前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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無線魔導通信機:原作ではまだ生産に必要な精度を開発者本人以外ロクに出せず、量産段階に入っていない、ローゼリア・ロヴェーヌの大発明。本作では加工精度を大きく上げる魔導レーザー技術をリカルドが異世界の知識を利用して完成させた為、実用化は大幅に前倒しさせている。


強行兵は電撃戦の如く

特務第七隊隊長、エディ・ドスペリオル。王国騎士団近衛兵団団長にしてドスペリオル家の当主、ランディの息子。本人はまだ知る由もない話であるが、無線魔導通信技術の母であるローゼリア・ロヴェーヌとは従兄妹同士の関係に当たる人物である。そんな彼の抜擢は、端的に言えば横紙破りと無茶ぶりのオンパレードであった。

 

 幾ら彼の実家がこの国に九つしかない侯爵家のうちの一角であるとは言っても、ドスペリオル家は九つの侯爵家の中では最も政治的に存在感の小さな家である。大陸の有史以来続く最古の貴族家としての伝統はどこよりもあるとはいえ、その政治的中立性を維持してきた立場、穀倉地帯を抱えるが故の農業を中心とする経済体制はその発展を緩やかなものとせざるを得ない。王国の巷では落日の侯爵家などと揶揄されているほどだ。

 

 対して王国騎士団特務隊の隊長とは、王国騎士団において、近衛兵団及び第一から第七までの軍団のいずれの指揮下にも存在せず、而して権限は特務の職掌に限り、最大で軍団長と同等のものを認められる例外的な地位の持ち主である。そんな特務隊の隊長に原隊では未だ中堅の幹部候補生程度の身分でしかないエディが押し込まれるのは、王国の長い歴史を見てもあまり類を見ない横紙破りであり、取りも直さず王国騎士団が人事的な無茶を押し通してでも無線魔導通信機を軍用システムとして実用化することへの執念を表す人事である。

 

 無線魔導通信機により構築された通信網を軍事利用するノウハウを培い、新たな軍用通信システムを構築する為に結成された特務第七隊の長に彼が選ばれた理由は大きく三つ存在する。本人の実力、若手幹部としてのキャリア、中立的な地方軍閥の次期総大将の地位である。

 

 一つ目の理由である本人の実力は言わずもがな、近衛兵団の若手エースとして培ってきた騎士団員としての純粋な実力である。ここでいう実力の中で最も重視されたのは、所謂電撃戦に必要な機動力、ドスペリオル本家の十八番である身体強化の腕前が如実に問われる部分である。

 

 通信速度の超加速の分かりやすい応用例としてリカルドが素案を提唱し、それをまた聞きした関係者達が想起させられた電撃戦という概念。当時のユグリア王国において電撃戦の構想が指す意味とは、前回の大戦における英雄譚を再現性のある一作戦に落とし込む手法である。かつてロザムール帝国の侵略にて劣勢に陥っていたところを敵の総司令官への奇襲を決めて打破したゴドルフェン・フォン・ヴァンキッシュの英雄譚。それを技術力によって再現性あるものとして手の届きそうなところまで落とし込むというリカルドの投資を呼び込む釣り餌に王国騎士団はまんまと一本釣りされた。

 

 英雄譚をやってのけた当の本人、王国騎士団元副団長のゴドルフェンからして当時の奇襲に既存技術のみで再現性を期待するのは無謀であると自覚していた。しかしながら、この話を持ち込まれ、無線魔導通信システムの通信速度を簡易的に魅せられて、無謀を押し通した英雄譚が単なる再現性ある一戦法に落とし込めるようになったと英雄本人が夢を追認したのだ。

 

 かくして無線魔導通信機の軍事利用の試験部隊において重視される能力項目に機動力が載るのは必然の流れであった。電撃戦に拘らなかったとしても、元々魔法士の編成を走れる魔法士のみに絞り込み、騎士と魔法士の行軍速度差を最小限にするドクトリンが少数精鋭を旨とする王国騎士団では採用されている。通信速度の超加速を足が速い部隊で検証するのは歴史的・軍事的な必然があった。

 

 二つ目の理由である若手幹部としてのキャリアは、エディ・ドスペリオルの人物的な背景、ドスペリオルと言う護国を第一とする中立の派閥において若手のリーダーを務め、騎士団でも早くから幹部候補としての研鑽を積み重ねている経歴に由来する。彼のこの経歴は、特務第七隊の使命にあたって、変化に対応した上であるべき姿を模索できるリーダーの人選として最適解の一角にその名を刻ませた。

 

 無線魔導通信機の存在、即ち通信速度の超加速にはユグリア王国騎士団にとって現状では致命的な副作用がある。それは情報の流速の激変に伴い、現在の王国騎士団の組織形態においては、騎士団員の所で情報処理能力の目詰まりを容易く起こしかねないことである。老化した血管の持ち主に対して血流の加速は、血栓を壊して血管を詰まらせて致命的な疾病の引き金となるように。

 

 建国より千二百年の歴史を持つユグリア王国、その黎明期から国を守り続けてきた王国騎士団はどうしても古い組織である。リカルドが一切の自重と保身を投げ捨てて純粋に技術屋として宣うところ、『王立学園の卒業生という貴重な人的資源を国防の中枢という御旗で集めて最も浪費してきた千年ものの骨董品』『どう足掻いても無線魔導通信技術の本格的な導入に耐えられず、時代の流れに取り残されるかどうかの瀬戸際』とのこと。勿論、間違っても仮団員最年少記録を更新するような人物が正気で喋るような話ではない。

 

 プロジェクト開始前に、リカルドは初手で王国騎士団への危機感をサイモンと議論し、危機感を共有したサイモンは王国の大工房長としての経験から自分のコネを全部使い果たす勢いでこの危機感への対処を猛プッシュした。時にはリカルド自身が王宮の一角に呼び出され、騎士団長オリーナや元騎士団副団長ゴドルフェン、近衛騎士団団長ランディ・ドスペリオルと言った軍閥の重鎮たちとも密かに掴み合いもよくあるような議論を交わしたことで、騎士団及び王国上層部もリカルドとサイモンの危機感を共有させられた。

 

 騎士団は生まれ変わる必要がある。如何に生まれ変わるかその模索を主導する特務第七隊隊長の人選は、中立的で護国を第一とし、かつ組織がどうあるべきかを導くことが出来る人物でなくてはならない。求められるのは、本当に失ってはならない伝統を守り続けた上で、その伝統を守るために変わるという難題に立ち向かえる人物であった。

 

 三つ目の理由、中立的な地方軍閥の次期総大将と言う地位。これもまた、ドスペリオル地方の次期当主はうってつけの候補である。

 

 当然ながら、無線魔導通信技術による軍事力の強化の恩恵は主戦力である王国騎士団だけが享受して良いものではない。各地方を統括する侯爵達が率いる私設の地方軍との連携があってこそユグリア王国の国防は成立する。建国以来自他ともに認めるユグリア王国の盾として仮想敵国筆頭、ロザムール帝国からの侵略を防ぎ続けてきたドスペリオル地方軍。そこへの導入が駄目ならば、王国の国防力の総合的な底上げなど、絵に描いた餅も同然である。そしてドスペリオル地方軍において当然重要な意思決定者であるドスペリオル家の者達は当主のランディ、次期当主のエディが王国騎士団近衛兵団との二足の草鞋を履いている状態である。有り体に言ってしまえば、無線魔導通信技術の導入及びそれを以ての王国の国防力の総合的かつある程度の即効性を両立させた底上げと言う大事業は最初の方からドスペリオル家の誰かがプロジェクトの幹部格として予習しておく必要がある話であった。

 

 かくして表向きには任務中の負傷に対する療養の為、休隊として身を隠し、秘密裏に功績前払いの二階級昇進を以て特務第七隊隊長に任じられたエディの苦難の日々は始まりを告げたのであった。

 

 

 

 王国騎士団はユグリア王国の軍事力の中枢を担う組織であり、王立学園から精鋭たる卒業生を吸い上げる事で回っている組織である。戦闘員の個体差が激しく、最速の通信手段が魔鳥で留まっていた今までならば、魔物の存在を筆頭に脅威が複雑化してしまった場合の対処等、現場の人員の即興にどうしても頼らざるを得ない所があり、それを阻む現場を知らない者による指揮は役に立たないから要らないと、人員の供給源である王立学園の教育理念にまで反映するほどに強く忌避されていた。だが。翻って無線魔導通信技術を導入したらどうなるか。その劇薬を飲んだ結果をエディ達はプロジェクトの中でむざむざと思い知らされた。

 

 プロジェクトの絶対的な基盤である、通信インフラの構築自体はまだいい。兎に角一旦採用する通信規格を定め、軍事利用に必要な基本的な機能を詰めてしまえば、ある程度使えるものは出来そうだ。騎士団側の要求を聞き入れ、それを技術的課題に落とし込むことはリカルドが出来るし、実際にそれを再現性ある量産品に仕上げることにかけて、ローゼリア・ロヴェーヌの開発力は十分以上にある。そうしてついた道筋は王国の本気の投資で無理やり押し通ることが出来てしまう。問題となるのは、新しい軍用通信システムをどう使いこなすか、であった。

 

「皆様には申し上げた筈です。これは王国の建国以来の伝統そのものへの挑戦であり、同時に時代の奔流の中で本当に守るべき骨子を守り抜く方策を考える場です」

 

 無線魔導通信技術はユグリア王国の伝統的なドクトリンにとっては、諸刃の剣であった。その見てすぐに分かる圧倒的なポテンシャルに魅入られて使いたくなるままに使い過ぎた場合、元々の『王国騎士団を精鋭で固め、その即応性の高さを以て困難を打破する』という戦力運用方針に対し、情報の流速の大幅増加を以てそれを破綻させてしまう。

 

 今までのように流れてくる情報を整理し、優先順位をつけながら処理することを戦闘行動の片手間で天才的に済ませることが出来なくなっているのだ。どこかで徹底した現場第一主義と適切な情報処理体制の確立に折り合いをつけなければならない。当たり前ながら前例皆無の未知の難問に対しては、一歩一歩答えを探るより他に無く、妥協も大いに強いられるものであった。

 

「お主がこの現場へサイモン閣下に押し込んでもらうことで無理矢理突っ込んできた理由も漸く本当に分かった気がするの」

 

 ある時、顧問のゴドルフェンは使えるものは何でも使えとばかりに早々と形振り構っていられなくなった特務第七隊からの相談を受けてリカルドにこう零す。

 

「こうなるのは目に見えていたことですので。"何をやりたいと言うべきなのかすら実はよく分かっていない"なんて状況では、どうしたらどうなるのか、何処まで出来るのかぐらいは詳しい奴が現場に一人ぐらいいないと一番大事な議論に集中出来ませんからね」

「……お主はこの技術の行く末をどう見ておる」

「最終的に通信インフラそのものを王国全国民が何らかの形で利用するのを想定しています。サイモン閣下に騎士団外部の有識者として王立学園副理事長のムジカ殿や、軍法でもない法務の方々を連れてきて頂いたのはそういう理由です」

 

 そう答えたリカルドは最初からこの混迷極まる状況を執念深く想定していたと思わしき挙動で八面六臂の大暴れ。騎士団の特務とは通常縁遠い教育や法律の有識者すら呼び込んで無線魔導通信機の軍事利用と言う実態に法的な根拠や教育態勢、ひいては軍用教練カリキュラムの構築と言った制度運用のインフラ構築も同時に済ませていく離れ業をも熟す。

 

 現場の誰もが彼が一介の技術者であることなど半分以上忘れ、五里霧中の無間地獄を一人泥臭く泳ぎ回るエースとしてその姿を見たもの全員に『素人質問ですが』のトラウマと共に認めさせていた。当然ながら、エースが暴れれば、それを率いるエディの負担も一入である。その上で、現場のエースであるリカルドも一つ大きな弱点を抱えていたのであった。

 

「リッキー、どう考えても無理し過ぎだと思うけど」

「……体力回復の業も親父から教わっています」

 

 そんなリカルドが休日脱力してソファに身を預ける姿にローザは心配そうに声をかける。修羅場のエースとして活躍する彼の負担は当然ながら尋常ではなかった。彼がキサラギ一家の者としての業で修めた身体強化の応用による回復力の強化、疲労の最小限化は、確かに彼の消耗を大きく抑えてくれてはいる。彼自身の前世の経験もまた、修羅場において気を張り詰めさせ過ぎず、疲れない立ち回りを可能としている。だが。いくら疲れを残さない為の小手先の技術が人並外れて上手かろうと、本人が同年代よりも明らかに一回り二回りは小柄であり、そんな胃袋の小さな身体に積み込める体力の絶対量そのものは少ないという物理的な限界からは逃れられなかった。

 

 プロジェクトの進行だけならば、まだどうにかなっていたとローザは思う。だが、そこに王立学園の受験、もとい筆記試験の対策も混ざってくるとなると、話は全く別である。純粋に時間が足りないのである。少しずつ、真綿で首を絞められるような苦境に頭から浸かり込んでいく相棒を見て思う。あの時、自分がフーリを見捨てたり、如何にも偉そうな奴をもう少し上手くあしらって王立学園への入学を優先する日和った考え方をしていたら、何かが変わっていたのだろうか。少なくとも、無線魔導通信機の原案は二年前には既に出来ていた。しかしながら、ドラグーンの貴族学校経由で世に出すのをリカルドはリスクの割にリターンが無いと拒絶していた。特級魔道具研究学院から強引に王国騎士団にねじ込むと言う無茶千万極まるルートを構築したのは、元はと言えば王立学園への進学を自分が投げ捨てたからではないのか。あの時の選択に後悔などないはずだ、しかし。

 

「酷い顔をしていますよ、お嬢様。全くもって、らしくない」

「リカルドは、私が王立学園に行くと思ってプランを立てていたの?」

「ああ、成る程。……お嬢様が踏み潰したあの虫けらども、お嬢様自身が何も思うところはないと仰るなら僕も何も言わなかったのですが、こんな所で余計な仕事を増やしやがった仕返しぐらいはいつかしましょうかねえ……結論から言えばどちらでも良かったのですよ。今の苦境は僕が身の丈を少し超えようとしたことの報いでしかない。……フーリ殿の人生にあの虫けらの妾なんて折り目がついてもよろしかったので?」

 

 露悪的に嗤うリカルドにローザは笑顔を返す。あの時、友を助けられたことに後悔なんて無い。したくない。それに、本当に無理だと判断したら王立学園受験なんて放り捨てるだろうと言う信頼が相棒にはある。

 

「うん、そうだね、ちょっと私も疲れているのかな、おやすみっ!」

 

 かくして、水面下の強行軍は関わった者達全員を修羅場に引きずり込みながらも、その進行速度は王国の本気を示すが如く電撃的であった。騎士団側の特務隊の人員が隊長を筆頭に若手を中心に構成されていたのがこの局面で静かに光る。

 

 如何に王立学園出身のエリート達が優秀であろうとも、年を取れば取るほどに変化を強いられた時の負荷は大きくなり、主な敵が身体強化の活きる魔物や人でなく、大量の試行錯誤とそれを記録し考察した書類となれば身体強化の技量で消耗を軽減するのも難しい。即ち、事態は単純に肉体に積載された体力気力での勝負になりやすい。そんな中で王立学園すらまだという年頃の小さな少年という、本来ならば騎士団が守るべき子供が強行軍を日常化してギリギリながら回しているとなれば、騎士団員達も音を上げる訳には行かなかった。そんな意地もまた、隊の支えであったと後にエディは述懐している。

 

 当事者達はこの時を振り返って揃ってこう語る。若さと予算と狂気で回されて何故か死者の出なかった強行軍だった。彼処だけ時代が何倍にも加速していた、と。

 

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