次話でアビドス編はお終いです。
「あ、もしもしヒフミ? ちゃんと退避できたか?」
『で、できましたけど……ルカ様はどうなさったんですか? いきなりあんな事……』
「ごめんごめん。ちょっと面倒な奴が来たからさ。俺の戦闘スタイル的に、一人の方が都合良くて」
『そ、そうですか……その、大丈夫なんですか?』
「心配いらないよっとあっぶな!?」
『ほ、ホントに大丈夫なんですか!?』
「だ、大丈夫だいじょーぶ。ヒフミはそのまま先生達に支援砲撃を頼む。それじゃあな」
俺はヒフミとの通話を切り、邪魔をしてきた目の前のデカブツを見上げた。
「ったく……無視されたからって拗ねるなよ。寂しんぼか?」
……さぁて、どうするか。
動く薮をつついてみたら、蛇どころか怪獣が出てきた。状況把握能力には自身のある俺も、こんなギャグ漫画みたいな展開はお手上げだぞ。
カイザーの回し者……は無いな。こんな化け物がいれば、アビドスなんてとっくの昔に更地だ。
さて今の所、コイツは目がピカッと光った後の銃撃しか見せていない。生徒が使う銃より威力は高いが、それくらいなら避けることは容易だ。
が、この怪獣がそんなエンジニア部が開発したオモチャにも劣る事は無いだろう。絶対にビームとか撃ってくる見た目してる。
そう思っていたら、デカ蛇はコチラにその大口を開けた。
ガラ空き……と思ったが、その口に黒い炎のようなエネルギーが集まり出した。
本能的な危機を感じた俺は、その場から大きく横に跳躍した。
その瞬間、俺がいた場所を高熱が通り過ぎ、その地面は一部ガラスとなり炎の軌跡ができていた。
「……マジで怪獣じゃねえか。一人で挑むもんじゃないぞ……」
ハッキリ言おう。俺一人で挑むのは愚策以外の何者でもない。今ので確信した。
生き残ることが最優先の戦場なら、ガン逃げが一番得策だ。幸いモーションは大きく、避けることは難しくはない。
しかし、今俺の後方にはヒフミやヒナ、先生達がいる。カイザー共に押し付けるのが最善だが、その巻き添えを皆が食らう可能性がある。
……何より、今先生はホシノのハッピーエンドの為に頑張っている。
あの時柴関で先生にあんな頼みをした俺が、誰かのハッピーエンドに背を向けるのか?
「…………まったく。ホシノに先生。この貸しは高くつくぞ」
別に勝つ必要は無い。
けど、先生が全てを終えるまでの時間は稼ぐ。
それが今回のハッピーエンドの為の俺の勝利条件だ。
「来いよデカブツ。遊んでやる」
突発的な
俺は相手によって戦法を切り替えている。
生徒が相手の時は銃がメイン。穿撃針の爆発は直撃させず、撹乱や物理で殴るのみで使う。フィニッシュは銃による気絶だ。
穿撃針をちゃんと直撃させるのは、オートマタや戦車、ゴリアテのような重装甲の相手のみ。徹甲弾と榴弾が合わさったような俺の穿撃針は、その装甲をほぼ確実に破壊することが出来る。
この目の前の大蛇は生き物のように動いているが、見た感じは戦車のような重装甲。
ならば、やることは単純明快。
「まずはその鱗、スッキリさせてやるよ!」
この大蛇は砂の中でとぐろを巻いており、地面から見える高さはその全長よりも低い。それでもビルくらいの高さがあるが、何とか頭上を取れなくもない。
俺は放棄された埋もれた家の屋根、電柱と飛び移り、そこから思いっきり大蛇へと跳び上がった。
おかげで電柱はへし折れたが、何とか大蛇の首元あたりに回ることができた。
俺は袖から一本穿撃針を出し、白い装甲目掛けて投擲する。
……が、撃針は装甲には突き刺さらず、ガン!と甲高い音を響かせ弾かれた。
「かっっった! そもそも刺さらないとか聞いてないぞ!」
ちょっと予想外だ。コイツの装甲、クルセイダー一型よりも全然硬い。穿撃針が刺さらない事なんて、今までほぼ無かったのに……。
空中で固まった俺に対し、大蛇は容赦なく追撃を仕掛ける。首元にある六つの丸い孔が開き、発射口が剥き出しになった。
その一つから三発ずつ、合計十八発のミサイルが発射された。
今日で何度目かになる驚愕を顔に出すも、俺はワイヤーを蛇の体や周りに僅かにある障害物に引っ掛けて躱していく。
どうやらミサイルには追尾性能もあるらしく、立体機動する俺をしつこく狙ってきた。
何発かは移動しながら銃で迎撃したが、三発ほど食らった。普通に痛い。俺はヒナ程頑丈じゃないんだぞ。
俺は目からの光弾を避けて動きながら、この糞蛇の攻撃パターンについて脳内でおさらいした。
(まず、通常攻撃は目からの光弾。これは避けられるしダメージも大して無い。普通に避ければ大丈夫。……問題は他二つだな)
一つは、口からの極太ビーム。溜めの時間があるものの、食らえばゲームオーバー。機動力ではヒナに勝るが防御力は劣る俺だ。擦る程度ならいいが、直撃は避けなくてはならない。
もう一つは、首元からのミサイル。一発一発は大した威力じゃないが、数が多い上に追尾が厄介。何発も食らったら動きに支障が出る。
どちらも強力かつ凶悪。しかしクールタイムが必要なようで、チーターのようにこの必殺技をバンバン連続使用してくる事は無い。
俺が持ってる手札は、ライフル、フル充填の穿撃針。周りの障害物。
あっちの手札がまだ分からない以上、迂闊に手札を切るのは得策じゃない。
…………最悪、奥の手に賭ける事も考慮に入れといた方がよさそうだ。
(一旦倒す方向は諦め。攻撃パターンを分析しながら時間を稼ぐか)
攻撃は避けながらも、大蛇をこの場に留める為に一定の距離は保つ。まだある程度の障害物があったから良かったが、完全な平地だったら危なかったな。
かれこれ十分程逃げ続けて、分かったことがある。
まず、コイツの攻撃パターンは通常の光弾とミサイルとビームのみだ。こちらから何度か引き撃ちしても変わらなかった為、そうと考えていいだろう。
次にその引き撃ちで分かったことだが、コイツは装甲と装甲の間の黒い部分が、他と比べてちょっと脆い。かなり気合いを入れて撃った弾がちゃんとめり込んだので、全力で穿撃針を打ち込めば攻撃が通るかもしれない。
相手の手札と
(狙うは次の大技、ビームの後!)
狙い通りにいくかは賭けだが……なるようになれだ。
来た。大口を開けた準備態勢。
ここで一気に───接近する!!
大蛇の口の真正面に飛ぶ。このままじゃビームをモロに食らってお終いだ。
そこで、ワイヤーを伸ばして大蛇の頭の角に引っ掛ける。
ビームを準備している今は、一瞬なら頭をぶん回して振り落とされる心配は無い。
大蛇はワイヤーに構わず、チャージした黒い奔流を俺目掛けて放った。
「今っっ!!」
そのタイミングで、俺は穿撃針を真下に向けて撃った。爆発の衝撃で俺の体は角を支点に、さらに上へと飛び上がる。
大蛇も俺を追って顔を上に上げるが、真上を向く頃には俺は首元の後ろにいる状態だ。
「よーく狙って……ここだ!」
狙いを定めた渾身の穿撃針は、しっかりと装甲間の黒い部分、背骨にあたるオレンジ色に光っている場所に突き刺さった。
銃弾はともかく、穿撃針に力を込めるのは初めてだったが、上手くいったようだ。
これには大蛇も気を害したようで、首から上を暴れさせてミサイルまで撃ってきた。
俺は蛇の体にワイヤーを巻き付け、振り落とされないようにする。
この状態でどうやってミサイルを避けるか?
頑張る。以上! 託したぞちょっと未来の俺!
しかしよく考えてみれば、俺は蛇の体に張り付いてる状態だ。ミサイルの追尾機能が優秀なら、俺のみを狙い撃つ事も可能だろうが……
さて、俺が完全に蛇と密着していたらどうなるか。
笑みを浮かべた俺は、思い切って突き刺した穿撃針のワイヤーを縮め、大蛇の体へ足をつけた。
「ハハッ! そうなるよな!」
案の定、ミサイルは俺、もとい蛇自身へと向かってきた。
俺は巻き付けていたワイヤーを回収し、五本の穿撃針を今いる黒い部分に全部突き刺した。
また蛇は大暴れしたが、そこは体幹で無理やり耐えた。ロデオマシンに乗ってる気分だ。
頭上には十八発のミサイルが今か今かと迫っている。
蛇が大暴れしていても、この巨体なら追尾が追いつき、このまま動かずにいたら全弾モロに当たるだろう。
だが、まだ動かない。ギリギリまで引きつける。
ビームと合わせて、本日二度目の命懸けチキンレースだ。
─── 直撃の時。
ギリギリまで俺を狙っていたミサイルは、見事大半が大蛇に直撃。その衝撃とほぼ同時に、六本の穿撃針を全て起爆させた。
脆い部分に、現状俺が出せる最高火力をぶつけられたクソ蛇は、流石にカチカチの防御力を持っていても大きなダメージは避けられなかったようだ。
…………対する俺はと言うと
「───いってて……チキンレースはギリ勝ちか。いや食らってるから負けか?」
ミサイル数発、それと大爆発の余波を受け、制服の所々が擦り切れた状態で空中を舞っていた。
徹夜明けならともかく、シラフの時にこんなダメージを食らったのは久しぶりだな。
制服もボロボロだし、生傷も結構ある。帰ったらなんて言い訳しよ。主にセリナとミカに。
「……まぁいい。ひとまず、最後の攻撃だ」
クソ蛇はダウンしてるが、ヘイローっぽい物は消えてない。恐らく時間が経てばまた襲いかかってくるだろう。
その前に、やれるだけやってみる。
この攻撃が終わった後、結果がどうあれ俺は逃げる。
さっきの爆撃は自爆覚悟のものだ。もう一回はキツイ。体力的にも、帰った後の言い訳的な意味でも。
俺は懐から、長さ10cm程の金属でできた杭を取り出した。杭というよりは、『釘』と言った方が正しいかもしれない大きさと形だな。
それをライフルのチャンバーに装填する。
空中で姿勢を整え、俺はデカ蛇の前へと降り立った。
「狙うは頭……」
古代語では無い何らかの文字が書かれた丸い紋様、その真ん中に照準を合わせる。
そして、俺は目を閉じて銃身内にある釘に神経を集中させた。
……この感覚は久々だけど、やっぱり慣れない。この、血を無理やり抜かれるような感覚は。
「───── 『穿て』」
五秒程そうした後、引き金を引いた。
火薬も入っていないはずのその釘は、弾丸よりもなお早く放たれ、大蛇の頭へと突き刺さった。
─── 刹那、爆音と赤い稲妻が迸り、大蛇の頭が大きく仰け反って悲鳴のような咆哮をあげた。
「ラッキー。賭けは俺の勝ちだな」
……今、俺が銃に入れて撃った物。
うちの家、熾宮で何代にも渡って受け継いでいるオーパーツなんだとか。詳しい事は知らないし、うちの親も知らない。
なんか力を込めると凄い力が何とかかんとか……と曖昧でいい加減な説明が残ってるの胡散臭い物だ。使うと超絶疲れる上に、当たっても何の効果も無い事だってある。
俺が穿撃針を作ろうと思った元にもなった不思議物体。銃で打ち出しても勝手に手元に戻ってくる呪いの人形機能付きだ。不思議ってよりもはや不気味である。
当たりを引けば今のように、ビルよりデカイ蛇でもぶっ飛ばせる。が、外れを引けばデコピンの方がマシという威力。
マジでギャンブル。さっきまでの攻防が無ければ絶対使っていない手だ。普段使いしようにも、当たった時が怖過ぎて使えない始末だ。
何でご先祖さまはこんなもん残したのかね……使ってる俺も俺だがな。
「それはさておき……やっぱ起き上がってくるよな」
グググググ……とゆっくりと起き上がってくるクソ蛇を、半分諦めの境地で見つめる。
マジカルステッキ(仮称)の直撃を食らい、額の部分はひび割れて小さいクレーターが出来てるが、まだ全然動けそうだ。ホントイヤになってくる。
逆に俺は、もうさっきみたいな三次元機動はできないくらい疲れてる。
ぶっちゃけ今すぐ帰って寝たい。そのくらい疲れてる。摩訶不思議釘(仮称)の反動がキツすぎる。だから使いたくなかったんだよ。
俺は心の中で「頼む
数秒して気配が完全に消えたので、どうやら逃げてくれたらしい。
俺は全身の力が抜けるのを感じ、クソデカため息をついて地面に大の字に寝転んだ。
「ッハァァァ〜〜〜…………マジで疲れた」
先生はちゃんとホシノを連れ戻せたかね。
ま、あの先生とアビドスの面々だ。きっと上手くいっただろう。
俺の頑張りも、多少は無駄じゃなかったと思いたい。
「─── クク……クックックッ……クッハハハハハハ!」
「成程……成程! 素晴らしい!
「嗚呼、今なら彼女が欲しがる理由も分かります。これは凄まじい……可能性と暴力性に満ちた力……」
「あの、預言者さえ退かせる神秘……特異な物が見られない? とんでもない。寧ろ特異性しか無い、まさに神秘……!」
「クックックッ……今からでも、彼女に打診してみましょうか……」
「……熾宮ルカさん、またお会いしましょう。その時は貴方の
一つ、彼の機動力はキヴォトスでもトップクラス。短距離であれば美甘ネルに負けるが、三次元機動力や持久力の面ではキヴォトス一と言っていい。
一つ、彼の耐久力は空崎ヒナ以下。と本人は言っているが、ヒナ並やそれ以上なんてそういない。比較対象がおかしいだけで、キヴォトスでも十分上澄みに位置する。
一つ、彼の本当におかしい所は腕力ではなく脚力。普通は電柱から跳んでビルの高さまで上れないし、トリニティから百鬼夜行やシャーレに走るなんて出来るわけない。
一つ、彼の持つオーパーツは全部で三本。失くしてもいつの間にか手元にある呪いの武器。あまりにも使い勝手が悪いので、穿撃針としてエンジニア部に開発を依頼した経緯がある。名前は知らない。