前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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このサブタイトルが何をもじったものか一目で分かったら相当原作を読み込んでいると思います。

今更ながらWeb版ネタバレ警報をぺたり。書籍版だと第4巻、5巻ぐらいで分かる話を先出ししたりしています。


ROAD TO GLOSSY...

 三年生のリアドとその友人達が坂道部に入部したのを皮切りに、上級生達も坂道部に入部する中で、リカルド・キサラギは坂道部の部長代行として部の組織化を進めていた。

 

「ケイト殿。官吏コースとしての自己研鑽を坂道部でやる事に興味はありますか?」

「普段走るのとは別にという事かしら」

 

 ケイト・サルカンパ、一年Aクラス官吏コースの委員長風の風貌の女子にリカルドは目を付けた。その言葉にケイトは思考を向ける。確かに坂道部でやる自己研鑽は基礎の部分という意味ではコースを問わず重要なものだ。しかし、官吏コースとしてとはどういう意味だろうか。

 

「ええ。フェイ殿からロガーを供給されておりますでしょう?それを用いて部員達の訓練データを集積します。集積したデータをどうするかは部則の範疇においてそちらの自由です。若様が任命された副部長達と話し合うもよし、自ら課題を見つけ、協力して対応するもよし」

「リカルドはどうするつもり?」

「部長代行として、この自己研鑽に挑む皆様をサポートしましょう。この企画そのものは必要に応じて顧問等の外部有識者とも連携していくつもりですのでそこは部長代行の仕事かなと」

 

 自己研鑽の課題は、坂道部で集められるデータを用いての自主研究であった。本来はリカルドが音頭を取るものではないのか。その問いにリカルドは自分は自主研究のサポートに回るという。

 

「正直に申し上げれば、皆様王立学園生は王立学園の入学試験の形式の都合上、正解のない問題に果敢に挑むという事に関しては特に試されたことがあまりない身と考えます。こういったことについては卵の殻も取れないヒヨコばかりでもおかしくないというのが僕個人の見立てです。経験、場数でどうにかなる問題だとは思いますのでこういった失敗しても許される場を用意しました。あまりにも酷かったり、何をすれば良いのか皆目見当も付かない助けてーっと仰るのであれば、よちよち歩き位ならば教えて差し上げても構いませんが……」

「結構よ」

 

 言外に自分達の能力に関しては未検証だから全く信用していない、しかしながらその能力を鍛えることが重要だと考えるから失敗しても構わない場所を作って支援に徹する、そう言われれば、ケイトは王立学園生の例に漏れずカチンと来た。結果を以て証明してやる、と。

 

「んで、あたしら副部長三人はどうして欲しいんだ?」

「こういう分析チームがあるという事は認識しておいてください。自分の指導に欲しいものがあれば注文を付けるもよし、逆にデータ分析の結果を見て何か部そのものに付け足すべきものがあるとすれば、僕や若様に言ってくださいな。面白い話であれば、仮団員として騎士団に持ち込みフィードバックを得る、なんて択もあります。答えのない問題に慣れていない云々の話は御三方も例外では無いと考えております故」

「了解した。宜しく頼むぞ、ケイト」

「こちらこそ」

「……そう言えば、リカルドのアドバイスはかなり精緻だよな?裏では同じようにデータを取って解析していたりするのか?」

 

 そして、今の今まで話を聞いていた坂道部の副部長三名、ライオ・ザイツィンガー、ダニエル・サルドス、ステラ・アキレウスはステラの問いかけを皮切りに己のやるべきことを理解する。同時に人に指導するという課題に取り掛かる中で、その難しさも承知しているため、要は別の角度から攻めてくれる味方が増えたのだと理解した。

 

「勿論ある程度はやっていますよ?但し、一つだけズルをしています。僕は俗に言う魔眼持ちです。体内の魔力も透かして視ることが出来ます。残念ながら主観的目視なので僕にしか扱えないのですが」

「そういう事か」

「でもコメントは欲しいので後で下さいね?」

「承知しました」

 

 ダンの為した質問、明らかに高精度過ぎる指摘への回答は、特異体質の披露であった。その意味を坂道部にて彼からの指導を受けていた一同は一瞬で理解する。自分達の魔力運用は全て見切られている、と。リカルドが体質上、通常の高出力の身体強化を殆ど使えないという騎士としては結構致命的なハンデを抱えているにも関わらず、騎士コースにも負けない実力者、騎士団仮団員として通っている理由の一端はこれかと納得した。魔力運用を見切っているならば、強力な一撃を繰り出す為の機先、高まる魔力を予兆として見切り、身体強化として肉体に更なる膂力を上乗せされるタイミングも見切って受け流しやカウンターを合わせることが出来る。偶にやる模擬戦でリカルドにライオやダン、ステラが負けずとも中々勝ちきれない理由が其処にあった。

 

「……なあ、一つ思ったんだが。あたしらの魔力制御の腕は悔しいがアレンやリカルドの足下にも及ばない。それを詳しく粗探し出来るなら、あたしらが武術の修練で気の乱れによる武技の乱れを咎められたように……」

「そこに気付かれるとは侮りを謝罪しましょう、ステラ・アキレウス殿」

「……こちらが貴族の嗜みとして幾ら表情や態度などの外面を取り繕ったところで無意味というわけか……恐ろしい異能だ」

「相手の魔力量次第で見やすさが違ったりと、其処まで万能でもありませんし、盲信すれば馬鹿をみる類の代物ですけれどね」

 

 そして、ステラが気付いてしまった魔眼の応用法は貴族の社交においては反則級の必殺技だ。貴族達の腹芸を魔力制御が下手の一言で無効化出来てしまうそれに思わず慄く一同だったが、当の本人は手札の一枚としてしか扱わない姿勢である。それがリカルド・キサラギの本当に怖い所なのだと彼のコンサルティングを受けたAクラス生達は段々理解し始めていた。多くの王立学園生達は自分を高め、ライバル達を追い抜かせば何となく勝てるのだろうという、親を含めた周囲からの偏見をある程度以上鵜呑みにしてしまっている節がある。しかしながらリカルドは最初から結果に至るための手段の一つとしてしか己の力を扱っていない。その過程で自分が負け犬になろうとも、目的を達成すればそれで良しとする、王立学園生としては異質な在り方。それがこちらの思考の陥穽を突いて来る恐ろしいものでないと分からぬほど、王立学園生達は愚かではない。地球では異文化交流の醍醐味とも言える現象が、王立学園では静かに起きていた。かくして、坂道部はその組織体制に新たに三人の副部長とケイトをリーダーとするマネージャーチームを加えてスタートした。

 

 

 

「以上が、坂道部の近況報告になります」

「……お疲れ様です。騎士団での任務もあると言うのに、休みは十分に取っていますよね?受験期直前のような無茶は流石にやめて欲しいのですが」

「母も帰りましたし無茶が出来ないのは承知済みです。それに、どちらの仕事も人任せに出来る所までもう育ちましたので」

 

 ムジカ・ユグリアはリカルドからの坂道部の活動状況を聞いて内心驚嘆していた。坂道部は既に、創立期のアレン・ロヴェーヌという異色の天才を、リカルドという規格外の仕事人が支えるだけのあばら家では無い。内部に人を育てられる人材を育て、更には育つ生徒達のデータを取り、どうやったら育つのかの再現性を自力で確立することの出来る組織だ。騎士団の現場で無線魔導通信機をシステムとして運用するための人材を育てるのにその辣腕を振るってきたエースのノウハウが注がれていることが理解できる。

 

「さて、ここからが部長代行としての仕事です。報告そのものはケイト殿でも十分出来る話でしょう。坂道部の幹部陣からはやはり手本が欲しいと言う声が強く出ております。学園の外周ならば、部外者が走ることもそこまで手続き上難しくはない筈です」

 

 そう語るリカルドが坂道部顧問のゴドルフェンではなく、自分に話を持ち掛けた理由をムジカは理解していた。リカルドは、ゴドルフェンを坂道部顧問、正確には先生として全く認めていない。ただ単に生徒を育ててくれと言う案件を発注した依頼人としてしか見ておらず、自分たちの手で組織と人が育ち、人材育成の役割を果たしていく工程を補強するために相談する専門家としては、全くあてにしていない。

 

「部外者……誰に声をかけるつもりですか?」

「取りあえずはお嬢様とご友人のフーリ嬢、特務第七隊の皆様で適当に見繕うつもりです。データを取ったら僕が回収して集計、目標値の策定はご協力いただければと」

「フーリ嬢とは、フーリ・エレヴァートの事ですか?」

「ええ、『孤高の学匠』などと呼ばれていますがその実はお嬢様のファンですので。孤高の大半はお嬢様がいなくて寂しいから拗ねていただけですね」

 

 途中脱線しつつもサンプルを取る部外者の選定の話をリカルドはムジカと進めていく。当然ながら王立学園には過去に在学した生徒達の膨大な育成記録が眠っている。そのデータとも照合し、騎士コース、官吏コースの目指すべき目標値を作り上げて行くなんて真似を相談するのであれば、既に無線魔導通信機の存在をカリキュラムに組み込むべく協業していたムジカは相談先としてはゴドルフェンより良質であった。

 

「ところで、翁は若様への課題に僕を混ぜて、本当に若様を試すつもりなのでしょうか?」

「……リカルド君が混ざった時点で、坂道部がAクラス以外も巻き込んで大きくなる事は見えていました。そうしてアレン君は坂道部の部員全員で課題を突破すると言質を取られていますので、難易度の増加と戦力の追加で釣り合うものと見られているかと」

「成る程。まあ、そんなところだろうとは思っていました」

 

 リカルドの口調は何処までも無機質だった。かつての己の王立学園生時代の先輩であるリカルドの母親、チェルシーも偶にそんな無機質になる事があったとムジカは思い出し、覚悟するが、リカルドは当然のように見透かす。

 

「ご心配には及びません。ゴドルフェン翁が教師としては新人であることは承知しています。焦り過ぎているのは恐らく僕自身でしょうから。なまじ相手が王立学園生だから多少の無茶はどうにかなってしまいかねないのが危ないと言うのに……」

「貴方が焦る理由が?」

「僕と同時に王立学園受験資格を取り戻した二人、サクヤ・キサラギとグレン・キサラギは僕のように官吏コース志望ではありません。あの子達の事は何処まで御存知でしょうか?」

「……貴方と同様に成績を低く偽っていた事だけは把握していますが」

 

 しかしリカルドは息を深く吐くと無機質さを忘れたように一人の兄として下の兄弟を気遣う少年に戻る。初めて見る側面にムジカは内心驚きつつも秘匿の闇に隠されていたものを覗き込む。果てに胃薬を飲む羽目になる未来を何となく幻視しつつ。

 

「奴、『屍山血河』の系譜は他の始まりの五家(オリジナル・ファイブ)と同様に特異体質を有しています。魔力の流れを読み解く魔眼、異様なまでの魔力の性質変換への才能、神経系の身体強化効率の上昇、再生能力強化。特異とまでは呼べないが共通である可能性の高い形質として五桁代も珍しくない豊富な基礎魔力量や体外魔力循環のセンスを筆頭とする先天的強者としての基礎能力の高さ。我々キサラギはそこに父方の高い魔力圧縮能力、そして母方の若様同様に瞬間魔力圧縮をすら容易くこなす、魔力操作難易度を大きく下げる太い経絡*1を遺伝的に継いでいます」

 

 キサラギ一家は、同じ体質の持ち主として、王国はじめ各国に多大な出血を齎した『屍山血河』のムラサメの強さの秘密について、各国の諜報部以上の生きた情報を実際に対峙して生き残ることが出来た者、同様の体質を共有する者同士として持ち合わせていた。要は、普通に強く、危機察知能力含め生存能力が高く、更には余人のそれとは一線を画す性能の体外魔法という火力も持ち合わせた天性の害悪ゲリラ達なのだ。

 

「僕の場合は無駄に高すぎる魔力圧縮能力と武才の無さに自ら見切りをつけ、不意打ちに必要な最低限の性能を無理やり生やしただけの鍛錬不足なので三兄弟最弱となっていますが、あの子達は違います」

「……無理やり生やした、とは?」

 

 教育者として聞き逃せない言葉にムジカがゆらりと鬼気を滲ませる。確か、リカルドはキサラギ本家特有の魔力過剰圧縮体質により、魔力が高密度になってしまう体質だ。通常出力の身体強化魔法を使うには、濃すぎる魔力を希釈すると言う独特の工程を一つ挟む必要があるため、一度に出せる出力に魔力の希釈効率という制限がついてしまう。しかしながら、臨死怪力を使う場合であれば、高密度の魔力をそのまま使うことが出来る。但し、通常ではあり得ない出力は肉体の自傷を伴うために使用に制限が伴うというものだった筈だ。

 

「簡単な話ですよ。本物のキサラギは臨死怪力を使いこなす為の技量を十年単位の修業を通じて鍛え上げ、有り余る力による自傷を免れている。僕はその修行をする時間がありませんでしたので、神経系の身体強化を痛覚と運動感覚を中心に高出力で使うことで力の制御能力そのものを無理やり引き上げ、多少の自傷は再生力で踏み倒すことでどうにか無理やり数歩歩くというメソッドを確立しました」

 

 リカルドの答えは、狂気に満ちた代物であり、そのちぐはぐな能力を説明する答えであった。担任及び実技試験担当者からのコメントは、純粋な剣技に関しては王立学園でも下位レベル、臨死怪力を引き出しての一撃必殺も最低限の威力を確保出来ているだけでその完成には程遠い、単に察知能力と反応速度の高さでしぶとく立ち回れるだけだと言うものだ。

 

「痛覚の強化、ですか。無理やり数歩歩くと言いましたが、最初に無理が来るのは精神……ですね?」

 

 ムジカは静かに噛みしめる。それは、身体強化を扱う上で本来は避けるべき代物、身体強化の腕前を鍛える中で誰もがやる失敗だ。それを肉体の損傷リスクを把握するために敢えて強化する?狂気の沙汰だ。感覚の鋭い血統でなくても、間違いなく激痛で動作の精密性など論外になる筈だ。普通ならば。

 

「我慢強い方なので耐えるのは別に苦ではありません。仰るとおり、集中力までは耐えられませんが」

「……貴方が先輩の息子だと言うことを甘く見ていました。教師として謝罪しましょう」

「ムジカ先生?」

 

 ムジカ・ユグリアは王立学園副理事長であり、チェルシー・ヴァリアシオンの後輩であり、ユグリア王家の素晴らしき臣民を慈しみその笑顔の為に君臨するという初代からの遺志を継いだ者である。そんな彼女にとって自らを拷問の如く痛めつける技を妥協と称して躊躇いなく手札に加えて切る生徒とは、許せるものではなかった。

 

「ええ、私は貴方の先生の一人です。規格外であっても皆の先をゆく模範となるべき貴方が、そんな己の肉体と精神を使い潰す技を妥協と称して振り回すのをみすみす見過ごせるような輩に務まる仕事ではないのですよ……!」

「それは……」

「そんな技に頼る有り様で貴方は兄として下の兄弟に胸を張れるのですか?幾ら貴方の本業が魔道具士で、武技など嗜みでしかないとしても。貴方が血の力で普通の王立学園生基準ならば良いスコアを簡単に取れてしまうのだとしても。代行であれ、貴方自身が未来への期待を載せる坂道部の部長を名乗るのならば。我々王立学園は、貴方に坂道部の部長として相応しい精進を求めます!その教育理念を貴方の性能が元々酷く優秀であるからと曲げる理由がありません!」

 

 ムジカは久方振りに渾身の説教を生徒にしたことで、肩で息をしていた。リカルドは虚を突かれたような顔をしながらも、苦笑して一礼を以て謝罪とした。

 

「……返す言葉もありませんね。確かに王立学園で学生をやる余裕も確保された今となっては、あの子達に胸を張れる兄貴で居続けるには今の僕もまた落第点です。ですが、王立学園があの子達を迎え入れるには、今の練度では全く以て不足であるというのも事実です。強すぎる才能の光が他を焼き尽くしてしまう悲劇も先生ならば少しは見慣れているかも知れません。ですが、今回ばかりはそれが王立学園の上下二世代も含めて合わせて五世代を焼き尽くしかねない事態となれば、話は別ではありませんか?あの子達は単純な才能において、僕の比ではない。王立学園生に『人種の壁』を突き付けてくる領域の存在。王立学園生達をうっかり何十匹も踏み潰してしまったなんて業をあの子達に背負わせるのは忍びありませぬ」

 

 だからこそ、王立学園生達を一年後に控える自身の弟妹の来襲に耐えられるように鍛えるのだとリカルドは言い、ムジカは納得してしまった。士気に差し障るので公言されていない話ではあるが、『屍山血河』とは、王国騎士団ですら中隊規模でそれなりの損害を覚悟しなければ撃退すらままならぬ人の皮を被った魔物災害。クラス制度に起因する生徒間の比較を以て学園入学後の自己研鑽を支える体制を採っている王立学園にとって、ブチ抜けた最強生物を生徒に迎えると言うのは王立学園にとって仕様外の危機と言えた。

 

 

 かくして、坂道部は少しずつ各々の歩みを進めていく。そのような中で、リカルドは一つの違和感を覚えた。ダイヤルマック地方からの部員がベスター以外にいない。何が起こっているのかと仮入部中のダイヤルマック地方出身者、ベスター・フォン・ストックロードに事情を聞いてみれば、ある一つの新しい部活が姿を現した。

 

「『LOAD TO GLORY』ですか?」

「ああ。二年Aクラスのルーデリオ・フォン・ダイヤルマック様が設立した部活だ。活動内容は坂道部とほぼ同じだ……」

「ふむ、ベスター殿。以前あの部則に署名するのを少し待ってほしいと言うことでご実家に確認を取っておられましたよね?その件、進捗は如何ですか?」

「……それが、回答がなかなか返ってこないんだ。……済まない、多分ルーデリオ様の手の者に握り潰されている可能性が高い」

 

 ベスターは苦虫を噛み潰したような顔でダイヤルマックのお家事情を説明し始める。ストックロードの分家と言う実質庶民の生まれながら、あまりの優秀さ故にダイヤルマック内部では現当主ルーデリオの後釜、スペアとして扱われており、ルーデリオ側はベスターを強く敵視していること。そして、自分の侯爵から承けた任は他勢力との交流を進める事であり、坂道部の部則に署名して坂道部とダイヤルマックの関わり方を自分の一存で決めてしまうことは越権行為の虞が大いにある為に、侯爵に連絡して許可を取ろうとしていたと言う。ベスター自身が侯爵家を継ぐつもりはなく、それ故にストックロード家そのものが侯爵家では肩身が狭い立場であり、こうして侯爵に陳情するのを少し遅らせるといった嫌がらせは普通にあり得る話だと言う。

 

「……成る程。ベスター君。仮入部とはいえケイト殿の下でAクラスのデータを集計している君の視点から、ルーデリオ殿はうちの部より優れた指導体制を用意できると思いますか?」

「…………十中八九、坂道部を配下に取り込む形で解決しようとする気がするな」

「ルーデリオ殿はうちの部則の情報を手の者から得ていると思いますか?」

「……リカルド?何を考えているんだ?」

 

 不穏な気配を感じ取ったベスターは悲鳴を内心上げながらリカルドに真意を問う。

 

「ベスター殿の推測が正しいとして、ノウハウを知る所を買い取るやり方そのものは一つのよくあるやり方です。ですが、真面目にビジネスをやる気もない輩が見栄のために買い叩こうと言うのならば、こっちも考えがあるのですよ、で、どうなんです?部則の情報を得て、ダイヤルマックとして部則に唾を吐くなんて決断を即断即決でやるお方ですか?」

「……そんな愚かな方では無いはずだ」

 

 その翌日。ルーデリオ・フォン・ダイヤルマックが公然とアレンに坂道部を傘下に置こうと高圧的に仕掛けてきたのをアレンが全く相手にせず受け流した事でベスターは静かに胃薬を飲みつつ、アレンにリカルドの事を相談した。こんなところでダイヤルマックにリカルドが殴り掛かってくるなんて冗談ではないから止めてくれと。

 

「あー、うん。ベスター。すまん。諦めろ」

「うわー、こうなったリカルドは僕でも手に負えないからねえ……」

 

 ROAD TO GLOSSY HEAD事件。後にそう呼ばれ、リカルドが『平民大公』と畏れられる原因の一つになる事件が静かに始まろうとしていた。

*1
本作独自の作中設定解釈。魔力の体内流路を経絡と呼称、そこが先天的に太いと魔力操作の難易度が下がり、より高度な扱いをやりやすくなる。原作主人公は紛れもなくかなり太い方。但し、とても太い所から細い場所に魔力が流れてしまうと……




主人公の臨死怪力:元々は自分で『屍山血河』を狩るつもりだったリカルドが、その才能により強引に発動を可能としたキサラギの奥義の片鱗。本来は十年単位で鍛え上げた大人が高い技量で有り余る膂力を御することで成立する短期決戦仕様の奥義なのだが、主人公は自分の神経を強く強化しながら使うことで自分の身体の感覚の精度を大きく上げて足りない技量、未完成な肉体を無理矢理補い、多少の自傷リスクは高い再生能力で踏み倒すことで無理矢理数歩歩く事が出来るようになった。全身を凄まじい激痛が襲うため、それを気合と根性で耐える事によって初めて有り余る膂力を最低限御する事が出来る集中力が数歩分保つが故にそこが活動限界となる仕様。しかしながら、そこでリカルドは自分の武の才に見切りをつけた。ローゼリア・ロヴェーヌに仕え、魔道具士となる道のほうが最終的に良いと優先順位を変えてしまったのだ。子供が手を出して良いような代物ではない自滅技に手を出したリカルドを咎める発想は、キサラギには無かった。セシリアも其処まで破滅的な真相は把握していなかった。
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