前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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閑話:凱旋後の後始末

 ユグリア王立騎士魔法士学園の第一一二七期卒業生、通称ユニコーン世代。その隔絶した実績の特色を表した話として、このようなものがある。ユニコーン世代にDクラス以下は実質存在しない。ユニコーン世代の専門家はEクラスであっても専門分野に関してはAクラスにすらお辞儀をさせる。どちらもユニコーン世代の卒業生達が、単にAクラスの出来が特別良かっただけではなく、世代一つ丸々が突出して優れていたことを表す言葉だ。

 

 何故、そうなったのか。それまでの世代よりも優れていた原因の一つとして、アレン・ロヴェーヌが立ち上げた坂道部を挙げるものは少なくない。坂道部、王立学園の裏必修科目とすら呼ばれる超名門部活は、たった半年でそれまでの世代に比してクラスを二段上げるほどの成果を叩き出した。それまでの世代よりも明らかに突出している理由の説明としては確かに十分だろう。だが、ユニコーン世代以降の坂道部のメンバーの実力を表す記録に分かりやすく部員への指導力が劣化した痕跡はない。即ち、後の世代と比べても優れている根拠にはまるで足りない。

 

 では、後世と差をつけたのは何か。その答えを遡れば、二つの特異点に辿り着く。

 

 一つは歩く前代未聞、Aクラスの名だたる大天才達からも本物と呼ばれた男、もう片方の片割れからは奇跡を当たり前に引き当てる特異点と呼ばれるアレン・ロヴェーヌ。

 

 もう一つは日進月歩の権化、Bクラス以下の燻っていた天才秀才達に火をつけた男、もう片方の片割れからは奇跡を当たり前へと撃ち落とす特異点と呼ばれるリカルド・キサラギ。

 

 この二人が何もかもを引っ掻き回して大変であったと当時の人々の記録には残っている。だが、それに最後まで文句を言う者はいない。同じ地方の出身である二人は入学時点で一年後に王立学園を襲う才禍の二連巨星を当然知っていた。善性とはいえ、本物の人種の壁で圧殺してくるような人型魔物災害を王立学園の生徒として受け入れる事の危険性を予期していた筈なのだから。

 

「何故クラス間の差が世代間に亘って固定的に開くのか、ですか」

 

 ムジカ・ユグリアはリカルドからの問いかけの答えに窮した。王立学園のAクラスからEクラスまでの間には、周囲の貴族から見ても一つのブランドランクじみた差が定評として定着している。これが一つの期だけの話ならばある程度は既成事実として納得できる節もある。だが、そう都合よく世代間に亘ってランク付け出来るほど卒業生各人の力量がバラけるだろうか。

 

「そういうもの、で貴方が納得出来るわけが無いのは分かりますが……どうしてそんな問いを?」

「不都合な事実を突き付けましょうか。うちの妹のサクヤと弟のグレンは僕以上に雑に強い天才であり、僕の計画の去就に関係なく、王国にその身を忌み子だからと下に置かせない為に僕が基礎設計を与えた特殊兵器です。僕自身、此処まで上手くいくとは思ってもいなかったので、大勝ちしすぎた後の後始末を本当に何も考えていなかった、と申し上げれば懸念は理解していただけますでしょうか」

「二人がその有り余る才能で王立学園を蹂躙して壊してしまうと?」

「そういう事例は過去にも他の学園ならば稀にあったでしょう?だから、王立学園は更に強くなって欲しいのです」

 

 王国の最高教育機関である王立学園の副理事長として、格下だからと見下さず、何か一つでも教育に関するヒントが得られればと他校の話を色々と仕入れてきた。確かにリカルドの言ったような話に覚えが無いわけではない。騎官貴魔、王都の王立学園に次ぐ上級専門学校は王立学園に落ちた者達の受け皿という性格も持ち合わせた学校だが、そこに本来ならば合格出来ていた筈の格が明らかに違う生徒が混ざってしまってその世代が酷いことになった、なんて話はたまに聞く話だ。だが、それが王立学園で起こると?俄には信じられない話だ。常識はそれを否定する。

 

「……杞憂だと仰るなら仕方ありません。ですが、それはそれとして王立学園が輩出する人材の質を全体的に底上げする方法があるとするのならば、無線魔導通信システムという応用性の塊を王国にいち早く使いこなしてもらう上では十分に見返りを見込める投資であると考えます」

「それは……そうですが」

 

 内心溜息を吐きつつも、リカルドはあっさりと論調を変える。王立学園にまつわる過信を多分に含む偏見はよくないものだが、今すぐ自分が頑張ってどうにかなる話でも無い。故に、納得できる話に切り替える。ローゼリア・ロヴェーヌが開発し、リカルドが運用体系及び量産技術を整えた大発明である、無線魔導通信システム。その先を考えた場合、ネックとなるのはこれを使いこなせる人材だ。唐突過ぎる技術革新を前に、ぽっと出の需要に対して供給を追いつかせるのが大変だというのはリカルドとムジカの共通見解である。その後、ムジカは持ち帰ったこの話をゴドルフェンに持ち込んだ。ゴドルフェンは唸りこむ。

 

「確かに、リカルドの妹と弟を王立学園に生徒として迎え入れるにあたっては、二人が強すぎるが故のリスクはある。士気を著しく削ぐ内容故、あまり公言はされておらぬが、『屍山血河』と我々の間には明らかに異常な血統の差に起因する個体戦力としての格の差が存在しておる。今となっては、百年後の王立学園生の半分以上がリカルド達の子孫、或いはあやつの隠し子の子孫で埋まっていても驚けぬわ。奴を前に五体満足で生き残ろうとも心を折られて剣を捨ててしまった騎士崩れは十や二十では効かぬ」

 

 みだりに語るべきではない惨憺たる現実がそこにあった。王国騎士団と言う王国の最終防衛線ですら心を折られる暴威、それを生徒として迎え入れればどうなるかとムジカは顔色を悪くする。思った程軽い話ではない。そして、改めて。二人はリカルドがこの件をどう考えているのかを問うた。

 

「何故、心が折れるのか。端的に申し上げれば、自分が勝ちたいようには勝てない弱者であることを自覚しながら、それでも譲れないもののために強くある。そうあることが出来ていないからだと考えます。弱かろうと、出来ることを出来る所まで真摯にやる覚悟。しかしながら、精神論を闇雲に唱えた所でそこに再現性はありません」

 

 言われれば、ゴドルフェンにとっては納得出来る言葉であった。騎士団において、本当に優秀な騎士団員か否かを分ける分水嶺の一つがこのように自尊の為の安っぽいプライドよりも目の前の任務を優先できるか否かである。

 

「僕自身はそうならないように立ち回っているからあまり問題が顕在化していませんが、評価の土台をひっくり返してしまう革新を齎すもの、相対評価が意味をなさない絶対の暴力は、相対評価に依存しやすい王立学園生にとって最悪の天敵なのですよ」

 

 心当たりが無いとはムジカには言えなかった。王立学園の卒業生は良い順位を取れば取るだけ、栄光を恣にする人生が約束される。事実ではあるし、そこに甘えても良い成績を取っていれば割と何とかなってしまう。が、歯痒いものを教育者として覚えなかった訳では無い。だが、それももう通用しない。

 

 秘匿資料としてゴドルフェン経由で共有されてしまった、サクヤ・キサラギとグレン・キサラギの資料が語る、『屍山血河』の系譜と只人の、本当に人間なのか疑いたくなるような人種の格差。弱い方、純粋な戦闘員を志望していないサクヤですら推定される実力は一つ年下と言うこの年代にとってはクリティカルな年の差の壁を超えて尚、今すぐ今期のAクラスに殴り込んで最強の一角に食い込めるレベルである。グレンに至っては、人の皮を被った古龍でも書いているのかと言わんばかりのハチャメチャすぎる強さだ。あのアレンが百戦以上挑んで全敗しているとはデタラメにも程がある。どちらも決戦兵器の領域を視野に入れて育てられている以上、行きつく先は設計通りに騎士団をも超えた決戦戦力。即ち騎士団員の養成を重要な使命とする王立学園ではその規格が及ばず手に負いかねる怪物。そして、二人には稚気があるとも書かれている。いじめっ子気質は幾ら躾けられているとはいっても、圧倒的な才能の暴力を上乗せして振るわれるのならば、王立学園においては劇物だ。

 

「して、どうするつもりじゃ?」

「進路研究会を始めます。このまま放置してあの子達が王立学園生達を無自覚に踏み潰して暗黒期突入、各方面からの恨みを無闇に背負わせる、なんてことにする訳にも行きませんので、出来ることを少しでもやらなければ……すみません、少し疲れました」

 

 最後は過労で倒れたリカルドが保健室に運び込まれ、働き過ぎだとムジカに説教されて締められたやり取り。これが、後に王立学園進路相談室に化ける活動の始まりであった。

 

 そもそも王立学園は騎士団を中心に優秀な実力者を各方面に輩出し続けた実績を以て王国の学歴社会の頂点に君臨し続けてきた教育機関であり、その進路を学園の側から捻じ曲げる行為はやってはならないタブーだ。それをやらかした愚か者への袋叩きに加わる者は星の数ほどいるだろう。

 

 だが、リカルドは厳格な規則を以て己を縛り、首に絞首刑の縄を括り付けたままと言ったような状態で活動を始めた。この活動の中身に疑問を覚える者は多かったのだが、面談の中身は必ず録音魔道具に記録されて必要な者に公開されるなど、兎に角こんなことをやって何の旨味があるんだと言う雁字搦めの規約が半分を黙らせた。残り半分は、こんな競争相手に塩を送るような真似をして何がやりたいかと困惑するばかりであった。

 

「アレンさん、リカルド君は何を狙っているんでしょうか?」

「んあ?……俺もそうだが、あいつもあいつで今更王立学園でいい成績取る旨味がねえからな。ただ、一つ分かっているのは、あいつは自分が弱者であると自覚していて、弱いこそ、災害を予知したら、備えて迎え撃つ為にコツコツやる執念の持ち主だ。自分一人でどうにかならないなら、立ち向かえる人材を育ててでもやり抜く、ご苦労なことで」

 

 困惑する者の一人、ジュエリー・レベランスの問いかけにアレン・ロヴェーヌはついていけないぜと零す。今はまだ、天才の奇行としてより処理するしかない話であった。この王国国民としては空前絶後の大勝利を果たした凱旋後の後始末の一つとして打った手がユニコーン世代のBクラス以下で燻っていた火を燃え上がらせ、リカルドを『平民大公』と呼ばせるほどの圧倒的人脈の主幹に成長するなど、予想しろと言ったところで無茶ぶりである。




屍山血河の系譜の特性:ほぼ例外なく属性持ちが生まれ、複数属性持ちも全く珍しくなくなるほどの魔力変換能力の異常発達、魔力を波長レベルで見分ける魔眼といった強力な特質を筆頭に、普通に全体的な能力の水準が高く、しぶとい。異常発達した魔力変換能力は一定以上の水準の制御を受けていない魔力すら奪うことを可能とする。
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