暑い日が続く!
先輩さんが夏の楽しみ「プール」を提案して、機械屋さんと先輩さんはいろいろと目論んでプールへ。
すごく楽しい夏のレジャー。
でも、思いがけない「大変なこと」が起こっちゃって……、そんなお話。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
機械屋(主人公)と先輩は女性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
アタイは機械屋、色々とあった末に、今は先輩の助手をしてる。
先輩は「エントロピージェネレーター」の開発をしてる。アタイはその助手、って言うか手伝い。
先輩が言うには、『理論は完璧にできあがってる、後は作り上げるだけ』だそうだ。
『試作も今のところ順調に進んでる』とも言っている。
完成が楽しみだ。完成したら先輩と一緒に思いっきり喜びたい。
今年も夏が来た。
熱気がひどい。
工房の前の道路、陽炎が見える。
工房の中ももちろん暑い。
外の熱気が入らないようにと、シャッターを下ろすと熱がこもる。
かと言ってシャッターを開けると、熱い空気が流れ込む。
つまり、どのようにしても工房の中は暑い。
工房の中で快適に仕事ができるのは、事務所と精密作業室。この二つの部屋はエアコンがしっかり働いてるので、一年中快適だ。
けど、この二つの部屋での仕事はだいたいがすぐに終わる。
つまり、作業スペースでの仕事がほとんどすべて。
とにかく暑いが耐えるしかない。スポットクーラーがあるのが唯一の救いだ。
夏の間は毎日シャワーを浴びる。一日が終わると体が汗でぐっしょり。シャワーを浴びないとやってらんねぇ。
服は汗を吸って重たくなってる。だから、二日に一回はコインランドリーだ。
そんなある日。
仕事を終え、シャワーを浴びて食堂でひと休み。食堂もエアコンがしっかり効いてる。
アタイの後にシャワーを浴びた先輩が食堂に入ってきた。
「おー、快適ー」
先輩の心が一瞬で「快適」に満たされたらしい。
アタイはテレビを見ていた。
「何か面白いニュースある?」
イスに座りつつ、先輩もテレビの画面を見た。
ちょうど天気予報が始まった。
予報によると、向こう一週間、晴れが続くとのことだ。
「はぁーっ」
アタイはうなだれた。
「これ、キツいねー」
先輩の体からは力が抜けたようだ。
少しテレビを見た後、アタイは晩メシを作った。
先輩とアタイ、机を間に向かい合ってメシを食う。
ふと何かを思いついたのか、先輩のメシを食う手が止まった。
「機械屋ちゃん、明日、時間ある?」
そう聞いてきた。
「ん? 何で?」
先輩の質問に質問で答えた。
「プール行かない?」
なるほど。
「ちょっと待ってくれ」
アタイはインフォメーション端末を取り出してカレンダーを表示させる。
カレンダーを拡大、表示を明日から一週間分にする。
明日は……。
「明日の分は明後日に延ばしてもどうにかなる。
大丈夫だ」
「じゃ、決定ー!
明日はプール!」
アタイの声の直後に先輩が宣言した。
その後、メシを食いながら先輩が明日の段取りを次々に決めた。
プールが開くのが10時。10時半くらいにプールに着くようにする。
女の子を探してる男にアピールする。
楽しく過ごす。
あわよくば昼メシをごちそうしてもらう。
「こんな感じでどうかな?」
「男が目当てじゃなくて、昼メシが目当てかよ」
先輩らしい理論の組み立て方だ。だが、
「メシがただで食えるのは嬉しいな」
悪くない考え方だ。アタイは賛成した。
夜。
アタイは水着をタンスから出した。
一着だけ持ってる水着。ビキニだ。布の面積が広いかなり落ち着いたデザイン。なのだが、アタイはちょっと恥ずかしい。いつもが作業着、肌の露出が最低限だけだからだろうか。
……先輩はどんな水着なんだろうか?
無茶をしなければいいのだが……。
明日を楽しみにして、アタイは眠った。
翌朝。
朝メシ食わない派の先輩がアタイと一緒にメシを食った。
『今日は気合を入れたい』
だそうだ。
工房を出るのは10時頃の予定。
先輩とアタイは食堂でテレビを見ながら、そわそわとその時刻を待った。
準備はすでに整っている。
服装もばっちりだ。アタイはTシャツにジーンズ、薄手のパーカーを羽織った。先輩はTシャツにミニスカート。服を着ている時点からアピールするつもりなんだろうか?
10時少し前。
「早めだけど行こう!」
先輩が言った。
「そうするか」
アタイはスポーツバッグを持って、先輩は小さいリュックを背中に、二人で工房を出た。
シャッターとドアの鍵を確認して、出発。
……ふと何か嫌な予感がした。
倉庫街を出て市街地へ。途中の交差点で先輩は左へ曲がった。
「?
先輩、『スプラッシュ・プール』に行くんじゃねぇのか?」
『スプラッシュ・プール』、街いちばんのレジャープール、この道をまっすぐ行った先にある。
前を歩いていた先輩がアタイを振り返った。
「あそこは入場料、2,500ダリルだよ。
そこまでの贅沢は厳しいね」
「んじゃ、どこに行くんだ?」
アタイにはスプラッシュ・プール以外は思いつかない。
「市民プール!」
……先輩らしい。
アタイの「嫌な予感」はこれだったのか。
心がいくらかすっとした。のだが、何かもやもやは完全には消えない。
市民プールに着いた。
いかにも「市民プール」だ。プールの出入り口の横にプレハブのそば屋があった。
気が抜ける。先輩の思惑通りに事が運んだとしても、昼メシはそばか……。
市民プールに入る。先輩とアタイ、それぞれ200ダリル払った。
更衣室に入った。この更衣室、今入ってきた出入り口から中に入って着替え、反対側にある出入り口から出るとプールサイドだ。
アタイは水着に着替える。先輩は服を脱ぐとすでに水着だった。水着を下に着て来たのか。
先輩の水着はワンピース。無茶はしてない。あえてポイントを挙げると背中が大きく開いている。背中でアピールするつもりのようだ。
またもやもやを感じた。心が晴れない。
先輩はアタイが着替えるのをうずうずと待った。
アタイが着替え終わったのを合図に先輩は更衣室を出た。アタイは日焼け止めクリームとタオルを持って先輩を追った。
何かが気になる、と思いながら。
ひと足先にプールサイドに出た先輩が固まっていた。
アタイもプールサイドに出た。なるほど、先輩に同意した。
子供しかいねぇ!
市民プールだ。
女の子目当ての男など論外だ。ちょっと考えればわかりそうなことを見落としていた。
プールサイド、シートを張って作られた日陰に先輩とならんで座った。
「考えが甘かったね……」
「……一回目で成功しよう、ってのは甘かったな」
言葉が途切れる。
アタイは持ってきた日焼け止めを体に塗る。
「先輩、背中、塗ってくれ」
先輩に日焼け止めを渡した。
背中にもしっかりと塗ってもらった。
次は先輩の番。しっかりと日焼け止めを塗った。
「機械屋ちゃん、せっかくなんだから楽しもう!」
「ああ!」
先輩は心のスイッチを切り替えた。
アタイも心機一転。
プールサイドからプールに飛び込んだ。
体が一気に冷える。それがここち良い。
「先輩、プールってやっぱ良いな」
「うんうん、その通りその通り」
先輩とアタイはぱしゃぱしゃと水をかけ合ったりした。
お互いの動きがふと止まったところで、先輩は水から上がった。
「機械屋ちゃん、機械屋ちゃん、
ちょっと上がってみ」
先輩がアタイの手をつかんでプールサイドに引き上げた。
「ここに立って」
アタイはプールサイドのぎりぎりに、プールを背にして立った。
アタイの後ろ、アタイよりももっとぎりぎりに、先輩は立ったようだ。
何をするつもりだ?
先輩の腕がアタイの腰にまわされた。
腕に力が入った。
「せーのっ!」
アタイの体が浮き上がった。
体がそのまま後ろに倒れる。
バックドロップだ。
とっさのことだったのでアタイは受け身を取れない。
が、大丈夫だった。
水の中にどぼーん、と沈んだ。
たぶん大きな水柱が上がっただろう。
ピーッとホイッスルの音と共にプールの監視員が小走りでアタイらのところに来た。
「あの、危ないことはやめてください」
注意された。
「「すいません……」」
二人して頭を下げた。
監視員さんは持ち場に戻っていった。
「んじゃ、違うことしよう」
先輩は反省していない。アタイにはわかる。
「機械屋ちゃん、こっちに来て」
手を引かれて、プールの真ん中くらいに来た。
先輩が言った。
「足の力抜いて立っててね」
「あ、ああ」
先輩はどぶん、と水に潜った。
アタイの足下にいるようだ。今度は何をするつもりだ?
先輩に足首を握られて動かされた。アタイの両足がそれぞれ先輩の肩に乗るように……。
と言うことは、と思った瞬間、先輩は思いっきり立ち上がった。
アタイの体は水面を突き抜けて宙を舞った。続いて水面に落下。
また派手に水柱が上がっただろう。
ホイッスルのピーッと言う音と共に、さっきの監視員がまた来た。
「あの、危ないので本っ当にやめてください」
キツめの声だった。
監視員さんはまた持ち場に戻っていった。
「んじゃ、今度は」
アタイは先輩を制した。
「やめとこう、次はたぶん追い出される」
先輩とアタイはプールから上がった。
日陰に戻った。タオルで体を拭いた。
先輩が『貸して』と言ったので先輩にタオルを渡した。
子供たちが無邪気に遊んでいる。そんな風景が微笑ましく見える。
「男もいなかったし、昼メシも出てこなかったけど、……悪くないよな」
アタイはつぶやた」
「そだねー、
こう言う雰囲気って、夏にしか見れないもんね」
先輩とアタイは、何となく、ぽつり、ぽつりと、楽しいことを言い合って、時々笑った。
昼前になった。
「そろそろ出よっか?
先輩が言った。
「ん、そうしよ」
アタイは先輩の言葉に答えつつ、もやもやした気持ちがまだあることに気づいた。
……何かわからない、が、何かがある。それは確かだ。
更衣室に戻った。バスタオルで体を拭く。
水着を脱いで服を着始めたところで……。
「機械屋ちゃぁん……」
しゃがんでリュックの中を見ていたらしい先輩の何か情けない声が聞こえた。
「ん?
先輩? どうしたんだ?」
先輩を見た。顔が真っ青だ。目には涙が浮かんでいる。何があったんだ?
「パンツ持ってくるの忘れた……」
「……え!?」
アタイは固まった。と同時にもやもやが晴れた。これだったのか……。
先輩は水着を着てプールに来た。
と言うことは、帰りにはくパンツが要る。
先輩はそれを忘れたのだ。
「どうしよ?」
先輩の声は弱々しい。
「どうしよう、って、どうにもならねぇだろ、
ばれないようにさっさと帰ろう!」
そうするしかないだろう。
「そんなのできないよ、
ミニスカートで来ちゃったし、
これ絶対、洒落になってないよ……」
善後策を考える。
……ひらめいた。簡単なことだ。
「先輩、アタイのジーンズはけ、
アタイが先輩のスカートはく」
先輩とアタイのウエストが同じくらいだからできる手だ。
「機械屋ちゃん、ありがと」
先輩がジーンズをはく。
先輩はアタイより背が低い。だから股下もアタイより短い。ジーンズのすそを折り上げた。
これで一件落着だ。
アタイは先輩のスカートをはいた。
……気づいた。先輩の股下はアタイより短い。
先輩のミニスカートがアタイの超ミニになった。
「先輩、これ無理だ。アタイにはできねぇ、
やっぱ先輩がスカートはいて急いで帰ろう!」
「え?
提案したの、機械屋ちゃんなんだから」
……負けた。アタイの負けだ。
もしかして先輩はこれを狙ってたのか?
まあ、ノーパンでミニスカートよりも、トータルではマシだろう。
二人で市民プールを出た。
すぐ横のそば屋でかけそばを食った。一杯200ダリルの昼メシだった。
その店はかき氷も扱っていた。100ダリル。氷を口に入れるとこめかみがキーンとした。
「さて」
先輩が立ち上がった。先輩を追ってアタイも立ち上がった。
市民プールを後にする。
「けっこう楽しかったな」
「また来よっか?」
先輩が「次」を誘ってくれた。
「ああ、来よう、
でも、パンツ忘れるのは勘弁だな」
「ちょ、それ言う!?」
そんな感じで話をしながら、先輩とアタイはてろてろと工房を目指した。
了