前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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戦略級決戦兵器

「なあ、リカルド」

「何か思いつきましたか、若様?」

「お前のことだから、サクヤとグレン向けに何か強力な装備を作ったり、新理論を開発したりしているんじゃないかなと思ってさ?体外魔法研究部で利用できそうなものとか、ある?」

 

 発端はアレンの無邪気な問い掛けだった。体外魔法研究部に風魔法使いとしてスカート捲りの風評被害、そしてその伝説を崇める思春期男子達と共に凱旋してきたアレンは、部室にて体外魔法研究部に平部員、半ばオブザーバー的な立ち位置として籍を置くリカルドに、何かないのかとそう聞いた。対してリカルドはあからさまな渋面を浮かべる。黒歴史を暴かれるのかと言わんばかりに。

 

「……開発そのものはやって、結果も出てしまったという事ぐらいは言うべきですかね。それ以上を語る気は有りません」

「理由は?」

「今となっては大失敗作に等しいからですよ。使ったその場では問答無用で勝てたとしても、勝ったあとの後始末を全く考えていない設計思想でしたので」

「……次の大戦は総力戦が想定されると言われている中で、それでも出し惜しみするべきだと言うのか?」

 

 ライオの問い掛けに少しは話すべきかと嘆息するリカルド。

 

「若様。僕が決戦兵器を一切の自重なく作ろうと考えた時にどんな設計思想に至るか、他ならぬ若様なら、簡単に予想が付きますよね?」

「……お前の性格的に直接戦闘なんて不確定要素しか無い行為は極力避けて、確実に一方的にやれる手段を用意する筈だ。そうなると……あー、くっそ後始末面倒臭そうだなあ。何もかも全部闇に葬り去る勢いで使わないとロクに使えないんじゃないか?あんな殺戮兵器を持ち込もうなんざ大陸全部簡単に敵に回せる代物だろオイ」

 

 彼の出自が自分と同じようなものであり、そしてその発想の傾向を把握しているアレンはあっさりと何を実現したかの答え、更にはそれをこの世界に持ち込むことの著しい副作用もとい面倒ごとの把握に至り、ゲンナリとした顔でそんなものには関わりたくないと苦々しげに吐き捨てる。

 

「そういう事です。まあ、もう少し簡易化するなら大型魔杖*1のテストをお願いするかもしれません」

「大型魔杖?艦載以外じゃ基本時代遅れって言われているけど……リカルドが開発するならそんな下馬評意味ねえか」

 

 大型魔杖。魔法士による運用を前提とした兵器。大型化により、携行性を犠牲にすることによって只管に火力等のただ魔法を強く使う為の性能に特化したそれは、行軍では当然の如くデッドウェイトとなる。更には、携行性を捨てることでなまじ性能の限界を追求しやすくなったが為に、その追求はしばしば特定の魔法への特化、高コストの投資につながりやすい。そうなれば、汎用性もコストパフォーマンスと共に失せる。そうしたものに頼るのが誰かと言えば、地方軍の才能が半端な魔法士が多い。そんな彼らが王国騎士団と共に作戦をすれば、目の当たりにせざるを得ないのだ。通常の騎士と混成編成で問題なく行軍可能な機動力、術者本人の力量の卓越による、携行性、汎用性に優れた魔法。大型魔杖が無駄に高くて融通の利かない独活の大木に見えてしまっても無理はない。よって、大型魔杖とは、効率的な運用にあたっては緻密な設計思想と確実な運用ノウハウが必要なのだが、そこまで本気で人的資本を筆頭に様々な投資をやることが難しく、更には投資余力が騎士団対比で乏しい地方軍にしか需要があまりないという、二律背反に苛まれる兵器なのだ。それでも、上手くやれば艦載兵器とか対魔物用などで強力だから細々と生き残り続けているのである。

 

 これらの事情を魔法士コースの貴族系王立学園生としてよく知る一人である体外魔法研究部部長のアルは、思わず時代遅れじゃないかと口から漏れるが、少なくともリカルドが開発するならこの程度の常識なんてゴミ箱に捨てた方が良いなと言いながら思い至る。

 

「ただでさえ、騎士団員でも無い限りは足が遅いことに悩まされた魔法士、更にはその足の遅さを悪化させるからと敬遠されてきた大型魔杖、無線魔導通信機が地方軍の末端にまで導入された場合に機動力で一番足を引っ張りそうな部類の皆様全般に恨みを買いそうになって放っておける程肝が太くも無いものでして」

 

 肝が太く無いと言う姿はその場に居合わせた者にとっては、アレンが常識人を自称した時と同レベルで鼻で笑えるものであった。

 

「魔道具に限らず、道具とは不可能を可能に変えるためのもの。魔法士の足が遅くて困るなら足の遅くない魔法士を採用すればそれでよしは騎士団の答えとしては間違ってはいなくても一介の技術屋としては甘えと言わざるを得ませんねえ」

 

 唇が乾く間もなく王国騎士団千年の伝統をバッサリする姿は彼を知るこの場の多くの第一印象から変わらず狂気の前進を体現していた。

 

「……魔導車の改造、特に積載能力でしょうか?」

 

 圧倒されるばかりではいられない。一歩前に踏み出す心持ちでいなければ。レベランスの至宝と謳われた少女、ジュエリー・レベランスは挑戦的に問いかける。提示された課題とは、地方の首領として必ず把握して置かなければならない内容である。間違うことなど恐れていられない。常識を塗り替えて自分達に予算を吐かせる事こそが目の前の狂人の十八番、ならば踏み込まなければ取り残されて、狂人が前進と同時に撒き散らすお零れを回収できなくなることこそがリスクである。

 

「御名答。うちのお嬢様がちょうどいい感じの伝手をお持ちでした」

 

 現状でも、魔法士の機動力補完及び魔力節約の策として輸送用魔導車による運搬は実用化されている。しかしながら、惜しむらくは足回りの弱さ等を原因とする積載能力及び走破性能の低さである。後方支援の足にはどうにか使えても、最前線に突っ込ませることが出来ない、それが軍用魔導車の現状だ。

 

「……ライオ、ジュエ、多分死ぬほど大変だけど頑張れ。リカルドの事だからとことん基本的な部分を汎用化させて土木工事や鉱業、農業にも転用できるように組む筈だからな」

 

 前世で小さな男の子のロマン代表こと働く車を多分に見聞し(当時の両親に咎められ、働く車の玩具なんて買ってもらったことは皆無だった)、ロジ周りの調整の修羅場を体験していたアレンは何が起こるのかをよーく理解できてしまっている為に、生温かい視線を高位貴族の二人に向けるのであった。尚、第三軍団に仮団員として加入してしばらく後、新型の装甲魔導車、消防魔導車、及び魔導二輪車の配備と運用周りで同じ穴に落ちる未来をアレンはまだ何も知らない。

 

 かくして、魔境ロヴェーヌにはあのリカルドですらやり過ぎたと自省し封印した禁忌があると水面下で怪談として語られる事になった。それを知れば、気楽な誰かの言う通りに幽霊の正体見たり枯れ尾花であればどれだけ楽であったかと見てしまった当人たるアゼリア、そして報告を受けてしまうランディ・フォン・ドスペリオル、オリーナ・ザイツィンガーは揃って吐き捨てるだろう。

 

「……これが、リカルド・キサラギが原案を出したと言う戦略級決戦兵器……」

「倅達は誰一人として戦士ではありませぬ。戦士、戦いに生きて死ぬ者がその極致に戦いを挑んだところで斃せぬと言うのが某達の最終結論なれば。リカルドは魔道具士にして商人であり、サクヤは医術の徒、グレンは野鍛冶趣味の狩人」

 

 不幸にも怪物達の怪物達たる所以、その奥の手となる戦略級決戦兵器の正体を実演付きで見せつけられてしまったアゼリアは戦慄が止まらない。解説者として語るのは、子供達の父親であるムラマサ・キサラギ。本来ならば握手等の観察を通して少しなりとも分かる筈の武威は主人のベルウッドと同様にまるで感じ取れず。まるで動く人形とでも相対したかのような質感が第一印象の不気味な人物であった。そんな彼の娘と息子であり、リカルドが迂遠ながら溺愛する妹と弟であるサクヤとグレンは。端的に言えば怪物の幼体と言うものが何なのかを体現していた。

 

 豊富な魔力、抜群の制御、兄が自らを落ち零れと自嘲することが正当化出来てしまうほどのセンスの塊。そして、単純計算ながら二千億分の一となる雷、聖、光の三重属性の怪物と、兄の音属性よりはまだそこまで珍しくないものの、百五十万分の一となる炎、水、氷、土の四属性の適性をもつ怪物。これだけなら、肉体の成熟度の問題で、まだ騎士団員数人が真っ向から挑めばどうにかなる。だが、リカルドが基礎設計し、魔法による冶金技術が何かおかしなことになっているグレンが製造した決戦兵器の破壊力の前には、既存の理論に基づく戦力配備の一切が無意味である。その証明が実演された。サクヤが持つのは、彼女の腕よりも少し長い程度の長さの円形ではない筒。保持のための持ち手と筒と並行する遠眼鏡らしきもの。グレンが持つのも基本形はサクヤのそれにそっくりだが、違うのは筒に螺旋状の銀線が何本も走っており、その銀線の終端となる形で瘤が筒に対して斜めに生えており、筒の先には八本の瘤を通らない螺旋状の銀線で繋がれた輪が存在していることだ。

 

「俺式魔造十元合金弾頭装填。炎熱魔力、多元装填。多段抜刀」

「光波魔力偏光収束。魔力圧、規定値到達。抜刀」

 

 試射と称して掠めない程度の位置にて発砲音と共に一直線に切り裂かれた空気が頬を撫でる。恐怖を宿した視線の向く先数百メートルの地点に土魔法にて押し固められて設置された人間大の岩。王国の騎士団の槍の一突きすら当然の如く受け止める強度の代物が轟音を奏でて砕け散る。続いて更に遠くの岩に一瞬雷光の如く一本の線が走ったかと思えば、破裂音と共に岩は熔けて風穴が空いていた。まるで強力かつ威力が収束された火魔法が岩を穿ったような痕である。

 

「倅は、これを開発した時に後先考えない最終手段だと自嘲しておりました。妻も奥様も最終兵器として慎重に扱えとのことですのでそうするべきなのでしょうが、某と母はこれが設計通りに目標を穿つ日を心の奥底で楽しみにしておりまする」

「それは……そうでしょうよ。私も彼とはたった数か月の付き合いでしかありませんが、この作品がリカルド君が理性を意図的に投げ捨てた結果であると断言できます」

 

 ムラマサが武一徹の人間であり、政治的な配慮の類が望めない人物、王立学園を受けたとして実技試験までで受験生最高スコアを叩き出して筆記であっさり足切りされる類のムッツリ脳筋であることはアゼリアも承知していたが、応える態度に余裕はない。どちらの暴威もバカげた射程と弾速のゴリ押しであり、撃たれてからの回避など不可能。魔力ガードなど何の意味も無さそうな収束された破壊力と相まって、曰く数キロ単位だという長さの射線が通った時点で絶対的な必殺として成立してしまう。撃たれた後の刹那しかない瞬間に可能な対処法など、狙撃手自身が外すのを祈るという0点の回答しかない。同じぐらいの射程を持つ狙撃手がいない限り、撃たせない以外の対処法は不可能。撃たれたら標的及びその周囲の戦闘能力は一切関係なく、標的が粉砕されるという結果が強制的に出力される。

 

「倅は何処までも敵手討滅の合理を追い求めておりました」

「その理屈の正しさは認めますがその後が捨て身にも程があるのです。……ある意味、彼の悪いところが露骨に出過ぎているとも取れますが」

 

 王国が誇る近衛軍団はじめ、近衛、親衛隊というものの存在意義そのものを真っ向から吹き飛ばす最悪の暗殺手段であり、そもそも強者が将として兵を率いると言うこの大陸の当たり前そのものに対する致命的すぎるメタである。狙撃地点に条件が存在していて無条件に撃ち放題となる訳ではないとは狙撃体勢の無防備さから一目で分かるが、地の利を取った時点で単独で万軍を止める事すら可能となってしまう。さて、こんなものの存在がバレたらどうなるか。

 

「大陸中がこれに狙われる恐怖に支配されてユグリア王国を潰しにかかっても全くおかしくない、特にロザムール帝国はその文化風俗の全否定とも言える、戦士をその武威を無視して一方的に殺すこの兵器の存在は絶対に認めないでしょう……国際指名手配の一ページ目にて御子息たちが殴り込みをかけてもおかしくない事態です。一時の勝利の為にここまで犠牲を払ってよいものではないでしょうに……」

 

 最終兵器の存在は決してバレてはならない類の代物である。その後も実演された二人の狙撃手としてではない圧倒的な強さ、特に不整地屋外での野戦における戦術的な凶悪性が既にそこらへんの王国騎士団を凌駕していることにドン引きして来年の王立学園入試が問答無用で二人に蹂躙される未来を具に脳裏に描きつつ、アゼリアは王都への帰途に就いた。

 

 かくして、ここに王国騎士団仮団員最年少記録に迫る例外二つが出現する。王国騎士団近衛軍団仮団員、サクヤ・キサラギとグレン・キサラギ。キサラギの双子の存在が密やかに王国騎士団幹部の間で囁かれ、ランディ・フォン・ドスペリオルの執務室に胃薬の瓶が増え、秘匿され封印されるべき殺戮兵器がロヴェーヌに眠る事だけは知っていたライオ・ザイツィンガーはある日の夕食の席にていつもより遥かにしわしわになった騎士団長(祖母)を目撃した。

*1
拙作中架空兵器




サクヤの狙撃用魔杖:レーザースナイパーライフル。光属性の属性変換をアホみたいに先鋭化させ、レーザーパルスを標的に叩きつける。
グレンの狙撃用魔杖:多薬室式スナイパーライフルという変態による変態のための特殊兵器。一瞬すら長すぎるほどの時間差で炎魔法を炸裂させて極超音速の自作超合金弾頭を放つ。

近衛軍団軍団長、王国騎士団団長:撃たせない以外の対処法が存在しない兵器で、撃たせない為の知見を持っているのが当人達しかいない、しかもリカルドが溺愛している身内。頭痛薬と胃薬と仲良くなった
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