かなかったとのこと。
俺が甲板に出入りしてドアを開ける音は聞こえたというから、見張りの人の不注意じゃない。
「つまり、たった五分かそこらの間に犯人はそこの肉達磨どもを無力化し、うちの見張りに音も聞かせずにお姫様をさらったわけかい」
「アカフク達を無力化した手段ですけど・・・そう言えば変な香りがしました。ひょっとしたら魔法のお香をつかったのかもしれません」
今にして思えば、嗅いだことのある匂いだった。
悪徳商人ローリンズの屋敷で、オブライアンさんの妹のタウハウシンさんを助けたときに使った奴。
ペトロワ師匠が調合した眩惑の香だ。
ちょっと自信はないが、似たような匂いだった気がする。
「魔女の作ったぼんやりの香か・・・そりゃ確かに厄介だね」
「まあそれはおいおい。それよりもお香で気付きましたが、匂いで追跡できるかも知れません」
正直鼻に結構ダメージがくるので出来れば使いたくないが、背に腹は代えられない。
お香でハムリスを無力化したなら、使った人間がお香の効果を受けていないにしろ服やらに匂いは残るはず。十分追跡は可能だ。
念のためリタの使っているベッドの匂いも嗅いでリタの匂いを覚えておく。
「やはりハヤトは変態でチュー」
「お父さんにご報告しなければでチュー」
ええいこいつらは。
まあリタがさらわれて動揺してるのは俺以上だろうし、ここは流してやろう。
「ついてこい。静かにな」
「チュー!」
船長に一言断ってから、俺は桟橋に飛び降りた。