前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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地味に難産だったので初投稿


反響

 この日、王立学園を震源地として、ある噂が巡った。曰く、アレン・ロヴェーヌにゴドルフェン・フォン・ヴァンキッシュが難解な課題を出され、一度は不合格になるも、アレン側がゴドルフェンの教師としての未熟を糾弾、結果、不合格を覆しての逆転合格を成し遂げた。その背後ではリカルド・キサラギがムジカ・ユグリア副理事長を通してゴドルフェンが教師として不適格ではないかとの疑義を投げる準備をしており、騎士団においてはかなり密接であったはずの関係でありながらも必要とあれば背中を刺す事すら厭わなかった、と。

 

「がはははは!そちが十二の子供にコテンパンにやり込められたと聞いて気になっておったが、そういうことか。リカルドもそうじゃが、実に面白い子じゃな」

「全く以て、面目無い……。騎士団気分が未だ抜けませなんだ。それを子供に指摘されて初めて気づく体たらく、正解の無い話故、それ自体は粘りようはありましたが、人を育てられる人材の組織単位での育成を見ぬ間にされてはコテンパンですな。他の新しい部活群もその基本規則や自主鍛錬法の雛形として坂道部で培われたそれが流用されているとなれば、あやつらの目論見通り、此処で手を引いたとしても成果は各々が勝手に膨らましてくれるでしょうな」

「ま、ムジカからもお主が教師として適正か否かは視させてもらうと聞いておったし、2ヵ月程度で軌道修正されるならば、十分許容範囲内じゃろうて。引き続き、精進することじゃ」

「はっ」

 

 王宮にて、パトリック・アーサー・ユグリアはアレンに興味津々と言った様子であった。ゴドルフェンは自らの過ちを認め韜晦するも、成果そのものは期待以上に出ていることもあり、沈んだ調子では無かった。

 

「しかし、普通一流を育てようと言うのならば、騎士団に限らず厳しく追い込んで這い上がってこさせると言うものが当たり前じゃろう?噂の家庭教師の薫陶の賜物か、本人の独特の感性か、はたまたリカルドの仕込みか」

「……リカルドはほぼ黒子に徹し、外部との折衝や他の幹部たちの話し合いの議長役を務めていたとのことです。曰く、己の色を出せば手助けの意味が無くなると」

「どちらにせよ、アレン・ロヴェーヌとやらが張り子の虎ということは無さそうじゃな。良かろう、オリーナにはわしから一筆したためておく」

「優れた索敵魔法の使い手は幾ら居ても足りることはありませんからの。特に、無線魔導通信システムによって戦闘が高速化するこれからは」

 

 この時はまだ、この国の王はアレン・ロヴェーヌの名をハッキリと記憶するまでには至らなかった。一方、ドラグーン家では、メリア・ドラグーンが地元に帰り、屋敷の現主人となったフェイルーンがリカルドを招いてディナーに舌鼓を打っていた。

 

「……随分とまあ、無茶をやるね」

「必要になるかも知れない癖に準備がやたら必要でしたので」

「それだけやって得られる期待リターンが上からの警告一発って、君ならしょっぱすぎて手を出さないと聞いていて思ったけど」

 

 坂道部の本当の設立経緯、リカルドが部長代行としてやっていたこと、それらの裏事情を聴いたフェイルーンは、あのリカルドにしては随分と無茶な割に見返りが少ないなと怪訝に思う。

 

「ゴドルフェン理事がまともな教師になってくれるための軌道修正と考えれば経費で落とせそうな話ですよ。ともあれ、若様のお陰で最善の着地を見たので良しとしますよ」

「結局アレンは何をやっていたんだい?」

 

 坂道部の課題、そしてゴドルフェンの視野狭窄を彼の騎士団としてのキャリアから類推出来るところも含めて仔細に語るリカルド。国王陛下肝入りの政策として理事に任命されたゴドルフェンが、教師としては不適格なのではないか、理屈としては理事の仕事と教師としての仕事は分離できる代物ではあるが、だからと言って教師としては無能だからクビを突きつけに行くのは少しでも時流が読めている貴族ならば自殺行為以外の何物でもないだろう。アレンもアレンで無鉄砲すぎると言えるが。ともあれ、今となってはゴドルフェンは教師としての心構えを新たにし、アレンが勝利した。ならば考えるべきは、勝った後の話だ。

 

「……君はアレンが当初の狙い通り体外魔法を習得すると思っているのかい?」

「純粋な魔力変換資質と言うことであれば、心当たりはありませんね。但し、その不可能への挑戦の副産物でとんでもないことをやらかす可能性は大いにあるかと」

「やらかす、ねえ?やらかす、やらかさないどっち?と聞かれたら、僕もやらかす方に賭けるけどさ?」

 

 アレンが何かハプニングを起こすことを、リカルドはほぼ確信していた。そして幼馴染故の理解が羨ましいと言う本音が笑顔の仮面にしまい込まれた事をリカルドは見なかったことにした。この少年、身内の妹と弟が兄を頑張る一般人の見本にしていたことはアレンに指摘されるまで何も気づいておらず、ただ出力される行動の予想だけは付いていたと言う優秀と節穴の区別がつかない体たらくであったが、そうでなければ人の感情の色ぐらいは普通に魔力越しに視える以上、貴族の腹芸も大半は無意味である。そうやって見逃してもらったのを理解した上で、フェイルーンはリカルドの見解に理解を示した。そうだ、こうやって何をやらかすか分からない所が素敵なのだ。リカルドの方がアレン独自の理を理解している節はあるものの、それでも尚理を超えて何かをしてくるのがアレン・ロヴェーヌと言う男の子なのだ。

 

「……さて、君は此処まで無線魔導通信システムの開発、坂道部の部長代行と実績を積み上げてきたわけだけれども。君達は次の研究や仕事をやる為に、と言う理由で本来ならば利権として確保するようなものであっても捨て値で売って次へと突っ走る珍獣であるのは僕も重々承知済みさ。で、そうなると問題になるのは次に何処へ進むか、になるね。株主としてはとっても知りたいなあ、余程のことが無い限り、話を聞いてそれだけにするつもりではあるけれども」

「そこら辺話の分かる貴女を株主に迎えて良かったですよ。ふむ、僕個人が大きく考えていることは3つです。1つ、僕個人が主体となる王立学園生発の革新を目的とした人材開発及びその産物への技術的支援。2つ、お嬢様のご友人であるエレヴァート嬢と組んでの魔道車の改造。3つ、お嬢様に自由な時間を与えて好きにさせること」

 

 魔道具工房リッキーローズの所有権の一割はフェイルーンのものであるが、フェイルーンは手綱を握りはしても締める気は欠片もなかった。理由は単純、彼らは暴走させることで何らかの価値が出る存在だからである。そして、聞き出したのは下手をすると王国の勢力図を書き換えかねない一大プロジェクト、若手魔道具士界隈における天地鳴動の同盟の結成、その2つと並べる議題としてローゼリア・ロヴェーヌを好き勝手にさせるとリカルドは言う。

 

「……自由な時間を与えられたローゼリア・ロヴェーヌはどうなるんだい?」

「さあ?僕には分かりません。若様と同レベルで行動が読めない方ですので。何か起きることを期待して、賽を投げるのですよ。そちらだって、仮に若様と結婚なり非公式の愛人なり落ち着いたと仮定して、ドラグーン侯爵家の雑務を大人しくやっている若様が想像できますか?」

「確かにそうなった僕が結局アレンに好き勝手やらせてパーリ辺りにでもぎゃーすか言われる未来は見えるけど。周りが煩い中で君達を放置しておくのも、意外と大変なんだからね?」

「兆しが見えたら言いますよ。お祭りと言うものは、気が乗った時点で踊るバカになれなきゃ勿体ないですし」

 

 中間管理職じみた立場故の愚痴を吐いてお茶を飲み干しお代わりを要求するフェイルーンに送り出され、リカルドは再び路地裏へと出荷された。そして、大騒動の爆心地から少し離れた場所にて。リカルドの右腕を務めることになったベスター・ストックロードもまた、ルーデリオ・ダイヤルマックと共にロマーリオ・フォン・ダイヤルマックと無線魔導通信システムの一角を用いた通話にて報告会を行っていた。

 

「報告は以上です」

「……彼の辞書に保身の二文字は無いのか?」

『だが、リカルド・キサラギは捨て身の隠し刃を抜かずしてアレン・ロヴェーヌの勝利に便乗することが出来た。そうなった以上は、結果を是として考えるよりあるまいよ』

 

 ベスターが裏側から見たリカルドの動向、坂道部の裏事情を聞いて、アレン・ロヴェーヌ共々乾坤一擲の如き賭けをやってのけたことに思わず正気を疑うルーデリオであり、それはロマーリオも似たような思いだったが、そこは現役侯爵としての年の功である。起きてしまった以上はそこにリスクが無い話であり、その上でいち早く次を考えなければならない。そういう所で思考の手間を効率化しておかなければ、慎重な判断をする時間が作れないのだ。

 

「リカルド自身の今後の三つの行動方針のうち、俺達が噛めるのは最初の一つ、王立学園生発の革新を目的とした人材開発及びその技術的支援。誰を対象にするかについては、無差別であることが予想されます。彼の行動規範は王国全体に大きな利益を取りあえず確保しておいて、分配は我々貴族に丸投げと言うパターンが基本の模様です」

「……結局、静観して手助けできる所でちまちま利益を稼ぐぐらいしか出来そうにないではないか。まあいい、引き続き励め、ベスター」

『下手な抜け駆けが命取りになるのは変わらず、それが彼らの数少ない護身なのだろうな』

 

 かつての政敵がリカルドの下で働いているという事実は、ルーデリオから不安定の瑕疵を取り除く結果となっていた。何せ、権力闘争において、ベスターが割ける手番と言うのも存在せず、またベスターのその後のキャリアについても自分が介入できる余地が出来たことで、ベスターが本当に本人の言う通り仕立て上げられただけでやる気零の対抗馬であることにようやく気付けたからだ。そうなれば、あとはベスターも子分の一人として鷹揚に構えて使うことが出来る。こうなったのを見て、ロマーリオは内心、息子を発奮させるための競争相手の人選を間違えていたなと一人嘆息するのであった。

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