9話
「女子からの告白がそんなに嫌だったのか」
「だって同じ性別だよ!ペタペタして来るから凄く怖かった」
「お兄ちゃんは同性でも付き合うとかは有りだと思うんだけどなぁ・・・」
「それをいじめと捉えるのも・・・まぁあの状況ならあっちの頭がおかしいけど」
私が同性愛を嫌うのはちょっとばかし深い理由があるからだ。友人関係で辛い時期があり、その時に起きた事で耐えられなかった。
「じゃあお兄ちゃんも同じクラスの男子に「君を独り占めにしたい」とか言われてみなよ」
「俺から声かけて行くけどね」
「もうこの話題やめようよ」
ある事件のことを思い出す度に気分が悪くなる。お兄ちゃんはポジティブシンキングだからいつも私の心を落ち着かせるような言動をしてくれている。お兄ちゃんがホモォなんてネタに決まってる。きっとそうだ。
こういう時だけはちゃんとしてるお兄ちゃんが少し腹立たしいけど頼りになる私のたった一人の「お兄ちゃん」である。
「そうだな、すまない。」
「それよりパンツ脱げよ!あ、なんでも無い!」
ん、どストレートに言って来やがった。改めて言われると恥ずかしくて穴があったら埋めて欲しい。
私は下半身を護る最後の装甲に手を掛ける。
私はお兄ちゃんの顔色をずっと伺っている。私の目が痛んだ事とお兄ちゃんの目の色が変わった事が関係ありそうな気がしてならない。
恥ずかしさで顔からファイヤーが出そうだけど至って冷静な自分がいる。振り切ったわけではなくて、私が超能力者かもしれないという期待が膨らんでいるからである。
相手の目の色を変える能力。
全く実用性無いけど悪くない。
考え込んでいたら気が付くとお兄ちゃんが目の前でしゃがみ込んでいた。
「きゃ!」
足元に落ちたズボンに手を伸ばしている。こんな野獣だったとは思わなかったけど稀に見る真面目な顔をしていた。まさか・・・・
「何すーるの!やーめーてー」
「一瞬でレアアイテム妹の水玉ストライプを目に焼き付けその画像を複製させ脳内最重要フォルダに保存し瞼の裏の待ち受けに設定!」
サッとズボンを履かせられ、ゾッとする言葉にスッと血の気が引いていく。気持ち悪い発言を聞いてしまったけど嬉しい気持ちもあり、悲しい気持ちもあってなんとも言い難い状況に陥った。
決戦の計画内容はほぼ失敗に近く、お兄ちゃんの「誠実さ」が改めて確認出来たということ。あの真面目な顔はやっぱり嘘じゃなかったみたい。
「ふぅ、俺がズボンを履かせる立場になるとはな」
「お兄ちゃん・・・」
「脱がす立場しか想像したことなかったよ」
ですよね〜。
「・・・大事に思ってくれてるんだね・・私の事」
「でもレアアイテムとか気持ち悪いよ、待ち受けに設定!のところまで声に出てたし・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それにしても」
「どうしたの?」
「朝から疲れたねぇ、妹よ」
「ほんとさ!お兄ちゃんの所為だからね!」
「俺被害者なんだけど!?」
「うるさいうるさい!お詫びに朝ごはん作れ!」
理不尽極まりないけど勢いで誤魔化す。このままだとただの変態になりかねないから流れを変えたい恥ずかしい。
「それはいつものことだけどさ、まだ時間早過ぎだしょ」
「え?どうして時間がわかるの」
「さっきその腕時計で確認させてもらったんだぜ、お兄様の勝ちだな!」
完全敗北と思いきや希望が残っていたらしい。それはお兄ちゃんの想像を一歩超えた自分が居たことだ。腕時計の時間は私の誕生日にセットしてある。本当の時間は8時くらい、多分それくらいだと思う。
気付かないのが悲しいけど。
「あちゃーやられたなぁ」
「幾ら何でも早過ぎだからまた寝てくるね」
「待って!」
「どうした、妹よ」
「まだ気付かないの?」
「あれ、思い当たる節が無いな」
「私の誕生日憶えてないの?」
「・・・・?」
忘れられてたっぽくて泣きそう。私はお兄ちゃんの生まれた時間まで覚えてるのにぃ。
「5月12日だよ、あほお兄」
「・・・・!・・・・まさか!」
「この腕時計は私の誕生日に合わせたんだ☆」
「なにそれイミワカンナイ!」
お兄ちゃんの顔色がガラッと変わる。真面目でどこか誇らしげな顔から溺れかけた小学生みたいな慌て顔。そして絶好の好機、ここまでの状況を想定していた昔の自分が少し怖くなる。戦略ゲームなら司令官クラスになれそう。
「うわぁぁ、もうなんなんだよぉ・・・。今何時なんですかぁ・・こまめちゃ〜ん・・・。」
「!!」
前の学校での騒動を思い出してちゃうから絶対言わないって約束したのに。
「「こまめちゃん」って呼ばないでよ!また思い出しちゃうじゃんか!あ〜〜体が痒くなって来た」
「あ、そうだったなゴメンよ小豆」
「お兄ちゃんにまで呼ばれたら私の居場所が無くなっちゃうじゃない!・・・」
「大丈夫。小豆の居場所はここにあるよ。」
「うぇぇ・・・グスっ・・・うぇぇ」
無言のままそっと抱きしめられる。あれを思い出して気分は悪いけどお兄ちゃんの温かさに中和され、心が落ち着きを取り戻す。私が泣いたり落ち込んでいる時はいつもこうやって抱きしめてくれて
「大丈夫、明日はもっと嫌な事があるよ。だから今日を楽しもうぜ?」
かっこいいと思ってるのか毎度の如くこのセリフを言う。最初は何が言いたいのかわからなかったけどなんとなく私に伝わっている。今日は言われなかったけど勝手に脳内再生されていて、割と私の人生の励みになっていることが悔しい。
「お兄ちゃん・・・・」
「・・・・・・」
「お兄ちゃん!熱いから離れてよ」
「はっ!、もう大丈夫か?」
「うん・・・・」
「あの、そのなんていうか」
「いいの、お兄ちゃんが悪いんじゃないもん。私が過去を吹っ切れてないだけのことでしょ・・・? 私も大人にならなきゃね!」
「え?」
申し訳なさそうな顔で俯くお兄ちゃん。そしてしばらく沈黙が続く。
「・・・・」
「・・・・」
「軽々しく言っちゃってごめんな」
「もう、いいんだって気にしないでよ」
「そうか。小豆も大人になったんだな」
「そうだよぉ、大人だよぉ!」
いつまでも子供じゃいられないとは思っていた。けど大人っていうのがよくわからないのも本音で、変わろうとしなかったのかもしれない。強がりでもいい。お兄ちゃんに子供じゃないところを見せたい。
気付けば胸を張っていた。なんか恥ずかしいと思ったけれども恥ずかしいの感覚がおかしくなりつつある自分に心配する。ノーパンよりは恥ずかしくない、いや、そもそも恥ずかしいの使い方が違うのか?、あれ?
「そ、それでさぁ」
「なに?お兄ちゃん・・・」
つづく