ライスシャワーの勝利を汚されたトレーナー   作:わすれもの

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書ききれないので分割します。


天皇賞春勝利後インタビュー(別の世界線)(1/2)

 大財閥のメジロ家総帥であるメジロアサマの下に、一通の手紙が届いた。もちろんその他にもこなすべき仕事はあり、手紙も毎日のように届いている。しかし、今日届いたものだけは毛色が違っていた。白い封筒の表に大きく、「謝罪状」と書かれていたのだ。

 郵便物で謝罪するのではなく直接来るのが筋では、とか、差出人を見ても何か気に障るようなことをされた人物に該当するわけでも無いのになぜ急に、とか色々な謎故に開けるのに一瞬の躊躇こそあったものの、ペーパーナイフで封を切り、中の便箋を取り出した。

 

拝啓

 

春の陽気が心地よく感じられる季節となりました。皆様におかれましては、ますますご健勝のこととお喜び申し上げます。日頃より、レース会を支えてくださっていることに、心より感謝申し上げます。

 

まずは直接ご挨拶に伺うことができず、誠に申し訳ございません。不躾なお願いではありますが、いきなりのご訪問ではご迷惑になるかと考え、控えさせていただきました。

 

さて、来たる天皇賞(春)においてですが、我が陣営はその栄冠を目指し全力を尽くす所存であり、恐縮ながら春の盾を手に入れさせていただきたく存じます。

 

ただ、昨年の菊花賞をお調べ頂くとお分かりかと存じますが、勝利が必ずしも正しく讃えられないのではないかとの懸念も抱いております。従いまして、勝手ではございますが、この天皇賞を汚すことになるかもしれません。

 

若輩者の戯言とお受け取りいただいても結構ですが、事前にお伝えしておきたく、一筆申し上げました。

 

           敬具

 

  〇〇年〇月〇〇日   

          □□ □□

 

メジロアサマ様      

  

 

 

 といった文面に、彼女は掛けていた眼鏡を外して一言だけ発した。

 

「今年の春は、京都に行くことにしましょう。」

 

 

 それを聞いたメジロマックイーンは、嬉しさ半分怖さ半分で困ったという。

 

 

 

────

 

 

「第三コーナーを過ぎてメジロマックイーンが動いた!メジロマックイーンが動いた!おっとそれにライスシャワーも続いた!メジロパーマーはリードを保てるか!」

 

 長い長い3200mのレースもいよいよ終盤となった第三コーナー手前で、メジロマックイーンは仕掛けた。前を行くメジロパーマーが去年よりもスタミナをつけ爆逃げを打ってきたのは怖いが、それでも私だってメジロなのだ。そんな思いの下、ラストスパートをかける。

 ライスシャワーは勝つためにトレーナーと作戦を決めていた。メジロマックイーンを徹底マークし、より速いスパートで差し切る。目の下のクマを隠そうともしないトレーナーが紆余曲折の末導き出した、シンプルな結論。それができるように体は仕上がった。心も前哨戦を勝って落ち着いている。ならば、あとは自分が走るだけ。そんな思いで、ラストスパートへと足に力を込めた。

 

「第四コーナーに入ってメジロパーマー厳しい!段々とリードが削られていく!」

 

 

「っくぅ!」

 

 メジロパーマーの苦悶の声が漏れる。せっかくの爆逃げでできたリードもこうも簡単に無くなるか。阪神大賞典で勝ったことで自信はついた。慢心はしていなかったつもりだ。それでも、やはりマックイーンには勝てないのか?そんな疑問が、湧き出てしまう。そんなわけがない。グランプリを制してきた私の脚はこんなもんじゃない。ここまで飛ばしてきた脚に、彼女は悪く思いながらも鞭を打つ。

 

「あぁあああああ!!!」

 

 

「正面に入ってメジロマックイーンが先頭か!?」

 

 

「すごい気迫ですが…!」

 

 後ろからほぼ真横へと移動する凄まじい威圧。ライスシャワーの体躯からは考えられないプレッシャーが、メジロマックイーンを襲っていた。それでも彼女が怯むことは無い。これまで競ってきたライバルたちとの激走。前人未踏の3連覇という偉大な記録への挑戦。そしてメジロ家のトップであるおばあ様が、この目でそれを見ようとしている事実。彼女の境遇の、経験の、現在の、その結実の証を勝利としてこの手に掴むために。

 

「私は負けません!」

 

 

 

「さぁウマ娘たちが正面に入ってきた。先頭3人が並んでいる!」

 

 

「ライスが……」

 

 (見てくれた人が幸せになる。そんなレースを走ってみたかった。でも不運なライスじゃ、そんなことは無理だと思ってた。でも……)

 

「ライスが……!」

 

 

「さぁライスシャワーが外から来た!外から来た!ライスシャワーが抜け出した!抜け出しました!」

 

 

(お兄様はそんな私の夢を笑わなかった。できると言ってくれた。ライスがいくら落ち込んだって、励ましてくれた。……最近じゃ疲れてるのか、日経賞を勝った時も喜んでくれたけど、何かを隠してるみたいだった……ライスを救ってくれたお兄様を、今度はライスが救うんだ!)

 

 

「勝ってみせる!」

 

 

「ライスシャワーのリードが広がっていく!差し返せるかメジロマックイーン!メジロパーマー!1バ身から2バ身が離れた!これはもう激しい2番手争いだ!」

 

 

「「「はああああああああああ!!!!!」」」

 

 

「先頭ライスシャワー!2番手メジロマックイーンと2バ身つけてゴールイン!2着メジロマックイーン!3着メジロパーマーです!」

 

 

 負けないと誓ったメジロマックイーン。勝つと誓ったライスシャワー。

 最後に勝敗を分けたのは、思いの違いだったのかもしれない。

 

 

「ライスシャワーやりました!本命視されていたメジロマックイーンを下し、第〇〇回天皇賞春を制しました!」

 

 この実況に、レース場の一部は歓声を上げた。そう、一部だ。

 ライスシャワーにもファンはいる。去年のクラシック戦線でも皐月賞こそ8着なもののダービーは2着。菊花賞も勝利し、ステイヤー向きの彼女はメジロマックイーンで寡占されていた長距離部門の新星としてファンは増えていた。他にもレース中とインタビューでのギャップなどが話題になり、レースファン以外にもアイドル性の人気もじわじわと増えてきていた。

 

 しかしそれでもレース場に足を運んだ観客たちの多くは、URAの「前人未踏」「史上初」などの謳い文句に誘われてきており、質の悪いメジロマックイーンのファンたちも少なからずいた。そういう人たちが上げる落胆の声も、歓声と違う音域の為よく響いた。

 

 ターフの上で勝利を噛みしめるライスシャワーは、トレーナーがこっちを見て喜んでいるのを見つけ、手を振り返した。が、彼の目がどこか濁っているように見え、不安に襲われた。

 

 

────

 

 

 そして、結局ライスシャワーは彼に聞くにも聞けずに、違和感を拭いきれぬまま勝利者インタビューとなった。

 

「天皇賞(春)を制しました、ライスシャワーさんです。率直にお気持ちをお聞かせください。」

 

「はい。身体的にも精神的にも今までで一番の状態で臨むことができて、その結果勝てたんだと思います。メジロマックイーンさんに勝つ。そういう気持ちで今まで走ってきたので、とても嬉しいです。」

 

「ありがとうございます。では、トレーナーさんもお願いします。」

 

「えー、この栄誉ある天皇賞春を、ライスと共に獲得できたというのは、トレーナーを始めたばかりの自分にとってはもう、望外の喜びです。連覇中のメジロマックイーンさんも怖かったのですが、大賞典を勝ったメジロパーマーさんも怖かったです。今回の策がうまく嵌ってくれて助かりました。」

 

 

 菊花賞の時とは違い、記者達も好意的にインタビューしてくれている。それに、ファンが増えたことで野次も少なくなっている。そんな風に少し感動していたライスシャワーは、トレーナーの返答に、やはり違和感を覚えた。普段の形式ばった対応よりも、なんだか少し軽い。しかし緊張がほぐれているにしては言葉は硬い。どこかが変だ。

 

 加速する彼女の不安は、留まるところを知らなかった。

 

 






レース勝利にまつわる話の第7回目の投稿で、初めてレースを書くやつがいるらしい。
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