初めての仕事はどう考えても割が合わない。
でも、尊敬してる人をまねて空を飛ぶ!
お金よりも大事なものがあるから!
その結果は……、そんなお話。
新キャラ登場!
新舞台登場!
今回は『ファンタジー感』が入る話です。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「飛行士」→「飛行士さん」
PC「機械屋」→「機械屋さん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
飛行士(主人公)は男性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
使った(引いた)カード
キャラクター:飛行士
イントロダクション:空から女の子が!
シーン1:名誉あるひとこと
カード1:闇:盗賊団
シーン2:空賊の襲来
カード2:光:騎士称号
シーン3:ご注文はなんですか?
カード3:闇:呪われてる
シーン4:暑すぎる砂漠
カード4:闇:ダイナマイト
シーン5:深奥へ至る洞窟
カード5:闇:通信機
クライマックス:ビッグ・チェイス
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
おいらは飛行士。
自慢するつもりはないけど「スピーダー特急便」って会社の社長だ。
もっとも、社員はおいら一人だけ。
「スピーダー特急便」名前からしてソレっぽいが、いわゆる運送業だ。
飛行士のおいらがやってる仕事だからもちろん航空便。
おいらは昔から空を飛ぶ仕事に憧れてた。
だから、一般教育学校に通ってた間に、飛行機械技術士の資格と、飛行操縦士の資格を取った。
学校に通ってたときはアルバイトもしてた。
会社を起こすためだ。
もっとも、アルバイトで稼いだ金だと会社は起こせるけど、飛行機械を買うにはぜんぜん話にならなかった。
だから、学校を卒業してから三年、飛行機械の整備・点検の仕事をした。
飛行機械技術士の資格が役に立った。
三年間で貯めた資金で、飛行機械を買った。
二世代前の中古って言うか、ジャンクに近い機体だ。
二人乗りの小さな機体。いちばん小さいサイズの標準コンテナを一個だけ積める。
輸送用としてはいちばん小さいサイズだ。
買ったときの状態は地面からちょっとだけ浮かび上がるのがやっと、飛ぶなんて無理、そんな機体だった。
だけど、おいらの腕を生かして、安定して浮かぶようにして、いくらかは飛べるようにして、問題なく飛べるようにした。
まったく問題なく飛べるようになった飛行機械。
飛行機械が十分になったらつける名前はずっと前から決めてた。
『ディケイドスピーダー』、20年くらい前に世界一有名なエンジニア、機械屋が作った世界で初めて『エントロピージェネレーター』で飛んだ飛行機械。加えて、惑星一周レースで優勝した飛行機械。
そんなすごい飛行機械の名前だ。
勝手に名前を使っても大丈夫か? 気になったので権利登録を調べた。
「悪用しないのであれば自由に使って可」って言う感じだった。
だから堂々と名づけた。
飛行機械はどうにかなった。次は会社だ。
会社を立ち上げるのは意外と簡単だった。
経済の役所に、会社の住所と連絡先、それに、社長、つまりおいらのインフォメーション端末のデータを登録するだけで終わった。
ただ、一応の審査があるらしく、OKまでにいくらか時間がかかった。
会社を立ち上げる登録、いくらかの時間の後、昨日ついにおいらの会社が権利登録された。
とにかく嬉しかった。明日から空を飛ぶ仕事ができる。昨夜は眠れなかった。
そして今日。
おいらはディケイドスピーダーの修理をしていたときからの拠点、共和国の地方の空港にいる。
せっかく会社を立ち上げたんだ、できることなら首都空港から飛び立ちたい。
けど、首都空港は空港使用料が高すぎる。
だから、十分すぎるくらいに馴染んでいるこの地方空港からスタートすることにした。
今日から空を飛ぶ仕事ができる。おいらはわくわくしてた。
だけど、世の中そうそう上手くはいかない。
運送業だ。誰かがおいらに仕事を頼んでくれないと仕事は始まらない。
空港の貨物便案内にも「スピーダー特急便」の名前を入れてもらった。
きっと誰かが頼んでくれる。そう信じたい。
朝の9時前か、
ぐらり、ぐらぐら、と地面が揺れた。地震だ。
最近、地震がよく起こる。
この地方だけじゃない。
共和国のあちこちで地震が頻発してる。
国の自然観測局はもちろん、自然科学研究所もこの地震の調査をしてるけど、今の時点では何が原因なのかまったくわからないらしい。
9時半頃、
空港が突然騒がしくなった。
この近くを飛んでた大型飛行機械が空賊に攻撃されたらしい。
なんとか振り切ったけど、船はかろうじて飛んでる、くらいにぼろぼろになったとのこと。
この空港に不時着しようとしてるらしいが、かなり危ういらしい。
飛行機械が目視できる距離まで来た。まだ「点」にしか見えないが、頼りない飛び方をしてるように見える。
何とか空港までたどり着けるか、あるいは、空港までとどかなくてもどうにか不時着できるか。
……無理だった。十分に見える、もうすぐ空港と言うところで飛行機械はがくん、と高度を落としてそのまま墜落した。
こうなるともう大騒ぎだ。
飛行機械事故担当の部署が墜落した飛行機械へと急ぐ。街の消防局にも連絡を入れる。
とんでもない大騒ぎ。
だけど、おいらにできることは何もない。おいらはディケイドスピーダーの横で空を見上げてた。
雲ひとつない青空が広がる。
初仕事を祝ってくれてるかのような空。
空を見上げる視界の中に「点」が見えた。「点」はどんどん大きくなる。もう「点」じゃない。「かたち」が見えてくる。人のかたち。
こんなときどうすれば良いのかわからない。わかるはずがない。「人のかたち」はさらに大きくなる。
とにかくどうにかしないと、だけど何ができる?
もうどうしようもない。地面に激突する。と、落ち方が急にゆっくりになった。最後はふわり、とおいらの前に舞い降りた。
空から落ちてきた、と言うよりも、舞い降りてきたのは女の子だった。
ぱっと見て、13歳か14歳か、くらい。
赤毛が特徴的、炎のような真紅の赤毛だった。
女の子を見るおいらの視線と、おいらを見る女の子の視線がしっかりと合った。
唐突に女の子が口を開いた。
「飛行機械を飛ばせますか?」
と早口。
切羽詰った感じだ。
おいらはもちろん飛ばせる。
だから、
「ああ、できる」
そうこたえた。
おいらの言葉に女の子は早口でさらに言った。
「私を深真洞窟に連れて行ってください」
「それは構わないけど、運賃は大丈夫?」
女の子の言葉が続かなくなった。
「あの……、それは……」
運賃が苦しいらしい。
だけど、おいらの初めての客だ。金にならなくてもいい。迷いはなかった。
「運賃はあとで考えよう。
急ぎなんだろ。
すぐに出発だ」
「ありがとうございます」
女の子の表情が若干和らいだように感じた。
ディケイドスピーダーのフロントシートに女の子に乗ってもらう。おいらはリアシートに乗り込んだ。
飛行機械の墜落で滑走路は使えなくなっている。
けど、ディケイドスピーダーは垂直離着陸ができる。だから滑走路を使わなくていい。すぐに離陸できる。
管制塔に離陸許可を求めた。
もちろんのことだけど、管制塔は大変なことになっている。滑走路が要る船の空港上空での着陸待機やら他の空港への行き先変更やらで大騒ぎだ。
ディケイドスピーダーの処理はもちろん後回し。当然だ。
30分ほど待って、離陸許可がおりた。
すぐに飛び立った。
深真洞窟へは浮遊大陸公国をかすめて飛ぶのが最短ルート。
もちろんそのルートを飛ぶ目論見だ。
飛ぶ時間。余裕をもった見積もりで1日半くらいで着くだろう。
離陸して、加速しつつ巡航高度まで上昇。
巡航高度まで上がったら、あとは巡航速度まで加速。
その後は深真洞窟に向かって飛ぶ。
出足は順調だった。
高度、速度、方角、等々が安定したら、おいらにはすることがなくなる。
「ふぅ」
体から力が抜けた。
おいらの様子を察してくれていたのか、女の子はここまで何も話さなかった。
余裕ができたのがわかったのか、女の子が話し始めた。
「あの、私は……、たぶんお金を払えません。
でも良いんですか?」
不安げな声。
「構わないよ、金にならなくても。
不安にならないで欲しいんだけど、
あんたはおいらの初めての客なんだ。
だから、記念だ」
おいらの言葉は良くなかったか。
不安にさせてしまったかもしれない。
けど、そんな心配はなかった。
女の子はまったく不安を感じていないようだった。
「優しいんですね」
女の子はそう言った。
おいらのこたえは、
「いや、尊敬してる人のまね、かな」
だった。
「尊敬してる人?」
女の子の問い。
それに返す。
「ああ、機械屋、だ。
心底、尊敬してる。
機械屋だったらきっと金にならなくても飛ぶ。
だからおいらも飛ぶ」
女の子にはよくわからなかったのだろうか?
「その、機械屋、と言う方は……?」
機械屋を知らないとは珍しい。
「エントロピージェネレーターを実用化して、惑星一周レースで優勝したすごいエンジニアだ」
「そう、なんですか?」
女の子にはまだピンとこないらしい。
おいらは機械屋のことを女の子に話した。
「金にならない仕事、それもでかい仕事をいくつもした、って話だ。
それにもう10年くらい前だったかな、共和国の首都の名誉都民の称号をもらいに首都に来たことがあるんだ。
そのときにおいらは機械屋のスピーチを生の声で聴いた。
正直、ぞくぞくした。
おいらが空を飛ぶ仕事を真剣に考えるようになったのはそのときだ」
「立派な方なんですね」
女の子が言った。
「ああ、立派だ。
それと、盗賊団にいたこともあるらしい。
でも、その盗賊団ってのは『ブラスト盗賊団』。
まっとうな船には手を出さない。ややこしい連中、後ろ暗いところがある船にだけ手を出す。『義賊』なんて呼ばれてる盗賊団だ。
盗賊団の話は全部うわさ、っていうか、たぶん作り話だろうけど、『ブラスト盗賊団』ってのが変にリアルなんだよな」
女の子はおいらの話をしっかり聴いてくれた。
話しすぎたかもしれない。
話題を変えよう。
「そうだ、腹減っただろ。
急ぎで出たんで、食い物持ってくるのを忘れた。
菓子パン二つしかない。好きな方を選んでくれ」
女の子はひとつを選んだ。
おいらはもうひとつを食べた。
女の子がおいらをちらちらと見ながら食べたのがちょっと気になった。
日が暮れてきた。
少しずつ暗くなる。じきに真っ暗になった。
計器盤だけが明るく光る。
ディケイドスピーダーは順調に飛んでいる。
自動操縦をセットして休むことにした。
翌日、
夜明けの少し前。
自動操縦の停止が近いことを知らせる電子音で目が覚めた。
夜が明ける。
明るくなってくると浮遊島がちらほらと見えた。
浮遊大陸公国の領空に入った、と言うことだ。
この高さまで浮いてるやつの数からすると、この下は浮遊島が密集してるだろう。
ピッと無線に入感した。
「そいつをよこしな! 抵抗するなら地獄送りだぜ!」
空賊!? 何でこんなとこに……。
!
『そいつをよこしな』、
女の子を狙ってるのか?
てことは、空港を出るときの飛行機械の墜落はこいつらが原因か。
空賊は、大型船が何隻か、小型船はたくさん。
どうする……。
わかりきったことだ。
「あんた、ちょっと揺れるぞ」
「はい!」
おいらはディケイドスピーダーを一気に降下させた。
思った通りだった。
高度を下げると浮遊島が密集してた。
島の間を飛び回る。
ディケイドスピーダーには平面レーダーしかない。
三次元レーダーがあれば余裕をもって空賊から逃げられるけど……。
ないものは仕方ない。
おいらはできるだけのことをした。
浮遊島の間を飛び回った後に、ちょっとした大きさの浮遊島の陰に隠れた。
1時間くらい隠れ続けた。
空賊はあきらめてくれたようだった。
おいらは改めてディケイドスピーダーを飛ばした。
何となくまた機械屋の話になった。
「機械屋が持ってるいちばんの称号は『騎士』だ。
王国の王様からじきじきに授けてもらったらしい」
「はー、すごいんですね」
女の子は初めて聞くかのような反応だ。
もう少し話そうとしたのだが、ぐぅ、腹がなった。
空港を出てからここまで、菓子パンひとつだけだ。
腹が減って当然だ。
腹が減っているのはディケイドスピーダーも同じだった。
そろそろ燃料を補給したい。
「あんたも腹減ってるだろ。
降りて休憩だ」
「あの、私は……、
いえ、何でもありません」
?
この女の子、ときどき変な感じがする。
だけど、おいらの初めての客だ。しかも仕事を始めた初日に、だ。
気にするのはやめよう。
もう少し飛んだ後。
浮遊大陸公国の辺境の飛行場に降りた。
離着陸床に着陸、メンテナンスエリアにディケイドスピーダーを移動させた。
先に休憩所に行っててくれと女の子に言ったが、ディケイドスピーダーに乗っている方がいいようだった。
機体のあちこちのパネルを開けて機器の状態をチェックする。
ひとつずつていねいに。
まったく問題はなかった。ひとつ安心できた。
次に燃料を補給する。燃料タンクの容量めいっぱいまで燃料を入れた。
これで休憩したあと、すぐに飛べる。
女の子をディケイドスピーダーから降ろして、一緒に休憩所に入った。
この空港の唯一の建物、管制塔と休憩所が一緒になっている建物だ。
管制塔、正直、立派な施設ではないだろう。
管制官も二人か三人、もしかすると一人だけかもしれない。
田舎の空港ではよくあることだ。
機体がどうにかなった、次はおいらたちの番だ。
休憩所。
全自動グルメテーブルが二台と飲み物の自動販売機が三台、加えて、普通のテーブルが三つ。
休憩所にあるのはそれで全部だった。
けど、グルメテーブルがあったのは嬉しい。
温かい物が食える。
本当の田舎に行くとグルメテーブルすらない。
グルメテーブルをはさんで、女の子と向かい合って座った。
「何にする?」
女の子に尋ねると困り顔になった。
深入りするのは良くないと思いつつ、女の子に理由を聞いた。
返ってきた言葉においらは驚いた。
女の子は「食べ物」がわからないらしい。
菓子パンを食べたときもおいらを見て、同じようにしたと言った。
とは言え食ってないんだ、腹は減ってるに違いない。
おいらのと一緒で良いか? と尋ねると、それで良いとの返答だった。
食い物はハンバーガーセットに決めた。
おいらの分と女の子の分とで二人分。
インフォメーション端末で決済、はできない。
田舎ではよくあること。現金払いだ。
二人分の硬貨をグルメテーブルの硬貨投入口に入れた。
ハンバーガーセットのボタンを二回押した。
30秒くらいすると、テーブルの中央に、シュン、とトレーが二つ現れた。
それぞれにハンバーガーとフライドポテトが乗っている。
飲み物が要る。
「ちょっと待ってな」
自動販売機に向かった。
女の子のはおいらのと一緒で良いだろう。
缶コーヒーを二本買った。
テーブルに戻る。
二つのトレーそれぞれに缶コーヒーを置いた。
トレーのひとつをおいらの方に、もうひとつを女の子の方へ動かした。
突然女の子がびくっと体を震わせた。
おいらの右手の甲にある黒い紋様を見たからのようだ。
理由はわからないけど怖いらしい。
紋様が何なのかを尋ねてきた。
別に隠すことはないとおいらは思っている。だから話した。
『呪いの紋様』らしい。
前に訳ありのややこしいアルバイト、確か魔術師をどうにかした仕事だった。
そのときに魔術師が『未来に不幸あれ』とか言った。
その言葉がキーワードになってか、手の甲に紋様が刻まれた。
けど、不幸はぜんぜん起きない。
結局、何だったかわからずに今に至ってる。
そんなことを話しつつハンバーガーを食った。
少し休んだ後、おいらと女の子はディケイドスピーダーに乗った。
離着陸床に機体を動かす。
管制塔と通信する。
すぐに離陸許可が出た。
軽くジェネレーターのパワーを上げる。機体がわずかに浮き上がった。
あとは離陸。十分な高さまで上がりつつ加速した。
巡航高度を巡航速度で飛び始めた。
ディケイドスピーダーは順調に飛んだ。
その勢いで浮遊大陸公国を後にした。
2時間くらいの後だろうか。
砂漠の上空を飛び始めた。
このあたりから国境線がややこしくなる。
だから、自由に飛べる。その点ではありがたい。
この砂漠を越えれば深真洞窟はすぐだ。
完璧と言えるくらいに上手くいってる。
そう思った矢先にトラブルが起こった。
計器盤の小さなランプのひとつが点滅を始めた。
ランプの横のメーターを見る。
ジェネレーターの冷却水が残りわずか、だそうだ。
飛行場で燃料は十分入れたけど、冷却水を忘れていた。
ジェネレーターを冷やさないと高度を上げられないし、スピードも出せない。
つまり、地面ぎりぎりをゆっくり飛ぶしかない。
冷却水が足りなくなるタイミングが悪かった。
砂漠の地面すれすれをゆっくり飛ぶ。
暑い。
冷却水の無駄遣いをちょっとでも減らすためにエアコンを切った。
キャノピーを開けたらちょっとはマシか、と考えてキャノピーを開けたけど変わりはなかった。
飲料水はもちろんすでに空だ。
このままでは体が干からびてしまう。意識がぼーっとしてきた。
誰かの声が聞こえた。
『こっちです、こっちに泉があります』
幻聴か、いよいよ最後のときか。
女の子が言った。
「あの、今の声は?」
女の子にも聞こえたのか尋ねてみる。
「おいらには『こっちに泉があります』って聞こえたけど、
あんたには何て聞こえた?」
「同じです」
二人が同時に同じ声を聞いた。偶然とは思えない。
それにこの女の子は何か不思議だ。その子に聞こえている。
運が向いてきたみたいだ。
声を信じよう。
「声の方に飛んでみる、運試しだ」
「はい!」
女の子の声がおいらの心を後押ししてくれた。
ディケイドスピーダーを声の方へ向けた。
『誰かの声』はその後も何度も聞こえた。その度に向かう方向を微調整した。
正面に「何か」が見えてきた。
砂漠の砂色の中に緑色? か。
近づいていく。
はっきり見えた。緑色、草木の色だった。
オアシスみたいだ。
ディケイドスピーダーのスピードを落とす。
さらに近づくと、木や草の真ん中に泉があった。
水にありつけた!
おいらはディケイドスピーダーを泉のすぐ近くに着陸させた。
シートから飛び降りた。
泉の水を手ですくって飲む、すくって飲む、それを繰り返した。
女の子はと言うと、おいらが水を飲んでいるのをまねして水を飲んでいた。
おいらは十分な満足まで水を飲んだ。
心が落ち着いた。声の主とオアシスを作っている泉に感謝した。
おいらの「感謝」に反応したかのように泉の水面が光った。
目を開けてられない輝きだ。
光はすぐにおさまった。だから少しずつ目を開けた。
泉の水面に女性が立っていた。
青い服、と言うか衣を着ている。肌は透き通るような白色。髪は長髪、きれいな青色だった。
「私を信じてくれてありがとうございます」
女性はまずそう言った。
「いや、こっちこそ。
もう終わりかけてたんだ。
礼を言わなきゃならないのはおいらの方だ」
その後、おいらは女性とそれなりの時間、話をした。
女の子は特に何も言わずおいらたちの話を聞いてた。
話を聞いて驚いた。
女性はこのオアシスの力の源、「泉の女神」なんだそうだ。
おいらたちを導いてくれたり、水面に立っていたり、不思議だと思っていたが、まさか女神とは。
女性、女神が言うには昔はたくさんの人がこのオアシスを通ったらしい。
けど、飛行機械が発達してからは、ほとんど誰も通らなくなったとのことだ。
そうなったのは仕方ないだろう。
女神は昔は砂漠で迷った人をオアシスに導くのを仕事にしていたそうだ。
だけど、誰も通らなくなって仕事がなくなった、そう言った。
おいらたちは10年ぶりくらいの「迷子」だと女神は言った。
話が一通り終わったところで、おいらは女神にひとつ頼みをした。
冷却水の補充だ。飲むのに十分以上に澄み切った水。しかも女神がいる泉の水だ。
冷却水に使って良いものか……。
女神は笑顔で言った。
「どうぞ使ってください。
旅人を導き、旅を助ける、
それが泉の女神である私のすべきことです」
ありがたい言葉だ。
おいらは機体のパネルのひとつを開けた。
そこから太いホースを取り出した。
片側を泉に沈め、もう片側を機体の水用の補充口につなげた。
まずは冷却水。
タンクのぎりぎりいっぱいまで水を補充した。
次に飲料水。
こちらもタンクに入るだけぎりぎりいっぱいまで水を入れた。
給水が終わった。
ホースを片付けて作業終了。
安心したからか疲れがどっと出た。
泉のそばの椰子の木の木陰に座り込んだ。
「ふぅ」とため息をついた。
「大丈夫ですか?」
女の子がおいらに尋ねた。
「ああ、大丈夫。
急がなきゃならないんだな。
そろそろ行こう」
おいらは立ち上がろうと地面に手をついた。
手が何かにあたった。
「何だ?」
手にあたった物を見た。
小型のダイナマイトだった。全部で10本。
導火線に火をつける必要がない、セーフティロックを外してスイッチを押して5秒か10秒かで、どかん、のやつだ。
女神に尋ねた。
「これ、何なんだ?」
女神がこたえてくれた。
「もうずっと昔にここを通った人が置いていったものです」
「そっか、
じゃあさ、これ、もらっても良いか?」
厚かましいお願いだ。
「良いでしょう。
それを置いていった人がまたここを通ることはありませんから」
女神は寛大だった。
だけど、悲しそうだった。
さて、出発するか。
泉の女神にお礼を言おう。
泉に目をやる。女神がいる。助けてもらったお礼を言った。
女神はそれにこたえてくれた。
加えて、おいらの右手の紋様が呪いであることを確認してくれた。
やっぱり呪いか……。ま、どうにもならないんだから仕方がないか。
そう思ったが、女神の話はまだ続いていた。
「私の力では呪いに打ち勝つことはできません。
ですが、いくらか弱めることはできます」
女神はおいらに左手を出すように言った。
言われた通り、左手を女神に向けた。
左手の甲に、キィンっと突き刺すような冷たさを感じた。
手の甲を見ると青い紋様が刻まれていた。
女神の加護、ありがたいことだ。
「じゃ、行くわ」
おいらはダイナマイト10本を持って、ディケイドスピーダーのリアシートに乗り込んだ。
女の子はすでにフロントシートに座っていた。
「あなたの行く先に幸せがあらんことを」
女神にそう言ってもらってオアシスを後にした。
今までの遅れを取り戻す。そんなつもりでディケイドスピーダーを飛ばした。
砂漠を越えた。この先は草原、森、山脈、の順だ。
深真洞窟は山脈のふもとにある。
今までの遅れを完全に取り戻すことはできなかった。
とは言え、深真洞窟の上空に着いた。
洞窟の近辺で着陸できそうな場所を探す。周囲をゆっくりと飛んだ。
あった、狭い平地。
狭いけどディケイドスピーダーなら十分に降りられる。
ディケイドスピーダーが小型機だったことに感謝した。
おいらと女の子は深真洞窟へ歩いた。
少し歩いて、深真洞窟に着いた。
深真洞窟。
伝説では、大地の奥深くまで続き、いちばんの奥底にはこの星の真理がある、らしい。
まあ、伝説、おとぎばなしだ。
「では行きましょう」
女の子が洞窟の中へ向かった。
女の子の雰囲気が何か違っている。凛とした強さが感じられるようになってる。
「ああ、行こう」
あわてて女の子を追った。
洞窟の入り口から熱気があふれ出していた。
その中に入っていく。
洞窟の中は暑かった。
奥へと進んでいく。
暑く、ではなく、熱くなってきた。
女の子が言った。
「私から離れないでください」
「ああ、わかった」
そうこたえた。
さらに奥を目指す。
地面が、壁が、天井が、すべてが赤く光ってた。
不思議だと思って立ち止まった。
その間も女の子は歩き続けてる。
自然とおいらと女の子の間に距離ができた。
おいらのまわりがどんどん熱くなった。
服のあちこちがちりちりと焦げ始めた。
あわてて女の子に近づいた。
すっと熱さが消えた。
さらに進むと洞窟が行き止まりになってた。
いちばん奥に着いたようだ。
洞窟のいちばん奥は、広くて天井が高いドームのような空間だった。
その地面の中心に、赤く輝く魔方陣があった。
おいらにはよくわからないけど、きっとすごいことなんだろう。
女の子がドームのはし、壁を指差して言った。
「そこにいてください」
言われた通りにした方が良さそうだ。
壁のぎりぎりまで身を寄せた。
女の子はおいらから離れて魔法陣の中に入っていった。
おいらは女の子から離れることになったけど、今度は離れても暑いものの熱くはなかった。
女の子は魔方陣の真ん中に立った。
小さな声で何かをつぶやいた。
魔方陣が白く光り、一瞬の後に消滅した。
同時に、洞窟を満たしていた熱気が女の子にどんどん吸い込まれた。
女の子が赤く輝いた。
次の瞬間、女の子は「女性」と言った方がしっくりくる姿になっていた。
真紅の髪には変わりはないけど、赤銅色の肌に赤い衣をまとっていた。
「もしかして、あんたも女神なのか?」
「そうです、
大地の奥深くにある炎をまとった岩をつかさどる女神です」
女の子、じゃなくて、女神の言葉には驚くしかなかった。
女神が言うには、悪しき魔術師が魔方陣で女神を弱らせて、この地から切り離した。
そして女神は魔術師の手で共和国の首都に連れて行かれた。
それを知った自然科学研究所が魔術師から女神を取り戻した。
元の場所、深真洞窟へ帰らせようとしたが、その飛行機械が空賊に襲われて墜落した。それが空港で見た墜落だった。
飛行機械に乗っていた自然科学研究所の職員が、飛行機械がやられる前に女神を空へ逃がした。
その女神を助けたのがおいらだった、と言うことだ。
女神はおいらにインフォメーション端末を出すよううながした。
差し出した端末に女神が手をかざした。
大量のデータが端末に送り込まれた。
女神は、このデータを自然科学研究所に届けて欲しい、と言った。
もちろん構わない、おいらは快諾した。
女神が言った。
「報酬を払えなくて申し訳ありません。
そのかわりにはならないかもしれませんが……」
加えて、おいらに左手を出すようにと。
女神が一瞬、光り輝いた。
左手の甲にちりちりと焼けるような痛みを感じた。
手を見ると、青い紋様の横に、赤い紋様が刻まれてた。
おいらは言った。
「急ぎなんだよな、
できるだけのことはする!」
「お願いします」
女神の顔をもう一度見てからおいらはドームの出口へ向かった。
「あなたの行く先に幸せがあらんことを」
女神の声を背中に受けて走り出した。
洞窟の入り口への道中、暑さを感じなかった。
女神が戻ったからなのだろう。
洞窟から走り出て、そのままディケイドスピーダーまで走った。
ディケイドスピーダーに飛び乗ろうとしたところで少し考えた。
自然科学研究所に連絡をしておこう。
通信機を取り出して自然科学研究所につないだ。
深真洞窟に着くまでにあったこと、女神から頼まれたこと。それに、これからそっちに向かう、と言うことも。
自然科学研究所からは、とにかく急げるだけ急いでくれ、とのことだった。
通信が終わった。
通信機をフロントシートに投げ入れて、おいらはリアシートに飛び乗った。
離陸しつつ加速。十分な高度まで上がったところで一気に加速する。
ディケイドスピーダーで出せる上限いっぱいのスピードで飛んだ。
燃料と冷却水には気をつけた。スピードを出すとそれだけ燃料を食う。
距離的には遠回りになるけど、燃料も冷却水も残り三割の余裕をもたせて、空港をいくつか経由した。
そうして最後に共和国の首都空港に着陸した。
首都空港の空港使用料がおいらにとって高額なのは十分わかってる。だけどそんなことは言ってられない。
空港からタクシーで自然科学研究所に向かった。
研究所の前でタクシーから降りて、早足で研究所に入った。
受付でインフォメーション端末を見てもらった。
研究室のひとつを教えてもらった。その部屋へと急いだ。
ノックもせずにドアを開けた。
「深真洞窟からのデータです!」
おいらはそのひとことだけ言った。
研究室の端末においらのインフォメーション端末を同期させた。
大量のデータが研究室の端末に送り込まれた。
データの転送が終わった。
おいらはインフォメーション端末をポケットに入れた。
「じゃ、おいらはこれで」
そう言って部屋を出ようとしたところを研究員の一人に呼び止められた。
「もう少し待っていてくれ」
まだ仕事があるかもしれない、とのことだった。
研究室で急いでおいらが持ってきたデータの分析が始まった。
1時間半くらいの後、このところの地震の原因がわかった。
新興宗教、まっとうなやつがほとんど全部だけど、怪しいやつもごくわずかはある。そのひとつが原因とのことだ。
その新興宗教の教祖、ってのが魔術師だった。
深真洞窟の女神を誘拐してその力で地震を起こしていた、だそうだ。
女神が言ってたことと同じだった。
加えて言うには、あと三日で首都で大地震が起こるらしい。
おいらはぞっとした。
だけど、教祖、魔術師を押さえれば大地震は防げるとのことだ。
おいらが持ってきたデータが、魔術師が犯人である明らかな証拠になったみたいだった。
あと1時間か、2時間か後に、警察がその新興宗教の本部をたたくそうだ。
『これで一件落着だ』、研究室の誰もがそう安堵した。
でも、おいらは何か嬉しくなかった。
嫌な予感がする。
何かを言って部屋を出ようとしたら、また呼び止められるだろう。
だから何も言わずに部屋を出た。
今度は急いで空港を目指した。
空港に着くとすぐにディケイドスピーダーに走った。
管制塔に離陸許可を求める。
10分ほどして許可がおりた。
すぐに離陸する。
新興宗教の本部の上空へ向かう。
嫌な予感、てのは「本部」の住所だ。
研究室にいたときにこっそりとこの件のデータをインフォメーション端末にコピーした。
その中にあった「本部」の住所、おいらの記憶に間違いがなければ運河地域だ。
警察もそれなりのことは予測してるだろうが……。
「本部」の上空に着いた。ホバリングで警察が来るのを待つ。それなりの高度で静音飛行をしている。よほど注意して見られなければバレないだろう。
30分ほど後、
警察車両が「本部」に来た。乗用車サイズのが何台かと、バスっぽいのが一台。
もちろん運河には警察の水上艇が何隻かいる。
「本部」の前に警官が集まった後、突入した。
突入のタイミングを待っていたのだろう。高速艇が「本部」から運河へ飛び出した。
高速艇が飛び出した勢いに飲まれて、警察の水上艇の一隻が転覆した。
警察の水上艇はもちろんかなりのスピードを出せる。けど、さすがに相手が高速艇ではかなわなかった。
水上艇がどんどん距離を離される。
警察が飛行機械を出してなかったのも痛い。
その分をおいらで、なんて大きなことは言えないけど、どうにかしたい、とは思った。
相手は高速艇とは言え水の上。こっちは空を飛んでる。
スピードはもちろんおいらの方が余裕だ。
けど……、運河から海に出られると厄介だ。
もう水上警察が動き始めてるだろうが……。
いや待て、海に出てもらった方が良い。こいつを使える。
おいらがちらりと見たのはオアシスでもらったダイナマイト。小型とは言えそれなりの威力だ。
魔術師が乗っている高速艇が海に出た。
船の速度がぐん、と上がった。それでももちろんおいらの方が速い。
高度を下げる。安全高度ぎりぎりまで。
高速艇に近づけるだけ近づく。
ダイナマイトのセーフティロックを外す。ボタンを押して投げる。
ボンッ、と水柱が上がったけど、高速艇には何の影響もなかった。
ふたつめ、みっつめ、とダイナマイトを次々と投げる。
惜しいのが二回あったけど効いてない。
次は九個目、投げる。水柱が上がる。惜しかった。
最後のひとつ、「頼むから」と祈って投げた。
高速艇のすぐ前に水柱が上がった。
高速艇は水柱に突っ込んで転覆した。
よし、と思ったけど、ふと不安になった。
魔術師が無事なら良いが……。
1分くらいか、魔術師が海面に浮かび上がってきた。
助かってくれたか……。おいらはほっとした。
魔術師は水上警察にすぐに確保された。
これで良かった、と思ったけど、この後が大変だった。
おいらはディケイドスピーダーで空港に戻った。
空港で待っていた警官と一緒に警察署に向かった。
事情聴取を受けた。
首都上空の違法飛行、爆発物の不法所持および使用、加えて捜査妨害。
おいらはできる限りの弁解をしたが通じなかった。
これで終わりか、と思い始めたときに助けが来てくれた。
自然科学研究所の職員だった。
警察の上層部ではすでに解決したことになっている、とのことだった。
おいらの事情聴取をしていた警官はすぐにどこかへ連絡をした。
話が終わった後、悔しげに言った。
「釈放だ」
これで終わりだと思ったけど甘かった。
自然科学研究所に連れ戻された。
おいらに起こったこと、つまり女の子が空から落ちてきたところから、今に至るまでのこと、おいらが覚えていることを詳細の詳細まで話すことになった。
この事情聴取は一泊二日になった。
全部を話し終えた後に、責任者らしい人物がやってきた。
「君のおかげでたくさんの謎が解けそうだ。
協力を感謝する」
やっと終わった……。
また甘かった。終わってなかった。
「ところで君の仕事は輸送業だそうだね。
女神を運んでくれたし、帰りはデータを運んでくれた。
料金はいくらかね?」
そう聞かれた。
困った。燃料代と空港使用料はもちろん受け取るとして、そのほかを入れると全部でいくらになるんだ?
おいらは開き直った。女の子が落ちてくる前のことを話した。
つまり、今回の仕事が「初仕事」であると白状した。だから、料金設定を考えてなかった、と。
少しの間をおいて笑いが広がった。
「嘲笑」じゃない、「楽しい笑い」だ。
ベテランらしい職員が料金の相場を調べてくれた。
おいらはその金額に驚いた。
ざっと計算して、使った金額の5倍以上だった。
そんな大金は受け取れない。そう言って使った金額の3倍を受け取った。
今度こそ終わった。
自然科学研究所の職員にお礼を言われて、お礼を言って、空港へ向かった。
空港への道中。右手の甲に鈍い痛み、突き刺すような冷たい痛み。次に左手の甲にじりじりと熱い痛み。
痛みが三回続いた。
両手の手の甲を見た。右手の甲の黒い紋様が消えていた。かわりに青い紋様があった。左手には赤い紋様が改めて刻まれてた。
結局『呪いの紋様』ってのは何だったのか? わからないうちに消えてしまった。
かわりに両手の甲に『女神の紋様』がひとつずつ。
おいら一人に『女神二人の加護』が宿った、と言うことだ。
初仕事はとてつもなく良い仕事だった。
もしかすると、それが『呪いの紋様』の効果だったのかもしれない。
これから先、どんな仕事に出会うのか。
おいらはわくわくした。
了
と言うことで『女神』とか『女神の紋様』とか、ファンタジーっぽい要素が入りました。
今後、飛行士が主人公の話は基本こんな雰囲気になります。
何故ファンタジー感が入ったのか? 理由と設定は既にあります。(ただし半分以上が後付けと言う……)
では、今後ともご贔屓のほど宜しくお願い致します。