前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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滅茶苦茶時間かかった上に膨らみ過ぎたので初分割投稿


ドラグーン地方総会 後編その1

 セシリアもまた、ロヴェーヌの隠し玉であったことを理解したメリアは周知も兼ねてロヴェーヌの異様な体質を話題に上げることにする。他ならぬリカルドからの話でなければ彼女とて一笑に付す内容であるが、常識はずれで信じ難いこと以外は筋の通る話でもあるのだ。

 

「……さて、ベルウッドよ。私はリカルドとこっそり少々世間話をさせて貰った事はある*1が、随分と子供達の自主性に任せているようだね。それこそ、一番優先すべきロヴェーヌの悲願とやらすら既に半ば解決している為、良くも悪くも貴族家の当主として何か干渉する意味が存在しないとか。リカルド本人は世間話程度で済ませる気だったから私も一旦はそのように扱っていたが、実際の所、どうなんだい?」

「はぁ、全く異を唱える余地がありませぬな。わしらの悲願、クラウビア山林域の保護はキサラギ一家にとっても他人事ではないとして盟友を名乗っていただいている事項でございますれば。わしの社交十年分のことをあの子が手札を揃えたからと片手間にやってくれる事は分不相応ではございますが、然程不自然な事ではございませぬ」

 

 ベルウッドはリカルドが根回ししてくれたんだな、流石と思いつつ、半ば無警戒にペラペラと話す。侯爵達の前で専門分野でもない零細貴族としての自分の家の在り方を語らされるなどどんな罰ゲームだと思っていた所に、既に通してくれていた話に頷くだけで良いとは全く楽である。

 

「ほんの片手間で王立学園Bクラス合格をやってのける実力は伊達じゃないと。そもそも受験予定すら一年前には存在せず、受験勉強すらロクにやっていなかったそうじゃないか。かと思えば他所の侯爵や三公爵すら例のアレで纏めて手玉に取り出す始末。ちょっと生き急ぎ過ぎるにも程があるんじゃないかい?うちへの利益還元はしっかりやってくれているから寄り親としちゃそこに文句は無いが、早死には勘弁しておくれだよ」

 

 常識の範疇を遥か彼方に飛び出し、理解を超えすぎている話に周囲の貴族は茫然とするより他に無い。此処まで優秀な子供達を輩出したのならば、一族の栄達の為に団結し、支え合うのが貴族として常識的な対応と言うものだ。そして、王国騎士団仮団員最年少記録更新という訳の分からない大記録で奇襲を仕掛けてきたリカルド・キサラギのBクラス入りが完全な片手間、手抜きの成果であったと言うのならば、それは最早、ロヴェーヌからAクラスが二人出たことに実質等しいのだという事を再確認させられる。例えその片割れが親子Aクラス入り、実質二代総元という中々に頭のおかしいことをしでかしている、先代レベランス侯爵と最期のヴァリアシオンの直系の子であったとしてもだ。更には、それほどの怪物一家がロヴェーヌ子爵家と言う片田舎に居を構え、クラウビア山林域の保護に対して他人事ではないと力を貸す?あの未開の奥山には一体何が眠っているというのだ。

 

「あの子からすれば例のアレすらやりたいことをやる為の一合目、ただの地盤固めのようなものだそうで、わしには何処から止めたものかさっぱり見当が付きませんわい」

「ったく。その様子じゃ、お前の倅が何を王立学園でやらかしてきたのかも全く知らないね?」

「心当たりも有りませんわい」

 

 メリア・ドラグーンは改めてリカルドと事前にロヴェーヌ家について話しておいて良かったと感じる。貴族としての在り方が基本不要だからと退化しきっているこの零細貴族家に普通の貴族の常識なんてものは全く通用しない。クラウビア山林域の保護に一つまみ程度の力を貸してやるだけで忠実に寄り子でいてくれるし、現在株価が急騰している魔道具工房RickyRoseの株はフェイルーンが押さえている。よってロヴェーヌを経由して利益を回収しに行く必要もない。不確定要素の塊であるアレンは、そもそもロヴェーヌに統御機能すらなく、野放しにして野生化しているようなもの。リカルドから情報を貰えずに貴族の常識に従って動いていたら、こんなしょうもなさすぎる実態を把握し切るまでにどれほどの手番を浪費させられていたか考えたくもない。故に、此処から先は逸る傘下を大人しくさせる為に一手割くべきだと考え、行動する。

 

「そもそも姉のローザからして、運命の篩でのフーリ・エレヴァートとの友誼の為に、二人にエンデュミオンのバカ息子が粉をかけてきたのを取り巻き及び制止に入った職員合わせて百人前後丸ごと殴り倒して道連れにしたと言うのが、かのレッドカーペット事件、憤怒のローザの真相らしいじゃないか」

「ほへ?確かその年は魔力量の当落ボーダーが例年よりも高かったから」

「あの子の誤魔化しですよ。本人が納得してやっていたみたいですし、リカルドには寧ろ好都合だったようなので私達は誰も何も言わずに騙されてあげましたが」

 

 3年越しの真実が露呈して、愛娘に綺麗さっぱり騙されていたベルウッドは呆けた顔を晒しつつも、思い直せば妻の言う通りまあ別にやる気が切れたんじゃ仕方ないかと呑む。やる気が向かないことに頑張れと言って徒労に終わることなど実体験でよく知っていたからだ。その執着の欠片も見せない態度に周囲は気圧されていたが。

 

「……因みに、ローザが無事に王立学園に合格していた場合、その代の総元の座はローザのものであったと当の総元、フーリ・エレヴァートがフェイに強弁していたよ」

「それはそれは、皆様に娘を評価して頂いてありがたい限りですわ。ですが、後から幾らでも取り返しようのある目先の栄誉を捨てた代わりにあの子とリカルドはかけがえのない友を一人得ました。母親としてはそれがあの子達の掴み取った勝利なのだと誇りたく存じます」

 

 浮世離れした対応に宇宙人でも見るような視線が周囲からロヴェーヌに突き刺さる。泡沫の友情の為に王立学園合格を放り捨てる?結果としてその友情はあの『孤高の学匠』との友誼という今では何処も手が届かない高嶺の花に化けたが、それを先方の大幅不利とはいえエンデュミオン侯爵家と事を構えてまでやるのは、頭のネジが外れているとしか思えない。そんな経緯を聞かされて尚、セシリアは子供達の勝利を誇る。その威風は決してメリアの放つそれに負けていなかった。

 

「別に今更文句をつける気は欠片もないけれどね、姉も姉なら弟も弟だよ。Aクラスに入学しても、よく分からない本人の都合とやらでEクラスへの移籍を希望。かと思えば、あやつらの担任はゴドルフェンと言うクソジジイでな?私やジゼルとは同窓の腐れ縁だが、そいつに最初のオリエンテーションで不正疑惑について問い質された時に、『俺が学園にしがみついて尻尾を振るとでも思ったのか?俺の道を邪魔するやつは誰であろうと叩き潰す』と、高らかに啖呵を切ったとさ」

 

 これに堪らずテーブルの一同がざわつく。ローザの時は幾らエンデュミオンとは言え先方に非があって明らかに不利であったし、彼女の側にほぼ瑕疵が無い以上はドラグーンとして不当な圧力には抵抗しなければならなかった。だが、アレンの場合は不正疑惑という瑕疵がある中で『王の懐刀』とも謳われる王国騎士団の大重鎮に真っ向から喧嘩を売るなど、家はおろか、何処まで巻き添えを食うか分からない話である。

 

「お黙り。お前達、こんなのあやつにとってはただの挨拶みたいじゃぞ?その程度でガタガタ騒ぐんじゃないよ。みっともない」

 

 しかし、メリア・ドラグーンは配下の動揺を一喝する。

 

「不正疑惑を晴らしてAクラス入りが確定し、貴族寮への入居権を得たにも関わらず、己の甘さを削ぎ落とす為に一般寮、通称『犬小屋』に己の身を置き、その姿に感銘を受けたAクラス全員がそれに倣って一般寮入りしたとか」

 

 一般寮入りが単なる貧乏性の類であることはメリアもリカルド経由で把握しているが、そもそも王立学園Dクラス以上合格という然るべき関門を潜り抜けての然るべき報酬とも言える高待遇に見向きもしなかった事が非凡である。姉と言い弟と言い、世間一般の名利や贅沢の類は本当にどうでもいいもののようだ。

 

「後は坂道部とか言う鍛練の為の部活動を立ち上げて、創部一ヶ月で部員数は百名超え、そこまで育った大組織に目を付けたダイヤルマックの倅がちょっかいを出したが歯牙にもかけず、ダイヤルマックの倅の側が格の差を見誤ったことを悟り自ら当主位を返上するまでただ放っておいたとか」

 

 改めて慄く周囲だが、メリアが握っている真相はもっと酷い。アレンが放置していたのは変わりない。但しダイヤルマックの後継者争いで起きたことはそんな程度で済む話では無かった。幾ら発端がルーデリオの自滅とは言え、ダイヤルマックの勢力図に立つ波風が待ち受ける大事業に邪魔だから、とリカルドに踏み潰されて整地されるのに無闇に抗わなかったというのが一部始終だ。抗わなかったおかげで、ルーデリオが御前会議で公開処刑と言う家系図に名前すら残らないだろう死滅を免れたというダイヤルマックからすれば背筋が凍り、胃薬が欲しくなるような話なのだが、裏話は裏話である。

 

「探索者協会副会長『大地の敵』鉱脈ハンター、サトワ・フィヨルドを言いくるめて慣例を破りGランクの探索者として登録させたとか。王国中の情報機関があやつは何者だと大慌てじゃ。フェイの盟友としてリカルドから情報と解説を共有してもらった分、うちは他所よりはマシだが、そのリカルドからフェイへの助言は『そもそも理解を試みるだけ時間と金と労力の無駄、よく当たる占いとでも思って起きたことへの即応に徹すべし』さ。愉快じゃろ?」

 

 そして、締めくくりは幼馴染で間違いなく事情通であろうリカルドからの理解の放棄のススメである。フェイルーン自身は直感的にその言葉が大体合っているだろうと感じたと証言しているが、それで本当に放棄なんて選べるかと言う話である。ここまでで、ドラグーン傘下一同としては、とんでもない問題児が暴れ回っているという事で内心お腹一杯の者が大半だ。だが。

 

「で、リカルドに至っては、だ。ロヴェーヌの中で一番説明や報告が丁寧で、寄り親としてはそこは非常にありがたいが……ある意味では一番の問題児さね」

 

 特大の未知数二つも上に立つ者としては頭痛の種だが、幾ら定数っぽくなってくれているとはいえ、全く初見の謎方程式複数と一緒に突っ込んで来て、明日からこれを使えと実利面で強制してくるナマモノもまた然りであるとメリアとフェイルーンは上に立つ大親分として声を大にして言いたい。

 

「理屈をきっちり通して利益の機会を約束するからこそ、結果として誰も止められなくなる。ダイヤルマックの倅の件で世話を焼いてやった結果、ダイヤルマックの若手はリカルドに頭が上がらなくなり、一年Aクラスのベスター・ストックロードを婚約者の一年Dクラスカノン・ケーンリッジ諸共下っ端として呼びつけてこき使っている、なんて話も本当に些末な世間話になってしまう程に大暴れしていて、尚且つその実態は私も迂闊に喋れないような話ばかりで困ったものだよ」

 

 そう零すメリアの背中には、僅かな哀愁があった。そう。大貴族、大所帯の主として幾ら絶大な権力を担っていようとも、だからこそ、求心力の根源を作る利益からはそれが大きければ大きいほどに全く逃げられなくなる。権力基盤とは即ち、傘下の地元を率いてどれだけ利益を齎せるか、なのだから。濡れ手に粟の事態ともなれば、皆を食わせる為の米俵の山を全部持って帰るのもそれがどんなに大変な事であろうとも大親分としての責務である。

*1
対面して世間話をしたとは一言も言っていない




ところでどなたか、二羽目のペンギンになっていただいてもよろしくてよ?
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