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☆9:ファイターリュウ さん syouyan㌨ さん おんおん? さん
ありがとうございます!
俺の夜は遅い。
ティーパーティー監査の仕事で忙殺されているからだ。
他の3人も仕事量はさして変わらないはずだが、あっちは派閥にいる子達を使えるからそこまで時間がかからない。夜更かしは乙女の天敵でもあるからな。
だが俺はそういう部下的な人がいない。事務仕事が得意な人は基本どこかの派閥に属しているので、監査補佐になれる人は中々いないのだ。
故に、俺は夜遅くまで一人で全ての仕事を片している。カフェイン摂取用の紅茶が今日も美味い。
そして今日も仕事を終えて時刻は天辺を過ぎて午前2時。しかし目はバッキバキである。少し紅茶をキメ過ぎたか。
寝ようにも寝られないので、諦めて気分転換に外に散歩に出かけた。多分このまま朝を迎えると思うので制服に着替えておく。
人がおらず不気味なほど静かな自治区を歩きながら、俺の足は自然と学園の方に向かっていた。
当然誰もいない学内をポケーっと眺めていると、ふと視界に金色の何かが映った。
場所はトリニティスクエアの噴水。そこに腰掛けている小柄な影、生徒だった。
しかも、俺のよく知っている生徒だ。
「─── おはよう、セイア」
「……いきなり足音も立てず近づかないでくれたまえ。心臓に悪い。あとおはようは早いんじゃないかい?」
「もう朝日が昇るだけなんだから実質朝だよ」
ちょっとビックリした様子を見せるのは立派な狐耳と長い尻尾を持つ少女、現ティーパーティーホストの百合園セイアだ。一応夜行性のシマエナガ君 (ちゃん?) も一緒だ。
「まさかまたこんな時間まで仕事していたのかい? 前にも言ったが、補佐くらいなら他の子を使ったっていいのだよ? もう少し人を上手く使った方がいい」
「俺一人で捌けてるから問題ないよ。あと人の夜更かし咎めてるならブーメランだからな」
「……私は目が覚めただけだよ。夜更かししてた訳じゃない」
夜更かしを認めないあたり、普段は聡明そうだけどコイツも偶に子供っぽいところあるよな。
ただ、「目が覚めた」という言葉で大体の事情を把握した俺は、何も言わずにセイアの隣に腰掛けた。
「……また、何か見たか?」
「今回もさほど進展は無かったよ。まだまだ、この物語の終着点はバッドエンドだ」
「そうかぁ。じゃあまだまだ気を緩める訳にはいかないな」
目的語が抜けた会話は、俺たち以外が聞いても理解が難しいだろうな。
セイアは未来が視える。と言っても、未来の様子を夢という形で追体験する、所謂『予知夢』というものだ。
俺が高い精神年齢で産まれたり、この世界を物語と認識していたり、そういう物と同じ類なのか。セイアが前に言ってた『神秘』というやつの副産物らしい。
彼女は予知夢を制御出来ていない。偶に夢を見て、そしてその度に……絶望の未来を垣間見る。
彼女が見た未来の世界。俺達が生きる世界よりも数十ページめくった先。そこはいつも暗く、悲しく、目を背けたくなるようなバッドエンドの数々だそうだ。
「……君も強情だね。まだ諦めるつもりはないのかい? ……まぁ、この返事は未来よりも分かりきっているがね」
「なら話が早いな。残念だけど、まだ俺の物語の続きは書き途中なんだ。修正なんて幾らでもしてやれる」
俺はその事をセイアに聞いた時思った。というか言ってやった。
バッカじゃねーの?、と。
俺がミカに出会うまでに思っていた事と同じだ。この世界が物語であっても、その主人公は俺たちだ。
セイアは、その物語の『ネタバレ』を食らった。だがそれは今の物語を元にした『草案』に過ぎない。
ならば、悲観するにはまだ早すぎる。
「俺は俺の物語を、『ハッピーエンドを作る物語』って決めてるんだ。例えバッドエンドのネタバレを喰らおうが、全部白ペンで塗りつぶしてハッピーエンドにしてやる」
「……ハハ。本当に、君は偶にミカよりも馬鹿になるね」
「俺からすれば、お前もミカも別ベクトルで馬鹿だけどな」
百合園セイアの物語はバッドエンドに進んでいるのかもしれない。
それなら、俺が変える。その行き着く先を捻じ曲げてやる。
それが、俺がセイアに未来を告白された時に決意した事だ。
「未来に悲観的になるほど非生産的なことは無いぞ。これ実体験だからな」
「何度も聞いたよ。………多少は気が楽になった。ただあともう少しで全快になりそうだから……少し借りるよ」
「うおっ……お前も飽きないよな」
セイアが予知夢を見て精神が不安定になった時、俺は偶にセイアと話して落ち着かせることがある。
だが、その度にこうやって……俺の膝に頭を乗せる、つまりは膝枕を要求してくるのはどうにかならないもんかな。
「別にいいだろう? 君も私の耳を好き勝手できるんだから。むしろ君の方に利があるんじゃないか?」
「開き直るなよ。シマエナガ君のことも考えてやれよ」
「その子のことも頼んだよ。私は少し眠るから」
「……人が来る前には起きろよ?」
「フフ、善処しよう」
コイツ、自分で起きるつもりはサラサラ無いな。頼むから5時あたりには起きてほしい。今この絵面を人に見られるのは非常にマズイ。
「……あ、それと」
「ん?」
「……ありがとう。君のおかげで、私はまだハッピーエンドを望むことが出来る」
「………そういう素直なところ、少しはミカにも見せてやれよ」
「フフフ……それも善処しようかな……」
そう言って、セイアはその瞳を閉じた。
これで俺はセイアが起きるまで身動きが取れなくなったわけだが……
「……まぁ、いいか」
セイアが少しでも幸せな夢を見られるなら、それも吝かではない。
未来とは恐ろしいものだと、私はずっと思っていた。
幼い頃から見る、ひどく精細な夢。その中で起きる数々の悲劇的な結末。
無論、全てが全てそうである訳では無い。ある程度近い未来の場合は、それはそれは下らない未来もあったりする。
……しかし、ある時から見るようになった遠い未来の終着点。楽園を目指した先にある暗い闇。
私は、その未来を見るのが怖くなった。親しい者、慕ってくれていた者の結末を見るのが怖かった。
けれど、未来とは否応無く迫ってくる物。物語のページをめくる手は止まってはくれない。
故にいつからか、私は諦めるようになった。
物語の結末は変えられないと、未来を諦めるようになった。
そんな折、私は一人の男性と出会った。
『……何をしてるんだい?』
『え、焼き芋作ってる。君も食べる?』
元々病弱な体で入院することが多く、彼と出会ったのも病院の外の敷地だった。
何故か落ち葉を集めて火を焚いているのが、彼も病衣を来ていたので入院していたのだろう。中学一年の話だ。キヴォトスでも病院で焼き芋を作るタイプの生徒は後にも先にも彼しかいないはずなので、覚えることは容易かった。
どうやら彼は一日だけ怪我の様子見で入院していただけらしい。なら何故そこで焼き芋を作ったんだ、一日我慢すればいいじゃないか。
私も入院から学校に復帰すると、早くも彼に再会した。
『あ、病院にいた狐耳の子か。久しぶり』
『君は……あぁ、焼き芋の。久しぶりだね』
『『焼き芋の??』』
隣にいた女子生徒2人が私の言葉に困惑していたが、まぁそうだろうね。私も初めて見た時はひどく困惑したよ。
それから紆余曲折あり、私はその3人と仲が良くなった。友達の少なかった私を彼……ルカが気にかけてくれたのだろう。ナギサも悪い顔はしてなかった。ミカは……どうだろうね。
『今日の茶菓子は俺作のおはぎだ。緑茶と一緒にどーぞ』
『ルカ君、こっちの粉ついた方何?』
『きな粉ですよミカさん。手が汚れますので、紙で包ましょうか』
『む……美味しい』
『セイア、服にきな粉落ちてるぞ』
あの頃は柄にもなくはしゃいでいたと思う。誰かと一緒にお茶会などした事がなかったし、何よりルカが持ってくる百鬼夜行由来の和菓子は美味しかった。トリニティでは味わえない優しい甘さだ。
今でも変わらないが、ルカと出会ってからの日々は輝かしい物だ。未来の鬱屈さを忘れられる程の。
……そう、忘れていた。忘れてしまっていたんだ。
『─── ハァ……ハァ……ハァッ……!』
その日の夢見は最悪だった。
今まででも類を見ないくらいに、不快で、苦しくて、憂鬱になる、後味の悪い
幸せな日の中、久しぶりに見た夢がそれだったから、私の心は其れはもう不安定になっていた。指先一つでも崩れてしまいそうなほどに。
何とかその負の思考から逃れたくて、私は真夜中に家から出た。あまり遠くへは行けないから、近くの公園のベンチへ腰掛けようと思った。
そこにまさか、先客がいるとは思わなかった。
『あれ、セイア? どうしたんだ、こんな時間に』
『……そっくりそのまま返すよ、ルカ』
何処にでも現れるな、君は。
何をしているのかと聞けば、『百鬼夜行に徒歩で旅行に行ったけど終電が無くなったから走って帰ってきた帰り道』だそうだ。本当に何をしているんだ君は。
というかそれだと、百鬼夜行からトリニティまでを3時間近くで走破した事になる。
『君はダチョウにでもなる気かい?』
『褒め言葉として受け取っておくよ』
半分は皮肉なんだがね。
今は一人になりたかったのだが、ここで去るのも忍びないので彼の隣に座ることにした。
『で、セイアはこんな時間にどうしたんだ? 夜更かしは肌に悪いってミカから聞いたぞ』
聞かれたくはなかったのだが、もうこうなると話すしかないと思い、私はルカに予知夢の事を話した。
未来に起きる事は話していない。話しても無駄に疲弊させるだけだ。
そこで私は一つ、ルカに問い掛けた。これから先、考えねばならない問いだ。
『ルカ、君は「七つの古則」を知っているかい? 特にその五つ目を』
『知ってるぞ、「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか」だったか。それが予知夢と何か関係あるのか?』
『いいや、直接的な関係性は無い。ただ、君がこの問についてどう考えるのか、気になってね』
これから先、数年後に待つ未来。
夢想家が描いた、甘い甘い、
楽園の存在証明のパラドックスとも取れるこの古則は、存在しない楽園の証明。
とどのつまり、初めから証明出来ないものに対する問いだ。
ただ、証明出来ない真実を無価値と断じる気は無い。この文章を通し、何か伝えたいものがあるのではないかと考えたのだ。
残念ながら、私ではそれを見つける事は叶わなかった。
故に彼に聞いた。ルカならば何か答えを導けるのではないかと、根拠の無い願いめいた思いがあった。
ルカは数秒考えた後、ゆっくりと話し始めた。
『楽園はあるのかないのか、かぁ。客観的に「ここは楽園である」と言える物は、無いと思うよ』
『……やはり……』
『けどさ、
……一瞬、言っている意味が分からなかった。
「誰かにとっての楽園」とは、どういう事だろうか。
そう考えていると、ルカはおもむろに私の耳に手を伸ばした。
『る、ルカ!? 急にどうしたんだい!?』
『例えば、俺は今セイアの耳をモフれて幸せだ。ここが楽園と思えるくらい』
『そ、それは君だけのものだろう……!』
『そう。だからここは「俺にとっての楽園」だ。こんな風に、誰かが望んだ楽園はきっとあるはずなんだ』
かなり滅茶苦茶な理論を展開し、彼は私の耳から手を離した。
『……成り立たないだろう。それでは只のこじつけだ』
『そう、こじつけ。それで良いんだよ。誰かがそこは楽園だと
『……信じる……』
『俺はこの
……何だい、それは。
答えにもなっていない、只の希望論だ。結局、誰しもが願う楽園は無いということだろう。
……なのに何故、こうも心が軽くなったのだろうか。
『……セイアは、未来が怖いか?』
『……あぁ、とても。不安で、心細く、怖くて仕方が無い』
『なら、俺がお前を導いてやる。俺がお前の
『……例え未来が決まっていても、かい?』
『昔の俺みたいなこと言うんだな。……未来なんて決まっちゃいない。いつだって、
未来を作るのは私、か。
その未来が幸福に満ちている確証は無いだろう。その未来の先に、君の言う
─── けれど
『……そう、だな。うん、そうかもしれないな』
信じれば、楽園はあるのだろう? 信じれば、君の言うハッピーエンドになるのだろう?
なら、私は君を信じるよ、ルカ。
この先もきっと、起こりうる数々の未来が私の心を蝕んでいく。
けれど、その先の
だからルカ。そこまで豪語したんだ。私に必ず見せておくれよ?
君が作る、幸福に満ちたハッピーエンドを。
「……おい、セイア。そろそろ起きろ」
「……うん? もう朝かい?」
「ギリギリな。もうそろ朝早い生徒は登校してくる。一旦家帰るか?」
「…………もう少し、寝させてくれたまえ……」
「は、二度寝!? おいセイア! 朝弱いのは知ってるけど、今日くらいは頑張れって!」
「君なら私を担ぐくらい訳無いだろう」
「自分が動きたくないだけだろお前!」
つべこべ言いながらも、ルカは私をお姫様抱っこして家まで連れて行ってくれた。朝ごはんまで食べさせてくれた。
「
「調子良い事言ってるんじゃありません!!」
一つ、彼の睡眠時間は多くて4時間、平均睡眠時間は3時間以下。取り繕ろわなければ即刻救護対象である。
一つ、彼はミカと同じく後先考えないタイプの行動力の塊である。ただしミカよりも要領が良いため、気合いで問題は起こさずにいる。
一つ、彼の制服はティーパーティー用の金のラインが入った学ラン。苦しいので前をいつも開けている為、ナギサからよく怒られる。
一つ、彼はケモ耳フェチという訳では無いが、百鬼夜行に頻繁に行く理由の一つにケモ耳の生徒が多いというのが少しだけある。