対策委員会編はあと二、三話で終わります。
先生との面談のような雑談の後、俺はミカとナギサに先生の所感を伝えた。
「色々問題はあるけど、少なくとも悪い大人ではない」と。問題に関しては包み隠さず伝えた。とにかく胡散臭いって。
ナギサは未だ警戒を続けるような険しい顔で、逆にミカは興味津々そうに笑っていた。
「へ〜、面白そうな人だね。その先生って人☆」
なんて事を目を細めながら言ってたので、目を離した隙に先生と接触しに行くかもしれない。
出来ればやめてほしい。行くにしても俺と一緒にしてほしい。絶対にナギサの胃が爆発するし、ミカと先生がどんな絡みをするか想像出来ないのが怖い。
政治問題になることはないだろうが、俺もまだ先生の行動は予測できない。ましてやミカの行動パターンなんて以ての外だ。どんな化学反応が起こるか分かったもんじゃない。
結論、態勢は変わらず様子見。ただ前ほどの警戒は無い。という感じに収まった。
そして、アビドスについても話題に出した。
こちらは先生の方よりも厳しい。何せ他校との関係に関わってくる。アビドスの皆にも言ったが、下手に手を出せないのだ。
ナギサもエデン条約の為に積極的に動いてくれている手前、また面倒事を持ってきたことに頭を抱えていた。
「ハァ、貴方という人は本当に……。現状、此方から出来る事はありません。これまでを顧みるに、アビドスの方から要請が来ることも無いでしょう。……ですがもし、先生からルカさんに要請があったなら、少々利用できそうですね」
「わーナギちゃん、性格悪い時の顔してるー」
何でそこで煽るかなミカは。結果は分かりきってるだろ。
政治的には強かなナギサだ。それに今はエデン条約の為に、利用できる物は何でも利用したいだろう。
利用って言い方はアレだが、俺も似たような事は考えていた。もっとも、先生の為人を知った今では、そんなの関係無しにあの先生なら利用されてくれそうだがな。
それに、もしアビドスが危機に陥り先生から要請が来ることがあるば、アビドスにも貸しが一つ出来ることになる。
個人的には、それもそこそこ大きいと考えている。マーケットガードから追われている時の戦闘を見たが、あそこは全員の平均レベルが高い。五人いれば、うちの正実とも良い勝負をするだろう。
何より、まだ実力を隠している小鳥遊ホシノというジョーカーの存在が大きい。
二人はピンと来てないようだったが、『俺と同じかそれ以上に強い』と言ったら、その重大さを分かってくれたようだ。
何事も無いのがアビドスにとっては最善なのだが、そうは問屋が卸さないだろう。ナギサも知ってるが、カイザーはしつこいからな。必ず何か起こすはずだ。
それを見つつ、要請があれば手を貸す。そんで体良く貸しを作ると。実にトリニティらしいなと、自分でも笑いが漏れる。
俺としては貸し借り無しで助けてやりたいが、学校間の問題となるとこの立場が邪魔になる。こればっかりは仕方ないと割り切るしかない。
あ、ヒフミの事はちゃんと揉み消しておいた。けどもうそろそろ限界が近い。ナギサもちょっと不自然そうに眉を寄せていた。
すまないファウスト様。ジェイソンさんが力不足なばっかりに。
アビドスの一件から数日経った。
俺は現在、先生から連絡がありアビドスの病院に来ている。
「……で、何処のゲヘナの美食にやられた? 俺がどつき回してくるから教えてくれ」
「"ゲヘナまでは合ってるけど、美食って?"」
「皆まで言わなくていい。あの美食キチ共、頭は馬鹿だと思ってたがとうとう舌まで馬鹿になったか。何をとち狂えば柴関にまで手を出すんだ? あぁ?」
「落ち着けってルカのにーちゃん。その美食なんちゃらって子達は来てねえし、事故みたいなもんだからよ。気にすんなって」
ベッドの上で笑うのは、頭や腕に包帯を巻いた柴大将だ。こんなになっても笑ってのけるその豪胆さは尊敬に値するが、今回ばかりは俺も黙ってるわけにはいかない。
「だってよ大将……店が!!!」
「だから気にすんなって。この通り怪我はちょっとしかしてねえし、左腕もくっついてんだろ?」
「"取れてたら笑い事じゃ済まなくなるので、その冗談やめましょうか。ルカがアップを始めたので"」
「武器の貯蔵は十分か先生。俺の穿撃針が火を噴くぞ」
「"ルカは落ち着こっか。あとここ病院だから銃抜かないでね"」
先生に宥められ、俺は渋々銃をしまった。
柴関ラーメンが爆破され、大将も入院したと聞いた時は肝が冷えた。セイア襲撃があって爆破事件に敏感になってる。落ち着け俺。聞いた話じゃ事故らしいし、大将は行方不明になってない。
「けど事故で爆弾が起動って何?」
「そりゃあ……何だろうな」
「"まあ、ほら……便利屋の生徒も、悪い子達じゃないからさ"」
「それで済むなら風紀委員会はいらねえよ」
便利屋、ヒナが言ってた通りヤバい奴らだったか。この前の銀行強盗の時には、ただの一般ハードボイルド志望のゲヘナ生だと思ってたが、とんだ勘違いだった。ぶっ飛ばしてやるぞ陸八魔アル。
とにかく、そろそろ落ち着こう。先生はいいが、柴大将に迷惑がかかるのは頂けないからな。
「ふぅ〜〜〜…………ん、落ち着いた。災難だったな大将」
「ルカのにーちゃん、なんか疲れてねえか?」
「"目に隈が見えるけど、もしかして徹夜したのかい?"」
「いいや? 一日を二日と考えれば一徹もしてないし、紅茶だって適正量しか摂取してないぞ?」
「一日は一日だぞ」
「"あんまり紅茶を『摂取』って言わないんじゃない?"」
ん〜む。エデン条約についての書類と睨めっこしてる時に呼ばれたから、ちょっと体にキてるのかもしれない。この場にはミネもツルギもいないし自重しとかないと。
「ま、店は無くなっちまったがよ。これで良かったとも思ってんだ。近々店は畳むつもりだったしな」
「はぁっ!? 何で!?」
「"私もさっき聞いたんだけどね。……実は、アビドス自治区の大半がカイザーの所有になっていたんだ"」
「……ちっ。そういう事か」
キヴォトスの土地は、その全体を連邦生徒会が、そこから更に各学園自治区に分かれ、各学園が自治区の土地を所有し管理している。
トリニティの広大な自治区の土地でさえ、その資産の所有権は全てトリニティ総合学園の生徒会、つまりティーパーティーにある。それはどの学園に置き換えても変わりは無く、いくら廃れたアビドスだとしても当てはまるはずだ。
それなのに、アビドス自治区の土地がカイザーに渡っていた。借金の事情も鑑みると、自ずと答えが見えてくる。
「……かつてのアビドス生徒会が売ったのか。……どこの学園でも、過去の先輩ってのは面倒事を置いてきやがって……」
「"ルカの方も苦労してるんだね"」
「アビドスほど詰んではいないよ。しっかし……立ち退きまで要求してくるか、カイザーは。何考えてるんだ?」
「"その事なんだけど、ヒナ……ゲヘナの風紀委員長の子から、少し話を聞いたんだ"」
先生のその言葉には、さして驚きはしなかった。風紀委員会がアビドスに無断進行した事は、ヒナ本人から電話で聞いている。愚痴として。
行政官の子が先生を警戒してあわよくば抹殺しようとしたと……気持ちは大っ変よく分かるが、流石に早計としか言えない。しかも返り討ちにあってるんだからリサーチ不足且つ、この大人を甘く見過ぎだ。
おかげでヒナも仕事が増えたと、電話越しにいつも以上のローテンションで愚痴られた。
『部下の教育ってどうやったら成功するのかしら』
『俺は部下の子とかいないから何とも……』
『今アコには反省文1000枚書かせてるんだけど……増やした方がいいかしら。なんか内容がおかしいし』
『やった事が事だから仕方ないけど、1000? 内容がおかしいって、その子正気を失ってるだけじゃ?』
『……あぁでも、大体いつものアコね。やっぱり増やすわ』
『そのアコって子、いつも正気じゃないの?』
ヒナへの心配もあったが、そのアコって子への興味もできた電話だった。
それはさておき、先生はヒナに何を言われたんだろうか。
「ヒナは俺も見知った仲だよ。それで、ヒナに何言われたんだ?」
「"そうだったんだ。それが……カイザーコーポレーションが、アビドス砂漠で何かを企んでるらしいんだ"」
「アビドス砂漠で? あそこってもう住宅も捨てられて、何も残ってないだろ」
「"そう、その筈。けど、アビドス砂漠の土地もカイザーに移ってる。そこで何かしていても、外部からは知る術が無いんだ"」
何でティーパーティーでも知らない情報をヒナが知っていたのか……多分ヒナがホシノを人一倍警戒していたからだろうな。どうしてかは知らないけど。
何にせよ、カイザーがアビドス砂漠で何かを企んでいた。加えて市街地までに及ぶ土地の買収、アビドス高校を借金とヘルメット団による襲撃で廃校に追い込もうとした。
となると、目的はアビドスそのものか。だとしても何考えてるかサッパリだな。
「"近いうちに、アビドスの皆と砂漠に探索に行ってくるよ"」
「そうか。俺は行けないけど、十分気を付けろよ? 遭難とかしないようにな」
「"大丈夫だよ。同じ失敗はしないからさ"」
「その言い方は既に一回遭難してる奴の言い方だな? アンタ頭良いのか馬鹿なのかどっちなんだ?」
笑顔で臨死暴露をした先生は、大将に労りの一言を言って部屋を去って行った。
「じゃ、俺もここら辺で。……退院したら、やっぱり店は閉じるんですか?」
「そう思ってたんだがな……常連のお客さんにんな顔されちゃあ、仕方ねえよな」
「え、それって……」
「おうよ。店は構えられねえが、屋台でやってこうと思ってる。ちょうど、便利屋の子達が詫びって事で色々くれたんだ。悪いと思ったが、使わねえ方が悪いなと思ってな」
「ナイスッ! 便利屋68! 美食や温泉開発と同列に置こうとして悪かった!」
なんだ良いヤツらじゃん便利屋! マッチポンプなのはそれはそうだが、他の二つのヤベー奴らに比べれば遥かにマシだ。
よかった。これで俺がこの場で大将に多額の寄付を無理やり押し付ける事が無くなった。いや今からでも遅くないし、寄付は絶対するけど。
俺はこの後、渋る大将を言いくるめて店の再興の資金を寄付した。これで問題なく柴関ラーメンは復活できるだろう。
あとこれは何となくの予感だが……近いうちにアビドスの問題は動く。そして恐らくその時に、先生から俺やヒフミに協力の要請がくるだろう。
「忙しい時期に事件が被ったな……。ま、出来る限りはやりますか。アビドス組にも、そう言っちゃったしな」
「……もしもし、先生。アビドスで何があった?」
『"話が早くて助かるよ。……ホシノがカイザーに攫われた。手を貸してほしい"』
先生から来た電話の内容に、俺は少しだけ驚いてしまった。まさかあの小鳥遊ホシノが狙われるとは思っていなかった。
しかし、何か汚い手を使われたならそれも納得だ。相手はカイザーだし。
ただその『汚い手』というのは悪手だな。自ら攻め入られる大義名分を作ってしまったんだから。
「……一ついいか? 先生。─── ここまでやられたら、カイザーもうぶっ潰しちゃっていいよな?」
『"フフ、私は先生だから生徒にそういう行為は薦められないなぁ。……けどまぁそうだね。今カイザーがいる場所は、公的には「何も無いはずの場所」だから、そこで何が起きても何も問題は無いよね?"』
「ハハッ! やっぱり先生、結構性格悪いだろ」
大義名分はあり、尚且つ味方には先生か。
ちょうど良い。ストレス発散と不穏分子の排除も兼ねて、いっちょ手を貸してやろう。
俺は先生との通話を切り、その足でナギサの元へ向かった。そこにはヒフミもおり、ちょうどナギサに直談判してるようだった。
俺は屋根から飛び移り、テラスの柵に着地した。
「カイザー……PMCについてはよく存じ上げませんが、生徒に悪い影響を及ぼしそうなのは確かですね。今回は例外として対応しましょうか」
「そうだそうだー」
「わっ!? ルカ様!? どこから来てるんですか!? ここ3階のテラスですよ!?」
「ヒフミさん、ルカさんのコレはもう治らない物なのでほっときましょう。あとルカさん? 私は今ヒフミさんと話しているのですが」
最短距離で屋根を走ってきたので、ヒフミが目を剥いて驚いてる。反応が良くて何より。
ナギサは慣れてるから反対に平常だな。ヒフミとの会話を邪魔されて若干ピキってるけど。
「同じ案件だからだよ。お前の言ってた通り、先生に貸しを作れるチャンスだ」
「ヒフミさんの前であまりそういうことは……ハァ。ヒフミさん、対応についてですが、近々牽引式榴弾砲を扱う屋外授業があったはずです。ですよね? ルカさん」
「そだな〜。あ、折角だし、アビドスまで行ってピクニックでもしない? あそこら辺何も無いし、間違って何処かの企業の建物に被弾する事なんてある訳無いしな」
「フフ、そうですね」
「あ、あの、お二人共笑顔が怖いのですが……」
ハハハ、そんな事ないさヒフミ。ただの授業の計画じゃないかー。何も企業の計画をおじゃんにしてやろうなんて事企んでるわけじゃないんだからさー。
クク、牽引式榴弾砲───L118。トリニティが誇る榴弾砲部隊だ。並の建物やオートマタなら木っ端微塵だな。まあそんな物ある筈無いんだけどネ!
「他ならないヒフミさんですし、全てお任せします。細かい事や雑務は全てコチラで済ませますので」
「何で俺の方見てんのかな?」
「愛とは巡るもの。いつか私の愛をヒフミさんが返してくれること、楽しみにしていますね」
「だから重いんだってお前は、ぶっ!?」
目にも止まらぬスピードで飛んできたマカロンが俺の口に突き刺さり、強制的に黙らされた。ナギサはいつの間にこんなスキルを身に付けたんだろうか。
「ムグムグ……ンッ、ナギサ、その屋外授業、引率で着いてっていい?」
「……ハァ〜。えぇ、構いませんよ。ヒフミさんをしっかり守ってくださいね」
「アイアイサ〜」
「ルカ様、何で指をポキポキ鳴らしてるんですか……?」
さぁて、ど腐れカイザー。他校とはいえ生徒に手を出したのはマズったな。
それは俺に、『うちはお前の周りにいる生徒にも手を出す可能性がある』と宣言したようなものだ。
俺が作るハッピーエンドの障害になる可能性があるのなら…………ぶっ潰されても文句は言うなよ?
一つ、彼が初めて柴関を訪れたのは中学2年の時。実に五年も通っているため、月一しか来ないとしても顔を覚えられた。
一つ、彼が大将のお見舞いに来た時は二徹だった為、いつもより発言が過激になっている。三徹目だったら問答無用で便利屋に殴り込みに行ったかもしれない。
一つ、彼は柴関の屋台を作る時に便利屋と会っている。アルには白目を向かれたしハルカには銃を向けられた。そこで柴関爆破の経緯は何となく察した。
一つ、彼は何かと最短距離で移動しがちである。急いでなくとも屋根を伝うしテラスに柵から入ってくる。ティーパーティーでは見慣れた光景である。