冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~   作:混沌野郎

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 少女さんにプールに行こうと誘われた機械屋さん。
 もちろん断る理由はない。
 プールでふたり思い出話をする。
 失ったものは取り戻せない。
 でも、まだ完全には失ってなかったら……、そんなお話。

 季節外れの「夏話」は今回がラストです。
 今後「冬話」を投稿致します故、ご容赦いただけると幸いです。

 本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
 ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。

 『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女さん」
等々となっています。

先に記しとく設定、
 機械屋(主人公)と先輩は女性、
 作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
 「ネネット」は、世界中を網羅する情報通信網『プラネット・ネットワーク』の通称、
 と言うことで。

クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.


第15話 プールと写真とスタートライン (日常回)

 アタイは機械屋。

 先輩の夢「エントロピージェネレーター」を完成させた。

 大きな夢がかなった。だけど夢は夢、かなってしまえば……。

 目指したい夢がなくなって、アタイはスランプにおちいった。

 でも、少女さんたちがアタイを勇気づけてくれた。

 だからアタイはスランプから抜け出した。

 今は、「空間揺らぎ捕獲型物質生成理論」に基づく機械「フラクタル・マテリアル・キャッチャー」を開発してる。

 これが完成すれば、物質を無限に作り出すことができる。

 理論上は十分に可能だ。

 だからアタイは「設計」と「試作」と「実験」と「設計の問題点の見直し」、を繰り返してる。

 まだ開発は始まったばかり、成功はまだまだ先、ずーっと先のことだろう。

 

 今年もまた夏が来た。

 工房の前の通りには陽炎がゆらゆらと揺れてる。

 いくらかの風、と言うか、空気の流れはある。流れはあるけど、夏の暑い空気のゆらりゆらり、だ。

 工房の中はもちろん暑い。スポットクーラーのありがたさをひしひしと感じる。

 今日のアタイの仕事は近所の倉庫の蒸気自動車の修理。

 今朝、朝いちばんに入った仕事だ。

 自動車をだましだまし何とか動かして工房に来た。

 右のリアタイヤをそれなりの深さの溝に脱輪させた後、まともに走れなくなった、と言うことだ。

 脱輪したときにぶつけた場所が悪かったので。右リアにダメージが入ったらしい。

 引き受けたときに、依頼主、倉庫の主任、と話をした。

 足回りを一通りみた後、右リアのシャフトを交換するしかない、アタイは言った。

 修理の目処、パーツの取り寄せに時間がかかるかもしれないから四日は欲しい。

 加えて報酬の話。信頼できる互換パーツがあれば4万ダリルでどうにかなる。

 けど、純正品を使うとなると6万ダリルくらいかかる、と提示した。

 倉庫の主任はできれば互換品で頼む、とのことだった。

 金の話はあまりしたくないけど、純正品を使って6万ダリルってのは格安だ。

 理由は儲けをほとんど上乗せしてないから。

 この仕事だと儲けは2,000ダリルか3,000ダリルか、それくらいだ。

 倉庫街の中ではお互い持ちつ持たれつだ。その中で儲けようとアタイは思わない。

 

 作業をしていると孤独を感じる。

 工房のおもて、通りの喧騒はずっと前から何も変わってない。

 だけど、工房の中はアタイが何かしないと音がない。

 先輩がいない、もうずっと昔のことだ。アタイ一人だけなのには慣れた。それは確かに間違いない。

 でもときどき、独りなのが怖くなる。

 

 自動車用のリフトで車を持ち上げる。

 右のリアを改めて確認する。

 思ってた以上にひどかった。

 シャフトだけで済んだのは幸運、そんな壊れ方だった。

 パーツを順番に、シャフトまで外した。

 外したシャフトを見て、よくもまあこれだけで済んだな、と改めて思った。

 シャフトの型番をメモる。車の型番はもうメモってある。

 事務室へ向かう。

 事務室、エアコンがしっかり働いてくれてるので快適だ。

 端末の前に座った。

 事務室の端末をネネットにつないだ。

 車関係の通販サイトを見る。

 車の型番で候補を絞り込む。シャフトの型番でさらに絞り込んだ。

 互換品がいくつかと、純正品がリストに残った。

 純正品は最後に見るとして、互換品のメーカーの名前と、データを見ていく。

 運が良かった。良い感じの互換品があったのですぐに発注した。

 

 そうこうしてるうちに昼前になってた。

 少々早めだが昼メシにしよう。

 夏にはカレーが合う。

 アタイは辛いのが好みだ。マーケットで売ってるカレールウでいちばん辛いのを使ってる。

 昼メシを食って、いくらか休む。

 テレビを見る。ちょうどニュースだった。

 当分暑さが続く。天気予報でならともかく、ニュースになるレベルなのか……。

 

 昼すぎ、急ぎではない仕事に取りかかった。

 作業を始めていくらかしたところで、ビーッ!ビーッ! と大きなブザー音が工房に鳴り響いた。

 電話だ。事務室にある電話の呼び出し音だと、作業をしているとぜんぜん聞こえない。だから強化した。

 事務室に急いだ。

 事務室に入ってすぐに電話をとった。

『もしもし、機械屋さんですか、

 少女です』

「ああ、少女さん」

 電話は少女さんからだった。

『あの、お願いがありまして……』

「ん? なに?」

 少女さんの言葉はちょっと遠慮気味だ。

『明後日、機械屋さんと一緒にプールに行きたいな、と思いまして……』

 なるほど、そう言うことか。

「ああ、アタイはもちろん大丈夫だ。

 待ち合わせはどうする?」

『私が工房に行きます』

「ん、わかった。

 じゃ、待ってるね」

 最後に少女さんが『失礼します』と言って話が終わった。

 明後日は少女さんは休みか。

 少女さんは軍で働いてる。

 それも、少女さんくらいの歳ではかなりの役職らしい。

 だからなかなか休めない。

 たまに休みの日があっても少女さんのことだから、遊びには出ないだろう。

 おそらくは「謎の男」に『遊びに出かけろ』と半ば命令されたに違いない。

 ふと思った。水着をどうしよう。

 ずっと前のビキニはさすがに厳しいか……。

 思い立ったが吉日、水着を買いに行くことにした。

 

 東通りは夏の暑さに負けることなく賑やかだ。

 店頭に大々的に水着をならべている店に入った。

 いろいろと見てまわる。

 今のアタイには、落ち着いててあまりアピールしない水着が良いか、と思う。

 平日なのであまり客はいない。店員さんがアタイのところへ来てくれた。

 アタイの思うところを店員さんに言って、おすすめのをいくつか選んでもらった。

 そこから3つに絞り込んだ。

 ひとつめはベースカラーがダークグリーンで、ライトグリーンのラインが肩から腰へ。

 ふたつめはネイビーブルーに細い水色のラインが二本。

 3つめは落ち着いた赤にピンクのアクセント。

 少し悩んでから、ダークグリーンのを買った。

 水着は買った。けど、この後どうするべきか。

 東通りはアタイにはどうも合わない。と言うか、アタイが東通りの楽しみ方を知らないのだろう。

 結局、水着を買っただけで工房に帰った。

 今日はもうのんびりとしても悪くないのだが、急ぎでない仕事を進めた。仕事がいつか片付いた。

 

 夜。

 帳簿の確認をした。

 工房の金銭管理、問題なく金を使えてる。

 請け負った仕事の稼ぎと、なんやかんやと出ていく金。差分が工房の儲け。ずっと黒字が続いている。

 「エントロピージェネレーター」と「水晶増幅式エントロピージェネレーター」の権利金が今でも毎日それなりに入ってきている。だから金に困ることはない。

 だけど、働いて儲ける、ってのがアタイは楽しい。

 アタイの権利管理と資産管理を頼んでる会社の社長が言うには、『資産を置いておくだけではもったいない。それなりのリスクはあるが運用してはどうか?』、そうすすめてくれたけど、アタイは『今のままで十分』と、申し訳ないが断った。

 

 夜と言える最後の時刻。

 注文した蒸気自動車のシャフトが届いた。

 毎度のことだが通販の品物はほぼ毎回すぐに届く。

 まあ、考えるまでもないことだ。

 通販の流通センターは倉庫街にある。

 在庫があればもちろんすぐに届く。

 

 翌朝。

 新しいシャフトを車体に取り付けて、一旦外していたパーツを順に取り付けて、作業終了。

 時間はあるし、仕事にも余裕がある。ちょっと走ってみることにした。

 シャフトを取り替えたばかりの車を工房のおもてに出した。

 シャッターを下ろして小さいドアの鍵を確認する。

 まずは倉庫街の中をゆっくりと。

 次に王都の街中をぐるぐると走った。

 どうせなら高速運転も試すか、と高速道路に乗った。

 隣町で高速道路から降りてUターン、高速道路で王都に帰ってきた。

 工房に戻るつもりだったけど考えを変えた。何日かかかると言っていた仕事とは言え、早い方が良いだろう。

 倉庫街の手前で燃料を満タンにして、依頼主の倉庫へ向かった。

 『こんなに早く!』、依頼主、倉庫の主任に驚かれた。

 『パーツがすぐに届いたんで早く済んだ。運が良かった、って感じだ』アタイは理由を言った。

 アタイのインフォメーション端末と主任のインフォメーション端末を同期させた。

 アタイの端末に金が入って、主任の端末に領収書が入った。これで仕事は終わり。

 工房に帰ると昼をすぎていた。いつもよりちょっと遅い昼メシを食った。

 昼からは「フラクタル・マテリアル・キャッチャー」の試作パーツを作った。

 

 夜。

 プールか……。

 何年かぶりだ。

 少女さんと街に出るのも久しぶりだ。

 アタイは工房で気楽に仕事をしてる。

 けど、少女さんは毎日、一生懸命だろう。間違いない。

 それがそれが少女さんらしいし、少女さんの良いところだ。

 今夜は少し早めに寝よう。

 いつもより早くベッドに横になった。

 

 少女さんの電話からの明後日、プールに行く日。

 いつもより早く目が覚めた。アタイはすごく楽しみにしているんだろう。

 街が動き出すまでまだかなり時間がある。

 けど、今日は楽しい日になって欲しい、そう願いながらシャッターを全部開けた。

 いつも通りの朝メシ。

 毎日のことだけど、ありがたいことだ。

 食堂を出て事務室に入った。

 インフォメーション端末を起動させてネネットにつないだ。

 工房へのメッセージを確認したけど、特に何もなかった。

 そう言えば気になってることがあった。ちょっと前に届いた税金の書類。

 あれの処理はどうなってたか。

 たぶん大丈夫だったと思うが念のため確かめた。問題なかった。

 

 9時すぎ、街が十分すぎるくらいに動き始めた頃、少女さんが工房に来た。

 アタイは事務室にいたのですぐに少女さんに気づいた。

 少女さんもすぐにアタイに気づいた。

 事務室から出たアタイのところに少女さんが来た。

「おはよ」

「おはようございます」

 少女さんはぺこり、とおじぎをした。

 少女さんを上から下まで見る。

 服装。薄手のシャツの上にちょっと厚めっぽいパーカー、チノパン、それにスニーカー。

 ぱっと見は夏っぽい感じ、だけど隙がない。

 シャツは防刃シャツ、パーカーのひじには金属のパッドが入ってる。チノパンのひざにも。スニーカーのつま先とかかとも同様。

 ちょっとしたケンカ、どころか、ちょっとしてないキツい乱闘でも余裕だろう。

 もちろん、少女さんの格闘術を含めて。

 二人で食堂に入った。

「麦茶、飲む?」

 イスに座ろうとしていた少女さんに尋ねた。

「はい、いただきます」

 アタイは棚からマグカップを取り出して、やかんから麦茶をそそいだ。

「はい」

 少女さんにマグカップを手渡す。

「ありがとうございます」

 そう言って、少女さんはマグカップを手にした。

 昔からのことだが少女さんは礼儀正しい。これも少女さんの良いところだ。

 プールが開くのは10時、まだ時間がある。

 テレビの音をBGMにして、お互いのこのところのことを話した。

 思っていた通り、やはり少女さんは毎日が一生懸命だった。

 少女さんはものすごい向上心の持ち主だ。

 次から次へと自分で新しい課題を探してそれを乗り越えてる。

 まわりから一目おかれ、「謎の男」から『ほどほどにしろ』と言われてるらしいのも納得できる。

 テレビ、天気予報が始まった。

 何となくテレビに目がいった。少女さんもだった。

 この先一週間晴れが続く、とのことだった。

 その予報に、アタイも少女さんもぐだーっとなった。

 おそらく明日の天気予報でも「この先一週間晴れが続く」と予報されるだろう。

 おそるべき夏だ。

 

 10時少し前。工房を出ることにした。

 シャッターを下ろして、ドアの鍵を確かめて。

 市民プールへ向かった。

 20分ほど歩いてプールに着いた。

 プールの出入り口の横にプレハブのそば屋。

 「そば」と書かれたのぼりがかすかに揺れていた。

 入り口で300ダリル払ってプールに入った。

 更衣室で水着に着がえた。

 アタイの水着はダークグリーンをベースにライトグリーンのラインが入ってる。

 少女さんのはブルーをベースにイエローのアクセントが入ってた。

 少女さんは攻めていた。胸元と背中が大きく開いてる。少女さんのアクティブな一面だ。

 タオルと日焼け止めを持ってプールサイドに出た。

 いつだったか、プールサイドを全力で走ってプールに飛び込んだ先輩を思い出した。

 シートを張って作られてる日陰に二人ならんで座った。

 二人で日焼け止めを塗った。

 アタイと少女さん、二人の思い出がある場所に来るとほぼ間違いなく先輩の話になる。

 プールの思い出。

 先輩がアタイにバックドロップをしたこと。

 少女ちゃんにブレーンバスターをしたこと。

 ほかにもいろいろたくさん。

 先輩がパンツを忘れてきた話は二人で話題に出して、二人で笑いをこらえた。

 結局、先輩は何回パンツを忘れたのだろうか。それはアタイも少女さんも覚えてなかった。

 何となく話が途切れた。

 そのときを待っていたのか、少女さんがインフォメーション端末を取り出した。

「これ、私のいちばん大事な写真なんです。

 見てもらえますか?」

 そう言いながら写真を表示させた。

「ああ、見せて」

 少女さんに近づくようにして写真を見た。

「!?

 これ、なに!?」

 少女ちゃんの写真だった。

 背景から察するに工房の食堂だ。

 テーブルの上に少女ちゃんが座ってる。

 その座り方が、何て言うか……、いわゆる『M字開脚』だ。

 それなりに長いスカートっぽいけど、まくり上げてるからパンツがしっかり見えてる。

 ブラウスを着ているのだろうが、ボタンを全部はずして大きくはだけてる。ブラジャーがしっかり写ってた。

「……」

 アタイは何も言えない。

 少女さんがフォローしてくれた。

「先輩さんに撮ってもらった写真です」

 『先輩が撮った』てのにすごく納得できた。

 そうだ、思い出した。先輩がカメラ買ったときに撮ったやつだ。

 少女ちゃんをモデルにして、先輩が撮影会をしたときの写真。

 初めは立ったポーズだったり、イスに座ったところを撮ったりだった。

 けど、途中から先輩は上手いこと言って、少女ちゃんをきわどいポーズに誘導した。

 この写真を撮ったところでアタイが止めに入ったんだ。

 アタイは先輩にその場で『データを全部消せ』って言って、データを消させた。

 そのときにせっかくだからって、最後に撮った写真、この写真一枚だけを少女ちゃんのインフォメーション端末にコピーしたっけ。

 少女さんが小さな声で言った。

「全部消したのは、もったいなかったかもしれませんね……」

「……そうだな。

 消すのは簡単だけど、元には戻せないもんな」

 何かしんみりとした。

 時計を見ると昼をすぎていた。

 少し無言が続いた。

 アタイが口にした。

「少女さん、そろそろ出よっか?」

「はい、そうですね」

 二人で更衣室に向かった。

 プールに来たのに水に入らずに終わった。

 でも、少女さんといろいろと話をしたのが十分に楽しかった。

 服に着がえてプールを出た。

 そば屋で昼メシ。かけそばを食う。300ダリル。

 そばを食う手が止まった。ひとつ可能性が頭に浮かんだ。

「?

 機械屋さん、どうしたんですか?」

 少女さんも手を止めた。

「あ、うん、

 写真のこと、ちょっと思い出した。

 少女さん、この後、工房に来れるよな?」

 すぐにこたえてくれた。

「はい、大丈夫です」

「んじゃ、食ったら工房な」

 そばを食い終えた。

 けど昼メシは終わってない。かき氷、200ダリル。

 かき氷を食って、二人で工房へと歩いた。

 工房に着いた。

 シャッターを全部開ける。

 熱がこもった工房の中。

 少女さんには事務室に入ってもらった。エアコンをつけたからすぐに涼しくなるだろう。

 アタイは特別な部屋、先輩の部屋のドアノブを握った。

 ドアを開ける。

 きれいに片付いた部屋。

 机の上にきちんと置かれている先輩のインフォメーション端末を手にした。

 先輩の部屋を出て、事務室に入った。

「少女さん、これ」

「これは……、

 もしかして、先輩さんのインフォメーション端末ですか?」

 さすが少女さん、すぐにわかってくれた。

「端末にデータが残ってるかも、

 先輩のカメラ、端末にデータ飛ばせたはず、

 て言うか、だから少女さんの端末に写真が入ってるんだと思う」

 アタイは先輩のインフォメーション端末を事務室の端末にケーブルでつないだ。

 先輩の端末のバッテリーはもうずっと前に切れてるだろうからケーブルで。

 先輩が命を落とした後、端末の基本パスワードは役所で解除してもらった。

 だから、端末に入ってたデータを見ることができる。

 エントロピージェネレーター、「先輩の夢」のデータはアタイが先輩の跡を継ぐと決めたときに、アタイのインフォメーション端末にコピーした。

 だけど、ほかのデータはきちんと見なかった。

 だからこれを機会に全部きちんと保管しよう、そう思った。

 と、それは一旦置いといて。

「じゃ、写真探そう」

「はい」

 イスを持ってきて、アタイの隣に少女さんに座ってもらった。

 1時間半は経っただろうか、データをひとつずつ見ていくけど写真のデータは見つからなかった。

 最後に残ったのはパスワードでロックされてるカテゴリのデータだけ。

 このロックにはパスワード以外に解除方法はない。

「機械屋さん、これは無理ですね……」

 少女さんはあきらめ気味だった。

 けど、アタイはあきらめない。

「大丈夫、アタイが知ってる」

 アタイはこのパスワードを知ってるはずだ。

 と言うか、先輩からパスワードを聞いたのは、たぶんアタイひとりだけ。

 思い出そうとする。

 思い出そうとするが出てこない。

「……アタイのパスワードと似てたっけ、確か」

「いけそうですか?」

 少女さんはちょっと不安そう。

「てことは、これかな……」

 アタイはパスワードの欄に『kikaiya-love-forever』と入力した。

 『パスワードが違います』、と表示された。

「あー、違うか」

「機械屋さん、この『love-forever』と言うのは……」

 どう反応したら良いのか困ってる少女さん。

「ん? 先輩がこんな感じにしようって言ったんだっけ、

 先輩らしいだろ。

 あ、そうだ、アタイのパスワード、誰にも言ってなかったな。

 少女さん、覚えててくれないかな?」

「あ、はい、私でよければ」

 少女さんに言っておけば安心だ。

 アタイのパスワードを少女さんに言った。

 『senpai-oneesama-love-forever』

「あの、この『oneesama』と言うのは……」

 

 先輩と一緒に新しいパスワード、今のパスワードを設定したときを思い出す。

「あのさ、先輩、

 名前をパスワードにするのが良くないのはわかるけど、

 なんだよ、この『love-forever』てのは」

「意外でしょ、これは強いパスワードだよ。

 ……けど、まだ甘いね。

 もうひとこと入れよう」

 

「って言って『oneesama』って入れたんだ。

 !

 ……てことは」

「先輩さんのパスワードにももうひとつ言葉が入ってるってことですね」

 さすが少女さん。

 アタイはもう一度パスワードを入力した。

 『kikaiya-chan-love-forever』

 ロックが解除された。

「よしっ!」

「いけましたね!」

 ロックを解除されたデータが次々と表示されていく。

 エントロピージェネレーターのカテゴリがあった。気になったので中を見た。

 大量のデータがあった。

 そのデータにアタイは驚いた。

 エントロピージェネレーターの開発についてはもちろん、できあがった後の「拡張案」がたくさんあった。

 たぶんこれ全部、作り上げたらどれもこれも『画期的』だと言われるだろう。この先、急いで作り始めよう。

「機械屋さん、どうしたんですか?」

「いや、やっぱ先輩はすごい、

 これ全部とんでもないデータだ……。

 って、写真探してんだっけ」

 『写真』のカテゴリがあった。

 中を見る。

 大量の写真があった。

 工房の写真、昼メシだか晩メシだか食い物の写真。

 アタイの写真もあった。

 初めの方にあったのはそんな写真ばかりだった。

 順に見ていく写真の中に先輩の写真がなかった。

 先輩は『写真は好きじゃない』と言ってた。

 やっぱり自分の写真は撮らなかったのか。

 先輩の姿は何枚かの写真と思い出の中だけ、それで良いか。

 残念だけどあきらめるしかない。

 写真を見ていく。

 先輩の写真が出てきた! 驚いた。

 出てきたのは自分で自分を撮った写真だった。

 アタイには何も言わなかったけど、先輩は写真が嫌いじゃなかったのか。

 けど、先輩の写真を見ていくとあきれてきた。

 自分を撮った写真。

 ポーズをいろいろと変えながら、は理解できるけど、写真の先輩は一枚ずつ服を脱いでいく。

 最後は素っ裸になってポーズをきめていた。

 大きな鏡に写った自分を撮った写真もあった。

 もちろん初めはしっかりと服を着てるけど、最後は素っ裸だった。

 そんな写真が何組も何組もあった。

 いったい何を考えてたんだ?

「な、少女さん、どう思う?」

 アタイはあきれつつ少女さんを見た。

「……えと、

 その、先輩さんらしい……、です……、よね」

 真っ赤な顔で少女さんは言った。

 そうして見ていくと、目当ての写真が出てきた。

 少女ちゃんの写真だ。

 やっぱり初めは立ってポーズをとっていた。

 進んでいく。

 イスに座り、まだ穏やかなポーズ。

 立ちポーズに戻って、そこからポーズが少しずつ大胆になる。

 テーブルの上に座ってさらに大胆に。

 で、最後は少女さんの端末にあった写真だった。

「んじゃ、少女さんのデータ、コピーするか」

「あ、はい」

 少女さんのインフォメーション端末を事務室の端末に同期させた。

 アタイの操作で少女ちゃんの写真を全部コピーした。

「でさ、少女さん」

「はい」

「先輩の写真もコピーしとく?」

 アタイはさらっと言った。

 当たり前のことだと思った。

 けど、少女さんには、そうではなかったらしい。

「いえ、

 それは先輩さんの……、ですから……」

「確かにそうだな、少女さんの言う通りだ」

 少女さんの言葉が正解だ。

「けど、このままインフォメーション端末に入れたままだと、そのうちデータが消えちまうな。

 工房の端末にコピーしとくか、

 先輩のデータ、気になるし」

 少女さんがびくっとした。

「あの、機械屋さん、

 『先輩さんのデータが気になる』、

 と言うのは、その……」

 顔を伏せてる。表情を見られたくないのだろう。

「ああ、写真じゃなくて、エントロピージェネレーターのデータな」

 少女さんが顔をあげて言った。

「あ、そうですよね、そうですよね」

 少女さんは照れているような困っているような、複雑な表情をごまかそうとしていた。

 

 その後は二人で先輩の思い出話をした。

 もしまだ先輩がいたら。

 そんな話にもなった。

 でも「もし」の話だ。

 ひどい言い方だけど、先輩がいなくなったからアタイは一歩前に進むことができた。少女さんもそうだと言った。

 アタイはいつか先輩を越えたい、少女さんも越えたい、と同じだった。

 思い出話は夕方まで続いた。

 腹が減ってきた。昼メシはかけそば一杯だったから当然か。

 かなり早いけど晩メシにするか。

 少女さんに、メシ食ってくか? と尋ねたら、少女さんは時計を見てあわてた。

 『そろそろ帰らないと』だそうだ。

 変に引き止めると少女さんを困らせるだろう。

 アタイは少女さんを工房の表まで送った。

「また遊びに来なよ」

 アタイの言葉に少女さんは笑顔でこたえてくれた。

「はい、また遊びにきます」

 倉庫街を去っていく少女さんを見送った。

 

 アタイは「フラクタル・マテリアル・キャッチャー」の開発を一旦止めることにした。

 データにあったエントロピージェネレーターの「拡張案」。

 先輩にはエントロピージェネレーターはスタートラインだったのか。

 だからここからが「先輩の本当の夢」だ。

 これをクリアしないと、先輩を越えたことにはならない。

 じゃない、クリアしてやっと先輩の背中が見えてきたくらい。

 「フラクタル・マテリアル・キャッチャー」でやっと追いつきそうなくらい。

 いつか絶対に先輩を越えてやる。

 アタイは決意した。

 

 




 作中の『love-forever』の釈明。
 本作『プールと写真とスタートライン』は拙作『どきどきな治療の仲良しで』(R-18のためリンクは控えます)よりも先に書いた文章なので大丈夫です。
 作者の都合上、『冒険と探検と日常と』シリーズの設定は『どきどきな冒険の日常で』シリーズに反映されますが、逆には反映されない、としているので本当に大丈夫です。
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