ライスシャワーの勝利を汚されたトレーナー   作:わすれもの

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品質を守るか曜日を守るかで曜日を守ります。


天皇賞春ウイニングライブ

天皇賞春。3200mの芝の先を走り終えたライスシャワーに待っていたのは、勝利。

 

 そして、観客席の落胆の声だった。

 

 退屈とまで称されたメジロマックイーンのレースが、これ以上なく白熱したその結果。もたらされた敗北には、彼女自身の感情が追い付いていなかった。彼女の視界にあったのは、観客席をただ呆然と立ち尽くしているライスシャワーがいた。

 

 

 菊花賞とは打って変わって、記者達に心配そうな表情をされながらの勝利者インタビューは、2人にとって、今回は今回でやりづらいものだった。

 菊花賞の時は完全アウェーのような空気で、ライスシャワーは人間不信になりかけ、トレーナーは怒りに飲み込まれそうだった。

 しかし今回は記者が味方のようで、カメラにも笑顔を向けやすかったがその後ろにいる観客が問題だった。ライスシャワーは優しいので記者達に笑顔を向けるが、途中途中で目をつむるなとしてしまい記者に謝るなどの対応が。トレーナーはトレーナーで観客の顔を覚えようと目を凝らしたいが、さすがに天皇賞ともなると変な表情をカメラに見せる訳にも行かなかった。

 

 

───

 

 

 その日の全てのレースが終わり、控室からステージの舞台袖へと移る。

 その間トレーナーはなんとか菊花賞の時との相違点を見つけては、今にも泣きそうなライスシャワーを宥めすかしていた。菊花賞のライブの時に浴びたあの罵声。それがトラウマとなって彼女を離すことは無かった。

 

 あの時は観客席にいたトレーナーも今回は舞台袖にいてすぐに対応できるようにしようとした判断は、正解だと証明されてしまった。

 

「「「マックイーン!マックイーン!」」」

 

 舞台袖からでも観客席の声は聞こえてくる。そしてそれは、最悪な声援だった。観客席の一部でマックイーンコールが起きていたのだ。先に到着していたメジロマックイーンとそのトレーナーは、複雑な表情をしていた。

 

 

 

「……ぁ」

 

 小さい声と共に、ライスシャワーの頬には一筋の水滴が流れ落ちた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「ライスさん……私のファンが申し訳ありません。」

 

 自分が悪いわけでもないのに謝り始めた彼女に、メジロマックイーンは駆け寄り背中をさすった。

 

「ライスは悪くないさ。……今日はもう、ライブに出ないで休もう。」

 

 そう言って頭を撫で、近くに置いてあったマイクを持ってステージへと歩き出した。

 

「ちょ、ちょっとダメですよ!」

 

「お願いします!俺は!ライスがあんな目に遭わなきゃいけない理由が分からない!センター不在のライブをやるぐらいなら、少しでも俺に時間をください!マイクをオンにしてください!お願いします!」

 

 スタッフが困り顔で止めると、トレーナーは迷わずに上半身を90度下げた。そこに援軍が入る。

 

 

「……スタッフさん、私からもお願いします。今回のは、余りにも見ていられません。」

 

「いやー、ウチのも色々ありましたけど、それでもこんなことは無かったですよ。菊花賞の時もひどかったみたいですし、やらせてあげてください。どうか、この通り。」

 

 メジロマックイーンとメジロパーマーのトレーナーだった。2人も頭を下げており、ライスのトレーナーは表情をうかがうことはできなかった。

 

「……見に来てくれたファンのためのライブ。応援してくれた方への恩返し。それを支える為に私共もスタッフをやっていますが……えぇ、分かりました。音響さんには、トレーナーからの発表があると伝えておきます。」

 

そう言って、スタッフはトレーナーにマイクを渡した。

 

「ありがとうございます!お二方もありがとうございます!」

 

そう言って彼は走りだそうとして、足を緩め、歩いてステージに出ていった。

 

 

 

「あー照明さん、今からライスシャワーのトレーナーさんが言いたいことを言ってくれるみたいなんで、ステージお願いします。」

 

 スタッフのその指示が聞こえたからだった。

 

 

────

 

 

暗転しているにステージにライトが当たるも、一人だけ歩いて出てきたことに会場はざわめいたが、トレーナーの一言で一気に騒然とした。

 

 

「えー、本日のレースで一着を取ったライスシャワーですが、一部のファンの方々によるコールのせいでウイニングライブには出ることができなくなってしまいました。」

 

「お静かに願います。お静かにお願いします……えー舞台袖で準備していた際、一部の方がコールしていたのが聞こえてしまい、メンタル的な不調となってしまいまして、急遽ではありますがこのような形でお知らせ致します。」

 

 

 冷静な口調ではあったが、それにいい気になったのか野次が飛んできた。

 

 

「それでも出てくるのが筋ってもんだろ!」「センター無しでもやれよ!」

 

 

 無遠慮という言葉が相応しいその野次に、トレーナーは耐えられなかった。

 

 

「いい加減にしろお前ら!」

「さっきからマックイーンマックイーンって!お前らが応援しているのはよく分かった!でも限度があるだろ!レース前の期待も!レース後の失望も!今もなおお前らから押し付けられるプレッシャーは、余りに大きすぎる!お前らには見えていたか!?緊張に震えるマックイーンの姿が!レース後の落ち込みようの凄さが!見える訳ないよなぁ!応援という色眼鏡越しに見る彼女の姿は、いつも凛々しい令嬢だもんなぁ!」

 

「お前らは一体何を応援しているんだ!メジロマックイーンを本当に応援しているのか!?天皇賞春3連覇という記録が見たいだけじゃないのか!半年前の菊花賞のときもそうだ!ミホノブルボンの敗北ばかりに目が向いてたよなぁ!無敗の三冠!天皇笙三連覇!記録を阻止したらどんなに批判してもいいのか!?」

 

「じゃあなんだ!?ライスシャワーは勝っちゃいけなかったか!?偉大な記録を達成させるために出来レースでもすればよかったか!?なぁ!誰か何か言ってみろよさっきみたく!さぁ!」

 

 

 10秒ほど待っても、誰も何も言えず終いの観客席は、ただペンライトだけがゆらゆら揺れており皮肉にもライブ開催中の様相だった。

 

 

「静かなもんだなぁおい!さっきまでの威勢はどうしたんだよ!……そうだよなぁ!反撃なんて想定してないもんな!お前の見たい記録以外は見えないんだもんな!目の前の結果を受け入れられないからそんなに騒ぐんだもんな!そんな風に願われる勝利ってのは、ただの押し付けでしかねぇんだよ!誰にとっても!」

 

「お前らは忘れたんだろうが、俺たちは忘れない!菊花賞で勝った時のあの落胆を!ライブ前に浴びたあの罵声を!あの時の悔しさを忘れることは絶対に無い!俺は今怒りでこの場に立っている!そしてライスシャワーは今、悲しさに打ちのめされている!なんで、なんでG1ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないんだ!なんで、よりにもよって心優しいライスがこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」

 

 

 思いの丈を吐き出し切り、呼吸を整えた彼は観客席を改めてもう一度見渡した。

 そして、思い出した。こうなってしまったもう一つの元凶がいることを。

 

 

「……そもそもだ。」

 

 

 彼は会場の高いガラス張りの観客席を指さす。

 

 

「URA!一体全体どうしてこんな事になってる!G1だぞG1!日本のレースの最高峰なんだよな!天皇賞なんだよな!その勝者が称えられなくてどうすんだよ!なぁ!」

 

「日本のウマ娘の憧れが!今ここにあるべきだろうが!頂点を目指す!皆に幸せになってもらう!日本一になる!誇りを取り戻す!いろんな想いを持って彼女たちは走ってるんだぞ!それを、それをこんな惨状にしやがって!」

 

「これが日本のウマ娘レースを主催する団体なのか!?許容していいのか!もっと前から広報なり広告なりできただろうがよ!メジロマックイーンの三連覇を煽るのはいいが、その他にも宣伝する方法はあったはずだろ!?菊花賞の時からなんにも学んで無いんだなお前らは!」

 

「あの時はもっと酷かったなぁ!トウカイテイオーの分もあって、凄い盛り上がりだった!『無敗の三冠を見逃すな!』なんて感じのポスターばっかりだった!よく覚えてる!覚えてるよなお前らも!だからライスが勝った時……あんな事になった。」

 

「勝利後インタビューなんてマスコミに責められた気すらした。観客も酷かった。ライブの反応も聞いてられなかった。それでもお前らは、俺たちにコンタクトの一つも取ろうとしなかったよな。……知ってるか!?ミホノブルボンはライスシャワーに謝ったんだぞ!彼女は何にも悪くないのにな!もちろんライスが悪いわけでもない!誰が悪いわけでもない!いや、あの時の観客達に今も腹は立ってるが、それだってしょうがない!」

 

一呼吸おいたトレーナーは、独り言をこぼすように、それでも視線だけは変わらずに続けた。

 

「……だから昨日は嫌な予感がしたんだよ。天皇賞春前の宣伝ポスターもCMも、メジロマックイーンとそれを止める刺客たちみたいな扱いで、同等の扱いじゃなかった。レース運営とグッズ展開で金儲けにかまけるお前らURAに、勝てると思われていないこっちの力不足でもあるが、それでも……それでもこっちは必死に頑張ってきたんだ。お前らと違って賞金目当てで走ってるわけじゃないからな。1レース1レースどうやったら勝てるか、研究して対策して、命がけで毎回勝つか負けるかやってんだよ。」

 

「大きな力で世論形成は楽しかったか?レースに絶対は無い。そういう世界だろうがここは。既定路線、確定したレース結果。そんなものはあるわけないだろうが。国民的スポーツエンターテインメントを名乗るんだったら、それくらいの周知の事実ぐらいは知っておいてくれ。」

 

 そしていいこと思いついたといわんばかりにニヤつき、

 

 

「ガラス越しの観客席から見るだけでそんなに歪むか?あぁ、レンズ越しでしか見れないからか?もっといいの紹介してやろうか?肉眼っていうんだけどな。」

 

 

言うだけ言って、すっきりとした表情で舞台袖へと戻っていった。 

 

 

 そして数分後に会場アナウンスで、正式にウイニングライブを中止することが流れた。

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

もともと観客席でライブを見るトレーナーはセンターでもない限り新人くらいなもので、それなりに経験を重ねると控室でレースの考察をしていたりするが、今回ばかりは心配なためセンターのメジロマックイーンとメジロパーマーのトレーナーは舞台袖に付き添っていた。

 

 

ライスTがステージへ向かった後、

 

マクT「若いですね……」

パマT「俺達も負けてらんないっすよ」

「ですね。我々は我々で、できることをしましょう。」

「そうしましょう。」

 

というわけでメジロの力を借りて、URAに圧力をかけていた。

 

 

 

ライスTが戻ってきた後、

 

マクT「…………」余りの発言内容に口を開けて固まっている

パマT「あっはっは、若いね~。」

ライスT「いやー、色々ありましたけどすっきりしました。改めて、ありがとうございます。」

 

 

 

マックイーン 「ライスシャワーさんのトレーナーさんって……」

ライスシャワー「うん。どんなに非難されていても手を伸ばしてくれるお兄様なんだ。」

パーマー「うっわー、あんなにURAに直接言える人初めて見たなー……」






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