待たせてしまい申し訳なし。そして短か目で申し訳なし。
ちょっとストーリーを読み直してくるので、次の更新は遅くなります。ご容赦ください。
ホシノ奪還の日から数日が経過した。
あの後、ホシノは無事に連れ戻したと先生から連絡があった。アビドス組の集合写真付きで。
疲れきってた俺だったが、写真に写る笑顔を見たら「まぁいいか」と思ってしまう。
ちゃんと先生は、生徒のハッピーエンドを守れたようだ。
カイザーについては、PMCの理事は生徒誘拐の罪で指名手配。カイザー本社も、連邦生徒会による搜索が入るらしい。ナギサが何か手回ししてのかな。
正直、こっちは現状に留まるだろう。連邦生徒会もまだ完全に機能回復してないし、カイザーがこの程度で尻尾を掴ませるはずが無い。
まぁ、トリニティでカイザー系列の店の一部営業停止にしたし、うちからの嫌がらせはどんどんやってやる。
カイザーの嫌な大人共が吠え面かく姿を想像しながら、アビドス組には借金返済を頑張って欲しい。
俺も少し寄付しようかな。9億からすれば蟻ん子みたいな額だけど、少しでも足しになってくれたらいい。
これが、先生達本筋の今回の結末。十分にハッピーエンドと言えるものだな。
じゃあ、俺の方はどうだったのか。クソ蛇を追い払った後どうなったのか。
……これは俺がトリニティに帰ってきた翌日の事だ。
「……えっと、ミカ? 出来れば顔が見たいんだが……」
「………」
「無言で締める力強めるのやめ……ちょっ、締め過ぎ……ミカ? ミカさん!?」
俺はミカに後ろから腕を回してホールドされて、締められ始めていた。
あの後なんとかヒフミと合流した俺は、ほとんど惰性でトリニティへ帰還。その足で救護騎士団のところに行き、電池が切れたみたいにぶっ倒れた。
まぁ、ものの数時間で目が覚めたから、俺の方は大した事は無い。
しかし、周りの方が大変だった。
まず目が覚めると半泣きのセリナがいて。ミネがいない時に迷惑をかけたと謝ると、未だかつて無い程に怒られて。
倒れたのは呪いの釘(仮称)による疲労のせいで、特に大きな怪我は無かったので、セリナを頑張って説得してナギサの元へ向かった。
ビクビクしながらナギサの執務室に着くと、案の定ナギサに詰め寄られた。
『ええと……怒ってらっしゃいますよね……』
『…………当たり前です』
……マズイ。
今日はロールケーキ何本かと思ってたが、今回はそんな冗談を言ってる場合じゃない。
ほぼ半泣きになってるナギサを前に、普段みたいな巫山戯た事は言ってられない。
『……私は確かに、ヒフミさんを守ってくださいと言いました。けど……貴方が犠牲になってもいいだなんて、一言も言ってません』
『あぁ』
『……貴方まで、いなくならないでください』
『……あぁ、分かってる』
『……嘘は許しませんからね』
俺の胸に額を当ててそう言うナギサに、そこで俺は了承した。
先生にあんな事頼んでおいてどの口がって感じだが、今は気休めでも言っておきたかった。
俺が普段傷なんて滅多に負わず、セイアの事があったばっかりの今、俺が出かけて帰ってきたら傷だらけでぶっ倒れたんだ。
そりゃ、こんな顔にしてしまうのは目に見えてただろ。
『…………ひとまず、今日はこのくらいにしておいてあげます』
『今回は流石に俺も反省してる。暫くは大人しくするよ』
『はい、お願いします。……あぁ、それと』
ナギサは俺から離れ、少し目を拭った後にこちらにいつもの顔で微笑んだ。
『ミカさんへの報告は、ご自分でしてくださいね』
『……頑張ります』
そして、俺はミカの執務室へ行ったが、残念ながらそこにはミカはいなかった。
何処に行ったんだと校内を探し回り、俺の執務室の前に行ったところで、ばったりとミカに遭遇した。
『あ、ミ……グフォァ!?』
俺の姿を見たミカは、俺が反応できない速度でタックルをかましてきた。正確にはタックルじゃなくて飛びつきハグなんだが、勢いが勢いなだけにラリアットみたいになっていた。
ジンジンする身体はさておき、ナギサ以上に状態がヤバそうなミカをとりあえず執務室に入れた。
そこからバックハグに移行され、最初のアレに戻るわけだ。
「締め過ぎだっての……ミカ、今日は弁明も言い訳も何もしないから、とりあえず顔は見せてくれないか?」
「……今、可愛くないから駄目」
「ベショベショに泣いてるのは、今ワイシャツしか着てないから分かってるし今更……まっ、ごめん! 今のは俺が悪かった!」
再度締められ、俺のあばらから嫌な音が聞こえてくる。
最初のタックルからのダメージが蓄積されている。これでまた入院とかなったら笑い事じゃ済まない。主にミカとナギサが。
「ハァ、ハァ……何処にもいないから心配したぞ」
「こっちのセリフだよ……。ルカ君が倒れたって聞いて、救護騎士団の所に行ったのにいなくて、学園中探し回ったんだから……」
「それで入れ違いになってたのか……」
俺はため息をつき、ミカの腕の力が緩んだ時にパッと体の向きを前後反転させた。
対面する形になるが、俺はミカの頭を抱えて胸に押し付けた。見られたくないらしいし。
「ほれ、ちゃんと生きてるぞ」
「……うん。……ルカ君は、ここにいるよね?」
「あぁ、ちゃんといる」
「……何処にも、行かないよね?」
「……あぁ。何処にも行きやしないよ。約束する」
……我ながら、よく回る舌だと思う。
いなくなる気なんて毛頭無いが、それでもどうしようもない場合は存在する。
今回だって、運ゲーに勝ててなかったらどうなっていたか分からない。今後も、そういった状況にならないとも限らない。
けど、今のミカにそういう事は言えない。
ミカは優しい……けれどその分、不安定な子でもある。
いつもは俺やナギサ、セイアで支えていたそれが、今はセイアが居なくなったことによりグラついてる状態だ。
セイアが襲撃され、行方不明となった事はミカもナギサも一旦の切り替えはできた。
ただ、その際できた綻びは今も残っている。
今一度、再認識しろ熾宮ルカ。
お前の物語を、お前の命の意義を。
他ならない彼女たちに、こんな顔をさせるな。
俺はそう自分に語りかけながら、ミカの小さい体を抱き締めた。
「─── うん、もう大丈夫だよ。ごめんね、急にこんなこと……ルカ君も疲れてるのに……ルカ君? もう大丈夫だよ? だから離しても……」
「悪い。疲れてるからもうちょっとこのままで」
「ふぇっ!? ……わ、私はいいけど……」
あー、今になって安心で眠くなってきた。気のせいか、ミカの体温も上がってきた気がするし……瞼が落ちてくる。
マズイ、このままじゃミカの執務室で寝てしまう。
それはちょっと……風紀的によろしく…………
ルカさんが執務室から退出した後、私は深くため息をついた。
「……いけませんね。少し、弱いところが出過ぎてしまっています」
いかにルカさんの前と言えど、あのような顔や泣き言を晒してしまうなど……。
セイアさんがいなくなったから?
ルカさんが本気で反省していたから?
違う。私が不安になり過ぎていたのだ。
ルカさんまでいなくなってしまうのではないかと、怖くて怖くて仕方がなかったのだ。
「今回の件とセイアさんの件に、何か繋がりが……?」
今回の件に関しては分からない。しかし、ただのカイザーの兵ごときにルカさんが遅れを取るわけが無いのは確か。
そもそも、あの場にルカさんがいる事自体、外部に漏れようが無いのだ。
「……やはり、トリニティの中に……」
心苦しいが、そうなのだろう。
トリニティの中に、我々四人を狙う誰かがいる。
目的は……恐らくはエデン条約についてだろう。
ルカさんは失敗したのか、威力偵察だったのか。
何れにせよ、何もしないという選択肢は無い。
「……私が、皆さんを守りますから……」
そう、どれほどこの手を汚そうとも。
ルカさんが描くハッピーエンドは、誰にも壊させない。
「ル、ルカ君?……寝ちゃった……」
私を包んでいた大きな体から、ふと力が抜けた。
そうだよね。いかに体力オバケのルカ君と言っても、何もせずに倒れるほど疲れてて、その上私を探して校内を走り回ったって言うんだから。
でも……いくらなんでも無防備過ぎないかな?
私は一度離れ、ルカ君の顔を両手で挟んで引き寄せた。
「他の子にもこんなだと…………いつか襲われちゃうよ?」
……なーんて、言ってみただけだけど。
顔を離し、ソファに寝かせたルカ君を見つめる。
ルカ君が今日みたいに怪我をしたのは初めてじゃない。中学の時は、高校生同士の喧嘩の仲裁に入って相討ちになったりしてたし、そもそも私やツルギちゃんと戦えば入院必至だ。
なのに今日、ルカ君が倒れたって聞いて目の前が真っ白になった。
慣れてたはず、月に一回は見てたはずなのに、いても立ってもいられなくなった。
それは多分、セイアちゃんのことがあったからだ。
大切な誰かが、いつか突然居なくなる未来ができたからだ。
私が気にし過ぎなとこもあるかもだけど、きっとナギちゃんもルカ君も、心の何処かでそれが傷になってる。
ナギちゃんはエデン条約の事で頑張ってくれてる。
ルカ君はいつだって、ハッピーエンドの為に動いてくれている。
「……私も、出来ることをしないと」
セイアちゃんが戻ってきて、また皆で軽口を叩きあえるように。
ナギちゃんが安心して、また皆で笑ってお茶会ができるように。
皆が……ルカ君がハッピーエンドを見られるように。
「……私も頑張るからね。ルカ君」
その為にも……明日聞きに行こう。
ずっと気になっていた事を。
───
……月夜のように僅かな光しかないカタコンベの中、錠前サオリは久しぶりに来た来訪者へ顔を向けた。
「……来たか、トリニティ」
「────────────」
「……もう貴様と馴れ合うつもりは無い。その意思だ」
「今日の要件は分かっている。……百合園セイアについてだろう?」
「……─────」
「何故、そのことを知っているのか? ……なら、教えてやる」
「─── 百合園セイアの襲撃は、アリウスによるものだからだ」
夕焼けが照らす空き教室で、白洲アズサは窓の外を眺めていた。
その教室に、一人の生徒が入ってきた。アズサもよく見知った者だ。
「────────」
「いや、待ってないよ。それに、私もちゃんと覚悟ができたから」
「……まず、ごめん。ミカは私に、此処に来るきっかけをくれた。ルカは私に、外での色々なことを教えてくれた。……本当に、感謝してる」
「だからこそ……私がやったことは許されていいことじゃない」
「……手短に言う」
「─── あの日百合園セイアを襲撃したのは、私だ」
─── ゲヘナとトリニティとの友好条約、通称『エデン条約』
この条約を巡り、それぞれの思惑が交錯する。
希望と青春の物語、欺瞞と裏切りの物語……
これがどんな物語だとしても……
俺は、皆の物語をハッピーエンドにするだけだ。
だから───