ライスシャワーの勝利を汚されたトレーナー   作:わすれもの

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菊花賞勝利者インタビュー

 期待されていたミホノブルボンの無敗の三冠は、ライスシャワーの登場によって叶わなかった。

それ故にレース場には熱が冷めきった観客達がいた。

 

そして勝利者インタビューは始まった。

 

「菊花賞を制しました、ライスシャワーさんです。今のお気持ちは」

 

という無難な質問から始まり、ライスシャワーとそのトレーナーは安心した。会場の雰囲気はレース中のそれとは打って変わってしまっている。それでもやはり記者達はプロとして中立的な立場でのインタビューをしてくれるのだと。

初めてインタビューを受けた二人は、そう思ってしまった。

 

「無敗の三冠を阻止したお気持ちはいかがでしょうか。」

 

その質問が出てくるまでは。

途端に二人は、分からなくなった。記者たちの向ける顔が、インタビュアーの顔が。笑顔のはずだ。勝利者を称える表情のはずだ。それなのに。

 

「え……と」

「やはり、気持ちいいものなのでしょうか。」

 

言葉に詰まっていると、心の中にある訳もない言葉を繰り出された。頷いてはいけない。肯定してはいけない。無い言葉を有るとされてしまう。

 

トレーナーは前に出て、その言葉を否定した。

 

「ミホノブルボンさんの無敗の三冠を阻止して気持ちいい、ということはありません。それは彼女に対してのリスペクトを欠いています。菊花賞を制したことは確かに嬉しいですが、それとこれは別です。」

 

ライスシャワーのトレーナー。曰くトレーナー2年目で、担当は1人目。まだ若々しく緊張気味のトレーナーに、記者たちは焦点を当てた。

 

「初めての担当がライスシャワーさんだと聞いていますが、2年目にしてG1レースを勝たせるとは素晴らしいですね。」

「ありがとうございます。自分の力だけではなく、ライスシャワーや他の人の多くの協力もあってここまでくることが出来ました。その人たちにも感謝したいです。」

 

「では、ミホノブルボンさんとの差はそこにあるということでしょうか。」

 

無礼だ。2人はそう感じた。どうしようもなく擁護のしようもなく、ミホノブルボン陣営を軽んじていると、そういう風に切り取ろうとしている。

さすがにすぐに言葉を返せずにいると、

 

「えっと……そういうことではなく……」

「ミホノブルボンさんのトレーニングは過酷だという話もありますからね。」

 

追撃。

 

狡猾だ。このインタビュアーがこう言ったとしてもそれは世間が知っている事実なのだから、インタビュアーがこのようにいう事は別におかしくはない。ただそれを肯定するだけでも、文脈のせいで軽んじていることになってしまう。これがG1という高いレースに出てくる記者なのか。先輩たちがマスコミをあまり好んでいないのはこういう事だったのか。そんな風にトレーナーは、思った。

 

そしてこうも思った。

 

「……貴方たちは、ミホノブルボンしか見ていないんですね。」

 

「え?」とは誰の声だったのだろうか。

 

さっきまでのトレーナーとは雰囲気が違っていた。緊張し、揚げ足をとられまいと、丁寧に話そうと四苦八苦する青年は、今は微笑というか嘲笑というか、とにかく柔らかな表情になっていた。

 

記者達は困惑していた。天才トレーナーの傲慢な思想!とでも見出しをつけようとしていた者達にとって、確かに今みたいな表情で「ミホノブルボンは今までたまたまうまくいっていただけ」と言ってもらえれば記事の書きがいもあった。冷静な受け答えからはそれもできず、言葉尻を捕らえるしかないと思っていたところで急変したことに、ついて行けなかった。

 

ライスシャワーも困惑していた。後ろ姿とはいえ声で大体の表情は想像がつく。かれこれ1年以上一緒にトレーニングに励んできた。それでも、こんな風に喋ったことは無かったはずだ。

 

「……と、いいますと?」

「皆さんがどうしてもミホノブルボンさんの無敗の三冠が見たいと、そういう風に思っているようなので。」

「え、あぁ──」

 

「もう、やり直しちゃいますか?」

 

形勢が逆転したような状態でトレーナーはそんな風に、軽薄に言って笑った。

 

「やり直す!?そ、それは──」

 

「もしかしたら今の状況は、夢かもしれませんよ?ほら、じきに目覚まし時計が鳴って、起きたらレース当日の朝かもしれないじゃないですか?」

 

これには記者達もインタビュアーも、開いた口が塞がらなかった。カメラのフラッシュ音が止んだ。そしてその後、ざわめきが起きた。

 

そしてインタビュアーが再起動し、驚きながら尋ねた。

 

「そ、それは今日走ったウマ娘の方々にも失礼ではないですか?今日のレースを無かったことにするっていうことですよ!?」

 

騒然とする中で、ライスシャワーはこの声を一回だけ聞いたことがあることを思い出した。

 

 

「じゃあお前らはなんなんだよ!ミホノブルボンミホノブルボンって!じゃあこの菊花賞はなんだ!このレースで勝ったのは誰だ!ライスシャワーだろ!ライスシャワーはG1一勝目だ!俺は2年目だ!この事実になんか問題でもあるのか!?本当にすげぇよ!無敗でここまできたのは!じゃあなんだ!?勝っちゃいけないのか!?空気を読んで無敗の三冠にしてやればよかったのか!?譲られた勝利に、その冠に価値なんて感じないだろうが!お前らが侮辱してるのは、ライスを!ミホノブルボンを!このレースに走った全員を侮辱している!」

 

 

自主トレーニング中に足に違和感を覚えたがそのまま続行したことを、翌日トレーナーに言った時だ。

なんて、目の前で怒声を荒げるトレーナーの前で呆然と見ていた。

 

 

「観客のお前らもだ!何が無敗の三冠だ!こっちは人生賭けてんだぞ!一生に一度のレースに勝とうって必死になってんだぞこっちは!感動ドラマがみたいんだったら家でテレビでも見てろ!映画館にでも行け!こっちはお前らに見せる出来レースやってるんじゃねぇんだよ!夢を見るためにレース見に来てるお前らじゃわかんねぇだろうがなぁ、こっちは夢を叶えるために毎日汗水たらしてんだ!ふざけやがって!純粋にウマ娘を応援する気があるんだったら!応援してるやつが負けたとしても、勝利者は称えるべきじゃねぇのか!?気に入らなかったら攻撃していいのか!?だったら俺もいいよな!俺もお前らが気に入らない!おあいこだよな!」

 

さすがに係員達が止めに入ろうとするも、内容が内容なだけに共感する部分もあり積極的に止めようという雰囲気ではなかった。

それに、

 

「それくらいでいいだろう」

 

ミホノブルボンのトレーナーも近づいてきていたからだ。

 

「初インタビューではしゃぎ過ぎだ、若いの。まぁ、気持ちは分かるがな。」

 

そう言った後に記者達をひと睨みして、

 

「ミホノブルボンの勝利を願ってくれるのは嬉しいが、それをレースが終わっても持ち出されるのも気まずいもんです。ましてやインタビューでは特に。もう、聞きたいこともないでしょう。……ほれ、行くぞ。」

 

「……ありがとうございます。」

「はい。」

 

 

そうして、少し嬉し気なミホノブルボンのトレーナーと、一気に恥ずかしくなり顔を真っ赤にしたトレーナーと、ニコニコのライスシャワーが退場し、インタビューは終わった。

 

 

 菊花賞勝利者インタビュー映像は、テレビでは絶叫前だけ流していた。

しかし近くで一部始終を撮影していた人がSNSに投稿しており、レース場にいた人も大勢いたわけで、インタビューに対する疑問や、後半が面白いのにという声が多く上がった。

 

 

 

おまけ

 

 

「疑問。なぜライスシャワーさんは、あのインタビュー後笑顔だったのですか?」

「あの時は、お兄様って本当に私の事を心配して怒ってくれたんだなって」

「解消。ありがとうございます。」

 

ミホノブルボン:勝利後の記者や観客に怒った事だと思っている。

ライスシャワー:過度な自主トレを本気で怒られた事(前にも伝えた事がある)だと思っている。

 






ハーメルンに初めて投稿するので、こういうタグもつけたほうがいいっていうのがあれば教えてください。
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