前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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特級魔道具研究学院

原作中における描写は以下のみであるため、本文の設定は登場人物設定も含めて、9割本作のみのオリ設定であると前置きしておきます。

原作主人公の姉、ローゼリア・ロヴェーヌことローザと、その親友で王立学園首席卒のフーリ・エレヴァートが在籍。
内部で秘匿レベル5、厳極秘、王国の最高機密の一角として無線魔導通信を行う魔道具が開発されている。尚、ローザは国王からの勅命も厳極秘指定されていることも聞き流しており、自分以外に量産できない魔道具なんて論外だという職人の拘りを見せている。
入学生は基本的に王立学園卒のみ、ローザのドラグーン貴族学校から進学は二十年ぶりの快挙


潜航止め、浮上開始

ローゼリア・ロヴェーヌが特級魔道具研究学院に入学した一週間後。特級魔道具研究学院において、ローゼリア・ロヴェーヌの担当教授と言う、ある意味では凄まじい貧乏籤を引かされた人物は、彼女の従者を名乗るリカルド・キサラギと対面することになった。

 

「……君がリカルド・キサラギ君か……」

 

 特級魔道具研究学院に進学する生徒は、今年の新入生の代表である、王立学園の総元*1ことフーリ・エレヴァートの如く、魔道具工房の出身者が多い。そんな彼らの進路に工房のトップ等があるのもごくごく自然なことであり、大所帯の魔道具工房を率いるリーダーとしての教育も特級魔道具研究学院のカリキュラムのオプションの一つに数えられている。

 

 よって、特級魔道具研究学院においては、生徒達が学外の魔道具工房と組んで研究することも制約は存在するものの、制度上は十分に可能な話ではある。但し、特級魔道具研究学院とは王立学園の卒業生しか基本入学しない、王国最高峰の魔道具研究に特化した学院。そんな学院への狭き門を潜り抜けてきた最精鋭が頼りにできる共同研究先など極めて限られる為、それは半ば埃を被っていた制度であった。*2

 

 故に、学歴0の平民、リカルド・キサラギの登場は特級魔道具研究学院にとっては、制度設計レベルからの完全な想定外であった。全ての発端は、ローゼリア・ロヴェーヌが入学早々に研究室に持ち込んだ二つの大発明に遡らされる。

 

 ユグリア王国の国家戦略そのものを根幹から塗り替えてしまう、文字通り時代を変えてしまう発明品。その存在を打ち明けられ、簡易的な実験で片方の実用性を確信させられ、泡を食った教授は特級魔道具研究学院理事長のサイモン・ユグリアの下に駆け込んだ。同様にあまりのことに思わず直接確認しに来て、その実在を確信させられたサイモンは、最速の魔鳥*3を王宮に飛ばし、一先ず厳重な緘口令を敷いて王宮に駆け込んだ。

 

 その翌日には秘匿レベル5、厳極秘、王国の最高機密の一角*4に速攻で叩き込まれた代物。それこそが、ローゼリア・ロヴェーヌの名前を人類史に永久に刻み込んだ大発明、無線遠隔魔導通信機であり、リカルド・キサラギの名前を同様に刻み込んだ大発明、魔導レーザー加工機である。

 

教授がサイモンの下へ駆け込んだ騒動の後、急ぎサイモンの立ち合いの下に教授がローザ本人へ詳しく開発経緯を問い合わせたところ、このような回答が得られた。

 

・自分が所長を務める零細の魔道具工房リッキーローズで開発中の魔道具である。

・工房の副所長である相棒兼従者のリカルドとの共同開発である。

・発明品の扱いに関する細かい交渉は渉外担当でもあるリカルドに一任する。

 

 情報の流出入速度の超加速という、あらゆる戦略を根幹から粉砕、文字通り時代を変える大発明の担い手となった彼女は、特級魔道具研究学院ではたまによくいる研究以外の細かいことなどどうでもいいと宣うマッドであり。それを理解させられてしまった彼女の担当教授は内心で胃薬を買うことを決意した。

 

「はじめまして、教授。うちのお嬢様がお世話になっております。お嬢様の従者兼魔道具工房RickyRose副所長、リカルド・キサラギと申します」

 

 そして、話は冒頭に戻る。多忙な理事長が王宮で緊急会議の続きをすべく一旦場を離れる中、もう一人の無線魔導通信機の開発者に直接接触すべく出向いた教授。それを出迎えたRickyRoseの副所長は、本来ならば幼年学校に通っていたりする筈の、学歴ほぼ皆無の不審な少年であった。所作の洗練度合いは高位貴族に通用するレベルであったが。

 

「この度は我々共々大変ご迷惑をかけて申し訳ありません。ロクな学歴も持ち合わせがない身です故に、このような不躾な形でノックをしてしまったことをお詫び申し上げます。それでは、早速本題に入りましょうか」

 

 年端も行かぬ少年とは思えない鋭い圧力。途中途中でお茶をリカルドに交換して貰いながらも、魔道具士としての話がまるで特級魔道具研究学院内部と同じようなスムーズさで進むにつれて、嫌でも理解させられる。この国の戦略を左右する大発明、無線遠隔魔導通信技術を一般化させるには目の前の少年が肝であるのだと。

 

「無線魔導通信機の魔導回路は極めて繊細です。これをまともな歩留まりで作れる工作精度を手作業で確保することは、お嬢様以外には極めて困難と言わざるを得ません。ですから、お嬢様程の精度を手で出せない僕は魔力操作の精度を上げる魔道具を開発しました。それがこれ、魔導レーザー加工機です」

 

 無線魔導通信機のインパクトに王国上層部諸共打ちのめされ、どうにかこの技術を無事に守り育てて必ず花を咲かせようと奔走し始めた所だった自分達は、てんで認識が甘かった。魔導レーザー加工機、無線魔導通信機というゲームチェンジャーの巨大な影に隠され、今まで殆ど意識の外にあったもう一つの大発明、無線魔導通信機の効率的な量産に必須となる魔道具の紹介を受けて、教授はそう思い知らされた。

 

 飛び出す全く未知の魔導物理学仮説、そしてそれらを原理と称して平然と動く謎の魔道具。これらを前に正気を保てるほど、教授は普通の人ではなかった。研究者としての血が燃え盛る。実際に魔導レーザー加工機を触らせてもらってその異様な程に洗練された使い心地に発想が煮え滾る。

 

 一体、どれだけの事がこの新技術を以て可能となるだろうか?秘匿レベル5、厳極秘の大発明の裏側には、この国の魔道具工房のレベルを数段引き上げる大発明が隠れ潜んでいた。

 

 特級魔道具研究学院の教授という、地位ある社会人としてのなけなしの理性が、目の前の小僧の皮を被った怪物が、既にたかが一教授風情ではどうにも手に負えないナマモノであると断言している。これは手に負えないと判断した教授は、潔く理事長に丸投げを決意した。

 

 そして。同じような光景は、今度は特級魔道具研究学院理事長、サイモン・ユグリアを前に再演された。かつては王国の大工房長と呼ばれた現王の叔父にして王国の工業政策の大重鎮である。話は仲介役としてその責任を果たすべく立ち会っていた教授が空恐ろしいものを感じる程に順調に弾んだ。

 

 リカルドが理事長との対談にあたって持ち込んだものは、サイモンの専門分野ど真ん中、最新技術の導入によって、王国をどのように発展させて行くべきかの青写真である。まるで、この世に存在しない何処かからモデルケースを持ち込んで来たかの如く、明らかにあり得ないと己のキャリア全てを賭けてでもそう言い切れる過程を経て積み上がった異次元からの知見をぶつけられて滾らぬのであれば。サイモン・ユグリアは特級魔道具研究学院、王国の最高学府の長などやっていない。対談は夜通し続いた。

 

「有意義な時間だった。特級魔道具研究学院は君が例え学歴0であろうとも、門に挑む資格を認めよう。話している限り、君の実力はその特異性を抜きにしてうちの卒業生とも遜色ない。君とてこのような横紙破りを成せる矢をそう何本も用意している訳ないだろうから、正規の手段で出来るなら、それに越したことはあるまい?」

 

 茶目っ気たっぷりに笑うサイモンにリカルドは無言で頭を下げる。

 

「さて。君との議論において、騎士団は王国建国時からの組織であるために、組織体制の古さが原因で高性能な幹部に負荷が集中しやすい。この弱点がため、情報の流速を大幅に加速する無線遠隔魔導通信機を最大限に活かすことは出来ない、と言う仮説に至った訳だが、当然ながらそれは困る。儂は騎士団の方面は専門外であるが、軍需物資の方向から分かる話もそこそこあるのでの?少なくとも誰か魔道具の仕様を詳しく理解した上で、騎士団の再編に寄与することが可能な人材が欲しいと考える訳じゃ。ちょうど、四年ほど暇があってやる気がありそうな小僧もいることじゃし」

「何のことかはよく分かりませんが、魔道具というのは作って売って終わりではない、魔道具という手段を以て買い手の課題をどう解決するかまで考えてこそと言うのが僕のビジネスの流儀です。無論、相応の技術料はしっかりいただきますが」

 

 その目に込められた熱量に、サイモンは決意する。老い先短い王族たる我が身が貯めた有形無形の財、この小さな荒武者に賭けよう、と。かくして、リカルド・キサラギは学歴0のままに、無線遠隔魔導通信技術の王国騎士団への導入プロジェクトに切り込む運びとなった。

 

 サイモンはリカルドの纏めた資料を少し手直しして、最後に一花咲かせようとするが如く、王宮中枢に切り込んだ。尚、本来ならばこういう事態にリカルドの主人、貴族として矢面に立つべきローゼリアは、簡単にもう少し踏み込んでの聞き込みの結果、どう考えても魔道具本体の開発以外全く役に立たない、立つ気がない生粋の研究者・職人タイプであるとサイモンはその王国の大工房長として培った豊富な経験を以て断じきった。

 

 リカルドという営業のできる超優秀な右腕がいる限り、魔道具工房RickyRoseの利用に関しては、リカルドを通して発注したほうが余程効率的である。王家の名義でローザに直接手紙を出してスルーされる悲劇はここに未然に防がれることとなった。*5

 

 それと同時に、本人達が承知していることもあり。ローザはリカルドが当初から企み、本人も面倒ごとが嫌だからと承諾した通りに、特級魔道具研究学院の落ち零れの仮面を被ることとなった。

 

「君、本当にあの子の従者なの?特級魔道具研究学院に進学して、漸く自分の人生を取り戻したあの子にもう一度泥を被せようだなんて」

「人嫌いの評判を虫よけに利用しているフーリ殿が言えた話でも無いと思いますけどね。お嬢様のメンタルはパフォーマンスに結構出ますので、お嬢様が嫌がるならやりませんよ、こんな面倒な事」

 

王立学園入学試験以来ペンフレンドとして付き合ってきたローザの親友であるフーリ・エレヴァートは、本人が望んで被っている仮面であることを説明されはしたが、モデルとしての活動が形を潜めるなど、その機嫌を酷く損なう形となった。

 

 ゴドルフェン・フォン・ヴァンキッシュは王国騎士団元副団長にして、軍閥の大重鎮として、国王の右腕役を務め、それ故に戦略的に重要なプロジェクトの顧問も幾つか兼任しており、軍という大食らいの暴力装置を上手く稼働させることに腐心する立場の人物である。

 

 故に。秘匿レベル5、絶対に発芽するようにと特級魔道具研究学院において厳極秘であった大発明の実用化が魔導レーザー加工機による無線魔導通信機の量産が進むにあたって秘匿レベル4、重要な軍事機密にまで落とされ、手元に降りてきた時、彼は当然の如く目を剝いた。

 

 一つはその中身そのもの、無線遠隔魔導通信関連技術群。戦略を丸ごと吹き飛ばして次代へと塗り替える大発明である。そしてもう一つは。

 

「お初にお目にかかります。魔道具工房RickyRoseの副所長、この度は所長、ローゼリア・ロヴェーヌの全権代理として参りました、リカルド・キサラギで御座います」

 

大発明の開発者の右腕を名乗る目の前の学歴0の少年である。

 

 リカルド・キサラギは学歴社会であるユグリア王国の常識を鑑みれば、どう考えても横紙破りも甚だしい形で割り込んできた異物でしかない。当然、ここに至るまでに特級魔道具研究学院の主導で彼の経歴は詳細に調査された。結果として、本人の自発的な協力もあり判明した、彼の血統を含む経歴の詳細情報は王国において特大のクラスター爆弾でしかなかった。

 

 特に彼が王立学園への入学資格を有さない理由である、三親等以内にいる重犯罪者等の存在の詳細は、端的に言えば王国において感情的な反発の百や二百は容易く呼び込む代物である。ゴドルフェン自身とて思わないことがあると言えば嘘になる。

 

だが。

 

「ゴドルフェン・フォン・ヴァンキッシュ、本プロジェクトの顧問を拝命しておる。単刀直入に言うが、お主等の運命は本プロジェクトと一蓮托生になるものと心得よ」

「素よりそのつもりです。やる事の本質は突き詰める所、第二の建国。故にこの身は死兵も同然と心得ております」

 

 そこら辺の上級貴族の子弟ですら、色々な意味でまともな生還は難しいだろう修羅場への決死の突撃を自覚して敢行している目の前の少年の熱量は間違いなく本物だ。そして、一切の迷いなく言うべき、やるべきと判断したことを有言実行し続けるだろう。それら全ての、それこそ公爵家の人間ですら命が幾つあっても足りないと言いたくなるような蛮行をやり抜くに足るだけの実力を以て。

 

だからこそ、サイモン・ユグリアはこの横紙破りを重ねた人事を例え自分の晩節を穢すことになったとしてもそれを厭うことなく押し通そうとしたのだ。

 

「覚悟は十分、という事じゃな。良かろう、辞令!

魔道具工房リッキーローズ副所長、リカルド・キサラギを、王国騎士団の仮団員に任ずる!

以後、特務第七隊隊長、エディ・ドスペリオルの指揮下に入り、出向に係る契約の下、任務に従事せよ!

ユグリア王国騎士団長オリーナ・ザイツィンガー。

代読、特務第七隊特別顧問ゴドルフェン・フォン・ヴァンキッシュ」

 

 王国騎士団特務隊。王国騎士団の各部隊から、必要な人員を招集して結成される、臨時の隊である。任じられる特務の性質は様々であり、その必要に応じてマゼンタの装いをすることが、騎士団に関する都市伝説の一角にマゼンタの装いの隠密集団というイロモノが混ざる原因となっている。そんな仮団員システムで配属されることがまずあり得ないと言い切れる特殊部隊に、リカルド・キサラギは秘密の仮団員として配属されてしまった。

 

ここに、後の『平民大公』リカルド・キサラギの前代未聞の伝説は密やかにその幕を開けることとなった。

*1
首席卒、Web版より

*2
殆ど協力者のスペック不足か時間不足の二択

*3
魔物化した鳥による伝書便

*4
ユグリア王国の機密は5を頂点にレベル別の管理を受けている

*5
原作では秘匿何それ美味しいの?とばかりに弟やクラスメイトにリークし放題であった




ローゼリア・ロヴェーヌの担当教授:原作だとまさかローザが王家からの手紙を王家の家紋を知らないという貴族失格な理由でスルーしていることを知らない哀れな中間管理職。リカルドのせいか、ローザが研究以外はだらしないマッドであることを理解できた。

サイモン・ユグリア:王立学園の理事長は王家、三公爵家から輩出されるという原作記述により、だったら特級魔道具研究学院も恐らくは同様、ライオが無線魔導通信の存在を知らなかった事から、家族にも漏らさない秘密ではあるものの、ザイツィンガーではないのだろうなと推理し、消去法で管掌するインフラへの影響がやばすぎる公爵家の人間だと不都合だよなという事で急遽生やされた王家出身のモブ。王国の工業政策における大重鎮であり、リカルドが異世界人であったことに何となく気付くも、本人が死ぬ気でその見識をぶん回しているときに邪魔するものじゃないなと思い、スルーしている。
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