異世界に転移したらスキルが「ロボットアニメ」でした ~スパロボ厨が剣と魔法の世界で無双します~ イヤボーンもあるよ!   作:ケ・セラ・セラ

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第二十四話 海とライオン

 それから更に数日航海は続いた。

 

「見えたぞ! 『夜明けの船』だ!」

 

 見張りの声が甲板に響き、水夫たちが歓声を上げる。

 リタがジョルジュの方を見上げると、夜明けの船のリーダーが乗る船だと教えてくれた。

 

 まもなく二つの船は接舷し、リタはジョルジュに手を引かれて向こうの船に渡る。

 船長室に行くまでの間、リタは船員たちの視線にさらされることになった。

 じろじろと見てくるのはまだいい方で、露骨に悪意・敵意をにじませる視線も少なくない。

 

「・・・」

 

 それでも表情を崩さず、まっすぐ前を見て歩き続ける。

 時折振り返るジョルジュが、感心したようにそれを見ていた。

 

 

 

「いるかい」

「ああ」

 

 船長室の扉の左右に立つ護衛と短いやりとりをした後、二人は船長室に入る。

 

「連れて来たぜ、ラリザニ」

「ご苦労、ジョルジュ」

「!」

 

 部屋の中にいたのはターバンを巻いた女性だった。年の頃は二十代半ばか。

 日に灼けた肌にきらめく黒い髪、筋の通った眉、きつそうなツリ目。褐色の美貌。

 加えて人の上に立つもの特有の雰囲気を纏っていた。

 

「・・・女の人がリーダーなの?」

 

 叫ぶことこそなかったが、リタは少なからず驚いていた。

 ラリザニと呼ばれた女性と、ジョルジュが視線を合わせて笑う。

 

「姫様をこちらに連れてきなさい」

「!」

 

 部屋の奥から年老いた男の声が響く。

 頷いたジョルジュに促され、リタは奥に歩いていった。

 

「このような格好で失礼するよ。海の獅子と言われた私だが、年には勝てぬ」

 

 壁際のベッドに横たわっていたのは白髪の老人だった。

 病の色を浮かべながらも、その顔は積年の威厳を失ってはいない。

 ハヤトが見たら「ショーン・コネリーみたい」と評したかもしれなかった。

 

「私はアーメッド。『鋳つぶした王冠(サン・ディカリ)』の長だ。

 そちらはラリザニ。私の孫娘で、今は代理を務めて貰っている」

「・・・エリザベスです」

 

 言葉少なに自己紹介を返す。

 

(不自然じゃない程度にごまかせたかな)

 

 アーメッドもラリザニも一つの組織を率いるほどの人間だ。

 下手な受け答えをすれば正体がばれる可能性もある。

 幸いリタの警戒は緊張だと取ってもらえたらしい。

 

「そう怯えないでくれ。少なくとも私は子供に危害を加えようとは思っていない。ましてや女だ」

「私をさらってどうするつもりなの? おじいさまに王様をやめさせて、あなたが王様じゃない王様になるの?」

「ほほう」

 

 アーメッドが面白そうに笑った。

 

「ジョルジュ、お前が教えたのか?」

「さわり程度ですが。賢いお姫様ですよ」

「そうかそうか」

 

 笑みを浮かべつつ、視線がリタに戻る。

 

「昔はそう思っていた。だが我らの望みがかなったとして、最初に『王ではない王』になるのは私ではなくラリザニだろうな。

 それに、たとえあなたの命と引き替えでも国王はその様な要求は呑むまい」

「じゃあ・・・どうして?」

 

 アーメッドが少し表情を改めた。

 

「物事は順序を踏まねばならない。力が足りなければまず力を蓄えねばならない。

 あなたを使って要求するのはそうしたことだ――先ほども言った通り、危害は加えない。

 不自由は辛抱してもらわなくてはならないが、出来る限りの事はしよう。

 何か質問はあるかな?」

「・・・」

 

 しばらく考えた後、リタは口を開いた。

 

「もしあなたたちのやってることがうまくいっても、王様を入れ札で選ぶより今までの変わらない王様の方がいいって人は沢山いると思うの。

 もしそうした人達の方が多かったら、そしておじいさまがまた王様になって入れ札はやめるって言ったらあなたはどうするの?」

 

 部屋にいた大人三人が、思わずこの大人の半分くらいの少女を見た。

 

「・・・本当に賢い姫様だ。あなたが将来女王になったとしたら、我々の組織は討伐されなくても先細りで消滅してしまうかも知れないな。

 質問の答えだが、あなたのおじいさまが入れ札で国王になったらそれはしょうがない。

 しかしまた前のように、ずっと国王をし続けることだけは許さない」

「戦争になるのね?」

 

 老人は大きく頷いた。

 

「そうだ、戦争だ。つまるところ相手に言うことを聞かせられるのは力だ。

 とはいえ戦争は男の仕事だ。あなたには関係ないだろう」

「あるよ!」

 

 思わず自分でも驚くほどの強い声が出た。

 程度の差はあるが、アーメッド達がそれぞれ目を見開く。

 

「・・・大声を出してごめんなさい。でも、戦争が起きたら誰かが死ぬんだよ。わたしの家族は死なないかも知れないけど、わたしの友達のおとうさんが死ぬかも知れない。

 いっぺん会った人のお兄さんが死ぬかも知れない。知ってるおばあちゃんの息子さんが死ぬかも知れない。わたしはそんなのいや。どれもいやなの!」

「・・・」

 

 部屋の中にしばらく沈黙がたゆたった。

 

「侮って済まない。あなたは本当に賢く、優しい子だ。だがな、エリザベス姫。それだけでは解決しないことが世の中にはあるのだ。ひょっとしたら解決するのかも知れないが、私を含めて世の中のほとんどの人はそれほど優しくも賢くもないのだよ。

 ・・・さ、ゆきなさい。少し気分を落ち着かせるといい」

「・・・」

 

 リタは無言。それを少し痛ましそうに見つめた後、アーメッドは懐刀の小人族の方を向く。

 

「ジョルジュ、引き続き姫様を頼む」

「わかりました。さ、行こうぜ姫様」

 

 肩を叩かれたリタは無言で頷き、ジョルジュと共に姿を消した。

 扉が締まり、その余韻も消えるとアーメッドが大きく息をつき、天井を仰ぐ。

 

「いやはや、こたえた。まっすぐな目と向き合うのは辛いなあ・・・」

 

 先ほどまでの、病床にありながら威厳を保っていた老闘士のものではない、ただの老人のような声。

 家族でさえ見たこともない弱々しいもの。

 思わず言葉が出る。

 

「そんなことでは困ります! しっかりして頂かねば! お爺様は『夜明けの船』の船長なのですから!」

 

 怒気すら発する孫娘に笑みを浮かべる。

 

「何、いずれはお前に譲る地位だ。まあ王侯貴族を否定する我々が血縁で長の座を継承するというのもおかしなものだがな・・・」

「血縁でも優秀ならいいのです。優秀でないものが出たなら、その時はもっと優れたものに譲ればいいだけのこと」

「ほほう。つまりお前は自分が優秀だと思っているのかね」

「っ」

 

 ラリザニが言葉をつまらせた。僅かに頬が赤い。

 

「はは、ははははは・・・」

「お爺様!」

 

 朗らかな笑い声と力のない怒声が船長室に響いた。

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