前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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思ったより纏まらずにずるずると難産でした。定期投稿している諸兄、感想返信までやっている方々、本当にすごいと思いました


魔境ロヴェーヌ子爵領

 ロヴェーヌ、社交シーズンに石を投げればそこそこの確率で当たりそうな、何処にでもある田舎の零細貧乏貴族。冬の社交シーズンまでは、王国の皆がそのように認識していた。だからこそ、いきなり王立学園のAクラス生として鮮烈なデビューを果たしたアレンと、Bクラス生ながら明らかに何らかの大業の片手間で合格したと思わしき王国騎士団仮団員最年少記録更新者であるリカルドの輩出に蜂の巣をつついたような騒ぎになっても当人達以外は地元に帰って不在と言う有り様で困惑するより他になかった。

 

「モテモテだな、君達の所は。社交界はどこもそそくさと地元に帰ってしまったロヴェーヌを前に大慌てだ」

「田舎の零細貧乏貴族が社交を頑張るメリットが大してありませんからね。お嬢様も若様も僕もロヴェーヌ家としては政治的な手札として活用する気ゼロ、手札としての統御すら存在しないのが実情ですので、それこそ政治的には地元の宿の常連と大して区別をしなくていいとか、それぐらいですよ」

 

 エディ・ドスペリオルは相変わらず貴族としての生態を何処かに置き忘れてしまったかのようなロヴェーヌ家の大らか過ぎる在り方を語り直されて苦笑する。そんな状態で何処の勢力も迂闊に手を出せない拮抗状態を作り出しているのだから、普通の貴族として彼らを理解しようとすれば謎の虚像が湧いてしまうのも無理は無い。

 

「結婚相手は各自勝手に現地調達、か。こちらが掴んでいる限りでも、それで田舎貴族の政治力では到底手が届かない錚々たる顔ぶれが揃いそうだから凄いものだよ」

「寧ろ、そこら辺の平民の方が若様やお嬢様を掻っ攫いそうというのが僕個人の見解ですけどね。二人とも家を継がぬからとすっかり貴族崩れの平民気分ですので」

「……失礼だろうが、君達の所の長兄と次兄は」

「グリム様もベック様もその辺は心配ご無用かと。兄弟としての情はあれど、情に甘えるような方ではありませんので。此方も失礼を申しますが、ドスペリオル家の人間がもしその体質を引き継がずに田舎貴族として育ったら、なんて例えが成立するぐらいには、質実剛健を地で行く方々です。他人の威を借りて威張る事の空虚さを当たり前に理解して、自分の出来ることを地道にやっていく、一家の長兄として密かに模範とさせていただいている方々です」

 

 ロヴェーヌにドスペリオルの血が混ざっていることはこの立場で知り得る範囲においてほぼ確信できる事とは言え、一応はまだ公になっていない話であり、ドスペリオル地方の長として確定させるべきでは無い話だとエディは判断している。その上であまり噂を聞かない上の二人の兄の様子を探れば、回答はその二人にドスペリオル家特有の魔力操作の高適性は発現していない、そして二人に人格的な問題は無い。そんな回答であった。

 

「いい機会だから言っておこうか。此方も特務第七隊の隊長として知り得てしまった事は父上にも秘匿している。その上で、もし、ドスペリオルの血を継ぐ者達が王国で華々しい活躍を飾ったと言う吉報が持ち帰られた暁には、祭が勝手に始まるだろうな。先の大戦でバルディお祖父様を喪い、二十年前にはセシリア叔母上、父上をも凌ぐと言われた英才を魔破病で喪った事でドスペリオル地方は今尚喪に服している節がある」

「いきなり何のことか分かりかねますが、一つ確かな事として、うちの奥様は既に子供達に未来を託した身であり、託された皆様はそれぞれが好き勝手に己のいる空を自由に生きるだけですので、他人の期待に応えるかどうかは気分次第です。日陰者気分の方が多いので、今更陽の光を直接浴びることになっても暑い暑いと文句を言う姿が目に見えますね」

 

 特別扱いは逆効果、ただ血が繋がっているだけの良き隣人として接するのが最適解だとエディは理解する。良き隣人として接している分には、昔子爵夫人がお世話になった地方ということでたまにいいお土産を持ってきてくれるのだから、それ以上を望んで遠ざけられるのはやめておこうとなってしまうのだ。無線魔導通信システム拡充の際には、リカルドから国家保安上極めて重要な新技術群が幾つも提供されたが、そのうちの一つ、ベアリング軸受は技術安保の名の下にドスペリオル家に丸々生産を託された技術だ。いいお土産の範疇には決して収まらない代物だが、いいお土産として持ってきてくれる分にはありがたく受け取っておこうとなってしまう。かくして中立的に静観することを最適解として選び直せたドスペリオルであったが、他地方は本当に苦労することだろうなと思う。

 

 一応は寄親であるが、寄子であるロヴェーヌ家に子供達の統御を行う機能が存在しないので本来寄親として取れる筈の優位がリカルドの配慮頼りで半壊しているドラグーン、家系図から抹消された先代の孫という微妙過ぎるつながりを持つレベランス、許されたというか眼中にはない扱いをされたとはいえ、ローゼリア・ロヴェーヌへの負い目の古傷が痛むエンデュミオン、ロザムールの盾として無線魔導通信システムと言うインフラ周りを絶対に下に置けないセレナード、リカルドに後継二人の首根っこを押さえこまれたに近いダイヤルマック、それぞれクラスメイトしか確保できていないトルヴェール、グラウクス、ヴァルカンドール。そしてそれ以上に、幾ら利権の分け前をちゃんと貰えたとは言え、無線魔導通信システムの開発者を自分達の利権の技術更新の為にも下に置けなくなった三公爵家。通信利権に関しては株式という形で一旦配分を終わらせた為に火種としては概ね湿気っているのだが、若手魔道具士界隈の超新星二人のコンビである魔道具工房リッキーローズの真価が爆発するのはどう考えてもこれからだろう。

 

「そういう事なら、こちらで善処しよう。我々特務第七隊も無線魔導通信システム導入後はまだ暫く、新技術の登場に伴うドクトリンの変革に備える特務隊として仕事が続きそうだからな。一応聞くが、何か目論見は?」

 

 リカルドは人材開発及びロジスティクスの強化について、フェイルーンに話したのと同じようなことを、兄弟の入学予定の件は伏せて語る。

 

「ふむ、分かっているとは思うが、我々の事は上手く使いたまえよ。君のその手腕は我々でも下手に介入すべきではない見事な代物だからな」

「お褒めのお言葉ありがたく」

 

 かくして、ドスペリオルは静観を選んだ。しかし、他の勢力の者たちは、こぞってロヴェーヌ領に諜報の手を伸ばしたが。その成果は、驚くほど乏しかった。

 

「で、困り果てたから私のところへ訪ねてきたと」

 

 チェルシー・キサラギが向き合っているのは、かつて彼女がヴァリアシオンと名乗っていた頃から懇意にしていたレベランス付きの行商人兼情報屋の壮年、ジョズである。

 

「お嬢や先代が迂闊に情報蒔くヘマをやるわけが無いって旦那には言ったんですがねえ。取り敢えず、あっしはどちらかと言えばバカをやるやつへの見張りですわ」

「そう。……いいわ。私達のささやかな望みは二つ。一つは私達を普通の王国の一般市民として扱うこと。もう一つは、山を荒らさないこと」

「山……?」

 

 何とも奇怪な話である。この地に越してきたキサラギ一家が、山を荒らすなとは何があるのだろうか。

 

「既にグリムの若大将主導でロヴェーヌ家が男爵に降爵しても構わないからクラウビア山林域を王家に返上し、ロヴェーヌ家を森番にすべしとして、リカルドが動いている。あの森は私達キサラギにとってもかけがえのないものであり、私の両親の悲願を叶える答えが眠っている」

「……先代の悲願……いや、まさか!?……あの森にあると言うのですか!?」

 

 先代レベランス侯爵にも仕えていたジョズは彼女が何を研究していたか、その核となる不治の病、魔破病を知っていた。押し殺した悲鳴にはいつの間にかチェルシーの人差し指がそれを縫い留めるように当てられていた。

 

「ジョズならそのうち気付けていただろうからね、釘を刺させて貰うよ。奇跡は一人を救えるほどの力も残されていない。お館様は奇跡を当たり前に撃ち落とすべく密かに研究を進めている。それが成るまでは、私達は間が悪かった者はそれが我が子であったとしてもあの世へ蹴り返して、忍び耐え続ける覚悟を決めている」

 

 そう語るチェルシーの目は本気だった。かつて、彼女はローゼリア・ロヴェーヌが魔破病を患ったとき、特効薬となる薬草であるぶどう茄子の資源量が足りないのであれば、本気で彼女を安楽死させるつもりであった。幸いにして資源量が回復していたこと、そしてセシリアがその時は己が娘の分を捻出する為に死ぬと断言したこと、そして何より、彼女の魔破病は初期に治療できたことで資源の消費が少なかったことが奏功し、結局無かったことになった話ではあるが。ジョズが晒された熱とはそれ程の狂気じみた信念の塊であった。

 

「……先代が先に私を見つけていれば、私は先代に殺されていたでしょうな。お久しゅうございます、先代」

「はん、もう私をそう呼ぶ意味も無かろうにね、ジョズ。チェルシーが釘を刺したなら、あたしゃ見なかったことにするよ。あの山を荒らすものは恐ろしい獣に喰い殺されても文句を言うな、それだけさね」

 

 いつの間にかジョズの背後にはかつてレベランスを統べた老婆が座っていた。ジョズは驚かない。いつの間にかジゼル・レベランスは何処の馬の骨とも知れない娘を腹に宿し、レベランスの闇を一手に握り締め、手放して何処かに消えた。そこまでやられて足取りすら今の今まで掴めなかった体たらくなのだ。陽炎の聖女とは聞かなくなって久しいジゼルの通り名だが、自分の後ろに忍び寄ることなど造作もあるまい。背中越しに感じる圧は侯爵家からその名を娘ともども消した程度でジゼルというあのドラグーンの女帝から王立学園総元の座を掻っ攫った怪物が衰えていないことを示す。

 

「ここに来たって事はネズミでもかかったのかしら?」

「ロクでも無さそうなメドウマーラ(外人)だったよ」*1

 

 チェルシーの強化された鼻はジゼルの臭い消し越しに僅かな死臭を嗅ぎ取っていた。かつては魔破病の治療法の研究の為に、新ステライト教及びステライト聖教国が下法と蔑むものすら構わず手を出し、散々死刑囚等で実験三昧だった狂人は恐ろしい獣であったことだろう。

 

メドウマーラ(外人)、ねえ?」

 

 外国から見て、ロヴェーヌ領から彗星が飛来する如くやって来た王立学園生二人、片や王国貴族界隈を騒がせるAクラス生、片やBクラスながら王国騎士団仮団員最年少記録更新者というイレギュラー二人がどう映るか。不気味過ぎて探らずには居られないのだ。立地からはどう考えても教育能力という点において庶民と変わらない貧乏貴族の領地からこんな規格外が二人も輩出されることは偶然では片付けづらい。では、どんな作為が考えられるのかと言えば。戦争への準備だ。緊張状態が高まりつつあるユグリア王国とロザムール帝国、互いの総力戦において、優れた天才は戦争の行方を左右するバランスブレイカーだ。天才を伏兵として育成する王国の片隅に隠された実験場ではないのか。不可解なのはそんな挑戦を出来る土壌などロヴェーヌのどこにも無さそうなことだ。ともあれ、探るより他に無し。かくして、ロヴェーヌ領近隣では妙に行商人が増えていた。

 

 一方でちゃんと行商人をやる傍らで嗅ぎ回るレベランス付きのジョズとは異なり、正々堂々とロヴェーヌに迎えられている客人も存在した。リカルドの伝手でユグリア王家からの指示を受けてクラウビア山林域の秘密を王家で保守すべき資産目録として共有して貰いに来たエージェント、かつてロヴェーヌ家にて臨時の家政婦を務めていたアゼリアである。

 

「……薄々覚悟はしていましたが、予想など無意味でしたね……」

*1
ネズミ型の魔物。より駆除すべき害獣即ち敵性の外国人の暗喩

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