新しい仕事にチャレンジしようとするも上手くいかない。
最後のチャンスにかけた機械屋さんの運命は……、そんなお話。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
機械屋(主人公)と先輩は女性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
アタイは機械屋、大型飛行機械のメンテナンスを仕事にしてる。
船の名前は「ビッグブラスト」。ブラスト盗賊団の船だ。だから、正直、堂々と名乗れる仕事じゃねぇ。
ビッグブラストはもう20年か30年かもしかしたらもっと前か、から飛んでる。
そんなんだから、機械系も電気系もトラブルが日常。
アタイは毎日、船のどこかを修理してる。
その日は「何か」がありそうな気がしてた。
アタイはジェネレーターの下に潜り込んでオイル漏れを直してた。
ピピピ、と音がした。船内用の通信端末だ。
「あいよ」
端末に話す。
ブラスト盗賊団の主、団長、おやっさんからの通信だった。
『お嬢、大事な話がある、ブリッジに来い』
おやっさんの声に陽気さがない。かなり深刻な話なんだろう。
「わかった、今の作業が終わったら、でいいか?」
『ああ、急ぎじゃねぇが、できるだけ早く来い』
「了解」
それで話は終わった。
アタイは改めてオイル漏れの修理に取り掛かる。
原因を探してる途中だった。
オイル漏れの原因を探す。
あった、ボルトが一本ゆるんでた。
腰の工具ベルトからレンチを取る。ボルトをしっかりと締める。
これでひとつトラブルが解消した。
ふぅ、と息をつく。
そうだ、おやっさんが呼んでた。
アタイはブリッジに向かった。
「おやっさん、来たぜ」
ブリッジに入るなりアタイはおやっさんに言った。
「おう、お嬢、ちょっとこっちに来い」
おやっさんは船長席の後ろのドアを開ける。団長室、おやっさんの部屋だ。
アタイはおやっさんに続いて部屋に入った。
団長室、と言っても特別に豪華じゃない。当たり前の船員室と似たような部屋だ。
『上のモンだろうが下のモンだろうが寝床の扱いは同じだ』と、おやっさんは常々言ってる。
それはさておき。
おやっさんはいすのひとつにアタイを座らせた。おやっさんはアタイの前にいすを置いてそこに座る。
険しい表情で口を開いた。
「お嬢、お前さん、船を降りろ」
唐突な言葉だった。
「え!? 何だよ、急に……」
アタイは困惑する。
「船を降りろ、それだけだ」
やっと状況が飲み込めた。
「な、なんだよ、アタイじゃ力不足ってのか?
アタイはできるだけのことはやってるつもりだ。
そりゃ、半人前かもしれねぇけど……」
「そうじゃねぇ、お嬢は十分に一人前だ。
俺んとこに来たときからな」
おやっさんはアタイを認めてくれてる。それは確かだ。
「じゃあ、なんで?」
「一人前だからだ」
なんだよ……、それ……?
「お嬢は大した技術者だよ。
だから、こんなところでくすぶってちゃなんねぇ。
それにな、俺の感にピンと来た。
『お嬢はでかいことをやる、だから手放せ』ってな」
「『感』で降りろってのか?」
さすがにひどい。
「おうよ、
俺の感は外れたことがねぇ」
それは……、確かにそうだ。
おやっさんの「感」はすごい、「とっさの判断」なんてもんじゃなくて、本当に「感」としか言えねぇ。
「……わかった、降りるよ」
アタイは船を降りると決めた。
ただ、ひとつ確認したいことがあった。
「でもよ、おやっさん、アタイがいなくなったら、この船のメンテナンスはどうするんだ?」
「なに、どうにかなるだろ」
おやっさんは楽観的すぎる、これは間違いない。
「いや、どうにもならねぇ。
毎日、毎日、どっかでトラブルだ。
さっきもジェネレーターの裏でオイル漏れだ。
それなりのエンジニアが要る」
「そうか……」
おやっさんは考え込む。
「お嬢の仕事、ちょくちょく手伝ってた二人、
あいつらでどうにかならねぇか?」
「ひどい言い方かもしれねぇが、あの二人が力合わせてやっと半人前だ」
おやっさんはまた考え込んだ。
「そうだな……、
よし、お嬢が船を降りる前にあの二人をどうにか格好つけさせろ。
ただ、いつまでもってわけにはいかねぇ。
……来月の終わり。それまでにどうにかしろ」
次の日からアタイは一気に忙しくなった。と言うか、忙しくした。
手伝いをしてた二人に仕事を覚えさせた。
もっとも、覚えさせるのは「基本」だ。「基本」がしっかりしてりゃ「応用」はどうにでもなる。
あっと言う間に「来月の終わり」が来た。
訳ありの船でも入れる田舎の空港にビッグブラストが着陸した。
『当座の金だ、持っていけ』
おやっさんはそう言って、十分すぎるほどの金を持たせてくれた。
でかいリュックを背負って、船の連中に、おやっさんに、最後にビッグブラストに、アタイは別れを告げた。
空港からバスで30分ほど。こじんまりした村に着いた。
アタイは王都を目指すと決めた。
この村には駅がある。ここから鉄道を使えば半日くらいで王都に出られる。
村にあったさびれた宿で一泊して、次の日の朝、王都への列車に乗った。
カタンコトン、カタンコトン、
そんなリズムを刻みながら列車は走った。
昼すぎ、王都に着いた。
王都中央駅はとてつもなくでかかった。
それにたくさんの人が行きかう。
まず行くべきは労働ギルド、仕事の斡旋をしてくれる役所だ。
駅の案内所で場所と行き方を聞いて街を歩く。
労働ギルドに着いた。
さっそく仕事を探したいがその前にすることがある。寝床の確保だ。
王国のあっちこっちから、王都で働きたい、そう夢を描いて出てくるやつがたくさんいる。
まあ、アタイもそうなんだが。
だが、仕事を探すには住所と連絡先が要る。
だから、労働ギルドには、住所と連絡先として使える簡易の宿がある。
ベッドひとつの狭い部屋だけど、重要な施設だ。
ギルドの窓口で宿の申請をする。すぐに部屋を決めてもらえた。
登録された部屋に行く。
部屋に入ってまず、床にどさっとでかいリュック、アタイの唯一の荷物、を置いた。
その日の午後は、インフォメーション端末で履歴書を作った。
次の日から、労働ギルドで仕事を探しにかかった。
単発モノ、短期間モノの仕事は見ずに、安定してそうな仕事を探した。
アタイに合いそうな仕事があればすぐに応募した。
が、不採用。
あちこちに応募するが、ほぼ全て書類審査で不採用。
初めて面接が決まったときは嬉しかった。
アタイが持ってるいちばんマシな服、一応スーツ、を着て面接に挑んだ。
結果は不採用。
学歴:なし
職歴:なし
資格:なし
無理もない。
応募、不採用、応募、不採用、……、が続く。
ギルドの宿の期限が迫ってきた。
宿の使用期限、就職活動をすると期限がいくらか延びる。だが、いつまでも延び続ける訳じゃない。
明日が宿の期限。
その日も朝からギルドで求人を見てた。
最後に残ってた求人。
『急募:機械系技術者(住み込み優遇)
給与:衣食住保障、完全歩合制』
何とも怪しいが後がない。
思い切って応募した。
応募はすぐに受理された。
『本日午後、工房に来られたし』
とのことだった。
今はまだ朝が始まったばかりだ。
昼を過ぎるのが待ち遠しかった。
昼になった、昼メシを食った。
午後になった。
アタイは気合を入れて、スーツに着替えた。
住所は、倉庫街17号通り24番。
インフォメーション端末に工房への地図が入力されてた。
地図を見ながら倉庫街を目指した。
途中でふと思った。
工房なのになぜ倉庫街にあるんだ?
やっぱり怪しい求人だったのか……。
いや、今度こそどうにかする!
アタイは思いを強くした。
倉庫街17号通り24番、に着いた。
シャッターが全部開いてた。
倉庫? の中には大型機械がいくつも並んでいた。かなりのスペックの機械もあった。
床には溶接用の機材が置かれてた。梁からはクレーンが下がってる。
工房っぽいと言えば工房っぽい。
呼び鈴があったので押した。
反応がない。
もう一度押してみる。
やはり反応がない。
ちょっと入ってみようか?
「すみませーん」
アタイはそう言いながら中に入った。
返事がない。
「すみませーん!」
大きな声で言ってみた。
倉庫? の奥の方から誰かが出てきた。
出てきたのはアタイよりちょっと年上の感じの、作業着を着た女性だった。
「あの、こんにちは。
私、ギルドの求人を見て応募させて頂きました機械屋と申します」
自分を隠すのは難しい。
いったいどこからこんな声が出るんだ? 自分でも不思議に思う。
「面接をお願いできるとのことで、
工房長にお会いしたいのですが……」
「え?」
女性がちょっと困った表情になった。
「あの……」
アタイは不安になる。
「ああ、工房長!
それ私」
この人が工房長だったらしい。
「ウチは私ひとりでねー、
いちおう私が工房長ってことのなってるんよ」
「はあ……?」
大丈夫かな?
「で、面接だよね、
ちょっとこっち来て」
工房長はアタイの手を引いて事務室っぽい部屋に入った。
「さ、座って座って」
アタイは工房長に言われるがままにイスに座った。
机をはさんで向かい側に工房長が座った。
形式通り、アタイは工房長のインフォメーション端末に履歴書を送った。
「んー」
工房長がアタイの履歴書を読む。
「何で学歴ないのかな?」
「鉄骨峡谷で育ったので、学校がなくて……。
あ、でも、構造計算とか安定度計算とかはできます」
自分をアピールする。
「ん、いい感じ」
工房長はそれで学歴に納得した感じだった。
「職歴は……、訳あり?」
いちばん痛いところだ。盗賊団に居たとは言えない。
「えと……、はい、訳ありです……」
隠すしかない。
「まあ、誰にでも秘密はあるし、話したくないこともあるし、言わなくていいよ」
工房長はまったく気にしない。
「あ、そだ、
安定度計算できるってことは、融合炉扱ったことあるのかな?」
アタイのアピールポイントに来てくれた!
「はい、マイクロ炉は設計から組み立てまでできます。
小型炉は分解メンテナンスの経験があります。
大型炉は一般メンテナンスしか経験がありませんが……」
何か一気に言ってしまった。
「むー」
工房長は考え込んだ。
2分くらいか、無音が続いた。
「よし!
ちょっと待ってね」
そう言って工房長はごそごそと何かを探す。
「あ、
あった」
工房長が取り出したのはサイコロだった。
サイコロを机の上に転がした。
「5」が出た。
「もう一回待ってね」
工房長は再度、ごそごそと何かを探した。
クラッカーを取り出した。左手に三つ、たぶん持てるだけ持った感じ。
「せーのっ!」
三本の紐を持って、思いっきり引っ張った。
クラッカーが、パパパンッ! と弾けた。
テープが舞った。
「採用決定ーっ!」
アタイは驚いた。
「あの、採用なんですか?」
「うんうん、
もちろん採用!」
工房長は笑顔だった。
「かなりのスキル、謎の過去、
それに……、本当は何て言うか、荒っぽい感じでしょ? 話し方とか」
「それは、その……、何て言うか」
その通りだ、工房長には見抜かれてた。
「でしょ?
これだけあれば面白そうじゃん」
工房長はにこにこしている。
アタイはふと思った。
「あの、サイコロは何だったんですか?」
「サイコロ?
ああ、『7』が出たら不採用にしようかなー、とか思った」
採用されてよかったのかな?
アタイの中に疑問が生まれる。
「そうそう、ウチのルール、先に言っとくね」
工房長の表情がきりっと引き締まった。
「はい!」
アタイもできる限りの真面目な顔をする。
「私のことは『先輩』と呼ぶこと!」
「……『先輩』ですか?」
工房長、いや、先輩はそう言った。
「それと、機械屋さんのことは『機械屋ちゃん』でいいかな?」
「は、はい」
先輩はそう決めた。
「で、最後にいちばん大事なこと。
私と話すときはため口で。
敬語は使っちゃだめ」
「わ、わかりました」
先輩がアタイをじーっと見た。
「ああ、わかった」
「そう、その感じ」
先輩が笑顔になった。
「さて、じゃあ、
ギルドから荷物持ってこようか?
私は機械屋ちゃんの部屋、作っとくから」
「はい、行ってきます」
先輩がまたアタイをじーっと見た。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「よし!」
アタイはギルドへ急いだ。
でかいリュックを背負って、窓口で手続きをした。
今度は工房へと急いだ。
工房に戻ると先輩は事務所のならびにある部屋のひとつから、色んな物を運び出していた。
「手伝うぞ」
「ん、ありがと、機械屋ちゃん」
部屋ひとつにこんなにたくさんの物が入るのか……?
それだけたくさんの物を運び出した。
「家具は二階にあったと思うから」
リフトで二階に上がって、ベッドやら机やらを一階に下ろす。
部屋をきれいに掃除して、家具も全部ぴかぴかにして。
とりあえずの部屋が出来上がった。
しかし……、「とりあえず」とは言え、ビッグブラストにいたときとは段違いの部屋だ。
これからはこんなに立派な部屋で眠れるんだ。
アタイは感激した。
アタイの引越しが終わったときにはもう、夕暮れを迎えていた。
「あー、もう夕方か……」
外を見て先輩がそう言った。
先輩はそう言った後、アタイのところへ来た。
「よろしくね、機械屋ちゃん」
先輩が右手を出した。
「ああ、先輩、よろしく」
アタイも右手を出した。
二人で握手した。
こうして新しい日々が始まった。
了