前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する 作:メダカにジャム
体外魔法の設定的に術式やスピリチュアル系とは一度世界観を再構築する必要があるレベルで致命的に相性が悪いですけど。
パラダイムシフト
『平民大公』リカルド・キサラギが何故その異名に王国には存在しない大公の名、公爵の上の爵位を含むか。その理由は至ってシンプルに、万が一離反した場合のリスクが彼単独で公爵家すら越えかねないと畏れられているからである。彼自身の言行に離反を疑うような瑕疵は欠片もない。しかし、単純に応手をどう打てばよいのかと考えた場合、彼の頭脳一つだけで十分かつ持続的な敵性勢力の大幅強化を齎す脅威だ。その最たる例こそ彼を特異点足らしめた最初にして例外だらけの一歩、無線魔導通信システムの開発である。
初春の社交の終わり際、入学シーズンから一月が経とうとし、侯爵達も各地方に帰る準備を例年ならばする時期。一同は一つの会議に招集されていた。それそのものはきな臭い噂を聞く昨今においては不自然な事ではない。だが、会議の中身が秘密で事前説明無しとなれば探りたくなるのが参加者達の人情というものだったが、驚く程に何も出てこないのだ。何が起こるのかと周囲が探り合いをする中、一人の少年が現れ、御前会議の末席ではない中々上等な席に着座した事でその場の全員が瞠目する。少年は王立学園の制服を纏っていた。
「リカルド・キサラギが何故ここに……?」
「第一軍団関連……魔物の話なのか?いや、マントが無い?一体どういう……」
「此処へは僕の本業、魔道具工房RickyRoseの副所長として出席しています。副業の為の派手な通行証などこの場の僕には不要なものですので」
「かかかっ!王立学園に限らず騎士コース皆の憧れにして一つの到達点であるマントを副業の為の派手な通行証呼ばわりとは剛毅だねえ」
ざわつく周囲の疑問にある程度答えるべくリカルドが口を開けば、メリア・ドラグーンは呵々大笑する。
「して、これが高々一侯爵風情には時が来るまで見せられなかったものかい?」
「それは後のお楽しみということで。いらっしゃいましたね」
いち早く席を立つリカルド。遅れて近衛兵の一人が声を上げる。
「国王陛下がお越しになりました」
一同が臣下の礼を取る中、ユグリア王国国王、パトリック・アーサー・ユグリアが一番奥へと座り、それに倣って全員が着座する。
「さて、見ての通り珍客を迎えておるが、その意味はすぐに分かるじゃろう。はて、ところで余は喉が渇いたのじゃが、茶は何処かの」
「どうやら僕の手違いで手配し損ねたようです」
「なっ!?リカルド・キサラギ!?お主の手がそんな所まで回る横紙破りまではこの際呑むとしても、いきなりこのような失態、どういうつもりだ!?」
「ええ。失態です。ですが、アンドリュー・シュトレーヌ閣下。もうこれからは皆様が思うほど大きな失態でもなくなったのですよ。お茶の手配には此処から少し離れた厨房まで赴き、厨房に伝える必要がありますが、そうする必要ももうありません」
そう言ってリカルドは席を立ち、議場の片隅にある机の上の魔道具を起動し、操作する。
「こちら第一議場、リカルド・キサラギ。厨房室、応答されたし」
『こちら厨房室、音声は良好だ。ご注文をどうぞ』
「と言うわけで皆様、配られた資料の表紙裏をご覧ください」
そこには、値段を書き足せば喫茶店のメニュー表となるお茶と茶菓子のラインナップが連なっていた。
「余は紅茶、茶葉はお任せじゃ。スコーンも頼もうか」
「では儂はコーヒーを」
「儂は抹茶と煎餅を頼む」
それを見るや否や、茶が無いと指摘したパトリック本人が紅茶を茶菓子付きで注文し、出席していたサイモンもコーヒーを注文し、ゴドルフェンは聞き慣れぬもの二つを頼む。
「まさか、陛下……?」
「がはははは!これで茶を出前注文した最初の人物は余となるわけじゃ。それくらいの贅沢は許せ。そちたちも思い思いの一杯を注文すると良い」
悪戯大成功とばかりにニヤニヤ笑う三人。ここまで来れば一同は混乱が未だ収まらずとも理解させられる。最初から全部芝居だったのだ。混乱しつつもそれぞれが注文を述べていく出席者達。リカルドがそれらの注文をとりまとめ、復唱によって確認が取れたことで良しとしたリカルドが通話を切る。
「茶番にお付き合いいただきありがとうございます。改めましてこの会議の進行役兼発表者に任じられました魔道具工房RickyRose副所長、リカルド・キサラギです。当工房が王国騎士団と共同開発した魔道具群及びその運用体系、総称して無線魔導通信システムのこれまでとこれからを説明させていただくのがこの場における僕の仕事です」
「共同開発の現場の顧問を務めておったのは儂じゃ。年を否が応でも感じさせられたわい。これからの話を語る主役を託すべきはこの老いぼれでは役者不足、この話をただの一合目としか見ておらぬこの開発者の小僧より他にあるまいて」
自ら音頭を取ると宣言し、ゴドルフェンがそれを推したと宣言したことで、まだ内心の混乱は冷めやらぬ中でも会議は容赦なく始まりを告げた。
「まずは、魔道具の仕様について肝要な部分を説明しましょう。この魔道具による通信は魔力を介したものですが、索敵防止魔道具を迂回できます。索敵防止魔道具の存在は道の真ん中を大岩で塞ぐようなもの。人ならば通れぬ抜け道であってもやりようがあるという事ですね」
初っ端のジャブから重い。索敵防止魔道具とは、秘密を守る上での要となる代物だ。それをすり抜けられる事をこうして目の前で証明してしまった通信手段など知らなければ致命的だ。
「さて、この魔道具を実際に使う上での本質的な効果はたった一つです。情報の流れる速度の超加速。そして、情報の受け手が流速を増した情報の濁流に追いつけなくなることが運用における様々な問題の根幹。王国騎士団は安易に無線魔導通信システムをそのまま沢山使えば自滅してしまう組織の筆頭格でした」
聞いただけでも分かる圧倒的なまでの恩恵に浮かれそうになる一同に対し、リカルドは冷徹に無条件で美味しいだけの話などあるわけが無いだろうという世の中の真理を突きつけ直す。理屈は至極単純。折角恩恵を受けても、それを持て余す組織ではダメだという話だ。リカルドは王国騎士団の適応に際して何がダメで何が必要だったか、必要なものをどうやって模索したかを語る。王国の精鋭集団の筆頭格にして代名詞たる王国騎士団が容赦なくダメ出しを食らっては改善策による強化措置を提示されていくことで、参加者たちの内心の熱狂に冷や水がかけられる。参加者たちは王国の重鎮、それぞれが大所帯の長だ。脳裏には当然、"あれ?うちの所は……?"とよぎるものがある。話が進むにつれて、参加者たちの顔色は険しいものになっていく。
「軍の指揮官であることと、決戦戦力であることを両立しなければならぬ中で、現場との距離の再調整を強いられた王国騎士団は一番手がかかる患者であり、同時に一番急がなければならない急患でした。ですがここに、騎士団は考えられ得る限り最短で適応までの道のりを4合目、と言ったところでしょうか、走破して参りました」
無線魔導通信システムを使いこなすには、組織も進化しなければならない。これが強い現場主義という伝統を持つ騎士団ともなれば、生半可な王立学園生一人程度でどうにかなるような簡単な話ではないと分からぬ者はこの場にはいない。それでもリカルドがここに立つことの意味とは、即ち。
「俄かには信じがたいが、……この少年が、騎士団の改革に目処を付けた、そういう理解で良いのだな?」
「リカルド・キサラギのおかげでその工程が一年足らずまで短縮された、だからこそ我々騎士団は今日この場を彼に任せている」
アンドリューの唸るような確認の言葉にオリーナが返した認めるともとれる回答が改めてリカルドの実力が異様なものであることを物語る。
「僕はあくまで魔道具の専門家であるというのをお忘れなきよう。あのチームで果たせた役割は、大言壮語してしがない道標が関の山でしょう。道なき道を踏破する目処を立てたのは僕の戦友達、仮団員としてチームメンバーの諸兄を敢えてそう呼ばせて貰いますが、既に彼らは僕の些細な助言など無くてもそれぞれが無線魔導通信システムに関しては進むべき道を選んで進むことが出来ます」
自分は何もやっていない、彼らが勝手にやっただけ。この論法そのものはゾルドやアレンも頻繁に語るものであったが、その事実に気付いているのは現時点でこの場においてはゴドルフェンだけであった。そして、課題を自力で解決できる人間を育てて事を成し遂げたという事実は、組織改革を要求される事実を前に、その組織改革を出来る人材の需要が跳ね上がった王国の重鎮たちにとっては極めて重い話だ。
「王立学園では無線魔導通信システムの導入及び教育カリキュラムへの編入に際して、リカルドに頼る所が多くなると踏んでおる。生徒と言う立場が好都合なのもそうじゃが、それを抜きにしても、軍務における運用法研究だけでなく、教育カリキュラム整備、法整備、新たなインフラを運営する上での予算工面、経済強化施策など、プロジェクトの支流部分の広範に渡って技術面の専門家として携わっておるからの」
「……では、秘匿プロジェクトに派遣していた部下から上がって来た、株式会社法の法案は?」
「原案はこやつじゃ。予算工面の話でどうしても必要だからと強引にねじ込んでおったわい」
補足するゴドルフェンの言葉に一同は誰が"しがない道標"だとツッコミを内心で入れる。元の技術の応用性が高すぎると言うのも原因の一つだが、それにしても幅が広すぎる。挙句の果てには法務大臣が持っていたリカルドの大暴れへの内心の心当たり、秘匿プロジェクトへの出向と称して若手のエリートを謎のブラックボックスに派遣していたら、何故か株式会社法という王国の商慣習の整理を行う法案を携えて戻ってきて、そのまま異例の速さで通ってしまったという怪現象の正体を問えば、法案の原案がリカルドだとゴドルフェンはあっさりバラし、一同に激震が走る。
「予算工面の為に株式会社法を成立させた……話を聞く限り、通信網には各地に中継基地局が必要。となれば私ら侯爵も一枚噛む必要があると言う訳だけれども、予算工面と言うからには既存のスキームでは機能しない何かがあるんだね?」
メリア・ドラグーンの問いかけに侯爵達のリカルドへの視線の圧が上がる。それは財務大臣も、公爵達も同じだ。
「逆に皆様に質問をいたしましょうか。無線魔導通信システムは王国全土を支えるインフラ事業です。割に合わないから小さくできない。こんなものの所有権、一体誰が握れるというのですか?」
その言葉に、一同は沈黙させられる。無線魔導通信システムを導入した少し先の未来、間違いなく、自分たちの所帯は通信速度の超加速に依存させられる。公爵達もここを別勢力に握られたら致命傷だ。平時に家を保つための利権の数々が無線魔導通信システムの利権の前にねじ伏せられる。魔道列車と同様に王家しかないのか。*1一同が国王、パトリック・アーサー・ユグリアを見る。
「通信インフラの初期投資を王家が全部負担するとなれば、余が素寒貧になってしまうわい。そもそもお主ら、株式会社法がどのような法律か、忘れておらんかの?リカルドよ、原案者として今一度説明するがよい」
「御意。端的に申し上げれば、分割所有可能な事業のあり方の明文化。これが株式会社法立法の意義です。公爵家、侯爵家の十二家におかれましては、株式会社ユグリア・ネットワークスの株、即ち所有権の一部が王家から売り出されますのでそれをお買い上げいただきます。ご納得いただけましたでしょうか、ドラグーン閣下」
「騒がせたね。全く、たかだか一侯爵風情には話せない。そうして貰って大正解だよ。こんな重すぎる話をそっくりそのまま持ち込まれて寄り親の責務を果たせと言われたら、わたしゃ残り長くない老い先を使い果たしちまうよ。よく生きてそんなところに立っていられるね」
「自分の手元に残る利益の分け前を最小限にしつつ、全体の利益を最大化する方向に動いていれば、基本的にどなた様もお話を聞いていただけますので。身軽な平民様の特権と言うやつですよ」
苦笑する国王。王家ですら全てを所有するには重すぎるというのならば、分割すれば良い。されど組織に規格を筆頭とした統一性は持たせておきたい。その回答は所有権の分割という株式会社がどこかの世界で主流となった理由が満たす。改めてそんな重い話に巻き込まれずに済んで安堵の溜息を吐くメリアだが、そもそもこのプロジェクトそのものに身一つで飛び込んで五体満足で凱旋し、それを平民の身軽さゆえの特権で出来る立ち回りならば簡単だと吐き捨てるリカルドにツッコミを入れる気力は流石に持たなかった。"下手なことをせず放し飼い安定な金の卵を産む鶏扱い"を自分達上に立つ者にさせることが出来る平民がありふれてたまるものかという話だ。
「リカルド・キサラギ殿。少し良いかね」
「何でしょうか?ダイヤルマック侯爵」
その後も次々と王国のこれからについて話が及んでいく中、一旦の思考の冷却を目的として休憩が入る。そんな中、演壇で種々の質問を的確に捌いてきたリカルドに最初に話しかけたのは、ロマーリオ・フォン・ダイヤルマック、息子から当主の位を返上されたダイヤルマック侯爵であった。
「まずは、謝罪と感謝を。うちの不始末で手間を掛けさせ、そしてよくぞあの程度で済ませてくれた」
「受け取りますが、手間賃ならば既に頂いております」
もし、ルーデリオが処分対象になっていたとするのならば、ここで糾弾が為され、息子は貴族として王国史上類を見ない惨殺劇の贄となってダイヤルマックには深い傷が刻まれていた。そうされる非が自分達の側にあった以上、公開処刑を止めてあの程度で手打ちにするばかりか此処まで重要な大事業に手間賃の請求と称して自分の地方の者を二人も噛ませてくれると言うのならば、ダイヤルマック地方にとっては最上級どころではなくお釣りの出る結果である。足を向けて寝られないが、そこまでやってもらう真意が読めず不気味さを感じていた。
「手間賃、ねえ?本当にそれだけかい?あの二人を雇った理由は」
「個人のくだらない感傷の類ですが、同情が無かったと申せば嘘になりましょうね。まあ、チャンスをあげるだけですので、相性が悪くてダメとかなら普通にクビにしますよ。そこは経営陣として業績のために最善を尽くす義務がありますので」
他地方の人間の勝手な抜擢に不満そうなメリアだったが、情を以て一度チャンスをやるだけでダメならクビにするとドライに言い切るリカルドにこれ以上は追求するまいと引き下がる。尚、これを聞いたロマーリオは内心頼むからクビになるなとガクガクであった。そして、首の皮一枚繋がったとでも言いたげなのを何とか取り繕っているロマーリオ以上に明らかに顔色が悪い人物がリカルドを遠巻きに見ていた。エンデュミオン侯爵である。
「すみません、ドラグーン閣下。面倒事になっても困りますので、ちょっと火種を潰してきますね」
目が合い、侯爵は老体が震えるのを何とか押し留める。レッドカーペット事件、ローゼリア・ロヴェーヌが王立学園に入学できなかった元凶は自分の家の元嫡子である。彼女の株が従者のリカルド、弟のアレン共々暴騰した今、喧嘩両成敗とばかりに嫡子の廃嫡のみで事を丸く収めようとした過去が恐怖に変わり襲いかかる。此処までやる怪物が主人に仰ぐ人物の道を塞いでしまった。仕返しなんてされてしまったら、エンデュミオン地方丸ごと大惨事になりかねない。ゆっくりと近付いてくるリカルドは死神にすら見えた。
「随分と、体内の魔力の流れが乱れていますね。ご体調は宜しいでしょうか、エンデュミオン侯爵閣下」
体内の魔力の流れが見えると言われ、そんなものを見透かす目が文字通り腹の底を見通すように見えて総毛立つのを我慢できなかった。侯爵達の中でも最年長、老獪故の駆け引きの強さが魔力の流れを見通されてしまっては台無しではないか。
「そうかの?お気遣いいたみいる……」
「そう言えば三年前、ローゼリア・ロヴェーヌはどこぞのバカが取り巻きを連れて後の総元、フーリ・エレヴァート諸共妾にされようといった所で取り巻きや止めに入った職員も含めて百人抜き伝説を残して合格できる王立学園入学試験を放り捨てたと聞くが、はてどこの家であったか……」
ヴァルカンドール侯爵は内心焦っていた。今年のAクラス輩出人数はゼロ、そんな中でBクラスながらも実質的にはAクラスと同等以上と目されるリカルドの株が暴騰しているとなれば、自らアプローチをかけることも含めて全力で掴みに行くしかない。
「さあ?お嬢様は潰した虫けらの模様を一々覚えている趣味をお持ちの方ではありませんし、僕個人としてはお嬢様が王立学園に進学しないほうがこそこそお仕事出来てお得でしたので。虫けらを虫かごから逃がしてしまった方が近くにいらっしゃったとしても今は特に羽音も聞こえぬ以上、あまり興味がありませんね」
が、梯子は当のリカルドの手で外される。主人が王立学園に落ちる方が好都合と公言する従者など狂人以外の何者でもない。ヴァルカンドール侯爵は唖然とし、エンデュミオンは毒気を抜かれたような顔をする。見逃されたとその魔力は落ち着きを取り戻す。
「はっはっは!あてが外れたな、ヴァルカンドール。俺の従妹も似たような感じであったから察しが付くが、目の前の仕事に忠実で仕事でもないことに欲をかくような事はまずしない、違うかね?」
「ムジカ先生にも母そっくりだとはよく言われますよ、レベランス侯爵」
「おおう……多少そんな気はしていたが、こうもあけすけに言うか?」
「そろそろ隠しきれない話であるという自覚はありましたので。この仕事に関して、レベランスに血縁だからと特別の便宜を図ることはありませんが」
「まあ、無理筋だな。先代はもうレベランスじゃないし、ヴァリアシオン家は取り潰しになった。そこから一気にぶっ飛んできたお前さん相手に今更親戚面をして仕事の邪魔をしたら俺の首なんざ簡単に飛ばされちまう」
そして、リカルドの態度に物凄く見覚えがあったレベランス侯爵はそれとなく彼の進路上に立たないような立ち回りで援護の姿勢を見せるが、リカルドがあっさりと親戚であることを認めたことで計算は崩される。先代のレベランス侯爵、ジゼル・レベランスとかつて呼ばれていた女傑は自らの名をレベランスから抹消して去った。彼女の私生児であるチェルシー・フォン・ヴァリアシオンは自らレベランスの従貴族家であったヴァリアシオン家が主導していた大規模な脱税スキームを名ばかりだった筈の当主の地位を利用して告発し、ヴァリアシオン家を自ら解体して姿を消した。そのように決着がついた以上、今更チェルシーの息子であるリカルドがぶっ飛んだ功績をあげた所で、レベランスにとってリカルドは血縁あるだけの他人としてしか扱うことが出来ない。脱税と言う最悪レベルの不祥事を起こしてしまった監督責任として先代とチェルシーにレベランスとの繋がりを断ち切られてしまっている以上、本家も分家も全滅寸前といったようなよりを戻せる大義はレベランスにない。その上で無理やり取り込もうとして仕事の邪魔をしたと不興を買ったならば、リカルドに恩を売りたい諸侯に集中砲火されてそれどころではない大惨事になる未来が見えている。結果、レベランス侯爵はリカルドの仕事に関してはほぼ一切の身動きを封じられた格好となる。その一方で、開帳されたレベランスの血統は貴族の世界では家系図からの抹消を行った先のものである以上無効に等しいとはいえ、当然衝撃である。
「かっかっか!お前さんがあの女狐の孫とはねえ。よくもまあ、才能が続くものだよ」
「……勘弁してください、うちはロヴェーヌ家に倣って結婚相手は各自適当に現地調達主義なんです」
「何だいそりゃ……」
「ロヴェーヌの側はそもそもいい結婚相手とやらを家で調達できるだけの権力なんてありませんでしたし、婚姻政策をやる機能すらもう退化してなくなっている家です。うちはうちで母方が旦那を自分で選ぶ為に侯爵家をひっくり返したり吹っ飛ばしかけるような大惨事を起こしたバカ女二代ですよ?」
「……やっぱりそういうオチだったのかよ……」
あまりにも当たりを引きすぎるリカルドの血筋に呆れたと言わんばかりの反応を返すメリアだったが、自分達の結婚事情は各自の自由意志に基づくものだから婚姻政策を持ち込んで来るなと牽制されて、貴族の世界では考えられない狂気のスタイルに思わず気圧される。畳み掛けるようにロヴェーヌもキサラギも結婚政策とは無縁なのだと強弁する姿に周囲も圧倒されるより他にない。エゴ一つで上級貴族家だろうと平気で吹っ飛ばすおバカさ加減とそのおバカさを押し通す頭脳とパワーを持ち合わせた怪獣一家に気軽に血統を取り込ませてくれと手を出せるわけがなかった。尚、後始末を押し付けられた先代の甥は薄々勘付いていたが知りたくなかった真相を前にしわしわになった。
「一つ気になったのですが、リカルド・キサラギとローゼリア・ロヴェーヌの結婚はどうお考えですか?」
そこに一石を投じたのはセレナーデ侯爵、夫が王国騎士団第四軍団の幹部を務め、王国北部、仮想敵国筆頭のロザムール帝国との国境を大きく接している地方の内政の長である。攻め込まれた際の援軍の到着速度を筆頭に、セレナーデ地方にとって無線魔導通信システムの導入を急ぐことは他の侯爵達以上の死活問題である。必然的に譲歩等の政治的手札を切ってでも攻めさせられる都合上、システムの開発者の結婚なんてパワーバランスが変わってしまう話には気を配る必要があった。二人が結婚するならば、懸念点は大きく削られる。
「お互い考慮の外です。そろそろ時間ですね」
休憩は終わり、会議は再び回り始める。株の配分量、売出し価格、またインフラ運営に必要なものや機材の生産設備投資。本来ならば騎士団が噛むにはギリギリ厳しい話までも、戦略的に保護すべき軍事技術の扱いと言うことでリカルドは何処までが技術的に模倣困難か、民需も充足した場合にいくら儲かりそうかなど、積極的に必要な情報を中心に語っていく。
「さて、最後におまけとして小僧の与太話を少々。何故、僕がここまで生き急ぐのか。理由は三つです。一つ目は、うちの工房の稼業が、製品を作るよりも特許で稼ぐ代物であり、利益を良心的に最大化することを考えれば、伝統とサビとカビの区別がついていなかった王国騎士団の尻を蹴る以外の選択肢が無く、たまたま王国の財布が緩いタイミングで突っ込めたこと。二つ目は、僕自身が自分の異常性がそこまで都合のいい話を引き当てられるものだとは考えていないことです。同類がひょっこり帝国に生えてきたりしているかも知れない。そうなったときに勝敗を分かつのはどれだけ先手を打てたか。より具体的に言えば、天才に百歩先を進まれたところで、凡人皆が二歩先を進めば大体取り返せます。そして三つ目は。我らキサラギ三兄弟、最弱は長男の僕です。僕よりも真っ当な天才であるサクヤとグレンが、ただ重犯罪者等を三親等以内に持つという枷だけで手に入れて当然の勝利を取り上げられるのは、世の無常と言われればそれまでですが、兄としてはちょっと頑張った程度でどうにかすることが出来るのならば、是非もなし。こうして悪あがきをしたら、上振れを引けてしまった。それが王国の皆様のご協力あっての事柄である以上、この御恩は、働きを以て返させていただきます。以上、ご清聴ありがとうございました」
「うむ、ご苦労であった。想像以上の働き、大義である」
「お言葉、ありがたく頂戴します」
かくして、リカルド・キサラギの正体は王国騎士団仮団員最年少記録更新者という大看板など生温い仮面であることが王国上層部に周知された。同時に、例え小間使い扱いであろうとも、王国の未来を創る最前線に投入されることになった、ベスター・ストックロードとカノン・ケーンリッジにビッグネームからのディナー等の申し込みが殺到し、小市民気質なベスターが悲鳴をあげながら応対することになるのも別の話である。
書き溜め尽きたので何とか週一投稿っぽいことになっていますが、毎日投稿できる人が書き溜めしていたとしても凄いと身に染みて分かったこの頃
ジゼル・レベランス:オリキャラ、レベランスの先代侯爵。王国騎士団所属の魔法士としての任務中に魔破病末期患者であったヘンリー・ドスペリオルと運命の出会いを果たし、その忘れ形見を胎に入れてレベランス家に持ち帰る。夫を迎えることはなく、生まれてきたチェルシーについても、自分の娘として愛することは出来ず、ヘンリーの娘としてしか愛せなかった精神的半死人。聖魔法の達人であり、王立学園生時代はメリア・ドラグーン、ゴドルフェン・フォン・ヴァンキッシュと同期で学年首席をメリアと争っていた女傑として通っていたが、お互い侯爵となってメリアが再会した時には、彼女は既に侯爵の皮を被った魔道具のごとき有様であった。かつてのライバルの変わり果てた姿は嫌いな奴であっても酷い後味である。魔破病の撲滅の為に侯爵家を使い倒していた暴君であり、チェルシーがその水面下で横行していた大規模脱税スキームを告発するや否や、研究施設としての侯爵家に見切りをつけて、最後の仕事として自らをレベランス家から抹消する形で責任を取り、姿を消した。現在はヘンリーの孫に絡む徘徊老人でしかない。