前世モーレツ系だった僕は今世でも懲りずに爆走する   作:メダカにジャム

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ローゼリア・ロヴェーヌ:リカルドという理解者にして相棒がいたために、弟に精神的に依存することはなく、原作対比ブラコン度は低め。キサラギエフェクトで徒手格闘戦能力は大幅に強化されている。彼女がアレンの代わりに実技試験を受け、アレンと同様にスーパーラッキーパンチを決めていた場合、肝穿ちが本来の破壊力で炸裂して王国騎士団は第三軍団長を喪っていた。彼女がそんな奇怪な目を引くことなどまずないのだが。

エディ・ドスペリオル:ランディ・ドスペリオルの息子。ドスペリオル家次期侯爵。原作ではまだ父の下で見習いをやっているようなムーブをしているが、今回の特務第七隊での修羅場を通して大幅成長させられた苦労人。

Bクラス担任:王立学園副理事長のムジカ・ユグリアと共に特務第七隊に出向いて、無線魔導通信システムの運用に関するカリキュラムの策定に携わっており、技術面での生き字引として八面六臂の活躍をしている妖怪小僧を目撃している。


王立学園入学編
超重役登校


朝リカルドが起きると、派遣期間が終了して子爵邸を去っていた筈のアゼリアが両親に迎えられたのか、リビングにて待ち構えていた。

 

「こちらをこの場でご覧ください」

「はい……承知しました」

「ありがとうございます。では、お送りいたしますので外で待ちますね」

 

 メモ書きを見せた後、回収して懐に入れ、アゼリアはその場を去る。リカルドはアレンがまだ朝ご飯を食べている中、携帯食料を囓ってテキパキと身支度を済ませる。

 

「んあ?どっか行くのか?」

「副業で緊急呼び出し食らって休日出勤です」

「おぉう……よく辞表叩きつけねえな。王立学園の合格発表に、合格していればオリエンテーションだろう?」

「出先で合否の伝達があるみたいですので最低限問題がないようには計らっていただいているかと」

「まっ、お前は合格してるだろ。俺の方は心配しなくてもなるようにしかならないし、落ちたらその時はその時さ。気楽にやっていくぜ」

 

 リカルドの副業のブラック臭漂う様子にドン引きしつつも、心底リラックスして王立学園の受験結果を軽く扱うアレンの姿にアゼリアは内心驚愕する。彼女はアレンが合格判定は貰っているものの、筆記試験において証拠はなくても不正の嫌疑をかけられていることを知っている。不正をしてまで入ろうとする姿には到底思えず、そうでなかったとしても不正の嫌疑の根拠となるほどに成績を上げるなどどんな苦行を越えればという話であり、そうして掴み取りに言ったはずの栄光をどうしてこうもあっさりと諦められると言うのだ。

 

「ふむ。……若様。的外れだったらどうぞ笑い飛ばしてくださいませ。若様が世俗の名声、それに伴う勝手な期待など、邪魔な足枷でしか無いとお思いになるのは実にロヴェーヌの方らしく結構なことでございますが。謂れのない悪評というのもまた、ともすれば名声よりも鬱陶しいということをお忘れなく。比較によってしか己の意地を保てない小人は悪評の立つ側に自らよりも劣っていることを期待してしまいがちです。相手に瑕疵があったところで、己の輝きが本質的に増す要素など皆無と言って良いものだと言うのに、この愚かしさから逃れられているものは驚く程に少ない」

「いや、お前がそんな神妙に長広舌を吐くって事はご自慢の読心術でまた何かを察したんだろ。アゼリアさん、だっけ?ビクついてたぞ?ま、何でもいいさ。俺の道を阻むものは何であれ許さん、それだけだ」

「その意気です、アレン。騎士たるもの、潰されてしまうくらいならば、逆に全てを叩き潰し返す気概がなければ舐められて、リカルドが言ったような悪評の汚濁に纏わり付かれ、貴重な時間を浪費することになります」

「リッキー、詳しく分かったら教えてね」

 

 恐らくアレン関連で何かあった。それを理解したセシリアとローザの二人は、静かに怒りの導火線に火が点く。アカン、とんでもないことが起こる、母上はまだいい、しかしブチギレモンスターシスターが王立学園に殴り込みなど冗談ではない。焦ったアレンはつい、こう言ってしまう。

 

「あのですね、姉上。まだ何かがあったと決まったわけじゃない、リカルドの取り越し苦労だってありえます!それに、何かあったとして、それは俺が売られた喧嘩です!勝手に取り上げないで下さい!」

「ふーん?ま、良いよ。何が起こったのか分からないのも事実だし、アレン君の受験内容にケチつけてくるならアレン君に売られた喧嘩だよねぇ。見ない間に随分大人になったよね、アレン君」

 

 それっきり、ローザは何も追求せず、大あくびをして朝食に取り掛かり、リカルドはアゼリアに先導され、呼び出し先へ向かう。

 

「……凄く今更ですがロヴェーヌは魔境か何かで?」

「山の奥深くや外来種の定着以外は至ってのどかな田舎でございます」

 

 隠密の為に馬車でリカルドを引率しているアゼリアはロヴェーヌ家周りに潜伏する怪物たちの実態を知る王国でも数少ない一人であったが故に思わず我慢していたツッコミをついに入れる。ついでに二人には当然知る由もない話であるが、田舎の一子爵領に王立学園、それも推定確定含めてAクラス級どころか時代次第で総元だった、狙えた人材が十人も稀代の名教師付きで潜伏していた時点で人外魔境だと後世の歴史を学ぶ者達も総出でツッコミを入れている。

 

 リカルドの休日出勤を見送った後、渋々特級魔道具研究学院に登校するローザを見送り、アレンはセシリアと付き人兼リカルドの父親としてムラマサを連れて合格発表を確認しに向かう。

 

「おや、奥様に坊っちゃん。奇遇ですねえ」

「ジゼルのばっちゃん!?」

「……何の用です?」

 

 そこへ、ジゼルと呼ばれた人物が一行が現れるのを待っていた。チェルシーが王国中から人が集まる場に顔を出すのを面倒だからと留守番をしていた事にムラマサは母娘のみっともないじゃれあいが省かれたと内心安堵し、セシリアは警戒を隠さない。

 

「まあ、私もシャバに心残りが無いわけでは無いからねえ。お館様から孫と坊っちゃんの受験を聞かされれば流石に覗きに行く気にもなろうというものさ。一先ずは二人とも合格おめでとう。成績は自分で確認するといいさね」

 

 腕利きの聖魔法使いにして、ふらりふらりとフィールドワークで王国各地を旅して回っているリカルドの母方の祖母がロヴェーヌ領に帰って来ていた時に、アレンは領外のことをあれこれと聞き込みしていた為、アレンの態度は柔らかく平たかった。尚、アレン以外のロヴェーヌ家関係者からの彼女の扱いは、ただの医者やっている徘徊老人である。自他ともに認める忘れ形見を産んだだけで母親にはなれなかった未亡人と忘れ形見の家族との付き合いは何処までもドライであり、セシリアも医者としての腕前はチェルシー同様に信用しているものの、人物としては亡き夫の所に大半の人間性を置いてきたものとしてみていた。

 

「……古巣の者も多くいるでしょうに」

「奥様も人の事は言えないさね。心配しなくても前途多望な若人、ましてあの人の係累の門出を邪魔するほど耄碌した覚えはないよ」

 

 そう語るジゼルはかつて自分の知り合いが一番多い地域でも今の装いで市井に紛れてやり過ごした経験故に余計なことは起きないと余裕綽々であった。而して発表された合格者の成績を見れば、リカルドの予言は正しかった。

 

アレン・ロヴェーヌ

魔力量(C)

騎士コース実技試験(S)

学科試験(A)

配属クラス(A!)

騎士コース総合順位(三/五〇)

 

リカルド・キサラギ

魔力量(A)

騎士コース実技試験(A)

学科試験(D)

配属クラス(B)

官吏コース総合順位(一〇/三〇)

 

「特に対策しなくても物理と魔法理論で満点近く取れるだろうリカルドが筆記でDって本当に最小限の労力でやったんだな。ところで母上、クラスの横の"!"って……」

「聖魔法で休息の効率を上げて無理矢理活動時間を水増ししなければならない極限状況でしたからね……リカルドがアゼリアの態度から予期した通り、貴方の此処までの研鑽に対して真かと喧嘩を売られているという意味です。先程話した通り、存分に叩きのめしなさい」

「アッハイ」

「ロヴェーヌにいた時にも思いましたが、坊っちゃんは見違えましたねえ。Eクラスに叩き落されたとしてもタダでは転ばなさそうだ、くっくっくっ」

 

 何が起こったのかイマイチピンと来ていなかったたが、時間も押しているからと送り出され、オリエンテーションへと向かうアレン。しかしその背中に迷いはなかった。何であれ、己のやることに変わりはない。己の道を貫き通す、ただそれだけだ。

 

 

 

 一方、その頃。呼び出されたリカルドを出迎えたのは、特務第七隊隊長、エディ・ドスペリオルであった。その手には白いマントがあり、それでリカルドは大体何があったのかを理解する。

 

「多分君の想像した通りだよ」

「僕の王立学園受験結果は合格、同時に第一軍団仮団員の仮面を以て、王立学園を中心にフェーズ3の進行に向けて活動せよ、との理解でよろしいでしょうか」

「ああ、満点だ。Bクラス合格おめでとう。……一応聞くが、もしかして狙っていたのかい?幾ら時間が無かったとはいえ、君の実力を知る身としてはAクラスじゃないことに違和感が強くてね」

「まさか。これでも地政学・歴史で昨今の状況を鑑みてロザムール帝国近辺の物が出るだろうとヤマを張ったら見事に外れてしまいましたので。如何せんこんなナリで、体力の積載可能量という物理的限界が辛い身なのですよ。寝込まないように母親の聖魔法で休息の効率を上げたからどうにか筆記足切りを免れたという具合です」

 

 この問いかけの裏ではリカルドのAクラス合格に賭けていたエディだったが流石におくびに出すようなことはしない。

 

「さて、活動実態そのものはないといえばないとはいえ、一応ね。辞令。魔道具工房リッキーローズ副所長、王立学園一年Bクラス、王国騎士団特務第七隊仮団員、リカルド・キサラギを第一軍団兼任とする。指揮系統及び出向契約には変更なし、対外的には第一軍団仮団員を名乗ることで適切な応対をせよ。騎士団においては引き続き、学業に支障のない範囲で特務に従事せよ。ユグリア王国騎士団長オリーナ・ザイツィンガー、代読、エディ・ドスペリオル」

 

 無論、横紙破りも甚だしい異例ずくめの辞令である。特務隊はその秘匿性の高さから原隊の籍を残しておくのは通例だが、特務隊に外部からの出向を受け入れたうえで、その出向者に表向きの名義だけを貸す目的で軍団の一角にねじ込むような人事は前例がない。だが元々が国王自ら自分の財布を放りこんでまでリアルでとことん殴り抜く強行軍も同然な超特急投資案件の主要人物である。フェーズ3、軍用魔導通信システムの実運用開始に突入した現時点で早くも魔物災害の早期対処の運用成功例も出始めている中では前例の十や二十は容易く蹴飛ばせるであろう。

 

「さて、翁からも言伝を貰っているから一応言うね。君にはあまり意味がないと思うけど。アレン・ロヴェーヌの筆記試験不正疑惑については手出し無用。はい、復唱」

「アレン・ロヴェーヌの筆記試験不正疑惑については手出し無用。心配しなくても全部ただの空回りですので、僕は何もしませんよ。お嬢様も若様に売られた喧嘩を横取りするような真似はしませんよ。但し、負けても負ける程度の輩の面子のために道理を曲げてごねるようならお嬢様を止めるのは無理ですね」

「翁がそこまで耄碌しているなら、私がとっくに顧問の椅子から蹴落としているさ」

 

 笑顔で冷たく言い放つエディ。その姿には着任当初には感じられなかった隊を率いるものとしての凄味があった。もしこれを父親にして現役近衛軍団長のランディが見れば息子も立派になった、天国のセシリアもよよよと号泣しだし、周囲はまたかと呆れることになるであろう。*1

 

「蹴落とした反動で足を骨折されても困りますがね。兎も角、拝命致しました」

 

 マントを受け取り、そのまま自分のデスクの投書箱を開け、書類を確認するリカルド。ふと、見過ごせない部分があったので取り出してエディの下へ向かう。

 

「隊長、これ、本当に僕にやらせるおつもりで?」

「残念ながら他に適任者がいないのだよ。陛下に了承は取ってある。……私はここの隊長にフェーズ3における近衛兵団及びドスペリオル地方軍の担当で手が回らないし、無駄に発言権を得ても持て余すだけだ。翁は王立学園新人教師としての仕事があるし、この技術のこれからを語れる者ではない。他の人物は他の人物で色々細かい調整が面倒でな?結果としてパンはパン屋に頼め*2という話だ。元々君は工房における渉外担当なのだろう?これくらいの大舞台程度で怯むんじゃない」

「指令とあらば無論拝命しますし、台本に脚注いれるぐらいの事は想定していましたが、まさか主演で台本もこっちで書くことになるとは思いませんでしたよ」

 

 無線魔導通信システムの導入プロジェクトにあたっては、幾つかのフェーズが設けられている。フェーズ1は無線魔導通信機の規格策定及び実戦における運用手法の策定、フェーズ2は実際に試験的に量産しての軍用魔導通信システムの配備及び運用基盤の構築、フェーズ3は騎士団の各拠点及び地方軍司令部への配備、そしてそれに伴う運用基盤の構築である。フェーズ3の完遂を以て、王国の国防戦力は魔導通信システムの初心者にようやく至り、同時に王国は魔導通信システムを上手く使いこなすための自己研鑽を開始できるようになる。そのように設計されており、リカルドのプロジェクトにおける保父の如き役割はもう折り返しが見えてきたところであったのだ。そんな所詮は保父止まりの自分が、フェーズ3の本格実行にあたって、様々な社会インフラを担う公爵達、そして地方軍を率いる侯爵達*3に周知する為の御前会議一つをファシリテーターとして預かることになるとはどういう冗談であろうか。と言うのがリカルドの本音であるが。仕事であるからにはやる。社畜まがいの猛烈根性は前世からの筋金入りであり、ムジカのようなリカルドの母を知る者からは親子揃ってと言われる性質であった。かくして、また大仕事が降ってきた事を察知したリカルドは一旦手を止めて本来真っ先に向かうべきであった王立学園に向かうのであった。

 

 

 

「失敬、仕事が立て込んでいて遅れました」

「ああ、構わんよ。連絡は受けているさ」

 

 そして、王立学園入学に際してのオリエンテーション終盤。Bクラスに空席があることは承知していたが、空席の主が堂々と重役出勤とばかりに大幅に遅れて現れた事にBクラス生達全員がその装いと併せて目を剥かされた。

 

「お初にお目にかかります。ドラグーン地方ロヴェーヌ領から参りました、魔道具工房リッキーローズ副所長、王国騎士団第一軍団仮団員、リカルド・キサラギです」

 

 王立学園に入学した時点で既に仮団員?どんな冗談だと言うのが騎士コース入学者を筆頭にBクラス生の総意であった。

 

「……確か、官吏コース……だよな?いやいや、ホントなんで?騎士団仮団員なのに?いや、逆……なのか?」

「本業は魔道具士ですよ。仕方なく副業もやることになっていますが、決着がついたらさっさとやめて本業に集中したいです」

「これは忠告だが、彼の筆記の成績に関しては物理学と魔法理論が満点であること以外何も参考にならないと思ったほうが良い」

「はあ、僕をどう評価するも煩くない範囲でどうぞご勝手にと申し上げておきますが、先方に迷惑をかけてもいけませんので先に事実だけ申し上げておきましょう。ドラグーン侯爵家にロヴェーヌ領からいきなりAクラスとBクラスに1人ずつ湧いてくるなんて事態を予測することは何をどうやっても不可能であった。ドラグーン侯爵の持つ情報量は皆様と大差無いだろうと推測できます」

 

 魔法士コースのコニーの疑問を皮切りにその異常性を改めて再確認させられる台詞を吐いていくリカルド。オリエンテーション終了間際の登場であったと言うこともあり、Bクラス生達の脳裏に大量の疑問を残してその場は解散となった。王都の子爵邸に戻ろうと王立学園を出ようとすると、使用人から一通の手紙を渡される。中身を見れば招待状であった。雑務が増えてしまったが仕方ないとリカルドは内心溜息を吐きつつも一瞬で応じるか応じないかの算盤を弾いた後、貴族寮の食堂の場所を聞き、踵を返すのであった。

 

*1
そんな様子を出汁にされた本人が聞けば渋い顔をしながら一発ローキックをぶちかまそうか本気で悩むところであるが。

*2
餅は餅屋

*3
伯爵及び侯爵は私設軍を持っている。地方の長とも言える侯爵が率いるそれは地方軍と呼ばれる

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