前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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自称カラテ偏差値59

 リカルド・キサラギは才能に恵まれなかったと己を自嘲する。彼をよく知らぬものが聞けば、何の冗談かと思うだろう。だが、彼のクラスメイトはその意味するところを理解しつつあった。

 

「……ねえ、もしかして貴方……剣は苦手なのかしら……?私の隙を見つけるのはとんでもなく上手いのに、そこを突くのが全然追いついていないから……」

「そちらのお察しの通り、僕は性能の割にはと但し書きをつければかなり弱いですよ?まともなやり方で戦うには身体強化の出力制約がきつい上にそれを覆せるような剣や槍の才能もないから初手で限界ギリギリまで力を振り絞って殺しきる事を第一に考えるジゲン流を付け焼刃で身に着け、それでも尚足りぬ才能と修練を小細工で無理矢理鍍金して、一つの必殺に仕上げた。ですから、相手を壊せないなど、初手必殺を使えない状況となると途端に鍍金が剥がれてボロボロなんですよねえ」

 

 実技の授業にてリカルドを除けばBクラスの筆頭格と言えるアリス・マスキュリンと組んだリカルドはあっけらかんと自分の弱点を語る。合格して間もない王立学園生ならばまず考えられない物言いだ。地元では数十年に一人の天才とか持ち上げられ、自分の実力に多かれ少なかれ自信がある手合いが大半で、自分の弱みを淡々と認めて受け容れるなんて後ろ向きな殊勝さを持ち合わせた者が合格したての王立学園生にはまずいない。悔しさも焦りも欠片もなく、その無機質な感情の無い言葉はまるで魔道具の仕様の不足をそういうものとして切り捨てているようにも見えた。

 

 だが、それを語る発言者の異様さをさしおけば、"リカルド・キサラギは性能の割に弱い"という言説には何故かしっくり来るものを感じられてしまう。あれだけ優れた見切りを出来るのならば、自分ならば一年前の自分の性能でも、本来雲泥であるはずの年齢による成熟度の差を覆して今の自分に勝てそうだった。手強いことは手強いが、強いというよりは厄介。そんな奇怪な実力をリカルドは有していた。そう、厄介なのだ。一番の武器である初手必殺、魔力ガードが極めて困難な音魔法による悪辣すぎる崩し技、主力の手札二枚落ちで尚、Aクラスにギリギリ入り損ねる程度には才能と実力のある自分をして楽勝とはいかない。

 

「……随分と大っぴらに言うのね。不殺と体外魔法の禁止故に切り札を捨てている状態の貴方にすら苦戦するって事は私もまだまだなのだろうけども」

「武才が上の相手を前に耐え凌ぐのは仕事柄結構慣れているのですよ。うちのお嬢様、世間では憤怒のローザだのレッドカーペット事件だので知る人ぞ知る方だとは思うのですが、徒手格闘が大の得意でして、そんな方のストレス解消にスパー相手をしていれば、いやでもそうなります。逆に言えば、ご実感されている通り、反撃はさっぱりなのですよ。鍛えればこの見切りで綺麗にカウンターを決めることも出来るのでしょうが」

 

 まるで、自分の強さとはその程度で、上を目指すことは出来るのだろうと察してはいるがそこで努力をすぐに選ばない姿にアリスは強い違和感を覚える。リカルドほどの人物ならば、容易に歩みを止める選択をするとは思えない。積み上げてきた実績は氷山の一角を仰ぎ見るだけでも、ブレーキが壊れている類の人間がやらかしたものにしか見えない。そもそも臨死怪力で一撃必殺の超出力を引き出して初手必殺を切り札に据えるなんてトンチキを前提とした流派を扱う狂人にブレーキがあった方が驚きだ。

 

「鍛えようと即座になるものだと思っていたけれど?」

「鍛えても、それほど強くなれるわけでもなさそうでしたので、あまり優先する気にもなれず」

「……貴方の思う強いってどの基準を指しているのかしら?」

「身内贔屓で申し訳無いですけど、親父ですね」

「……騎士団に入って、それでもお父上が強さの基準なの?」

「特に変える必要も感じませんでしたので」

 

 父親が強者の基準、武門の子ならばまあ、世間を知らぬ者を中心に本物の王国騎士や王立学園生を見るまではよくある話ではある。だが、それが曲がりなりにも騎士団仮団員になっても変わらないなんて事はあるのだろうか。リカルドの鑑定眼が正しいと仮定すれば、彼の父親は王国騎士団を基準にして尚上澄みに位置する圧倒的強者なのだろう。リカルドの出身がロヴェーヌ領というド田舎で、リカルドの祖母と父がロヴェーヌ家の武術指南役であるという情報がある以上、リカルドはジゲン流の初手必殺という恐らくはある種の到達点をものにして尚、父親との間に隔絶したものを感じ取り、自分の武才にある程度の見切りをつけているということになる。そんなことがあり得るのだろうか。そもそも王立学園生の中で、学園に入って尚通じる武術流派を身に着けている新入生と言うもの自体が名門出身でない限りは稀なのだ。それがドラグーン地方の片田舎の道場剣術ともなれば、まずその時点で珍しく、そしてそれほどの実力者がロヴェーヌ家に仕えているというのもおかしい。裏に何か事情があるのだろうか。無論、こんな違和感を覚えるのはアリスだけではない。Bクラスは切り札2枚落ちのリカルドに相対して、或いは誰かと模擬戦をしているのを傍観して、坂道部での部長代行としての手腕と照らし合わせた結果、リカルドの歪さに気付けないほどの弱卒ではない。リカルド本人は自分のことをあまり語らない人物であるため、一人が坂道部の繋がりを利用してアレンに聞いてみた結果、こんな証言が飛び出した。

 

「アイツが性能の割に弱いっていうのは自称通りの事実なんだよなあ……身体強化完全に抜きの一対一の組手とかやったら学年最弱でも驚けないぐらい戦闘の駆け引きとか苦手で、目の強化性能がめっちゃ良いからギリギリ悪あがき出来る感じ。とはいえ、もしアイツがうちの武術指南役のおっちゃんばりの天才だったら、多分ここまで大暴れしていなかったんだろうな。んあ?おっちゃんがどのくらい凄いかって?とりあえず、うちの担任よりは強いと思うぞ」

 

 アレンはあっさりとリカルドの自己評価を卑下でもない単なる事実と認めた。そして、武術指南役であるリカルドの父親が大天才であることも認め、ゴドルフェン・フォン・ヴァンキッシュを超えると評価した。当然だが、それはリカルドの一家がロヴェーヌ家などという吹けば飛ぶような貧乏子爵家に仕える事実への謎を深める話である。明らかに従者と主人の格が釣り合っていない。

 

「アイツの凄さの大元の一つは弱者としての自覚だ。自分が弱いと悟るや否や、即座に鍛錬による単純な戦闘能力の向上を後回しにして不意打ちからの初手必殺スタイルを選んだし、それでもやりたいことはやり切れないと見切りをつけて姉上の従者として見境無しに暴れること*1を選んで突き抜けちまった結果が今だからな。自分がやるべきだと思ったことにかけては明後日の方向に方向転換するのが止まっているように見えるだけで、基本止まらない困った奴だぜ」

 

 アレンの語るリカルドの異常性にして真骨頂は、潔すぎる方向転換を為す決断力と、それを可能とする自分の才能への夢の無さである。通常、王立学園生とはその才能が全てにおいて周囲よりも全般的に優れているとされる状況に陥りやすい。そこから王立学園にて他の優秀な生徒達と向き合う形で自分の得意不得意を見定め、見切るようになっていくというのが普通の流れなのだが、逆に言えば入学前から見切りをつけるような状況に陥るパターンでは大概が王立学園への合格ラインをそもそも下回っていて受験勉強等の過程で己の限界を知ると言ったような場合が大半だ。間違っても受験勉強に専念できないという絶望的な状況から王立学園Bクラスに滑り込む怪物に当てはまるような話ではない。話を聞いた生徒はそういった背景から分かるおかしさについての認知は殆どなかったものの、兎も角リカルドの異質さへの認識は深まり、これを伝え聞いた大人達を混乱させることとなった。リカルドの異常性の源泉は誰かの入れ知恵なのか、音に聞くゾルド・バインフォースの薫陶の賜物なのか。

 

 周囲がリカルドの歪な才能と思い切りの良すぎる運用、そしてその背後に見え隠れするロヴェーヌ家の深まる謎に混迷を極める中、例外的に静観を決め込む家も幾つかあった。例えばドラグーン侯爵家は、フェイルーンが自ら姉弟子としてリカルドは最初から入れ知恵の気配を感じさせず、そういう生き物だった、これ以上の詮索はリカルドの逆鱗に近いところになるため危険だからやめたほうが良いと証言したことで静観を選択した。そして、リカルドの異常性にいち早く触れ続け、更にはローゼリア・ロヴェーヌの非凡さにも触れていたエディ・ドスペリオルを抱えるドスペリオル家では。

 

「……成る程……そういうことか……」

 

 特務第七隊における一部情報の守秘義務が終了したことで息子からの報告を受けた当主、ランディ・フォン・ドスペリオルは深く溜め息を吐く。万感が吐息から滲み出ていた。

 

「……父上、やはり」

「ああ、間違いない。……ロヴェーヌ領は近々クラウビア山林域の領有権を王家に返上する予定らしい。男爵への降爵すらまるで厭わぬ蛮行、どういうことかと気になっていたが、王家の庇護を以て魔破病の特効薬となる何らかの稀少な天然資源を保護するつもりなのだろう。そして稀少な天然資源は魔破病で死ぬ筈だったセシリアに奇跡を齎した。否、もしくはローゼリア・ロヴェーヌかアレン・ロヴェーヌもそうだったのかも知れぬな」

 

 エディ・ドスペリオルがドスペリオル家に持ち込んだ情報は大きく二つ、一つはリカルドの母方の祖父がヘンリー・ドスペリオルであるという事実の暴露。もう一つはロヴェーヌ家とキサラギ家にとって、クラウビア山林域とは自分達の子孫の安寧のためにも如何なる罪業を背負う事になってでも絶対に守らなければならない天然資源の宝庫であるという情報。此処からロヴェーヌ夫人がセシリアであるという情報を別途得て関連性を疑わぬ程ドスペリオル家も愚かではない。元々ローズとリカルドがドスペリオルの血を色濃く引いていると言うのは特務第七隊隊長であるエディにはすぐにバレた話であったのだ。それでもこれまで堅く情報を秘匿してきたリカルドが流石に隠し切るにも無理がある、秘匿すべき理由も薄れたと言って明かした情報から、ドスペリオル家の長年の悲願、魔破病の特効薬の存在への推理はすぐに辿り着ける話であった。

 

「……陛下は全てを御存知だろうな。私の名において宣言しよう。ドスペリオル家は希望の芽が花開くその時まで耐え忍び続ける。恨むならば、私を恨め、エディ」

「いえ……リカルドはこうも言っていました。ベルウッド・ロヴェーヌは農学者としては分野は違えどローザの才覚を彼譲りと言わしめる程の一芸の持ち主だと……。研究者としてのあの二人の実力は嫌と言うほど体感しております。ジュリアが発症したとしても、叔父上を信じて待ちましょう」

 

 二人が案ずる先、エディの子ジュリアが魔破病を発症するか、発症したとして特効薬の生産が間に合うかで運命の賽は投げられた。可愛い孫の命を運命の賽に託す決意をしたランディの握りしめた両拳からは血が流れ落ちていた。

*1
異界知識による国丸ごとの文明汚染を初手で選ばない程度には良識があったとアレンは思っている

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