その天使はハッピーエンドしか認めない   作:苦闘点

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 原作に入るにあたり本編を読み返したところ、衝撃の事実を確認しましたのでプロットを練り直していました。
 それにより、大幅に原作と逸れます。具体的に何処がズレてるかは後書きに書いときます。

 エデン条約編の時系列が複雑過ぎて独自展開にせざるを得ない……!


熾宮ルカはまだ彼女たちを救えない

 

 

 俺は手に持つ書類を一瞥し、次に対面に座る3人の顔を見た。皆、表面上はいつもと変わらないが、何処か悩ましい雰囲気を感じる。

 俺はその3人に対し、書類を掲げながら問うた。

 

 

「─── 単刀直入に聞こうか。お前ら、()()に賛成か?」

 

「異議なしです」

「うーん、反対かな!」

「現時点では、何とも言えないね」

 

 

 ……これは、ものの見事に全員違う意見だな。

 

 

「ちょっとセイアちゃーん? ここは賛成か反対かハッキリさせとかないと、ルカ君困っちゃうよ?」

 

「不確定要素が多いからね。結論を急ぐ必要があるのは重々承知だが、まだ私では明確にどちらとは言えない。強いて言えば賛成だがね」

 

「最初っからそう言えばいいじゃん、回りくどいなー」

 

「ミカさんはそのくらいに。それで、ルカさんはどうお思いなのですか? この ───『エデン条約』に」

 

 

 今度は俺が問われ、もう一度書類に目を向ける。

 

 『エデン条約』。それはトリニティとゲヘナとの間を掛け持つ不可侵条約だ。

 長い歴史の中で、この2校には並々ならない確執がある。今でもお互い嫌い合ってるし、小さい衝突が起こる事も少なくない。

 その火種が絶えない両校の間に、紛争を解決するための機関『エデン条約機構(Eden Treaty Organization)』、通称ETOを立ち上げることが、この条約の目的だ。ETOには互いの学校から構成員を供出し合い、また管理には両校のトップも必ず参加する。

 

 連邦生徒会長主導のこの条約。エデン……楽園。連邦生徒会長に会ったことはないが、随分イイ性格をしていらっしゃるらしい。

 

 ……これについて俺は───

 

 

「俺も異論は無い。が、向こう(ゲヘナ)の真意が読めない以上、事は慎重に進めるべきだ。セイアが言うような不確定要素や懸念事項は、なるべく無くした方がいい」

 

「むー……ルカ君もそっち側かー。これは私が折れるしかないかな」

 

「そうなっちゃうのは申し訳ないが……反対の理由を聞いてもいいか? 単にゲヘナが嫌いだからってだけじゃないだろ?」

 

 

 ゲヘナアンチが多いパテル派の首長であるミカは、これまた根っからのゲヘナ嫌いだ。しかも明確に理由はなく、生理的に無理ということなので度々頭を悩ましている。

 ただ、今回のような話にそういった私情だけで反対するとは思えない。

 

 

「もちろんその理由だってあるけどね。ETO……だっけ? それってトリニティとゲヘナどっちもで戦える正実みたいなものだよね? しかもそのトップは新しく作るって話だし。そしたら色々問題起きない?」

 

「……驚いた、君がそこまで考えていたとは」

 

「確かに、そういった見方も出来ますね。平和協定ではなく、武力同盟として……」

 

「まんま俺が懸念してたところだな。両校の武力が合併した新しい勢力に、ETOがなりかねないって」

 

 

 まさかミカが気付いているとはな。

 まあミカは、政治は出来ないけど頭が悪い訳ではないからな。少し失礼だったか。

 

 

「確かに、マンモス校二校から人を募れば、武力的にはもう1つ学校が出来るレベルの戦力ができるだろうな。けど、そのトップは慎重に選ぶし、その強権もティーパーティーとあっちの万魔殿(生徒会)の承認を必要とすれば、ある程度は抑えられる。無論、小競り合い程度ならそんなのいらないし、あくまで目的は全面戦争の回避だ」

 

「……ハァ〜、口じゃルカ君に勝てないな〜。理屈では解ったから、私も異論なーし。でもうち(パテル派)の子達を説得するのは無理そうだから、私としては協力も妨害もしないって方向で」

 

「ありがとな、ミカ」

 

 

 喋り過ぎて口が乾いたと紅茶に口をつけるミカは、ひとまずは納得してくれたようだ。

 これでトリニティからエデン条約は受け入れられた。あとはゲヘナの方だが、あちらも二つ返事で了承してくるだろう。

 ……向こうの生徒会は、ちょっとアレだとヒナから聞いてるから不安があるけど。

 

 ひとまず、近いうちにこちらから使者を送るということが決まり、今回の会議は終了した。

 俺は少しこの場に残り考え事をしていた。

 

 

(エデン条約が調印されれば、幾分か正実と風紀委員の負担も減るか。特にヒナもマトモな睡眠時間になってくれればいいな。……俺も言われたっけなコレ)

 

「まだ何か考え事?」

 

「あぁ、ミカか。まだ帰ってなかったのか」

 

「ルカ君に話したいことがあってさ。この後時間ある?」

 

「うん、問題ないぞ」

 

 

 そうして、ミカは俺を伴って歩いて行く。

 この方向は……

 

 

「ミカ、もしかしてカタコンベに向かってるのか?」

 

「そうだよ。

 

 この先に、アリウス分校がある

 

 

 

 

‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎ ‪✝︎

 

 

 

 

 トリニティ総合学園には分派というものがある。

 パテル、フィリウス、サンクトゥス……ティーパーティーを束ねる3つの分派の他にも、ミネが首長を務めるヨハネ分派などがある。

 かつてこれらの分派は違う学園として存在し、現在のトリニティとゲヘナのように日頃からいがみ合っていた。

 しかし、その違いは経典の解釈というもので、今のように確執と言えるものでもなかった。

 

 故に、現在ティーパーティーを束ねる3つの分派を中心に、1つの学園となろうとした会議。それが『第一回公会議』と呼ばれるものだ。

 この会議を経て、分派という形は残しつつもトリニティ総合学園は作られた。

 

 

 ……しかしその中で、最後までトリニティに属す事を反対した分派があった。

 

 それが、アリウス分派。

 

 アリウスは他分派の解釈を許さず、トリニティに抵抗した。

 そのアリウスを、新しく出来たトリニティは連合した事で得た力の標的として選んだ。

 そして多数決の原理に従うように、力の強さを試すように、無慈悲に、徹底的に、アリウスは排斥された。

 

 残されたアリウス生はトリニティを追放され、今は何処に身を隠したのかも分からず、皆の記憶からも消えてしまった。

 

 

「─── そのアリウスが、こんな場所に身を隠してたとはな。……どうやって見つけたんだ?」

 

「たまたまここに入ってく子を見つけてさ。跡をつけてみたらこんなのあってビックリだよね」

 

 

 カタコンベ……うちの自治区の地下にこんな壮大な迷路があるなんて知らなかった。

 その迷路を迷わず進むミカは、もう何度もここに来てるんだろうな。

 

 

「前にさ、ルカ君達に『アリウスと和解したい』って言ったでしょ? その時、ナギちゃんとセイアちゃんは反対で、ルカ君は難しいって言ったよね。あの時から来てるんだ」

 

「去年じゃねえか。もっと早く言ってくれれば……」

 

「仕方ないんだよ、アリウスの子たちから私以外に知らせるなって言われてるから」

 

 

 数ヶ月前は突然何を言ってるんだと思ったが、そういう事だったのか。

 

 ナギサとセイアは政治的な理由から無理だと反対され、俺はアリウス側が俺たちの手を取らないと思い、その時は中立という立場を取った。

 

 アリウスはゲヘナは勿論、かつて自分たちを激しく弾圧したトリニティの事も相当怨んでいるだろう。たとえ遥か昔のことであっても、それはきっと根深く残っている。今のトリニティとゲヘナがそうなのだから。

 しかもアリウスはこのカタコンベの先にあるらしい。外側から完全に孤立した場所では、新しい価値観なども入る余地がないだろう。

 

 そのアリウスとミカに関係があった……またナギサの胃が爆発しそうだ。

 そこそこ歩いた場所でミカは立ち止まった。

 

 

「ここから先は本当に迷路。周期的に構造が変わるから、アリウスの生徒しか入れないんだ。だからここで少し待とっか」

 

「分かった。……何で今日俺をここに連れて来たか、聞いてもいいか?」

 

「あ、そう言えば話してなかったね。実は……」

 

 

 

 

「───── 動くな」

 

 

 軽い金属音をたて、恐らく銃口であろう硬いものが俺の後頭部へと押し当てられた。

 ……驚いた。警戒はしていたつもりだったが、背後を取られるとはな。

 俺は両手を上げ、穿撃針を何時でも出せるようにしておく。

 

 

「……随分熱烈な歓迎だな。君がアリウスの生徒か?」

 

「答える義理はない。貴様は何者だ」

 

「あーストップストップ! サオリちゃん、この人が前に言ってた『協力者』! 私の味方だから!」

 

「…………妙な真似をすれば撃つ」

 

「警戒を解いてくれたら嬉しいんだがな」

 

 

 アリウスの憎悪は、俺の予想以上に根深そうだ。

 

 振り返るとそこには、長い黒髪に目深く被ったキャップ、黒いマスクをつけた長身の少女がいた。帽子とマスクのせいで表情はほとんど窺い知れない。

 しかし、全身から棘のように発されている警戒心と敵意はひしひしと感じられた。

 

 そしてその影には、銀髪に白い翼を持った小柄な少女がいる。こちらからは黒髪の子のような敵意は感じられないが、その目からは変わらず警戒心が向けられていた。

 

 ……普段何をしていれば、ここまで険しい雰囲気を出せるのだろうか。

 

 

「……ハァ。それでミカ、『協力者』ってのは何のことだ?」

 

「うん、今から話すね!」

 

「…………」

 

 

 おいミカ、今黒髪の子から「話してなかったのか?」って感じに顔向けられたんだけど。目は見えないけど、スゴイ呆れられてる気がするんだけど。

 

 話を聞けば、ミカからの申し出でアリウスの生徒を1人トリニティに転校させる計画を練っていたらしい。その生徒を『和解の象徴』として、トリニティとアリウスの関係を少しずつでも良くしていこうということらしい。

 ただ生徒の転校というのは簡単な事ではない。ティーパーティーであるミカ1人でも出来なくはないが、2人いた方がより確実だとして、その計画の『協力者』として俺を連れて来た、と。

 

 

「うん、それ最初に言えな?」

 

「は、話そうとしたとこでサオリちゃんが来たから……」

 

「サオリって言うのな。俺は熾宮ルカだ、よろしく」

 

「馴れ合うつもりはない。早く用件を済ませろ、聖園ミカ」

 

「相変わらずだなぁ……それで、その子が?」

 

 

 今の話の流れだと、サオリの後ろにいる子が転校するのだろう。言っちゃ悪いけど、サオリは敵意がビンビン過ぎてトリニティに行ったら不審がられるだろう。

 銀髪の子はサオリの後ろから前に出て、簡素に自己紹介をした。

 

 

「……白洲アズサ。制服やトリニティのことはよく知らないから、よろしく頼む」

 

「お、よろしくな、アズサ」

 

「……アズサ、言ったはずだがこれは任務だ。それを忘れるな」

 

「分かってるよ、サオリ。けどこの任務を遂行する為には、上手くトリニティに紛れることが必要」

 

「もう硬いなー2人共。アズサちゃんね、任せて! あなたをトリニティにいても不自然じゃないくらい、いっぱいオシャレさせてあげるからね!」

 

 

 アズサはサオリほどの敵対心は無さそうだ。だからこそ転校生に選ばれたのだろうけど。

 アズサは俺とミカの方に歩いて来て、サオリは最後にアズサに言った。

 

 

「必ず任務を遂行しろ、アズサ」

 

「……言われなくても」

 

 

 淡白だなぁ、もう少し何か言ってもいいだろうに。

 これで話は終わりだと言わんばかりに踵を返したサオリだったが、俺の声でその足を止めた。

 

 

「あ、そうだサオリ」

 

「……何だ、トリニ……」

 

 

 俺は強く踏み込んでサオリとの距離を詰め、深く被っていた帽子をヒョイッと上げた。

 突然の事に固まるサオリ。しかし、俺はようやく露わになったサオリの眼に釘付けになっていた。

 

 

「…………お前、その眼は……」

 

「……っ! くっ……!!」

 

 

 我に返ったサオリは銃を振り抜き、俺はそれを跳びのけた。今までで最大の敵意と殺意を向けてくるサオリ。

 その只ならぬ気配も気にせず、俺は一方的に宣言した。

 

 

「……今日は帰る。けど絶対また来るから」

 

「なっ!? 何故貴様が……!」

 

「行くぞ、ミカ、アズサ」

 

「えっ!? ちょっとルカ君!?」

 

「……じゃあ、またね。サオリ」

 

 

 言うだけ言って踵を返した俺に、ミカは驚きながらも追いて来て、アズサは別れの言葉を言って追いてきた。

 

 俺が道中で、やけに細いアズサに携帯していた羊羹をあげた。とても目を輝かせていたので、多分食べたことがなかったんだろう。

 

 

「ねぇ、ルカ君。サオリちゃんの目、何かあった? 別に傷とか無かったよね?」

 

「サオリは目が見えなくなってる訳でもない。ルカ……だったよね? サオリに何が見えたの?」

 

「…………アズサ、一つ聞かせてほしい。……アリウスにいる生徒は、皆サオリみたいな感じなのか?」

 

 

 俺の質問をミカは理解出来なかったようだが、アズサは少し逡巡した後、得心したように答えた。

 

 

「……成程。皆という訳じゃない。けど……

 

『Vanitas Vanitatum et omnia Vanitas.』

 

 ───コレが、私たちの全て。そう言えば、分かる?」

 

 

「…………あぁ、解った」

 

 

 

 ……俺は、サオリのあの眼に、昔の俺を見た。

 

 ミカと出逢う前の俺を。

 世界に絶望していた、全てを諦めていた、全てを虚しいと思っていた、俺の眼。

 

 サオリは俺と同じ眼をしていた。何もかもを虚しいと思っている、あまりにも寂しく、悲しい眼だ。

 

 

 ……あの眼は、あの眼だけは駄目だ。

 あの眼だけは、絶対に許してはいけない。

 

 あの眼でいる限り、ハッピーエンドは訪れない。

 あの眼でいる限りは、バッドエンドにしかならない。

 

 

 あの眼は、ただの憎悪だけでは作れないはずだ。ならば、いるはずだ。サオリに、もしかしたら他の子にも、あの眼をさせた()が。

 同じ生徒か、はたまた何処ぞの大人なのかは知らない。そんな事はどうでもいい。

 

 ソイツを排除しない限り、サオリ達アリウスの生徒の物語はハッピーエンドにならない。

 

 

 エデン条約と並行してだとか、この際関係ない。

 どちらもやってやる。トリニティも、ゲヘナも、アリウスも、全てにハッピーエンドをくれてやる。

 今の俺には、まだそれを出来るだけの力も準備もない。だが、絶対に成し遂げてみせる。

 

 

 俺の物語はいつだって、誰かのハッピーエンドの為にあるのだから。

 

 






 一つ、彼はエデン条約に特別な感情は抱いていない。少なくとも、現時点では。

 一つ、彼がいることにより、ミカとセイアは本来の運命より仲が良い。故に、あの悲劇は()()起きていない。

 一つ、彼はバッドエンドをもたらそうとする者を、決して許しはしない。

 一つ、彼はハッピーエンドの障害となる者を、決して逃がしはしない。
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