前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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剣学二次の供給を求める初志を思い出したので初投稿気分です


それぞれの夏休み

 リカルド・キサラギの夏休みは、主人のローザ共々、エレヴァート魔導工業、エレヴァート父娘の実験場で始まりを告げた。

 

「では、此処にプロジェクト・ドラゴンハーツを開始します」

 

 切欠は、ある日、ローゼリア・ロヴェーヌが唐突に思い付いた一言から始まった。

 

「ねぇ、リッキー。魔導エンジンの設計に機械的な気圧制御技術の介在する余地はあるかな?」

「ふむ、実際にやってみましょうか。カノン君」

「はい。フーリ先輩への魔鳥の手配と気圧制御技術関連の論文纏めはこちらでやっておきます」

「副所長、どれくらいの性能向上を見込んでいますか?」

「ふむ……ベスター君の為に黙っててあげましょう。実際、確証はありませんから」

 

 ベスターの恐る恐るの問いかけにニッコリ内緒と笑うリカルドに、ベスターは慌てて紙とペンを取り出し、慣れた手つきで仕事を手早く終えたカノンと共に思考整理用のフレームワークを物凄い勢いで回し始める。そして、その三日後。全既存スケジュールをサクッとブッチして、フーリ・エレヴァートは明らかに徹夜したと丸わかりの血走った目で魔道具工房RickyRoseに飛び込んできた。

 

「ふう……カノン君、ハーブティーを」

「魔灸士も呼んだ方が良いんじゃないか?」

「ああ、頼む」

 

 ひとしきり興奮した様子でローザにエンジンの輝かしい未来について語りだす壊れた魔動機にリカルドもカノンもベスターも慣れた様子でお世話モードに入る。結局の所、こういう時は一旦寝かしつけて思考を整理させた方が整うのだ。少なくとも、平穏な開発風景はあり得ないことがほぼ確定したことに、ベスターは内心涙しつつ、ラボの無線魔導通信室からダイヤルマック侯爵に自分の抱いている危機感を共有する旨の通報をするのであった。

 

 折角の魔灸を親友共々堪能し、慣れた手つきのリカルドに低周波振動を叩き込まれて寝落ちした親友共々お昼寝してリラックスしなおしたローザとフーリが改めて話し合い、一つのプロジェクトが発足することとなった。プロジェクト・ドラゴンハーツ。竜の心臓などという大それた看板は退路を断つ為のものであるが、当の二人に気負う様子はついぞ見られなかった。

 


 

 夏休み開始から僅か一週間。それが、最初の竜の心臓が鼓動を始めるまでにかかった時間だった。きちんとした制御を受けた圧力と魔力が織り成す芸術への挑戦は、粗削りなままに既存のエンジンを全て過去にする圧倒的な総合力を発揮出来てしまっていた。

 

「……想定の中でも一番上振れした展開か……なんとなく分かってたぜ……」

 

 ベスターはそう呻く。どれくらいこのエンジンが量産しやすいか、廉価版として何処をどう妥協できるか。大急ぎで勉強し、専門度の高すぎる話はともかく、要所だけは何とか抑えた彼の脳内は、これを無線魔導通信機の開発よりはまだマシな程度の大騒動の始まりだと判断した。何せ、この新型エンジンは汎用性が高すぎる。魔導車の性能が上がるだけでは済まない。

 

「フーリ先輩。このエンジン改良法は魔動機全般何にでも使えるという事で宜しいだろうか」

「そうだね。必要な出力に応じた調整はあるけど、……エンジンの歴史はこの一週間で体感だと最低でもこの二人抜きでの五十年分、下手をしたら百年分は一気に進んだかな」

 

 市井で使われている工事用の魔導重機、魔導列車、全てが一歩先へと進む。出力を抑えたとて、燃費が大きく上がるだけでもとんでもないアドバンテージだ。他にも開発中の船舶用魔導機については、これで実用化が成るかも知れない。

 

「……お二人は総元の先輩から見ても」

「私に務まるのは、ローザがポイ捨てしたその座から有象無象を追い払う位の事だよ。今回は専門分野だから何とか足手まといだけは免れたと思いたいぐらいだ。リカルドは……歪だけど、その歪さがローザの右腕やるには何の問題もないどころか寧ろ好都合って具合に仕上がっているのかな。多分、一人で開発者として独立してしまうとダメなタイプだけど、ついでで王宮にすっ飛ぶ位には化け物じみた右腕だよ」

 

 カノンが確認した通りに、右腕を得たローゼリア・ロヴェーヌの開発者としての実力は、この業界にバイトとは言え首を突っ込んで知見をある程度得た自分達からしても違和感を覚えるほどに異様に高い。並ぶものを探せと言われてドラグーン家初代当主、伝説の魔道具士にして建国の英雄たるムーン・ドラグーンってこんな感じだったのかなと言う感想が浮かんでしまう位には他の王立学園卒の魔道具士と比べても明らかにぶっ飛んでいる。

 

「取り敢えず、王宮とかの然るべき筋に通報ですかね」

「論文の手配もしなくては……」

 

 取り敢えず完成した満足感に浸りながら爆睡しているクラウビア原人二匹*1をよそにベスターとカノンは此処からが仕事の本番とばかりに腕まくりをして、フーリと細かい話を詰め、このエンジンを一刻でも早く安全に実用化すべく動くのであった。

 

 ベスター・ストックロードにもカノン・ケーンリッジにも、このエンジン開発の現場で開発そのものを先に進めることが出来るような素養や専門性は一切無い。が、魔道具工房RickyRoseの経営理念、『天才の百歩より凡夫の一歩』が単に作って終わりではなく、技術革新に社会の側を追い付かせて使いこなさせ、皆を一歩先に進めさせることを主題とする以上、そこまでの道をあらゆる方面から一歩一歩踏み固めていく誰かが必要だ。そしてその仕事は自分達の性根に向いていて実にやりがいのある使命だ。此処に至って相手取るべき王国の重鎮たちの巨大さに恐れおののいている暇は、いつしか二人の中から失せていた。

 


 

 アルドーレ・エングレーバーはセレン・アスピーダを相手に体外魔法の組手じみた修行をしていた。水の入った桶複数が二人の間に置かれ、桶の水を凍らせたらアルの得点、沸騰させたらセレンの得点と言う点取り合戦である。体外魔力循環を鍛える為に二人は桶から一定の距離を置いて離れている。威力を決める魔力変換の腕ではアルが勝っているが、威力の距離減衰を抑える体外魔力循環の腕ではセレンが勝っているため、現在二人の勝負は桶から三メートル離れたところで拮抗する。それ以上互いに近づけばアルが勝ち、互いに離れればセレンが勝つ。そういうバランスだった。

 

「今回は私の勝ちですね」

「これで今の距離にしてからは3勝4敗か……負け越すのはやっぱり悔しいな……」

「こっちこそ、もう少し近づいたところで勝負したい所です。……監督やリカルドにもご指摘いただきましたが、私の蒸魔法は刹那の超高出力が基本にして奥義。この手の勝負でうちのコースの首席だからと気軽に負けるわけには行かないのですよ……!」

 

 エンデュミオン地方とグラウクス地方、AクラスとBクラス、体外魔法研究部以外に縁がない二人が死ぬほど忙しい筈の夏休みに二人で修行をしている理由は、二人が恋仲だから、などと言う甘ったるい理由ではない。二人それぞれが思い描く道は、よく似ていたとしても交わりはしない。そこに違う地方間で結ばれるような理はない。単純に、利害が一致したからだった。

 

 今年の王立学園は、Aクラスは無論のこと、Bクラス以下も注目の的だ。各陣営に速報として出回った情報では、この世代の一学期の成績は異常なほどに上側にまとまっている群雄割拠だった。Aクラス下位とBクラス上位の差があまり無いというのはたまによくある話だが、下位と中位の差があまり無いと言うのは百年に一度あるかないかという話だ。

 

 そして、似たような下からの追い上げの話は全クラスで見られる。一番極端とされる例では、Dクラスのカノン・ケーンリッジなんかは、ベスターに付き合って魔導具工房Rickyroseで地獄のバイトをやって鍛えられた結果、Bクラスが射程圏内に入ってしまう程に急成長。他にもEクラスでも一科目だけならばAクラスに匹敵する成績を出せる傑物が三人四人いるなど、総合成績以外でも注目すべき所は多かった。尚、殆ど受験勉強を出来ない強行軍でBクラスに滑り込みを決めたリカルド・キサラギはあっさりとベスターを抜いて官吏コーストップ、筆記トップになり、実技で何とか競り勝ったライオに次いで総合2位に君臨した。徹頭徹尾Bクラス以下に留まる理由が忙しすぎた以外にあり得ない化け物ぶりである。

 

 かくして、各陣営はAクラスにばかりかまけても居られなくなった。二人の利害の一致とは、対戦形式の自己研鑽を行いながらの情報交換。アルはセレンをエンデュミオン地方にまず呼ぶ代わりに、グラウクス地方にも足を運ぶ予定だ。ついでに言えば、地方を跨いでの情報交換会と言う枠を作ることで、地元のご近所付き合いに余計に時間を取られすぎることを避けた形となる。

 

 無論、幾ら王立学園の上位クラス生とは言え、お互い実家の力は大したことが無いくせに地方を跨いでの情報交換会など二人の力だけで簡単に開催出来る筈もない。両地方の侯爵から事前に承認を取っての行為である。承認申請は魔導具工房Rickyroseに設置されている無線魔導通信機の借用により、両家侯爵直通の窓口に頭出ししてのものである。

 

 王立学園生と言えど、侯爵以上でもない限りはまだ無線魔導通信機を自由に使えないが故に、体外魔法研究部に個人的な案件を持ち込んでいたリカルドが謝礼として、それがどう取られるかを分かった上で許可を出したと言うのが真相だが。リカルドから無線魔導通信機を借り受けると言う行為の重さが分からない輩はアレンのような例外でも無い限り、王立学園生なんかやれっこない。

 

「……あの距離で桶の水を凍らせる事が出来るか?」

「申し訳ありません、瞬時には無理です……。まして、蒸魔法でしたか、水を加熱して妨害してくる相手との対戦形式なんてとても……」

 

 そんな無法じみた後押しを受けて行われた二人の交流会。AクラスとBクラスでの格差からグラウクスがエンデュミオンを嘗めているのかと言うような短絡的な意見を封殺すべく、この組手じみた演習は皆の前で執り行われた。有識者として意見を問われたエンデュミオン地方軍の氷魔法士は、アルの実力が既に一流の域を越えつつある事に戦慄しながらも質問に答えていた。

 

「この通り、セレン・アスピーダは強い。格下なんて侮っていたら、あっさり出し抜かれて終わります。今期のBクラス上位は実質的にAクラスの二十一人目以降だとはムジカ教頭も仰っていましたが、そんな話はどうでもよくなってしまいます」

「キサラギ三兄妹、現官吏コース首席のリカルドは、恐ろしい事に単純な戦闘能力ならば、三兄妹最弱です。ええ。騎士コース、魔法士コース込みでもルール無用の後先考えない潰し合いならば五本の指には入れる化け物が()()と言う冗談であって欲しいような魔境ロヴェーヌから、来年残り二人が王立学園を受験します。あの、ゾルド・バインフォースを家庭教師に据えて」

 

 どよめく周囲。ジゼル、チェルシーと来て三兄妹全員が王立学園Aクラス級?何だそれは。実力だけを評するならば、キサラギ一家は王国史上ぶっちぎりの大名門、王家、三公爵家すら霞む化け物一族である。政治バランスを考慮してリカルドがややドラグーンに寄ったほぼ中立で立ち回っている現況ですら、ドラグーン地方がバカ勝ちする未来が見え隠れしているというのに……。

 

「……リカルドは下の弟妹を目に入れても痛くないほどに可愛がっています。それこそ、ローザの王立学園入試辞退に繋がったあの事件が弟妹に降りかかるとしたら……想像なんかしたくありません。踏み潰した虫けらの柄なんて一々覚えていない、なんて温情は期待できませんからね。アレン曰く、自分の弱さとやらを儚む余り捨て身が自然体らしいですし」

 

 アルは顔を青くして、エンデュミオン地方にとっては最早トラウマと言っても良いレッドカーペット事件の再来は絶対に起こすなと語る。まさかの侯爵直々の事件の後始末後に残った負債が超インフレを起こし、一時期は現侯爵の進退すら危ぶまれたそれは、被害者が追及を面倒臭がった事で首の皮一枚繋がったが。目に入れても痛くない身内が同じ目に遭って、怒り狂ったリカルド?ちょっと進路の邪魔だったからとダイヤルマックの後継者選抜を吹っ飛ばし、ダイヤルマック家当主に当主の座を返上させて頭を丸刈りにしてしまった大怪獣であることは耳ざとい者ならば知っている話であるし、そんな怪獣の自傷すら問わぬ真の怒りなんてものは誰も知りたいものではない。

 

「そして、その二人が王立学園で大暴れして他の生徒達を軒並み踏み潰して大凶作を前後二世代合わせて五世代で起こして無用な恨みを周囲から買ってしまう未来を懸念するあまり、リカルドはああも病的なまでに利益を周囲に振り撒いている模様です。実際の所、手元に利益を保持していたところで、それを維持する努力と言うコスト……我々貴族にとっては税の如く当たり前なそれを払うぐらいならば、そうせず浮いた手間で好きな事……もといまた別の一山を当てに行ったほうがいい、と言うロヴェーヌが言う所の謙虚、堅実(暴論)にも基づいているらしいですが」

 

 権益を取ったらそれを保持する為に不断の努力を払うという、貴族にとっては最早本能とも言うべき行動規範を割に合わないの一言で否定し、権益を手放す奇行。それがロヴェーヌ流の謙虚、堅実と言われてしまっては、理屈に一抹の理解は示せるが、そこまで割り切ってしまえるのはお前らだけだと言うツッコミはこの場の総意だった。

 

「これはアレンに聞いた話ですが、リカルドがやりたいことをやるのに一番足りないものは、予算と人員だそうです。真面目に全部をやり切ろうとしたら、王国騎士団を丸ごと十個溶かしても全然足りないとか」

 

 予算と人員の制約。政治に携わる者としては永遠の荷である。やりたいことを全部やるにはどっちもすぐに足りなくなるのは世の普遍的な真理だ。だが、それをやるのに貧弱な自勢力で何とかしようとする考えを早急に捨て、国益というおおらかな合意を形成出来る皆でそれを成そうと動くのであれば、ましてそれがいつ金鉱脈に化けるとも分からないのであれば、出来る限り助力して美味しい所があればきっちり回収しようという月並みな結論に至るのは当然の摂理だった。

 

 そして、月並みな結論への同意であっても改めてそうしようという世論を形成する、と言う意味ではこの交流会は十分有意義な結果に終わる。尚、グラウクス側でダンの誕生日会と絡めて行われた交流会後半で本当に潮風が吹いてきたという話にアルが仰天するのは別の話である。

 


 

 ライオ・ザイツィンガーの夏休みは同じ出場者の先輩共々新星杯*2に向けての追い込みであった。そしてそこに。リカルドは一切妥協のない助力を行った。

 

「これが、グレン・キサラギ……!」

「ふーん?結構やるじゃん」

 

 夏休みに王都にやって来たリカルドの弟妹であるグレンとサクヤ、二人の夏休みのバイトは新星杯に向けて追い込みをしているライオ達の鍛錬の助っ人であった。開幕始まったのは、グレンの双子の姉であるサクヤも新星杯参加者達に助力しての四対一の模擬戦である。

 

 新星杯のルールに基づき、ライオ達は体外魔法無しであり、グレンもそれに付き合って体外魔法抜きでやっている。それでも、グレンは桁外れに強かった。新星杯と言う国際交流試合に王国代表として出撃するとは即ち、その世代の総大将、王国騎士団の次期中核戦力とほぼ同義だ。そしてサクヤはアレンと同様に動作の合間に魔力を溜め戻しながら前衛三人を纏めてバフと回復と謎の防御魔法を管理するというジュエがまるで及ばぬ絶技でサポートしてくれる。それでも尚、整地という一番ライオ達に不利の無い地形で尚、グレンの暴威を前に壊滅せずに耐えるのが精一杯だった。

 

「身体強化下手くそ過ぎ、それでも天下の王立学園生代表か?それとも、クソジジイやドスペリオルの血がちゃんと出ていない連中なんてこんなものか?」

 

 詰まらなさそうにこちらを見る視線は、見覚えがあるなんてものではない。かつての鏡に写る己を見ているような気分だ。

 

「……御三方の呼吸は掴みました。これより、遅滞戦術を取りやめ、撃滅戦術に突入します」

 

 それら一切を気にせずサクヤは単に準備が整ったの一言で反撃開始を告げた。そして、呼吸を掴んだの発言は嘘じゃなかった。

 

「何だ……これ!?」

「頭が冴えて……」

「ハッ、なんだサクヤがチンタラしていただけかよ!」

 

 自分が自分じゃなくなるような感覚。バフの影響で明らかに数段上の自分が引き出され、本人の宣言通りに反撃が出来るようになっていた。即席の四人組だった筈なのに、意識が異様にシンクロして噛み合う。そしてそんな異様な強化を経て尚。グレン・キサラギは平然とそれに追従してきた。

 

「ぐっ、ごめん、魔力が……!?」

「補充します」

 

 2年生の先輩が魔力枯渇に陥り掛けても、サクヤが軽い接触だけで外部供給を施し、あっという間に魔力を全快させる。嫌でも理解させられる。サクヤ・キサラギは単体の直接戦闘能力こそグレンには劣るものの、聖魔法士兼雷と光の魔法士としては既に超一流の域すら超えていて、小隊を組んだ時の強さがぶっ壊れていると。グレンも真っ先にサクヤを落としに来るのだが、グレンの剛撃にすら一発は耐える聖魔法らしき謎の障壁魔法と生命線を抜かせまいとする味方を上手く使ってその追跡を掠らせない。

 

「そこっ!」

「ぐうっ!?ちくしょう、参った」

 

 そして、決着は、グレンが3年生の先輩をアッパーでノックアウトした瞬間にサクヤが紫電の槍を直撃させて終了。バフが切れて元の感覚に戻った三人の全身を凄まじい倦怠感が襲う。

 

「無茶をさせました。バフの反動は暫く休めば良くなると思います」

 

 本来以上の実力を引き出した反動に重くなる瞼をどうにかこじ開け、ライオは気合で上体を起こす。

 

「……協力、感謝する……リカルドがあれだけ褒め称えるわけだ……」

「他ならぬ兄様の頼みですからお安い御用です」

「だな、兄ちゃんは天才や英雄はそんな当てにしねえが人望は当てにする。こんな受験勉強の合間の気分転換で社会貢献にもなる割のいいバイトが出来るなら、本望だぜ」

 

 新星杯、昇竜杯*3は共に各国の若き俊英達のお披露目の場であり、王国にとっては来る大戦に向けて国威発揚を為すための重要な機会だ。リカルド達の意図としては、実戦できちんと活躍するかどうかは兎も角として、他国、特に帝国に侮られるなと言うものだった。

 

 既に実績を積み上げた者として、リカルドは新星杯の出場者達――あくまでまだ何も成し遂げておらず、ただ期待が積み上がっている者達――の更に先を走っている。そして、その積み上がる期待の質量においても、目の前の怪物二人は自分達の常識を遥かに超えるだろうことが見て取れる。これを悔しいと思い、折れず発奮するような神経を持たずして王立学園の代表は務まらない。そのような中、ライオの脳裏に一つの疑問が浮かぶ。

 

「少し聞きたいことがあるが、構わないか?」

 

 坂道部副部長として、ザイツィンガー公爵家の若頭として、これまでに積み上げてきた経験の中でも際立って濃厚で色彩溢れるこの数ヶ月。ライオ・ザイツィンガーは津波の如き時代のうねり*4とともに変わりゆく将器の意味を見極めようと奮闘してきた。その成果はライオに語り掛ける。あれ?この二人、確かに馬鹿みたいに強いけど兵卒を率いる事は一切何も考えていなくないか?と。試しに少し話を聞いてみたら。

 

「軍略ねえ。戦場で俺等がそれを使うとしたら」

「敵軍相手に隠れながら忍び寄り急所を見つけてぶち抜く時ぐらいでしょうか」

 

 案の定、王国騎士団として地方軍などを率いて戦うと言う発想がまるで無かった。

 

「俺等の戦力としての基本デザインは兄ちゃんがやったんだが、兵士を率いて将として戦う事なんて真っ先に捨てたぞ」

「敵からも味方からもまともな戦力として扱ってもらえないことを前提にそれでも戦争に勝つための決戦戦術の担い手として私達は育ちました。今回の支援戦術もほんの手習い程度です。しかし、兄様が自分でも想定していないほど大勝ちしてしまったから、今度は私達が兄様の懐刀として()()()()()ようにするしかなくなった。全く以て、組織力学とは度し難いです」

 

 本人達が語る通り、戦闘者としての在り方が騎士というよりはどちらかというと刀剣や弓矢に近い。最前線で、斬れ、射貫けと持ち主にそう使われれば、そのようにするだけのもの。さらに深く話を聞いてみれば、本人達のやりたいことは、どこまでも気ままで、アレンに何となく通じる所を感じさせるものであった。

 

 異彩を放つ珍客を迎えつつも、やる事は変わらない。新星杯という大舞台にて、ライオ・ザイツィンガーの何たるかを世に示し、皆の希望の灯火として未来を照らす。己が積み上げるべき実績の形を見定めたかつての神童は、己を超える個体戦力の極限の産声を耳にして尚、まるで揺らがず、燃え滾るのであった。

*1
セシリアが目撃したら拳骨不可避

*2
ユグリア王国で開催されるU-15の国際闘技大会のようなもの

*3
魔法士向けのU-15の国際試合。会場はロザムール帝国

*4
7割はリカルドのせい

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