冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~   作:混沌野郎

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 とある夏の日、少女ちゃんが工房に来た。
 純白のワンピースを着て、麦わら帽子をかぶって、いかにも夏。
 少女ちゃんはプールに行ったことがないらしい。
 じゃあプールに行こう、と先輩が提案。
 3人でプールに行くことになるんだけど……、そんなお話。

 今回も季節外れの「夏話」……。
 ご容赦いただけると幸いです。

 本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
 ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。

 『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。

先に記しとく設定、
 機械屋(主人公)と先輩は女性、
 作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
 と言うことで。

クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.



第12話 三人の夏 (日常回)

 アタイは機械屋。手先の器用さには自信があるんだけど、力はさっぱり。

 まあ、力のいる作業は重力制動を使えばいいから気にしてない。

 いろんなことがあって、今は先輩の工房で働いている。

 先輩は真面目なときはとてつもなく真面目。目つきがきりっとしてる。

 が、間抜けなときはたいがい間抜けだ。

 そんな先輩と作業をしてるとすごく楽しい。

 

 真夏。

 熱気、いや、熱波だ。

 毎日のニュースで熱中症で救急搬送された人数が報じられてる。

 作業をしてるときは水分補給に気をつけないといけない。

 時間を決めて、その時間になったら麦茶を飲む。

 もちろん、時間じゃなくても飲みたくなったら飲む。

 食堂のガスコンロはフル稼働だった。

 でかいやかんでどんどん麦茶を沸かしてた。

 それでもかろうじて足りてる、と言ったところだった。

 先週だったか、先輩が『頭にきた!』そう言って工房から出ていった。

 30分ほど後、先輩はラーメン屋でも始めるのか? と言うくらいのでかい寸胴の鍋を二つ持って帰ってきた。

 それからは、麦茶は十分に足りるようになった。

 

 そんな真夏のある日。

 アタイは事務室で先月の帳簿を締めてた。

 正直、工房の財政は厳しい。それなりに入ってきてるが、それよりも若干少ない額が出ていってる。

 まあ、出ていってる分には積み立ても入ってるからいいことにしてる。

 ふとおもてを見た。

 麦わらぼうしをかぶった少女ちゃんがいた。

 呼び鈴を押した。間をおいて何度か押してる。

 あの呼び鈴は壊れてる。

 アタイは事務室の窓を開けて呼んだ。

「少女ちゃーん」

 少女ちゃんはすぐにこっちに気づいた。ぺこり、とおじぎをした。

 事務室の前にきて麦わらぼうしをぬいだ。

「こんにちは」

 少女ちゃんはもう一度おじぎをした。

「暑いだろ、中に入りな」

「はい」

 アタイの声に返事をして事務所のドアへまわる。

 事務室はエアコンが効いてる。だから快適だ。

 少女ちゃんは「ふぅ」とひと息ついた。汗ばんでいる。

「少女ちゃん、水分とらねぇと」

 アタイは事務室を出て隣の部屋、食堂に入った。

 食器棚からマグカップを取り出す。

 鍋から麦茶をひしゃくでマグカップにとった。

 シンクの前に引っかけていたタオル、これでゆるしてもらおう、を取って事務室に戻った。

「はい」

 マグカップを少女ちゃんに渡した。

 少女ちゃんは麦茶をこくこくと飲んだ。

「ぷはぁ」

「タオルな」

 麦茶を飲み終えた少女ちゃんにタオルを持たせた。

 少女ちゃんは顔をタオルでぬぐった。

「はふぅ」

 もういちどひと息ついた。

「麦茶、もうちょっと飲む?」

「えと、あ、大丈夫です」

 少女ちゃんは汗ばんでいる。エアコンの効いた涼しい部屋だと体が冷えるだろう。

「少女ちゃん、服は大丈夫か? 先輩のか、アタイのかで良かったら着がえる?」

 『えっ』と少女ちゃんは困った顔になった。

「あの……、

 あのですね、

 今日はこの服を見てもらいたいな、って来たので……」

「ああ、そう言うことか、

 じゃ、着がえなくていいな。

 だけど、冷えるだろ」

 アタイは少女ちゃんの肩にタオルをかけた。

 少女ちゃんの服、なるほど、夏らしい。

 純白のワンピース、靴も白、それに麦わらぼうし。

「夏らしくて良い感じだ、

 それに、少女ちゃんだから似合ってる」

「そうですか、

 ありがとうございます……」

 照れながらお礼を言ってくれた。

 さて、アタイは時計に目をやった。そろそろ昼メシの準備だ。

「少女ちゃん、メシ食ってくだろ」

「えっ、あっ、

 いえ、その、あの……」

 少女ちゃんははわはわとする。

「食っていきな、

 それに、先輩にも見てもらわねぇと」

 少女ちゃんの手を引いて食堂に移った。

 イスのひとつに少女ちゃんを座らせる。

「あの……、

 いいんですか?」

 少女ちゃんは思いっきり遠慮してる。そんな少女ちゃんはかわいいと思う。

 いかにも少女ちゃんらしいんだよなぁ……。

「気にすんなって、

 先輩もアタイも少女ちゃんだったらいつでもOKだからさ」

「えと、ありがとうございます……」

 そんな感じのところに先輩が入ってきた。

「あー、今日は良い日だねー」

 本当に良い日なのか? 声に力がない。

 精密作業室で作業してたはずだ。快適だったと思うが……。

「あ、先輩さん、

 こんにちは」

 少女ちゃんは立ち上がって、ぺこり、とおじぎをした。

「おっ! 少女ちゃん!」

 先輩の声に力が入った。

「ん!?

 少女ちゃん、ちょっとそのままね」

 先輩は三歩下がった。

「んー、

 さすがは少女ちゃんだね。

 『絶対的清純派』だ。

 真っ白、って言うのが少女ちゃんらしい。

 真っ白なワンピース、靴もちゃんと白ってのも良い」

「あ、ありがとうございます……」

 少女ちゃんは顔を真っ赤にして照れてる。

「よし!

 機械屋ちゃん、昼メシはカレーうどんにしよう!」

 ったく、何言いだすんだ。

 んな、どう考えてもロクなことにしかなんねぇメシにできるわけがねぇ。

「できるわけねぇだろ。

 先輩は少女ちゃんを不幸にしたいのか?」

 少女ちゃんの頭の上に「?」が浮かんでいる。

「あの、私が不幸になると言うのは……?」

 少女ちゃんにはわからないようだった。

 アタイが説明する。

「少女ちゃん、カレーは知ってるよな?」

「カレーライスは知ってます。

 でも、ぴりぴりからいんで、ちょっと苦手です」

 よし、話が早い。

「カレーうどん、ってのはカレーとうどんのだしと混ぜて、そこにうどんを入れた食い物だ」

 少女ちゃんがこくり、とうなずく。

「それで、『不幸』と言うのは……?」

「カレーとだしとうどん、

 勢いつけてうどんすすったらどうなる?」

 少女ちゃんは考える。

「だしが飛び散る……、ですか?」

 まったくもって少女ちゃんは話が早い。

「そう、カレー色のだしが飛び散る。

 で、少女ちゃんの服は真っ白、

 ……後はわかるな」

 少女ちゃんは、はっとした。

 真っ白な服が染みだらけになる。

 わかってもらえたようだ。

「少女ちゃんは純粋なんだからさ、

 先輩の言うことは疑わなきゃなんねぇ」

 これで少女ちゃんは十分だろう。

「でさ、昼メシはなに?」

 根源が軽い声で尋ねてくる。

「そうめん」

 一言だけ。

「そうめんかー、

 そうめんは良いよね、夏らしくて」

 アタイは手際よくそうめんをゆでて、水でしめた。

 その間に先輩が食器を用意する。

 そうめんが入ったざるをボウルに入れる、テーブルの真ん中にどん、と置いた。

 三人でずるずるとそうめんを食う。

 先輩の手がふと止まった。

 何かを考えてるのか、何かを思いついたか。

「少女ちゃんて、プール行ったことある?」

 そう尋ねた。

「プール、ですか?

 えと、ないです」

「そっか、じゃさ、明日行かない?」

 唐突に決めようとする。実に先輩らしい。

「その、私は大丈夫ですが、

 先輩さんと機械屋さんのお仕事は……?」

「ん? 私は大丈夫」

 先輩は即答。

「アタイも行ける」

 頼まれてた製図の納期は明後日だ、問題ない。

「じゃ、決定ー!」

 先輩が明日の段取りを決めた。

 10時半くらいにプールに着くように工房を出る。

 今回は男もメシも期待しない。

 とにかく楽しくすごす。

 だそうだ。

「前のときは考えが甘かったからね、

 今回は堅実にいこう」

 アタイは賛成。

 少女ちゃんもそれでいいと言った。

「あと、

 私、水着持ってなくて……」

「そっか、

 じゃ、昼から買いに行こー!」

 先輩が即決した。

 そうめんを食って、後片付けをして、一休みして。

 少女ちゃんの水着を買いに行くことになった。

 買いに行く先はもちろん東通りだ。おしゃれで魅力的な水着を買えるだろう。

 少女ちゃんに待ってもらって、先輩とアタイが作業着から着がえて、工房を出た。

 

 東通りは夏の暑さなど何ともせずに賑わってた。

 夏限定で水着オンリーになってる店がいくつかあった。

 そんな店のひとつで水着を見ることにした。

 カラフルであったり、大胆であったり、落ち着いた雰囲気であったり、いろいろな水着がかけられたハンガーがならんでた。

 アタイと少女ちゃんは店の入り口付近の目立つところ、おそらくいちばん人気のある水着がならんでいる辺りを物色した。

 先輩は店の奥の方へ入っていった。おそらくロクなことしか考えてないだろう。

 アタイと少女ちゃんがいろいろと見ているところに、先輩が戻ってきた。

 手にハンガーをひとつ持ってた。

「少女ちゃん、これ、どうかな?」

 そう言って少女ちゃんにハンガーを渡した。

 着ている姿を想像したのだろうか? 少女ちゃんの顔が真っ赤になった。

 先輩が持ってきたのはいわゆる「紐ビキニ」。最低限は隠れるようになってるが……。

「先輩とペアにするんなら、アタイが払う」

「これは少女ちゃんには似合わないね」

 先輩は店の奥に入っていった。

 少女ちゃんには肌面積が小さい方がいいだろう。あと、おとなしめも大事かな? と思ってたが、意外なことに少女ちゃんは積極的だった。

 どちらかと言うと肌を見せて、デザインもカラーリングも攻めてる感じだ。

 さっきの先輩のは論外として、少女ちゃんは案外アクティブなのかもしれない。

 先輩が戻ってきた。またハンガーを手にしてる。

「少女ちゃん、これは似合うでしょ」

 ハンガーを少女ちゃんに渡す。

 今度は「紐スリングショット?」とでも言えば良いのか。

 少女ちゃんはまた真っ赤になった。

 最低限は隠れる……、のか?

「で、先輩のは? アタイが払うから」

 少女ちゃんからハンガーを受け取って、先輩は何も言わずに店の奥にいった。

 その後、少女ちゃんはいろいろな水着を見て、二着にまで絞り込んだ。

 どちらにするか悩んでる。

 先輩が戻ってきた。何も持ってない。もう無茶振りはやめたらしい。

「どちらが似合うでしょうか?」

 少女ちゃんが尋ねる。

 その言葉に先輩が答えた。

「んとね、

 それは少女ちゃんが決めなきゃ。

 人に流されちゃだめだよ」

 服を選ぶときの質問。その答えとしてはあまり良いとはいえない。

 だが、少女ちゃんには良い答えだったようだ。

「そうですね……、

 ……じゃあ、こっちにします!」

 ちょっと悩んで、少女ちゃんは一着を選んだ。

 ワンピース。胸元と背中が大胆なデザインだ。

 支払いを済ませた少女ちゃんはにこにこしていた。

 帰り道、軍の役所に向かう少女ちゃんと別れて工房に帰った。

 

 工房につくと、先輩もアタイも明日の分の仕事をいくらか進めた。

 晩メシを食いながらアタイは言った。

「先輩、明日はパンツ忘れんなよ」

 先輩は心外だ、と言う表情で言った。

「機械屋ちゃん、馬鹿にされちゃ困るよ。

 私は同じ失敗は二度としないんだから!」

 自信満々だった。

 

 翌日。

 9時半くらいに少女ちゃんが来た。

 今日も少女ちゃんはワンピースだった。だが、印象がぜんぜん違うワンピースだ。

 ベージュ色がベースでその上にブラウンのアクセント。

 加えて、今日は日傘を手にしてた。

 アタイはファッションにうといので上手く言えないが、似合ってるのは確かだ。

 持っているかばんも服に合わせたのか、馴染んでる。

 少女ちゃんはわくわくしてる。どう見てもわくわくしてる。間違いない。

 先輩はまだ自分の部屋にいる。

 アタイは少女ちゃんと盛り上がっていた。

 先輩なんだからすぐに出てきそうだと思うのだが……。

「よしっ!」

 気合の入った声が聞こえた。

 先輩が部屋から出てきた。

「おっはよー!」

 いつも通りの元気な先輩だ。

「少女ちゃんはいつ見てもかわいいねー」

「えと、ありがとうございます」

 少女ちゃんは照れてるのを隠したいのか、ちょっと顔を伏せた。

 10時半くらいにプールに着くように、だ。

 まだ時間がある。

 食堂で麦茶を飲みつつテレビを見て時間を潰す。

 天気予報が始まった。

 向こう一週間は晴れが続くそうだ。

 この暑さがまだ続くのか……。

「当分、暑いんですね……」

 少女ちゃんの声には力が入ってない。『もうだめ』そんな感じだ。

「だな」

 アタイの声にも力が入ってないと思う。

 夏ってのは楽しいが厳しい。

 世の中そう上手くはいかない、と言うことか。

「あ、そだ、

 水筒持って行こ」

 先輩は食器棚のいちばん下の段から水筒を取り出した。

 寸胴鍋からひしゃくで麦茶をくんで水筒に入れる。

 冷たい麦茶、と言う贅沢ではないがいいアイデアだ。さすが先輩。

 そうこうしているうちに10時をすぎた。

「ちょっと早いけどそろそろ行くか?」

 イスに座ってテレビを見ていたアタイは、そう言って立ち上がった。

「賛成ー!」

「行きましょう」

 先輩と少女さんも立ち上がった。

 アタイはテレビを消した。

 

 荷物。

 先輩はちょっと小さいリュック。

 アタイはスポーツバッグ。

 少女ちゃんは、少女ちゃんらしいかわいいかばん。

 

 三人で工房を出る。

 シャッターとドアを確認してプール、もちろん市民プール、に向かう。

 

 今日の服装。

 先輩はタンクトップとミニスカート。やはり水着になる前からアピールか?

 アタイはTシャツにジーンズ、薄手のパーカーを羽織る。

 少女ちゃんはワンピース。日傘をさして歩く。

 

 15分ほど歩いて、市民プールに着いた。

 プールの横にはプレハブのそば屋。「そば」と書かれたのぼりが夏のゆるゆるの風に揺れていた。

 それぞれ200ダリルを払ってプールに入った。

 更衣室で水着に着がえる。

 

 先輩は背中が大きくあいたワンピース。

 アタイは落ち着いたビキニ。

 少女ちゃんは昨日買った水着。

 胸元が攻めてる感じ。もちろん背中も。

 カラーリングはオレンジをベースにライトグリーンのアクセント。

 

 先輩は今日も水着の上に服を着てプールに来てた。

 本当にパンツを忘れてないのか? ちょっと不安になるが、昨日『同じ失敗は二度としない』そう言い切ってた。大丈夫だろう。

 アタイと少女ちゃんが着がえ終わると、先輩はプールに出た。アタイは日焼け止めとタオルを持って、少女ちゃんはタオルを持って、先輩に続いた。

「おお!

 プール!」

 先輩はプールサイドを走り出した。全力で加速する。

 できるかぎりの勢いをつけてジャンプした。

 かなりの距離を飛ぶ。

 そして着水。ばしゃーん! と水柱が上がった。

 ピーっとホイッスルを吹きながら監視員が先輩のところへ小走り。

「危ないのでやめてください」

「はい……」

 先輩は監視員に素直に返事をした。が、先輩のことだ、絶対に反省してないだろう。

 シートを張って作られた日かげ、そこにアタイと少女ちゃんは持ってきた物を置いた。

 二人で日焼け止めを塗った後、先輩に続いて水に入った。

 冷たい水がひやっとして気持ちいい。

「あー、やっぱ夏はプールだねー」

 先輩の声、満足しきってる。

「先輩、先輩」

 後ろにまわって、アタイは先輩を呼んだ。

「ん? 何?」

 先輩がこっちを向いたタイミングでばしゃっと水をかけた。

「むー、

 やられたらやり返す!」

 先輩がばちゃばちゃと応戦してきた。

 その水は少女ちゃんにもかかる。

「少女ちゃんも一緒にしなきゃ!」

 先輩の声に少女ちゃんがこたえた。

 先輩とアタイと少女ちゃん、三人で水のかけあいをする。

 自然な成り行きで、アタイと少女ちゃん V.S. 先輩、になる。2対1だ。

「んじゃ、奥義っ!」

 先輩は水面に仰向けになりつつ、思いっきりばた足をした。

 大量の水が、ぶわっとアタイと少女ちゃんを襲った。

「どう?

 すごいでしょ!」

 先輩は余裕たっぷり。

 アタイらの負けだ。

「先輩さん、すごいです!」

「まあ、すごいちゃあすごいな」

 褒めると調子にのる。それが先輩だ。

「よし、少女ちゃん、もっとすごいことをしてあげよう!」

 先輩はプールサイドに上がった。少女ちゃんの手を握って引き上げる。

 アタイは思った『あ、これ洒落になんねぇやつだ』。

 プールサイド、プールまでわずかな距離に少女ちゃんを立たせた。少女ちゃんを水面に向けさせる。

 少女ちゃんの前に先輩が立った。

「じゃ、少女ちゃん、深いおじぎして」

「えと、こうですか?」

 少女ちゃんは言われた通り前屈する。

 先輩は少女ちゃん首に腕をまわした。

「せーのっ!」

 少女ちゃんを持ち上げた。

 先輩はそのまま後ろ、水面、に倒れ込む。

 どぶーんっ! と二人が水に沈んだ。

 みごとなブレーンバスターだ。

 立派な水柱が上がった。

 二人が水面に上がってきた。

 少女ちゃんは、けほけほ、とせきをしている。

 アタイは先輩に言った。

「先輩、何にでも『程度』ってもんがあるぞ」

 監視員がホイッスルを吹きながらやって来た。

「あの、子供が真似しちゃだめなんで、

 絶っ対にやめてください」

「……はい」

 アタイはふと思いついた。

 プールサイドに上がる。

「先輩、こっち来て」

「ん? 何?」

 先輩の手を取ってプールサイドに引き上げた。

「じゃ、次は先輩の番な、

 ここに立ってみ」

 プールぎりぎりに立たせる。

「機械屋ちゃん、何するのかな?」

 ちょっと怖がってるようにも聞こえる先輩の声。

「ん? ハイキック。

 顔に入れるから、しっかり歯食いしばってくれ」

 さらっと言う。

「えとー、

 私はいいよ、

 うん、いいから、

 ね」

 先輩はプールに戻った。

 今日の先輩はやけに素直だ。この「当たり前」がアタイに不安を感じさせる。

「アタイはちょっと休む」

 そう言って日かげに戻った。

 少女ちゃんは今度は先輩に手を取ってもらってばた足の練習をしてる。

 今の先輩は本当の先輩じゃない。そう思う。

 ときどき見る先輩の真面目な顔、目つきが違う。

 何かに立ち向かおうとしてる、覚悟を決めた表情。

 けど、アタイの視線に気づくといつもの顔に戻る。

 先輩が背負ってるのは重大なことなんだろう、もしできるならアタイは先輩と一緒に背負いたい。

 冷えていた体が幾分かぬくもった。

 プールに戻る。

 先輩と少女ちゃんのところへ行く。

 アタイに気づいて少女ちゃんはばた足をやめた。

「機械屋ちゃん、少女ちゃんは飲み込みが早いね、

 なんでもすぐにできるようになる」

 先輩はにこにこしてる。

 一方の少女ちゃんは何か照れてる。

 先輩と少女ちゃん、良い組み合わせなんだろう。

 改めて少女ちゃんに目をやった。

 ?

 少女ちゃんがもじもじしてる。

「ん?

 どうしたんだ?」

「あの、

 体が冷えちゃったので……」

 ああ、そう言うことか。

「ちょっと行ってきます」

 少女ちゃんがプールサイドを目指そうとしたところに、先輩が小さな声で言った。

「少女ちゃん、小さい方だったらプールの中でしちゃってもいいんだよ」

 少女ちゃんは『え!?』と驚いた。

「先輩、嘘教えんな」

 まったく、あきれるしかない。

「早く行ってきな」

 少女ちゃんは更衣室の隣にあるお手洗いに入っていった。

「先輩、まさかしたことあるのか?」

 不安になる。

「あると思う?」

「疑ってるから聞いた」

 いくら先輩でもそこまではしないだろう。そう信じたい。

 

 少しして少女ちゃんが戻ってきた。のだが、水に入るにはちょっと疲れてるようだ。

 先輩とアタイも水から上がった。

 三人で日かげに戻る。

「ふぅ」

 ため息をついた。

 水の中にいる、と言うのはなかなか疲れる。

 先輩が水筒のふたをコップにして麦茶を入れてくれた。

 まず少女ちゃんが飲んだ。

「はふぅ」

 少女ちゃんは大きなため息。

 次にアタイ。

 適度にぬるい麦茶が美味しかった。

 先輩がぬるい麦茶を持ってきたのはこれを狙ってたのか。

 やっぱり先輩は考えてないようで考えている。

 最後に先輩が飲んだ。

「太陽、プール、麦茶、

 本当に『夏』だね」

 心のそこから同意した。

 少女ちゃんも「同じく」だったようだ。

 気がつけば昼をすぎていた。

「そろそろ出よっか?」

 先輩が言った。

「そうするか、

 少女ちゃんも疲れただろ」

「あ、はい」

 三人で立ち上がる。

 

 更衣室に戻った。

 水着を脱いでバスタオルで体をぬぐう。

 さて、服を着よう。

「機械屋ちゃぁん……」

 しゃがみこんでいた先輩が情けない声で言った。

「?

 先輩、どうした?」

 先輩を見る。リュックの中身をひっくり返していた。

 顔は真っ青、目には涙が浮いている。

 まさか……。

 いや、先輩は『同じ失敗は二度としない』自信を持ってそう言ってた。

「先輩、何だ? パンツは持ってきてんだろ?」

 アタイは軽く返した。

「……ない」

 先輩の力のない声。

「はあ!?」

 何でないんだよ?」

 あきれる。

「確認したんじゃねぇのか?」

 先輩がこたえた。

「三回確かめた……」

「どんな確かめ方したんだ?」

 まったく、三回も確認してなんで忘れるんだ。

「リュックの中に全部入れて、

 ひとつずつ確認しながら出して、 

 全部確認してからリュックに入れた……」

 ああ、この人はダメな人だ。

「あのさ、先輩、

 なんで『入れながら』確かめなかったんだ」

 先輩は、しゅんとした。

「えと、えと、機械屋さん、

 どうしたらいいですか?」

 先輩が言うべきことを少女ちゃんが代弁した。

「ばれないようにさっさと帰るぞ」

「でも先輩さんはミニスカートだから、その……、

 ロシュツキョウのチジョとか思われちゃうかもしれません」

 少女ちゃんもけっこうキツいことを言う。

「少女ちゃん、

 『露出狂』とか『痴女』とか、少女ちゃんが使う言葉じゃない」

 少女ちゃんの両肩を、ぽんとたたいた。

「でも、このままじゃ先輩さんが……」

「ふぅ……」

 あきらめたため息だ。

「少女ちゃんのワンピース、先輩でもなんとか着れるだろ、

 で、先輩の服、ちょっとぶかぶかになるけど少女ちゃんならどうにかなる」

 アタイの言葉が先輩と少女ちゃんの希望になったようだ。

 先輩は小さな声で「少女ちゃん、ありがと」と言った。

 先輩の服と少女ちゃんの服を交換する。

 どうにかなった。

「これで先輩さんは痴女だってわかりませんね!」

 少女さんは自信満々の笑顔になった。

 しかし……、『痴女だってわからない』って言うと、『本当は痴女』って意味になるぞ。

 とは口にできなかった。

 

 プールを出た。

 出入り口の隣のプレハブのそば屋。

 200ダリルのかけそばを食った。

 そばの熱いだしが冷えた体を温めてくれた。

 熱いそばの後の贅沢、いや、わがままか。

 かき氷を食った。100ダリル。

 

 プールからの帰り道、途中で少女ちゃんと別れた。

 少女ちゃんが言うには、『工房に行くとつい遅くなる、あまり遅くなると軍の人が心配するから』だそうだ。

 まだ十分すぎるくらいに昼間だから大丈夫だと思うが、少女ちゃんは気になるようだった。

 少女ちゃんは心遣いのできる良い子だ。つくづくそう思う。

 だから、何かあったときは先輩とアタイが出たくなる。いや、出る。そう言うことなんだろう。

 ふと思い出した。

「先輩、カレーうどん食いたいって言ったよな」

「えと……、

 あ、言った」

 ひとつ決まった。

「晩メシはカレーうどんにするか」

「賛成ー!」

 先輩は賛同してくれた。

 これからマーケットに寄って、食材買って、カレーうどん。

 今日ほど有意義な日はなかなかない。そう思った。

 

 

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