ある初夏の、照り付ける日差しと、アスファルトと画一的なアパート群が街をふつふつと温めるころ。一人の怠惰な、ボサボサの短髪に無精髭を生やした、ヨレヨレの制服を着た…と言うより制服に着られているような、少し背丈の低い男警官が、目が痛くなるくらいにはまっ白なパトカーに寄りかかり、巻煙草を吸っていた。意欲的な勤務態度とは言えない彼が煙草をすうっと深く吸い込んだ時、横の商店から紙袋を抱えたもう一人の警官が出てきた。もう一人の方は、長い髪を頭の真ん中あたりで結って、制服をきちんと着こなし、背丈も平均を余裕で超すような、まさに怠惰な方とは正反対の模範的な女警官であった。
「せめてその勤務態度はどうにかできませんか上級巡査……!」
「いや、ね。パトカーの中が熱くて熱くて…おちおち一服もできんのよ」
と男は言うと車内を指差す。ダッシュボードにこれ見よがしに置かれた安物の水銀計は風呂の温度と同じような温度を示していた。
「だからサ…許してくれないかい?同志巡査」
女はため息をつきながら
「はあ…まあいいですよ、今に始まった事じゃないですから……それで、上級巡査。買い物はキャベツ
と言うと女は紙袋を男に手渡す。
「ありがとう、ちなみにマヨネーズはちゃんと…?」
「大丈夫です、できたてのマシマシですよ。クワスもちゃんと冷えたやつです。」
「流石だ同志…!ちなみに君の分は?」
「待ってる間に中でトマト
すると巡査はパトカーに窮屈そうに乗り込み、キーを回してエンジンを掛けると、4ストロークの軽やかなエンジン音が響き渡る。上級巡査も続いてパトカーに乗り込む。
「あれ…?同志巡査、僕けっこう余分に渡さなかったっけ?」
「何がです?」
「いやお昼代だよ!君の分買われてたとしても何ルーブルかはお釣りが…」
上級巡査の文句を遮るように無線が入る。
《市内各車、ヤーセン通り6-5付近にて検問突破。応援求む。繰り返す…》
無線が繰り返されるよりも先に
《こちらイ-16号車、直ちに向かいます!》
するとパトカーはサイレンを鳴らし、回転灯を回しながらアクセルを思いっきり踏み込んで発進した。揺れる車内の中で上級巡査は
「ねえ巡査!勤労意欲が旺盛なのは結構なことだけどさ、僕のお釣りはどこへやったのさ!」
「私を使い走りにしたお代ですよ!私の勤労意欲はお高いんですからね!」
「そんな殺生な……!あれ僕の今月分に等しいんだよ!」
「んなわけないでしょ上級巡査!毎月お小遣いが20ルーブルなんかじゃないのなんか知ってますよ!ペア組んで何ヶ月目だと思ってるんです?それに私が釣り銭パクるのはいつもの事でしょ!」
「ああ…!君はそういう女だった!10ルーブル紙幣しか無かったお財布が迂闊だったな…」
「次からは小銭を用意しといてくださいね!ほら上級巡査!早く食べないと現着しますよ!」
「ほんと、忙しい人だよね君は…!」
そう言うと男は紙袋からケバブを取り出し、かぶりついた。
ここは眠らぬ街にして、赤の中枢。陰謀と密告、密売、密造蔓延る街で、今日も