その天使はハッピーエンドしか認めない   作:苦闘点

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熾宮ルカは救護には逆らえない

 

 

「……ルカさん、正直に答えてください。現在何徹目ですか?」

 

「一日を72時間と考えれば一徹」

 

「ルカ、それは世間一般で言う三徹以上だ」

 

 

 はて、何かおかしな事を言っただろうか。

 ちょっと用事が重なって仕事が溜まりに溜まったから、それを普通に片付けただけなのだが。

 

 

「そんなキョトンとした顔しないで欲しいなー、ぶん殴るよ?」

 

「え、さっきから何をそんなにお怒りなの?」

 

「……かなり重症ですね」

 

「やむを得ないね。ミカ」

 

「おっけー☆ セイアちゃん」

 

 

 そう言うと、ミカは口の両端に手を当てて上を向いた。

 大声を出す時のポーズだ。

 

 ………………はっ! マズイ!!

 

 

「ミネちゃーーーーん!!!!」

 

「救護ォ!!!」

 

「グホァッ!!?」

 

 

 突如天から舞い降りたライオットシールドにより後頭部を打ち付けられ、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

「ミカさん、誰がそんな原始的な呼び方をしろと言いましたか」

 

「一番迅速且つ確実な方法だよ、ナギサ。ミカ、お疲れ様」

 

「いーよいーよ! それとありがとミネちゃん! じゃあルカ君のことお願いね」

 

「いえ、そろそろ救護の時間だと思いましたので、お気になさらず。毎度の事ですが、彼に補佐を付けるよう厳しくお伝えください」

 

「それで聞いてくれたら、そちらにもご迷惑はかけないのですが……」

 

「……それもそうですね。では私から言っておきますので」

 

「お願いするよ、ミネ」

 

 

 

 

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 意識が浮上し、消毒の臭いが鼻をつき目を覚ました。

 

 

「…………あぁ、知ってる天井だ」

 

 

 自分の部屋の天井の次によく見る天井だ。そうか、もうそんな時期か。

 

 

「今月はいつもより周期が早かったかな。予定が重なったせいだな、うん」

 

「─── そんな悟ったような顔で感傷に浸らないでください、ルカ様」

 

「あ、セリナおはよ。元気してる?」

 

「おかげさまで!」

 

 

 そう桃色サイドテールの少女、セリナはしかめっ面で答えた。あ〜、この光景も1ヶ月ぶり。

 俺はティーパーティーとなった時期から、仕事が増える月末あたりに毎月ぶっ倒れる。いや、ぶっ倒される。

 大抵は本気でヤバくなりそうになる前にティーパーティーメンツに人を呼ばれてどうにかされる。月一の行事だな。

 

 

「今回はミネだったかー。まぁ一番安牌だわな。頭イッタイけど」

 

「痛くなりたくないのであれば、ちゃんと寝るようにしてください。ちょっと頭触りますよ。……はい、もう大丈夫です。軽いたんこぶですね。明日には治りますよ」

 

「さっすが手加減を分かってるね、我らが騎士団長は」

 

「だいぶ本気だったと思いますがね……」

 

 

 いやいや、先月の俺見たでしょ? 相手はツルギだよ? よく全治2日で済んだよ。

 上手く回らない頭でツルギを相手にするの、結構キツかったわ。最終的にハスミのライフル弾でくらついた所をツルギの銃二丁接射を食らって倒れたんだっけか。もう少し手加減して欲しい。

 それを言ったらツルギに「加減して倒せるのならこちらも苦労はしない」とか言われたけど。

 

 

「それで、そのミネは?」

 

「正義実現委員会の方が、任務中に負傷したというのでそちらに。今連絡を入れたので、すぐに来ると思いますよ」

 

「今日のお説教は短くなるようセリナからお願いできない?」

 

「何言ってるんですか? 私もお説教する側ですよ?」

 

「……成長したねぇ、セリナも」

 

 

 1年の時の初々しかったセリナが昔のことのようだよ。

 思い出にふけっていると、保健室のドアが開いた。もうミネが来たのかな?

 

 

「セリナ先輩! 替えの包帯持ってきました!」

 

「ありがとうございます、ハナエちゃん」

 

「見ない顔だな、1年の子か?」

 

「はい! 救護騎士団に入部しました朝顔ハナエです! 先輩はルカさんですよね、入学式で見ました!」

 

 

 入ってきたのは、紫髪のツインテ少女。ハナエというらしい。

 ザ・天真爛漫って感じだな。小さい時のミカみたいだ。

 

 

「改めまして熾宮ルカだ。これから月一くらいで世話になると思うんでよろしく」

 

「え、常連さんなんですか? 嬉しいです!」

 

「あまり喜べることでは無いのですがね……」

 

 

 あ〜、心が洗い流される。過労で荒んでいた俺の精神がみるみる回復していくのが分かる。この子、救護騎士団天職だろ。

 

 

「それじゃあ、念の為頭に包帯巻きますね。ハナエさん、やってみましょうか」

 

「え、いいんですか? 私、まだまだ下手なんですが……」

 

「いいよいいよ。思う存分練習台にしてくれ」

 

「わ、分かりました! 頑張ります!」

 

 

 セリナと一緒にハナエを微笑ましく見守る。なんか妹みたいな感じがするな。セリナもそう思ってるだろ。

 てことでハナエは包帯を手に取り、俺の頭に巻き付けていく。二、三周したところで切り、取れないようにギュ〜と縛り付けて、もう一回ギュ〜と縛り付けて……もう一k…

 

 

「ふぬ〜〜!!」

 

「待って待ってもう大丈夫よ!? もう十分縛られてるから大丈夫よ!?」

 

「ハナエちゃん! ルカ様の顔が蒼白くなってきてます! もう縛らなくていいですよ!」

 

「わわっ! す、すみません!」

 

「あ、あぁ。へ、へーきへーき……」

 

 

 頭がジンジンするけど。あとクラクラもする。

 だがこれでタンコブは凹んだな。図らずも回復したわ。

 

 

「うぅ、すみません。まだ仕事に慣れなくて……」

 

「アハハ、そう気にするなって。そこのセリナちゃんだって、入りたての頃はハナエみたいにドジってたぞ」

 

「え、ホントですか!」

 

「もうルカ様! あまりからかわないでください!」

 

 

 あらぬ場所に注射をぶっ刺されていた頃が懐かしい。あれは本気で痛かった。今の包帯締めよりも痛かった。

 

 それから、俺たちはミネが来るまで談笑していた。俺は主にセリナの1年生時代を話した。

 

 

「去年この病棟に幽霊が出るって噂が流れたことがあってな。その時俺もちょうど入院してたんだけど、セリナがめっちゃ怖がっててな」

 

「あ、あれは違うんです! 患者さんに何かあったらいけないと思ってですね……!」

 

「ゆ、幽霊が出るんですかこの病棟!」

 

「出ない出ない。結局その幽霊の正体、夜中に鼻唄歌いながらキッチンで夜食作ってた俺だったから」

 

「初耳ですよどういうことですかそれ!」

 

 

 逆にセリナは俺の起こした数々の行い(良いも悪いも)について話した。

 

 

「確かルカ様がティーパーティーに入る前でしたか。暴動を起こしたヘルメット団50名を一人で撃退されてましたよね」

 

「一人で!? はえー、先輩お強いんですね」

 

「武器的に一対多の方が得意なだけだよ。それに同じことならツルギにだって出来る」

 

「ただ現場の建物の被害がすごくて、始末書を沢山書かされたんでしたっけ」

 

「あれは未だに解せない」

 

 

 そうやって話していると、セリナの携帯に電話がかかってきた。

 どうやら、ミネの方の現場が一段落したそうなので、俺のほうはミネが見るとのことだ。

 つまりどういうことか。それ即ち、お説教タイムである。

 

 

「ハナエ! ミネにお手柔らかにするよう言ってくれない!?」

 

「はいは~い、行きますよハナエちゃん。耳を傾けてはいけませんよ、学習しないルカ様が悪いんですから」

 

「すみませんルカ先輩! セリナ先輩がこう言ってるので無理です!」

 

「教育が行き届いてるねぇ!」

 

 

 こりゃ今年の救護騎士団は安泰だ! ティーパーティとしては嬉しい限りだが、俺個人としては味方がいなくなるのでもうちょっと温情をかけてほしい。自業自得の患者にも。

 二人が病室を去って数分後、水色の髪を靡かせた長身の少女、蒼森ミネが入ってきた。

 

 

「おはようございます、ルカさん。お怪我は治療頂いたようで何よりです」

 

「ちょっと締め上げられたけどね。良い後輩が入ったな、ミネ」

 

「ええ、ハナエはよく頑張ってくれています。セリナも、もうほとんど一人前と言っていいでしょうね」

 

 

 ちょっとした世間話をしているが、俺の内心はビクビクである。

 なにせ、いつもこの流れから数時間に渡るお説教が始まるからな。

 

 

「……さて、ルカさん。一応お聞きしますが、何か申し開きはありますか?」

 

「……ではよろしいでしょうか」

 

「聞きましょう」

 

 

 俺は無実の証明を始めた。

 

 まず俺は先週の週末、休みということで日帰りで百鬼夜行を訪れていた。仕事はあったが、帰ったらやろうと考えていたのだ。

 そして百夜堂でのんびりしていたところ、ミレニアムのエンジニア部から新発明の実験台を頼まれたのでそちらに行った。

 その帰り道にアビドスのラーメン屋に行きたくなったので近道しにゲヘナを寄ったら不良に絡まれて。大事にしたくないので適当に相手してたら、ヒナ……風紀委員長が来たので二人でボコして。

 その後時間も遅くなっててアビドスも近かったから、一緒にラーメン食べに行って。

 そんで、帰ってきたら日曜の午前1時。俺の仕事する時間イズ何処?

 

 

「というわけです。情状酌量の余地があるかと」

 

「仕事が溜まっていた理由は理解できましたが、徹夜をする必要はありませんでしたよね?」

 

「…………」

 

「百歩譲って徹夜しないと終わらない量であったとしても、誰かに手伝って貰おうとは思わなかったのですか?」

 

「それに関しましては……申し開きのしようもございません……」

 

 

 まあそうっすよね、原因があったとしても徹夜したのは俺のせいだもんね。逃げられないよね。

 ということで、何度目かの健康に関するお説教をこってり受けた。

 

 ミネ、救護中はだいぶ豪快なんだけど、説教の時は淡々と述べてく感じだから地味に心にクる。こちらのことを心配してくれているのが伝わるので罪悪感もスゴイ。

 

 

「─── 本当に、少しは自身の体のことを気遣ってください。貴方はティーパーティなのですから、貴方が無理をして心配してくれる人がいることをお忘れないよう」

 

「はい……本当に申し訳ありませんでした……」

 

「……ハァ、そう縮こまらないでも大丈夫ですよ。そろそろ懲りて欲しいなとは思っておりますが」

 

「それが出来たら去年のうちには懲りてるよ」

 

「続行がお望みですか?」

 

「すんませんっした!」

 

 

 もうこれ以上は無理です。泣いてしまいます。

  

 

「全く、どうしてそんなに無理するのですか? 本当に分かっていない訳ではないですよね?」

 

「いや~、ある程度無理しても、ミネ含め救護騎士団の皆が救護してくれるから、多少無理してもいいかな、と……あ、待って違う! 迷惑かけてるのは重々承知してます! だから怒らないで!」

 

 

 頭を抱えたミネに慌てて弁明する。

 ただまあ、騎士団がいるから安心して無理できてるところは実際ある。これ以上言ったら本気で怒られるだろうけど。

 顔を抑えて黙っていたミネは、しばらくして顔を上げた。

 そして、ニッコリと良い笑顔で言った。

 

 

「ふ~~、なるほど分かりました。そういうことでしたらお望み通り、今後も絶対救護致します」

 

「う、うん。よろしくお願いします……」

 

「次あればもっとお話ししましょうか」

 

「そのお話って世間話って意味だよね? 説教って意味じゃないよね?」

 

「次はセリナとハナエも一緒にお話ししましょうか」

 

「ハナエはともかくセリナはお説教要員だよね!?」

 

 

 許してくれる流れだったのに! 来月も絶対お世話になるパターンじゃないですかヤダー!

 

 

 

 

‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎

 

 

 

 

 私は退院したルカさんを見送り、病棟へと戻った。

 すると、笑顔を浮かべたセリナとハナエが出迎えてくれた。

 

 

「良かったですね、団長。ルカ様にああ言って貰えて」

 

「喜んでいいのかは分かりかねますが……悪い気はしませんでしたね」

 

「何やかんやで団長もルカ様と話すのを楽しみにしてますもんね」

 

「ち、違います! 『救護』が必要な所に『救護』を、それが信条ですから、ルカさんを救護することが多いからその事を分かって貰うために……!」

 

「セリナ先輩? どういうことですか?」

 

「団長もルカ様がここに来てくれて嬉しいって事ですよ。戻りましょうかハナエちゃん」

 

「ちょっと待ってください! 違いますからね!?」

 

 

 …………けど、毎月会うことができるのは、少しだけ嬉しいと思っていますよ。

 セリナにもハナエにも、もちろんルカさんにも、口が裂けても言えませんけどね。

 

 






 一つ、彼が要救護となった時に鎮圧するのは基本ミネ。偶にツルギ。ごく偶にミカ。一番彼の入院日数が多いのはミカの時。

 一つ、彼はセリナが何処からともなく現れるのを若干怖がっている。何故自分の部屋の置物の場所も把握しているのだろうか。

 一つ、彼はミネに日頃のお礼としてウェーブキャットのグッズをあげたことがある。チョイスした理由は自分が好きだから。

 一つ、彼は交友関係が広い。ゲヘナにも仲の良い生徒はいる。ただ不良が多いので校風という意味ではゲヘナを苦手としている。
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