その天使はハッピーエンドしか認めない   作:苦闘点

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 先生の性別はまだ決めてない。


プロローグはいつ始まるか分からない

 

 

 セイアの襲撃のことをミカとナギサに伝えた後、俺たちはその対応について話し合った。

 

 ひとまず、セイアの失踪は、病弱な体故に入院することになったということにした。これはあくまで対外的に知らせる情報であり、行方不明という情報は俺たち3人だけに留めておく。

 それにより今期ティーパーティーホストだったセイアの代わりに、ナギサをホスト代理とすることで決定した。

 

 次に同じく失踪したミネについてだが……これはミカとナギサも薄々気付いてるようだったので素直に話した。ミネがセイアの護衛をやってくれていること。そして、誰からも一切の連絡が取れない状態にあること。

 これはミネの徹底ぶりだ。襲撃犯が分からない以上、迂闊にコンタクトを取るべきじゃないという事だろう。

 救護騎士団には心配と迷惑をかけるが、そこはティーパーティーでフォローするということになった。

 

 

 ミカとナギサは、セイアが何処にいるか分からない不安は抱えながらも、概ねいつも通り過ごしている。時折思い詰めたような表情は見せるものの、聞けば大体話してくれる。

 けど、なら安心、とはならない。二人とも俺には素直に話してくれるが、抱え込みやすいところは変わっていないから。

 

 救護騎士団に関しても、混乱はあるものの深刻な状態にはなっていない。セリナやハナエなど皆、ミネの信条を守って日々救護を頑張ってくれている。

 

 また、セイアと親交のあったハナコだが……まだ何も言ってきてはいないが、何か気づいていてもおかしくない。あの子は一を知って十でも百でも知れる子だ。数少ないセイアの友達でもあるし、そのうち事の真相に気付くかもしれない。

 

 

 ……そして、あれから俺はカタコンベには足を運んでいない。セイアからの頼みもあるが、俺自身アリウスがセイア襲撃の容疑者の一人だと思っているからだ。少なくとも、あちらから動きがあるまではこちらから接触すべきではないと思った。

 

 アズサはあの日以来、普通に学生生活を送っているように思う。何処からか持ってきたガスマスクを着けているのは見かけたが、そのくらいだ。

 

 

 とまぁ、色々憂慮すべきことはあるが、その後のトリニティは至って平穏だった。何か大きな事件もなく、平和に過ごせていた。

 

 その平穏が崩れたのは、セイア襲撃から数週間経った後。

 

 

 

『─── ルカ先輩。こちら守月、制圧が完了しました』

 

『こっちも終わりましたよ!! ルカさん!!』

 

「あぁ。お疲れ様、スズミ、レイサ。あとレイサはもう少しボリュームを下げてくれていいぞ。トランシーバー越しなら十分伝わるから」

 

『分かりました!!』

 

 

 キーンとなった片耳を抑えながら、俺はトランシーバーの電源を切った。

 

 ここはトリニティ自治区郊外、商店街の立ち並ぶその場所は、現在は俺が叩きのめした不良共で埋め尽くされていた。

 ここ最近、頭を抱えたくなる数の不良が街に出現している。スポナーでもあるのかってくらいの無限湧きだ。ぶちのめしてもキリがない。

 多くの部員を持つ正実でも自治区内で手が回らないそうなので、非公認の部活であるトリニティ自警団にも協力を仰いでいる状態だ。

 なんならボランティアとしてティーパーティーも参加しているらしい。一体誰だろうな。

 

 俺はもう一度トランシーバーをオンにし、その先にいる自警団の守月スズミと宇沢レイサに声をかけた。

 

 

「どうせまた湧いてくるだろうけど、ひとまずは休んでくれ。さっきのでここら一帯にいた奴らは全員制圧したはずだ」

 

『分かりました。ルカ先輩もきちんと休んでくださいね』

 

『抜け駆けは許しませんよ!』

 

「分かってるよ。それじゃあな」

 

 

 俺は今度こそ電源を切り、連戦で疲れた目を押さえた。

 

 

(……今までにも不良が増えることはあったが、これは明らかに異常だ。学級崩壊どころか学園崩壊レベルだぞ……)

 

 

 ミレニアムでは発電所がシャットダウンしたらしいし、矯正局からの脱獄者も出たらしい。

 数日前電話したヒナなんて、死にそうな声で『もう学園ごと破壊すれば全部消えて無くなるかしら』と本気なのか寝不足による冗談なのか分からないことを言っていたくらいの限界状態だった。流石のヒナでもあそこまで至った姿は見た事がなかった。

 

 比較的不良の少ないトリニティでも、正実の手が回っていない状況。それが今、このキヴォトス全域で起こっている。明らかな異常事態だ。

 

 

 俺は学園に戻り、最近は一日一回は開かれるようになったティーパーティーの会議の席に着いた。

 

 

「……無理はするなと言っているでしょう」

 

「俺より無理してる子がいるんだ。男として無理しない訳にはいかないだろ」

 

「ルカ君にはルカ君の仕事があるでしょ。何でもかんでも首突っ込んじゃ駄目だよ」

 

「それは……はい」

 

 

 開口一番にナギサから心配と怒りが混じった声で言われてしまった。それに言い返したらミカから真顔の正論を食らった。これは本気で怒ってそうだ。

 

 

「とにかく、二人とも調査結果は見たろ?」

 

「とても信じたくはない内容でしたけどね」

 

「私思わず二度見しちゃったもんね〜。報告書であんな数字あったら間違えたのかなって思っちゃうよ」

 

 

 その調査結果というのは、ここ数週間の自地区の治安についてだ。

 スケバン、ヘルメット団等の不良生徒の増加率、プラス500%。一般生徒の犯罪遭遇率、プラス800%。戦車やヘリコプターも含めた出所の不明な武装の不法流通率、プラス2000%。

 

 ミカの言っている事も頷けるように、笑っちゃうような数字だ。何だ2000%って。アホの算数か。

 しかしこれは事実。マジで信じたくない。しかもこれはトリニティにおける数字だ。普段から治安が終わってるゲヘナがどうなってるかなんて想像もしたくない。

 

 

「ここまで来たら一周回って笑えてきちゃうよね!」

 

「ぜッッッたいに笑い事ではありませんよミカさん。ロールケーキしましょうか?」

 

「ナギサも割と限界状態だなコレ」

 

「普段より沸点低くなってるよねコレ」

 

 

 自律神経を落ち着かせる為にナギサにはハーブティーを淹れておく。それをナギサは一息で飲み干した。やはりもう限界そうだ。

 セイアの事やエデン条約の事で大変な時期にこの混乱。その心中は察するに余りある。

 

 

「とにかく、これはもうトリニティだけに収まる問題じゃない。他の学園でも同じような状況らしいし、早急に連邦生徒会にコンタクトを取るべきだ」

 

「そう言えば、連邦生徒会長が居なくなったとか噂が流れてたけど、どうなんだろうね?」

 

「噂は噂ですよ。……しかし、もしそれならこの混乱も少しは納得がいきますね」

 

「それも含めて確認しに行く。行くのは正実からハスミかイチカのどっちか。あとは……自警団からも一人行かせよう。最近は治安維持に一役買ってくれてるし、連絡はスムーズな方がいい。それでいいか?」

 

「異議はありません。正義実現委員会の方には連絡しておきますね」

 

「私も異議なーし。でも珍しいね。ルカ君なら自分が行くって言うと思ってたのに」

 

「言っても行かせてくれないだろ……」

 

「よく分かってるじゃん」「よく分かってますね」

 

 

 確かに行きたいか行きたくないかで聞かれれば、そりゃ行きたいとも。そっちの方が連絡も早いし、何よりこんな事になった理由を聞かなければ気が済まない。

 しかし、ティーパーティーから誰か行くとなると……戦力的にナギサは駄目。交渉力的にミカは駄目。そして俺はその二人にトップがホイホイ行くなと言われる。セイアの一件があったばかりだし、二人にはあまり苦労はかけたくないのだ。

 

 

「じゃあ、そういう事で。俺は今から正実の方に……」

 

「行かせるとお思いですか??」

 

「やっぱ分かってないじゃんね」

 

「これくらいは見逃してよォ!」

 

 

 

 

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 昨日の会議から1日経った。

 

 連邦生徒会への説明要求には、正実からはハスミ、自警団からはスズミを行かせることになった。この2人なら交渉事でも大丈夫だろう。ゲヘナの件でハスミには不安もあるが、今回はゲヘナに関係は無いので大丈夫だと思いたい。

 

 スマホを見ると、現在キヴォトスの中心たるD.U.の外郭地区では大騒ぎが起こっているらしい。何でも、矯正局を脱走した生徒が暴動を起こしているそうな。

 

 

「完全に世紀末だな……。ハスミとスズミ、怪我してないといいけど……ん?」

 

 

 そう心配していると、丁度そのハスミから電話が掛かってきた。

 

 

「もしもしハスミ。どうした? 道に迷ったのか? どこか怪我してないか?」

 

『ふざけてる暇は無いのですが』

 

「ごめんて」

 

『はぁ……。首席行政官から話を聞けたので、その報告を。私は現在移動中なので、その間だけになりますが』

 

「移動中? ……まあいいか。それで、何があった?」

 

 

 電話の向こうからの音を聞く限り、ハスミはヘリに乗っているようだ。時間的にとっくにサンクトゥムタワーには着いている筈なので、そこから移動中なのだろう。

 気にはなるが、ひとまずハスミの報告に耳を傾ける。

 

 

『まずこの混乱についてですが、連邦生徒会長が失踪したことによるものだそうです。それによりサンクトゥムタワーの最終管理者が消え、連邦生徒会は行政制御権を失っていたようです』

 

「……成程な。あの化け物会長が居なくなれば、そりゃ連邦生徒会も混乱するか」

 

 

 まさか噂通りとはな。しかし納得は出来る。『超人』と言われる連邦生徒会長の権限は詳しく知らないが、行方不明になっただけでキヴォトス全域の行政権が停止する程なのか。権力の一極集中が過ぎるぞ、少しはトリニティを見習え。

 

 

「にしても、『失踪』ね……」

 

『どうかされましたか?』

 

「……いや、何でもない。続けてくれ」

 

 

 セイアを行方不明扱いしたというのもあり、どうにもそこが引っ掛かってしまう。

 まさかセイアを襲撃したのと同じ奴がやった事では無いと思うが……これは考えても詮無い事だな。

 

 

『はい。それでその解決に必要な人物が、たった今キヴォトスに到着したとのことです』

 

「解決に必要ってことは、連邦生徒会長の後釜ってことか。そんな奴いるのか?」

 

『連邦生徒会長が特別に指名したというのですから、そうなのでしょう』

 

 

 ますます分からない。連邦生徒会長は確か指名制では無かっただろうし、わざわざ特例で誰かを指名するか?

 というか、連邦生徒会長はその誰かを指名してから失踪したのか。ならセイアのように襲撃を受けたというわけではなさそうだ。

 

 

「その指名されたってのは、誰なんだ?」

 

『連邦生徒会長が指名した、この混乱のフィクサーは……』

 

 

 『先生』という方です。

 

 

 

 

‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎

 

 

 

 

 エレベーターからの景色を見た私の感想は、「綺麗な場所だな」だった。

 近代的なビルが立ち並びながらも、青く透き通った空は素直に美しいと思った。

 空に浮かぶ多重の円環も、見慣れないけど神秘的に感じた。

 

 そう思っていたからこそ……

 

 

「"─── まさか着任早々に死にかけるとはねぇ"」

 

「呑気なこと言ってる場合ですか! だから下がっててくださいと言ったでしょう『先生』! あの不良共は貴方が先生だって知らないんですから!」

 

「先生は少なくとも私より後ろにいてください。致命傷では治せませんから」

 

 

 ……さっきみたいに、鉄の塊が私の顔スレスレで飛んでいくような場所だとは、ここに来るまでは夢にも思っていなかった。

 

 今私に叱責した青髪の女の子、早瀬ユウカの言葉に従い大人しく後ろに退がった。

 すぐ傍にいた薄い桃色髪の女の子、火宮チナツの手に持っているのは救急箱っぽいので仮に怪我しても大丈夫だと思ってたけど……これは駄目そう。銃弾なんて食らったら一発でお陀仏だね。

 

 

「痛っ! いったぁ!? あいつら、違法JHP弾使ってるじゃない!」

 

「そんなものまで出回ってるのですね。あとホローポイント弾はゲヘナでは違法ではありませんよ」

 

「言っちゃ悪いけど、ゲヘナじゃそうでしょうね! ミレニアムではこれから違法になるの! というかするの!」

 

 

 ホローポイント弾かぁ。キヴォトスの生徒はそのくらいじゃ痛い程度で済むのは分かるけど物騒だなぁ。生徒がそんなもん持つんじゃないよ。

 

 私が着任する予定だった『シャーレ』の部室前は弾丸と爆炎と戦車が跋扈する絵図となっていた。戦場かな? 戦場だったわ。

 そこには私とユウカ、チナツ、あと二人来てたはずなんだけど……

 

 

「というか、トリニティの二人はいつまで喋ってんのよ!」

 

「申し訳ありません。敵影の確認をしていました。数は50ほど。巡行戦車は10台確認しました」

 

「"そっか。ありがとね、スズミ"」

 

「いえ、お気になさらず。……それで、ハスミ副委員長に関してですが……」

 

 

「はぁ!? もう着く!? 何でそうフットワークが軽いのですか貴方は!」

 

 

 銀髪の女の子、守月スズミに礼を言い、私は後ろから聞こえる怒鳴り声の方に顔を向けた。

 黒髪長身の女の子、羽川ハスミは私とは別のヘリに乗っていたんだけど、なぜかヘリを降りたらずっとこんな感じだ。サンクトゥムタワーで会った時は落ち着いた印象だったので、その声を聞いたときはちょっとビビった。

 

 

「じゃあ切るって……! まだ話は……! ~~っ! 本当にあの人は! 私のことをとやかく言えた立場ですか!」

 

「"ハスミはさっきから誰と話してるのかな?"」

 

「さあ? トリニティの生徒ではあると思いますが……」

 

「……大方、察しはつきました。先輩が来るようです。戦力としてはこれ以上無いでしょうね」

 

「"先輩?"」

 

「ふーっ……。お見苦しいところを見せました。色々ありますが、もう問題ありません」

 

 

 スズミの学園の先輩ってことかな? だとしたら心強いけど……さっきヘリで連絡してから来るんだよね。もう着くって聞こえたけど、来るの早くない? ここから近いのかな。

 

 けど、今すべきことは……ひとまずはここを切り抜けなきゃね。

 

 

「"みんな聞いて。ここは私が指揮を……っ!?"」

 

「なっ! 巡行戦車、もうこんな距離に!?」

 

 

 みんなに声をかけようとした私の目に飛び込んできたのは、こちらに巨大な砲身を向けた戦車。

 ちょっとしくじった。今から制圧に動こうにも、あっちが撃つ方が早い。そうなると、私は障害物があろうと大怪我は避けられないし、生徒たちも直撃すれば怪我するかもしれない。

 

 

「先生は私の後ろに! スズミさんは閃光弾を!」

 

 

 ハスミにかばわれながら、私は今まさに撃たれようとしている戦車を見据える。

 さっきは冗談で言ったが、着任0日目で部室に行く道すがら死ぬなんて、笑い話にもならない。

 どうにかここで生徒たちを守りつつ、私が生き残る方法を考えてみる……ちょっと厳しそう。スズミが閃光弾を投げるよりも、砲撃の方が早そうだ。

 

 これは万事休すか……と思っていた矢先、私の視界にあるものが突然出現した。

 

 

 白い制服と紅白の髪と翼を持ったその子は、私の命を奪おうとしていた戦車に向かって何かを投擲した。

 

 

 

「─── 穿て」

 

 

 

 女の子にしては低く、けれど男の子にしては高めの声でそう呟いた瞬間。

 戦車はその子が投げた杭のようなものを中心に、大爆発を起こした。

 

 私含め、ユウカとチナツはその光景に唖然とした。しかし、ハスミは少し呆れたように溜息をつき、スズミはヒーローを見るように目を輝かしていた。

 

 

 その子は翼をはためかせ、ゆっくりと私たちの前に降り立った。

 その姿はとても神秘的で……天使のようだった。

 

 

 

「─── あっっっぶなぁ。ダッシュで来て正解だったな……。で? あなたが先生で合ってるか?」

 

「腐ってもうちのトップなのですからもっとシャンとしてください」

 

「ごめんて、そんなに怒らなくてもいいだろハスミ」

 

 

 訂正。ちゃんと普通の生徒っぽい。

 






 一つ、彼は正実ともそうだが、トリニティ自警団とも度々共闘して不良をボコしている。けど閃光弾は眩しいのでポイポイ投げるのはやめてほしい。

 一つ、連邦生徒会長失踪によるトリニティの混乱。その際の不良討伐数は1位正実。2位が熾宮ルカ。3位が自警団である。何故個人が組織と張り合ってるのか。

 一つ、彼は連邦生徒会に対するスタンスは無関心。過度な期待はしないし、頼るのも最終手段。ぶっちゃけただ居るだけだと思ってる。

 一つ、彼と連邦生徒会長に面識は無い。少なくとも、彼は会った事が無いと自認している。
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