その天使はハッピーエンドしか認めない   作:苦闘点

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 人が二次創作を書く時、それは欲が溢れ出した時である。


Vol.0 序章
熾宮ルカはハッピーエンドを目指したい


 

 

「─── あれが今年特例でティーパーティーに入ったという……」

 

「ええ、何でもホストがあの人の為だけに役職を作ったそうで……」

 

 

 聞こえてる。今年に限らず、ずっと向けられる好奇の目線を、一旦は無視する。しかし、耳と注意だけその声の方に向け、コソコソ話は拾っておく。

 ………実はもうこういうのに慣れ過ぎて、最近は逆に何を話しているのか気になってきているんだ。

 

 

「……というか、男子生徒……よね?」

 

「あ、貴女外部生? あの人中等部に入ったあたりから話題になってたのよ。キヴォトス初の男子生徒、って」

 

「そうなんだ……全然知らなかった」

 

 

 壇上で長ったらしい祝辞の定型文を読みながら、微妙にザワつく新入生達に心の中で「だよね〜」と相槌を打つ。

 そりゃあ、紅一点ならぬ白一点があれば話題にもなろう。だが、残念ながら客寄せパンダ的な使い道を潰そうとした幼馴染(バーサーカー)共のおかげで、噂らしい物は徹底的に潰されているのだよ。

 まあ、ティーパーティーに所属した時点で半ばそういった噂は消せなくなってるけどな。他校でも知ってる奴はいるし。

 

 

「……というかさ」

 

「……うん、言いたい事は分かるよ」

 

「「…………かなり、カッコイイよね」」

 

 

 そこの君たち既に仲良いねー。外部生同士だったのかな?

 その言葉はとてーも嬉しいんだけどね? 今その声を拾っちゃった舞台袖にいる俺の幼馴染達が、すっごい笑顔になったのよ。だからちょーっと声を抑えてほしいなって。俺の身の安全の為に。

 

 というか! 舞台袖にいる君ら、この流れは中3の時も去年もやったろう! いい加減慣れて!? 俺だって好きで目立ってる訳じゃないんだよ!

 

 

「声も落ち着くしさ、長い話もそんな辛くないね」

 

「あの人が毎回話してくれれば、集会も辛くならなそうですねぇ」

 

 

 やめて、マジやめて。コレ文読むだけだけど、結構辛いんだよ? 一定のペースと声音を維持して話すの、結構キツいんだよ?

 ……でも、他3人だとなぁ。ナギサはなんか説教じみてるし、セイアは話がこれ以上に長くて難しいし、ミカは定型文をぶち壊してフワッと終わらせるから締まらない。結局生徒からの受けが良いのは俺になるんだが、俺だってこんな大変な仕事毎回したくない。今回だってジャンケンで決めたんだぞ。

 

 …………あぁ、もう文章も終わりか。それじゃあ入学式だし、少しだけ。

 

 

「─── 以上で、()()()()()()()()()()()()私からの祝辞と致します。……最後に、ティーパーティーではなく俺個人からの祝辞ということで、この言葉を受け取って欲しい。

 

 ───── 君たちの高校生活(物語)が、最高のハッピーエンドとなる事を、心から祈ってるよ」

 

 

 

 その最後の言葉で、少しザワついていた会場が一気に静まり返った。

 俺は少し達成感を感じながら舞台袖に消えていき、その後今日一番のザワつきが会場を包んだ。

 

 あれ、いい感じに締まったと思ったんだけど……。

 

 

「─── ルカ君」「ルカさん」「ルカ」

 

「え」

 

「「「正座しよっか/しましょうか/しようか」」」

 

 

 ホワッツ?

 

 

 

 

‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎

 

 

 

 

 俺がこの世界、キヴォトスに生を受けた17年前。

 俺は自分の異変に気がついた。

 

 俺には意識があった。産まれて間も無い赤ん坊がだ。それを異変だと認識するあたりが正に異変である。

 

 そういう病気、障害なのか。はたまた輪廻転生や憑依といったオカルトチックなものなのか。どういう訳でこんな状態になったのかは分からない。

 

 だが、それ以上に大きな異変が起こっていた。それは、俺にはある自覚というか認識というか、脅迫観念が備わっていたのだ。

 

 

『この世界は物語である』

 

 

 という、はっきり言ってクソみたいなものだ。何をどう否定しようと、この考えが頭を支配する。この世界は物語に過ぎないのだと訴えかけてくる。

 

  俺が生まれたこの世界は誰かの創造物で、始まりも過程も結末も誰かの思うまま決まってるって事だ。こんなのが頭をずっとグルグルしてるんだから、クソ以外の何物でもない。

 俺の意識が子供ならまだ良かったのだろうが、精神は赤子よりだいぶ成長していた。ほぼ大人に近い精神でそんな事実を突き付けられれば、正気でいられる方がおかしい。

 

 宇宙の真理を叩き付けられた気分だった。生まれて早々に、生きる気力が無くなった気がした。

 俺がこれから生きる道に立ちはだかるであろう苦難も、それを乗り越える為の努力も、乗り越えた先の未来も、全部全部決められた物語の一部なのか、と。

 

 

 そんな失意を抱えていても、赤ん坊の俺は愛されていた。乳児の体にほとんど自由なんて無い。親の力が無ければ生きていけないが、逆に親がマトモであれば余程の事が無い限り生きられるのだ。

 

 泣かない子供と言われながらも、俺は6歳にまでなった。それまでの記憶はほとんど無い。ただ生かされるだけの日々だったからな。

 

 トリニティ総合学園初等部と言われる学校に入り、同年代の子供と顔を合わせるようになっても、こちらは精神年齢が10代後半以上。しかも何故か同性がいない。流石にコレには冷めきっていた心も少し溶けた。具体的には「なぜ?」で埋め尽くされたのだが。

 

 とにかく、そこでも俺はただ世界に生かされるだけなのかと考えていた。自分から何をしても、世界(物語)の言いなりになった気がして、何もする気が起きなかった。

 

 そんな時だ。俺に話しかけてくる子がいた。

 

 

『ねぇ、君もコッチ来ない? いっしょに遊ぼうよ!』

 

『……いや、いいよ』

 

『え〜? 面白いよ?』

 

『……何やってるの』

 

『おままごと!』

 

『じゃあやっぱりいい』

 

『何でよ! お父さん役にピッタリなのに!』

 

 

 男が俺しかいないのだからそうだろうな、と思いつつも、俺はその子からの誘いを突っぱねた。

 

 それからだ。その桃色髪の子は事ある毎に俺に話しかけてくるようになった。

 

 

『今日は犬役だよ!』

 

『父親役が嫌だったわけじゃない。ペットに降格してるじゃねえか』

 

『え! じゃあお父さん役やる?』

 

『やりたいとも言ってねえよ』

 

 

『ねえねえ、何の本読んでるの?』

 

『経典』

 

『面白いのそれ?』

 

『あぁ。特に世界創世のところとか滑稽だぞ』

 

『コッケイ? ニワトリさん?』

 

 

 育ちは良さそうなのに頭は良くなさそうなその子は、しつこく話しかけてきたのに何故か跳ね除ける気が起きなかった。人柄のせいか、話しかけられるとつい返答してしまう。

 

 俺にとって最大の転機が訪れたのは、ほんの俺の気まぐれからだった。初めて俺から彼女に話を振った時だ。

 

 

『……お前はさ、この世界が物語だって知ったら、どうする?』

 

 

 ただの興味本位だった。普通の子供ならどう思うんだろうと気になって聞いた。

 すぐに我に帰り、無かった事にしようとしたが、彼女の返答の方が早かった。

 

 

『え? う〜ん、そうだな〜。あ! お姫様! 私、お姫様になりたい! 絵本に出てくる、キラキラしたお姫様!』

 

 

 ……なんて事を言うから、思わずポカンとした顔になってしまった。

 子供としちゃ正しいのだろう。何なら、そうやって夢見るのは子供の特権と言える。

 

 だが、その時の俺には余裕が無かった。

 

 

『……何言ってる。物語なんだぞ。どうなるか、どうなりたいかなんて、無意味で虚しいだけだ』

 

『? 何言ってるのか、イマイチ分からないんだけど……』

 

『未来なんて全部決められてるんだよ! 何したって、それに俺の意思なんて無くて……!』

 

 

 我ながら、初めて年相応に感情をさらけ出したと思う。きっと、羨ましかったんだ。そんな希望に満ちた事を言えるのが羨ましくて、妬ましかった。そんな子供みたいな癇癪だ。

 

 彼女も一瞬面食らっていたが、すぐにムッとした表情になって言い返してきた。

 

 

『何言ってるのか難しくて分かんないよ! 私がなりたいの! だからなるの!』

 

『だから、物語なんだぞ! 結末なんて端から決まってるのに、何するって 『じゃあ!』 !?』

 

 

『じゃあ! ここが物語なら、私が主人公になる! 私が全部決めるの! 私も君も、みんな笑えるハッピーエンドにするの!!』

 

 

 ……今度は俺が面を食らう番だった。

 

 考えた事もなかった。いや、考えたくなかった。この世界が物語だと認めるようなものだから。

 だから、誰が主人公だとかは頭に無かった。無意識に追い出していた。

 

 それを突きつけられて、その上で主人公だから私がどうにかすると啖呵を切られて。

 

 

 それでようやく、俺を支配していた考えが消え失せた気がしたんだ。

 

 

 この世界が物語だとしても、主人公はコイツみたいに誰にでもなれる。誰にでもなれて、誰でもこの世界(物語)をどうにかできるんだって。そうコイツが教えてくれた。

 

 俺は、物語は作者が考えて書き綴る物だと思っていた。けれどそれ以前に、物語は主人公を描くものだ。主人公が為した事、為す事が物語になるんだ。

 

 ─── なら、この先何が起こるかなんて、分かりっこないじゃないか。

 

 

 頬をプクーっと膨らませていた彼女は、急に俯いてしまった俺にひどく慌てた様子だった。

 顔を上げると、いつも笑顔だった顔がアワアワとしていて、それが無性に面白かった。

 

 

『……ハハ、なんだその顔。そんな顔もするんだな』

 

『誰のせいでこうなったと思ってるの! ……あ、でも、君笑った! やっと笑った!!』

 

『え? あぁ、確かにな。表情筋死んでなかったのか』

 

 

 生まれた瞬間世界に絶望したわけだからな。笑うことなんて無いに等しかった。

 初めての笑顔が人の慌てた顔を見てとか、俺は結構いい性格をしているのかもしれない。

 

 俺の笑顔を見た彼女は、何故か俺よりも嬉しそうにしていた。

 

 

『君、ずっと暗そうにしてたから。ずっと笑わせようって思って、頑張ってたから。笑ってくれて良かった!』

 

『だから何かと話しかけてきたのか。てっきり俺と同じで友達がいないのかと思ってた』

 

『いるもん! ナギちゃんがいるもん!』

 

『はいはい』

 

 

 またも頬を膨らませる彼女を笑う。

 

 彼女が主人公なら、お転婆なお嬢様キャラか。それともシンデレラ系のお姫様になるのか。

 彼女の物語がこの先どう綴られるのか、気になって仕方がなくなった。色々吹っ切れて、そんな事まで思うようになった。

 

 彼女を主人公とするなら、俺はさしずめそのファンか。

 いや、俺もきっと、俺の物語の主人公なのだろう。

 では俺が俺の物語をどうするのか……それはその時には決まっていた。

 

 

『そう言えばさ、名前を聞かせてくれよ』

 

『あ、そうだった! 自己紹介まだだったね! なんだっけ、アイスドリンク?みたいなので止まってたよね』

 

『アイスブレイクな』

 

『それそれ! ……えーっと、それじゃあ改めて……』

 

 

『私は聖園みそのミカ! 君は?』

 

 

 ─── 俺は彼女の、聖園ミカの物語をハッピーエンドにするための物語を綴ろう。

 俺がこの先出会うであろう、大切な存在になる人の物語をハッピーエンドにする。その為にこの物語(世界)を生きよう。

 

 差し当たって、このキラキラしたお姫様のような少女の為に……

 

 

『俺は、熾宮しのみやルカだ。よろしくな、ミカ』

 

『うん! よろしくね、ルカ君!』

 

 

 これから、俺の物語を始めるとしよう。

 

 

 

 

‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎

 

 

 

 

 そんなこんなで11年の時が過ぎ、俺はもう高校3年生ですよと。時の流れという物は速い。その内爺さんになったら、ライフル弾が目の前を通り過ぎるかの如く1年が流れるのだろうな。

 

 

「どーこ見てんのかなー? ルーカ君☆」

 

「どこか遠くかな」

 

「ナギサ、ロールケーキを追加したまえ」

 

「はい、ここに」

 

「待って待って冗談、冗談だからさ! ちゃんと罪と向き合ってるから! だからそのロールケーキを収めろって!!」

 

 

 もう胃袋が限界に近い。これ以上は詰められませんお客様!!

 クッソこいつ! 人にロールケーキをぶち込む時だけ力を解放しやがって! お前そんな怪力キャラじゃないだろ! 怪力キャラはミカだけで十分なんだよ!

 

 

「……ナギちゃん、もう1本追加ね☆ 不届きな事を考えた罰だよ」

 

「待てなにナチュラルにテレパスってる……やめ、マジ勘弁してください! もう口の中パサパサなんです!」

 

「それだけ喋れるのならまだいけるでしょう。ご安心ください、紅茶も沢山用意できますから」

 

 

 ……その後、色々あったがロールケーキは勘弁して貰えた。ロールケーキって拷問器具にもなるのな。正実にでもカジュアルな尋問道具として紹介しようかな。

 

 ティーパーティー用に設けられたテラスに、現在俺たち4人は座っている。前までティーパーティーでは長方形の長机が使われていたが、距離が遠いとの事で丸テーブルに買い換えた、独断で。

 気持ちを落ち着かせる意味でラベンダーティーを飲んだプラチナブロンドの少女、ナギサは長いため息をつく。

 

 

「ハアー……。それで、何故最後にあんな事したのですか?」

 

「さっきも言ったろう。俺なりのエールだよ」

 

「にしては愛想たっぷりだったじゃないか。まるで役者が観客の期待に応えるかのような見事な笑顔だったよ」

 

「新入生には愛想良くしないと怖がられるだろ……」

 

 

 皮肉たっぷりに言う金髪狐耳の少女、セイアにそう言い訳するが、コレはさっきもやった流れ。つまり俺の言い分は通用しない。

 

 

「は〜、これで新入生ちゃん達もルカ君にノックアウトだね〜。まーた私達の知らないところで知らない女の子引っ掛けて来るんだろうね〜、ルカ君は」

 

「またってなんだ。俺が自発的に引っ掛けた子なんていないだろ」

 

「かしこまった口調から素に戻ってあんな笑顔であんな事言われたら、女の子は大体引っかかるよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなの」「そうです」「そうだよ」

 

 

 いや、確かにちょっと気障っぽいセリフだとは思ったけど、そんな力強く言うかね……。

 紛れもない本心なんだけど、それがいけなかったのか? いやアレに関しては偽りたくないしな。

 どうしたもんか…………あ、もうこんな時間か。

 

 

「悪い、お説教はまた後で受ける。新入生説明会に顔出してくるから」

 

「もうそんな時間でしたか。でしたら、我々はここで待っていますね」

 

「今度は変なこと言わないようにね。下手に噂になるとまた他校に広がらないようにするのが大変だからね」

 

「偽りない本心なんだけどなぁ……」

 

「だぁから困ってるんだけどねー。とにかく、頑張ってきてね〜」

 

 

 セイアからの小言はあるものの、だいぶ機嫌は直ってくれたっぽい。よかったよかった。

 紅茶を飲み干してから席を立ち、最後に言いたい事だけ言っておく。

 

 

「言っとくけど……最優先でハッピーエンドにしたいのは、お前達だから」

 

「「「え」」」

 

「それじゃあね」

 

 

 そう言って俺は踵を返しその場を去った。

 

 ここからのテラスの光景を俺は知らないが……耳まで真っ赤にした3人が黙って突っ伏していたそうな。

 

 それで帰ってきたらまたロールケーキをぶち込まれたのだが、何でぇ?

 

 





 一つ、彼は転生者ではない。ただ高校生くらいの精神を持って生まれてきてしまっただけの子供である。

 一つ、彼はブルーアーカイブを知らない。仮に知ったとしても、ハッピーエンドなら良し、バッドエンドならぶち壊すのみ。

 一つ、彼のハッピーエンドに関する言動は、2割からかい、8割本気である。それを微笑んで言われるため、言われた方は悶える。

 一つ、彼は自分に対する好意にはそれなりに敏感である。親しい者については特に。
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