楽しい日常を過ごしていた少女ちゃんの前に巨大な壁が現れてしまった。
悲しいけど、つらいけど、乗り越えなければ……、そんなお話。
第8話は、前編・後編の2回に分けて投稿します。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』のソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
機械屋と先輩は女性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
使った(引いた)カード
PC:少女
イントロダクション:巨大生物の影
シーン1:アイドルコンテスト
カード1:闇:賞金首
シーン2:追憶のメロディ
カード2:光:片思い
シーン3:無限エネルギーの秘石
カード3:達人
シーン4:朝まで飲み明かせ
カード4:闇:都会っ子
シーン5:水晶宮殿のいざない
カード5:光:火星から来た
クライマックス:爆発カウントダウン
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
こんにちは、私は少女です。ぺこり(おじぎ)。
私には自分の名前が「少女」であること以外の記憶がありません。
私は色々なことの『鍵』になる存在なのだそうです。
だから、私を悪いことに使おうとする方がたくさんいます。
前に「大変なこと」になりそうになったとき、先輩さんと機械屋さんに助けてもらいました。
その後、軍の「謎の男」さんのおかげで、私は軍で保護してもらえることになりました。
軍の建物から出るときは警護の方が要るのであまり外出はできません。
でも、私は何も心配せずに安心して暮らすことができるようになりました。
最近、「港の噂」、近海に「謎の巨大生物」がいるらしい、と言う噂をよく耳にします。
食堂で食事をしているときとかに、何となくそんな話が聞こえてきます。
新聞には載っていませんし、テレビのニュースでも取り上げられていません。
ニュースにならないと言うことは特に大事なことではない、私はそう思いました。
三日くらい後。
新聞もテレビも大騒ぎになりました。
「謎の巨大生物」が海面から大きく飛び出て、ざぶーん、と海に体を沈めました。一隻の漁船が巻き込まれて沈没しました。
その様子が仲間の漁船のレコーダーに映っていました。
騒ぎが落ち着くまで海に出るのは禁止、すぐにそう決まりました。
「謎の巨大生物」が出没した海域の上空にはマスコミの浮遊機械が多数。
そのあたりが見える海岸には「謎の巨大生物」が見えないかと集まったたくさんの人。
とてつもない大騒ぎです。
新聞もテレビも、一日中「謎の巨大生物」ばかり。
とにかく、とーっても大変なことになりました。
少し日を空けて。
「謎の巨大生物」の騒ぎはまだ続いています。
久しぶりに「謎の男」さんが私の部屋に来てくれました。
「謎の男」さんに「巨大生物」のことを聞いたら、『上は大騒ぎになっている。少女くんには当分会えないかもしれない』とのことでした。
食堂で聞く噂によると、『軍を動かしたいが動かせない』、『他国の兵器の可能性は?』、『だとすれば領海侵犯』、『とは言えいきなり攻撃する訳にはいかない』、でした。
最終的に、正規軍は動かさず裏の部隊、「謎の男」さんの部隊が動くことになったそうです。
それからの連日連夜、「謎の男」さんの部隊は大騒ぎになりました。
あちらこちらへの連絡、海沿いの国々の軍隊のチェック、等々、隊員さんたちは走り回っています。
数日後。
たぶん忙しいさなかだと思いますが「謎の男」さんが私のところに来てくれました。
「少女くん、しばらくの間、毎日外出してもらえないか?」
「えと、でも隊員さんが大変なことになってるんじゃ……?」
私が外出しない方が部隊は楽じゃないのかな? そう思いました。
「謎の男」さんが言いました。
「いや、少女くんの護衛は別枠になっている。
彼らだけを終日待機とするわけにもいかない」
私の答えは、
「分かりました。
じゃあ、明日の朝から外出、で良いでしょうか?」
「ありがとう。
これでどうにか示しがつくよ」
そう言って「謎の男」さんは私の部屋を後にしました。
翌朝。
忙しい中「謎の男」さんが私の外出を見送ってくれました。
これまでは私のすぐそばで二人の方が護衛してくれていました。
でも今日からは誰にも気付かれないところから四人の方が私を護衛してくれるそうです。
でも「外出する」とは言ったものの今日は特に行きたいところはありません。
うーん、と考えます。
よし、工房に行きましょう。
工房に行けば先輩さんと機械屋さんに会えます。
私は工房に行くことにしました。
工房は倉庫街にあります。
街が動き始めるにはまだ早い時刻です。
途中、公園の野外ステージで何かの準備がされていました。
倉庫街までてくてく歩きます。
工房に着きました。シャッターが半分開いています。
呼び鈴があるので押します。
反応がありません。
もう一度呼び鈴を押します。
やっぱり反応がありません。
……勝手に入っても良いかな?
私は工房に入りました。
事務室には誰もいません。その隣、食堂に機械屋さんがいました。
機械屋さんが私に気付きました。
私はぺこり、とおじぎをします。機械屋さんは私に手をふりました。
私は食堂に入りました。
「おはよ、少女ちゃん」
「あ、おはようございます」
私はもう一回、ぺこりとおじぎをしました。
「えっと、先輩さんは……?」
先輩さんがいません。
「ん? 先輩?
奥で何か作ってる。
たぶん制御回路か何か」
「そうですか……」
「?
残念?」
機械屋さんが少し笑って言いました。
ふと、疑問がひとつ浮かびました。
「あの、先輩さんは朝ごはんは食べないのですか?
機械屋さんが食べてるのにどうしてかな、とか思って……」
「ああ、先輩は朝メシ食わない派だから」
なるほど、疑問が解けました。
機械屋さんと何気ない会話をしていると先輩さんが食堂に入ってきました。
「あー、上手くいかねー」
先輩さんは何かぼーっとした感じです。
でもすぐに私に気がついてくれました。
「お!
おはよ、少女ちゃん!」
「えと、おはようございます」
ぺこりとおじぎをします。
「先輩、朝っぱらから何してたんだ?」
と機械屋さん。
とたんに先輩さんは元気になりました。
「聞いてよ、聞いてよ!
あのね、夢の中ですっごい優秀な回路作ってさ、
そこでちょうど目が覚めたから忘れないうちにって、すぐに作りにかかったんだけどさ」
「できなかったんだな」
先輩さんの言葉を機械屋さんが言い切りました。
「うん……」
先輩さんはうなだれました。
「あ、そだ、
少女ちゃん、今日はどしたの?」
先輩さんはすぐに立ち直って私に尋ねました。
私は顛末を話しました。
「少女ちゃんの護衛が四人、工房に張りついてるのが二人。
……六人か」
先輩さんは食堂を出てそのまま工房の表に出ます。
左右をきょろきょろと。次に屋根の上に視線を向けます。それから隣の倉庫との壁と壁の間。怪しいところを見ている? ようです。
「見つからないね」
「そんな簡単に見つかる訳ねーだろ」
先輩さんを追って出てきた私と機械屋さん。
機械屋さんが先輩さんに少々キツく言いました。
「先輩、少女ちゃん来たし、朝から出るか?」
「おけー」
先輩さんの背中に機械屋さんの言葉が飛びます。
先輩さんはそれに答えました。
「あの、今日は何かあるのですか?」
「今日は特別な日なのだよ」
私の言葉に先輩さんの言葉が返ってきました。
先輩さんが言うには『夕方に戦いが始まる』だそうです。
「んじゃ、少女ちゃん、
着替えてくるからちょっと待ってて」
先輩さんがそう言ったのを合図にしてか、先輩さんと機械屋さんがそれぞれの部屋に行きました。
先輩さんと機械屋さんはいつも作業着のはずです。それがわざわざ着替える、と言うことはとっても大事なことなのかもしれません。
少しして先輩さんと機械屋さんが戻ってきました。
機械屋さんはちょっとラフな服装。先輩さんはちょっとラフすぎる感じの服です。
「では、出発ー!」
先輩さんの声を受けて三人で工房を出ます。
機械屋さんがインフォメーション端末を操作すると、シャッターが下り始めました。
いちばん下までシャッターが下りました。
先輩さんが左側の小さなドアの鍵がかかっているのを確かめました。
先輩さんの考えで、まず繁華街に行くことになりました。
街が動き始め、賑やかさが出てきています。
繁華街に行くには公園の横を通ります。
公園の屋外ステージで何かが盛り上がっていました。
何となく三人でそちらへ向かいます。
『新時代アイドルコンテスト』
大きな横断幕が風に揺れています。
『飛び入り参加大歓迎』
とも書かれていました。
先輩さんがステージの脇の長机に駆け寄ります。ちょっとの間をおいて私を呼びました。
私は先輩さんのところに行きます。
「じゃ、少女ちゃん、
ここに名前書いて」
何かの紙を先輩さんが指しました。
先輩さんに促されて私は「少女」と名前を書きました。
「んと、
住所は……、工房で良いか」
先輩さんが言います。
「んじゃ、書いてね」
「はい」
先輩さんが工房の住所を言います。
「倉庫街17号通り24番」
私は「住所」の欄にそう書きました。
「では、お願いします」
先輩さんはその紙を机にいた人に手渡しました。
「えと、何なんですか? 今の?」
先輩さんがしたことの意味が分かりません。
「少女ちゃんは未来のアイドルだな」
機械屋さんがのんびりとこちらに来ました。
機械屋さんの言葉も理解できません。
「見てみ」
機械屋さんが長机の前を指しました。
私は驚きました。
机の前には、
『飛び入り参加受付』
と書かれた紙が貼られていました。
私はぞっとしました。
つまりあのステージに立って何か歌えと……。
「先輩さん、絶対に無理です!
私にはできません!」
そんな私の両肩をしっかりと叩いて先輩さんが言いました。
「大丈夫、少女ちゃんは『守ってあげたい系』だから絶対イケる。
それに機械屋ちゃんもこのステージに立った。
次は少女ちゃんの番だ!」
ううう……、泣きそうです。
「しかしよう、先輩、
少女ちゃんは狙われてんだ、
こんな目立つことして大丈夫か?」
私は機械屋さんの言葉にすがりました。
そうです、私は危険なのです。
「ん?
護衛が四人いるし、
最悪、私と機械屋ちゃんが盾になれば大丈夫っしょ」
「確かにそうだな」
私がすがっていた機械屋さんの言葉がきれいさっぱり消え去りました。
三人でステージ裏の楽屋に来ました。
午前中の早い時間だからか、楽屋には何人かしかいませんでした。
アイドルのたまごたち?っぽい女の子が順番にステージに上がって、ひどく落胆して楽屋に戻ってきます。
「少女さん、次どうぞ」
私の番になりました。
こうなるともう開き直るしかありません。
ステージの中央に立ちました。
歌の前奏が始まります。
私がいちばん得意な歌。
『追憶のメロディ』
「♪オルゴールから流れるリズムが~
♪君の記憶を呼び覚ます~
♪君は語り出す~
♪遥かな故郷のことを~」
歌謡曲中の歌謡曲、定番中の定番ですが、逆に新鮮なはずです。
歌い終わった私はぺこりとおじぎをして楽屋に戻りました。
途中でスタッフの方がボールペンをくれました。
「少女ちゃん、どうだった? どうだった?」
先輩さんが興味深げに聞いてきました。
「これをもらいました」
私は誇らしげにボールペンを取り出しました。
「努力賞、だそうです」
「うん、うん、少女ちゃんはがんばった、がんばったよ」
先輩さんが私の両方の肩をぽふぽふと叩いてくれました。
そう言えば繁華街に行く途中でした。
王都の繁華街のひとつ、大通りのひとつ東の通り、東通り。
流行のファッション、流行のスイーツ、そんな店がつらなるお洒落な街。
まずは東通りに来ました。
私は一度、東通りを全力で楽しみたいと思ってました。この前に来たときは護衛の方が男性だったので、ランジェリーショップとかにはちょっと入れませんでした。
でも今日は先輩さんと機械屋さんです。弾けるくらいに東通りを楽しみます。
昼すぎ、少し遅めの昼食。最近の流行と言われているパスタのお店に入りました。さすがに流行るだけの理由があるとっても美味しいパスタでした。
午後はこちらも繁華街のひとつ、大通りのひとつ西の通り、西通りに行くことになりました。
西通りに行くことになったのは、先輩さんが思いっきり楽しむためです。
西通りは、コンピューターショップ、ゲームショップ、ホビーショップ、とかがいっぱいのマニアックな街。
先輩さんはあちらへこちらへ、と順番に店を見てまわります。
「んー、
今日は面白いのがない」
そう言って先輩さんはクレーンゲームの店に入りました。
「うわ、
先輩『西7』行くか」
あきれた声で機械屋さんが言いました。
機械屋さんが言うには、
店の住所が「西通り7番」だから「西7」と呼ばれてるクレーンゲーム店、
絶対と言っていいほど景品が取れないのがその筋では有名、
だからそれを知ってるゲーマーは入らない店、
だけど、先輩は攻略法を知ってる、
あと、先輩がこの店に入るのはちょっと不機嫌なとき、
だそうです。
先輩さんはなかなか出てきません。
私は前から思っていたことを思い切って機械屋さんに尋ねました。
「あの、機械屋さん、
機械屋さんは先輩さんに片思いしてるんですか?」
「ぷっ、
くくくくく」
機械屋さんはちょっと噴き出した後、笑いをこらえました。
「少女ちゃん、
先輩はそんなんじゃないよ、くくくくく」
笑いをこらえながらそう言いました。
でもすぐに機械屋さんの表情が真面目になりました。
「先輩はすごいエンジニアだ。スキルはもちろんだし、アイデアも。
だから、いつも尊敬してる」
機械屋さんがまたひとつ、私に教えてくれました。
先輩さんがエントロピージェネレーターを思いついたきっかけ。
先輩さんは昔、登山をしたそうです。
そのときにエメラルド色に光る石を見つけたらしいです。
その光が気に入ったので、家に持って帰って机のすみに置いて光を見ていたそうです。
でもある日、家に帰ったら光が消えていた。
ずっと光っていたら良いのに。
それがきっかけになって、エントロピージェネレーターを思いついたらしいです。
そんな話が終わる、ちょうどそのとき先輩さんが「西7」から出てきました。
両手にひとつずつ大きな紙袋を持って。
「いやー、久々にやり込んじゃったよ」
先輩さんは何かすっきりした感じで、にこにこと笑顔です。
「先輩、そろそろ行かねーと」
機械屋さんの言葉を聞いて先輩さんは腕時計を見ます。
「おおぅ、もうこんな時間!?
機械屋ちゃん、一個持って」
「ああ」
先輩さんと機械屋さんは紙袋をひとつずつ持って歩き出しました。
私はあわてて追いかけます。
「あのっ、これからどこに行くんですか?」
「ん? ゲーセン」
先輩さんはそう言いました。
でも、ゲームセンターには今行ったんじゃ……?
私の心を読んだかのように機械屋さんが言いました。
「今日は『カウボーイ・ショット3』の全国大会があるんだ、
んで、先輩は優勝候補のひとり、ってわけ」
「ええっ、先輩さんはそんなに上手なんですか」
驚きです。私は先輩さんがゲームをしているところを見たことがないのでよく分かりませんが、きっととってもすごいんだと思います。
少し歩いて、先輩さんの行きつけ? のゲームセンターに着きました。
ゲームセンターにはたくさんの人が集まっていました。
今年のゲーム大会の王都の会場はこのお店なのだそうです。
だからたくさんの人が集まっているそうです。
「どもー、
ちょっと遅くなっちゃった、
ごめんごめん」
先輩さんの声に集まっていた人たちが振り向きました。
「おぉ、先輩さん登場っ!」
「先輩さん、来なかったらマジヤベーとか思ってたんすよ」
「まさか、予選なしで店長に指名されちゃったんだから逃げられないっしょ」
先輩さんはとっても楽しそうです。
機械屋さんが教えてくれました。
ここに集まってる方たちは王都のあっちこっちのゲームセンターで名前が知られている、すごいゲーマーさんたちなのだそうです。
「あ、そだ、
ぎりぎりになったおみやげー」
先輩さんは機械屋さんから紙袋を受け取って、袋ふたつを皆さんに差し出しました。
「え? なんすか、それ?」
「だーかーらー、おみやげだって、
みんなで分けて」
集まっていた方々が袋から箱を取り出します。いろいろな大きさの箱がかなりの数入っているようです。
「あの、機械屋さん、
あれって何ですか?」
「ん?
たぶんコレクションフィギュア」
機械屋さんが教えてくれましたがよくわかりません。
「んーと、
人形っぽいやつ、って言えばいいのかな?」
「人形、ですか」
これも私にはよくわかりませんが、皆さんが真剣になってるのですごく大事なことなのかな、と思いました。
皆さん、とても盛り上がってます。
「うぉ、『カグヤ』シリーズ大漁じゃん」
「え、『カグヤ』あるの? 『みーこ』ない? 『みーこ』」
「あるよ、
はい、パス」
「よっしゃ、これで『カグヤ』コンプリート!」
「『ケビク様』ない?」
「ん? 何色?」
「赤か緑」
「両方あるけど」
「両方あるのかよ、
『ケビク様』もらうぞー」
「ちょ、『カクー』さん三つ、って、
先輩さん、何っすかこれ」
「えっ、『カクー』さん三つもあるの?
全部もらっても良い?
んじゃ、『カクー』さん確保!」
「お前、何個目だよ、『カクー』さん」
「『カクー』さんは馬鹿に出来ないだろ、
色塗り直したら最強だろ」
「覚醒Ver.か?」
「そうそう、そんな感じ」
とにかく盛り上がってます。
盛り上がっているところから抜け出た方がこちらに来ました。
「先輩さん、
マジでいいんすか、こんなにもらって」
「うん、もちろん。
なんてのかな、欲しいから取った、てより攻略したいから取った、って感じだから」
先輩さんはその方とお話をしています。
「で、どこの店にダメージ入れたんです?」
「もちろん『西7』」
「え?
あそこってぜんぜん取れないんじゃ……」
なるほど、「西7」は有名なようです。
ふたりはさらに話を続けます。
「あの店ねー、
箱の置き方にクセがあるんだよ」
「ああ、だから取れねーって」
「違うんだなー、
コツつかんだら劇甘設定だよ」
先輩さんは本当に楽しそうです。
機械屋さんは何かあきらめモード、っぽいですが、でも先輩を見てちょっと笑顔です。
店の中からがっしりした体格の男性が出てきました。
「おい、そろそろだ」
「店長、今日はマックスで行きます!」
男性は店長さんだったようです。
「先輩ちゃん、期待してるよ!」
『カウボーイ・ショット3』のゲーム機? の横に、特設の大きなディスプレイがあります。
そこに表示されているのは今の時点の上位10人の名前とクリアしたステージそれにスコア、だそうです。
「さすがにすごいのがならんでるな」
ディスプレイを見た機械屋さんがぽつりと言いました。
「えと、それは先輩さんでも難しいってことですか?」
「そうだな、けっこう接戦になってるし……」
私の質問に機械屋さんが答えてくれました。
先輩さん、大丈夫でしょうか……。
そうこうしているうちに先輩さんの番になりました。
ディスプレイの表示があちこちの会場のライブ配信に替わります。
「さて、行きましょう!」
先輩さんが気合を入れました。
ゲーム機から音声が流れます。
「ファーストステージ、3、2、1、ファイア!」
ゲームスタートです。
先輩さんはどんどん敵を撃ち倒していきます。
ゲームがいくらか進んだところでどよめきが起こり始めました。
ざわざわと皆さんの騒ぎが大きくなってきます。
「フォースステージ、3、2、1、ファイア!」
ゲームが始まってすぐに画面が変になりました。表示がめちゃくちゃになって、これ以上ゲームを続けるのは無理なようです。
先輩さんのまわりのざわめきが更に大きくなります。
「メモリのオーバーフローか?」
私の隣にいた機械屋さんがつぶやきました。
「フィフスステージ、3、2、1、ファイア!」
他の会場ではゲームがどんどん進みます。
最後のステージがクリアされました。
それぞれの会場ではゲームをしていた方が誇らしげな表情をしています。
でも、このゲームセンターにはそう言うのはまったくありません。
ゲームの画面は全国に配信されていて録画もされているので、主催者さんが先輩さんの画面を見て検証が行われることになったそうです。
先輩さんが機械屋さんと私のところに戻ってきました。
「先輩、どうやってオーバーフローさせた?」
あとで教えてもらいましたが「オーバーフロー」と言うのは、スコアを稼ぎすぎてゲームが変になるみたいな感じのことなのだそうです。
先輩さんと機械屋さんを中心にしてまわりがさらにざわめきます。
「ん? 二週間くらい前に見つけた撃ち方。
タイミングちょっと早めと、ちょっと遅めに二回撃つと二回ヒットしたことになるみたい。
本気で使うのは今日が初めてだけど、
メモリのオーバーフローは計算外だったね」
主催者の検証が終わりました。
ゲームはクリアできてないし、スコアがどれくらいだったのかもわからない。しかし、いちばんすごかった。
と言うことで、先輩さんはその場で急遽作られた「特別賞」になりました。
「そんなのありかよ……」
「実際のところ優勝だよなぁ」
先輩のことを残念がる声がぽつぽつと上がります。
「あの……、
先輩さん優勝ってことで、
三階貸し切りにしてたんだけど……」
まわりにいた方の一人がそう言いました。
皆さん何も言えません。
「まあ、実質優勝だからなー」
「せっかくだし盛り上がろー!」
「店長、今日は楽しかったよ」
それぞれが店長さんにお礼を言ったりしつつ、ゲームセンターの横の階段を上がります。
「三階」と言うのはゲームセンターが入ってるビルの三階にある居酒屋でした。
「みんな、グラスまわったかー?」
「「「おーっ!」」」
「では、かんぱーいっ!」
「「「かんぱーいっ!」」」
その声で宴会が始まりました。
それと、私は幹事をまかされました。
とりあえずお店に入るところで皆さんから3,000ダリル預かりました。
皆さんを見渡せる壁際に私は立ちます。
私はまだお酒を飲める歳ではないのでソフトドリンクです。
先輩さんと機械屋さんもソフトドリンクです。
前に機械屋さんが言ってました。
『この仕事はいつでも動けるようにしておかないといけない』、
それが機械を扱う人間のあり方、
なのだそうです。
「ふぅ」
私はため息をつきました。
今日はたくさんすぎるくらい楽しいことがいっぱいありました。
「少女くん、今日は楽しめたようだね」
ふっと横を見ると「謎の男」さんがいました。
「謎の男」さんがいくつかの場所を指しました。私を護衛してくれている方がいました。
「えっと、いつからいたのですか!?」
私はとても驚きました。
「いつからかな? こう言うのが私たちの仕事だ」
その後、私は「謎の男」さんに今日のことを話しました。
そうこうしているうちに宴会はお開きに。
私は支払いをしようとして……、できませんでした。
ひとりあたり700ダリル、追加で集めました。
軍の役所へは、「謎の男」さんと護衛の方と一緒に帰りました。
続